1558話 10勝したのに
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無駄な時間を使わされた俺たちは、ヤル気満々である。
有り余った時間で、強化外骨格2式の改良を行っていた。コンセプトは『重装甲』だ。よくわからないあの槍の攻撃を受けても貫通できない装甲。速度を度外視して、硬く硬く作った。元々重装甲だったのにな。
近接攻撃用に3式を腕に装備させている。それ以外にも、遠距離に対する装備も完璧に備えた。
正直重すぎて、本来2式のコンセプトの1つ防衛用としてはどうなのだろうか? と思わなくもない。もうね、砲台だね。
中に乗せるのは、DPの関係上スライムだ。もちろんアンデッド化してバザールが操る。まぁ、スライムを守る最後の鎧として、クリエイトアンデッドで作ったスケルトンの胸部に隠れてるけどね。
バザールは寝なくても何の問題もないし、アンデッドと意識を共有できるから、暇な時間は趣味の農業で畑の面倒をみてたりしたようだ。
「さぁ、最終戦よ! バザール、分かってるわね。これで試合終了、これ以上の延長は無しだからね!」
綾乃の気合が入っているというよりは、バザールを脅しているな。
準備時間が終わり、転送される。あの姿見たら驚くだろうな。普通ならどう考えても、あんな装備を持ち込めるはずなんてないのに、目の前に現れちゃうんだもんな。ダゴンとマーフォークが目を丸くしてるぞ。
それにしても、アダマンタイトって原石となると本当に安いんだよね。ある程度まとまって採掘されるけど、硬く重く整形できないせいで、指の先くらいのがお守りとして売られていて、大きくなればなるほど、値段が下がるという不思議な性質だもんな。理由はわからないけど、板や塊であれば大して高くない。
ぶっちゃけ、鉄より安い。
暇だった3日間で、全部鉱石から加工して2式を作っているので、今まで以上に安く作られている。手間がかかった分、安く仕上げたというべきだろう。アダマンタイトの加工は俺たちにしかできないので、魔力を補充しながら形を整えたが、他の金属は全部ドワーフの爺共に作らせている。
俺たちにとっての最終試合(仮)が開始された。
2式は今までに比べて大きいから、相手は距離をとった。こっちを放置して戦うほどの蛮勇はできないだろう。前の試合で不意を突かれてダゴンはやられたしな。
2匹が『お前行けよ』と視線で言い合っている気がするが、放置する必要もないな。腕に仕込んだ仕込み籠手の機構5つを同時に起動して、ダゴンに打ち込んでいる。
隙があるなら、水という厄介なものを使えるダゴンを先に殺すべきだろう。
戸惑っているのが危険だと判断したダゴンは、水の領域を展開した。2式の周囲だけに……
自分を守る水の壁と、2式に対するありえない水流の繭みたいなものを同時展開できるのか? てっきり自分を中心とした防御以外に、ここまでまとまった水を使えるとは思っていなかった。
防御しながら妨害にも使ってたんだから、こういう使い方だって普通はできるよな。中に入っているのはアンデッドなので、水に閉じ込められても関係ないのだが、コックピットが濡れるのは気分的に嫌なので、厳重に密閉している。クリエイトゴーレムで繋ぎ目がなくなっているから侵入は不可能である。
2式は、改造によって本来の5割増し以上に重くなっている。水流で倒れたりすることは無いが、腕を伸ばすとバランスが多少崩れてしまっているな。
ここまで限定された空間で、強い水流を浴びることになることは予測していなかったが、エリア全体を水流で押し流すくらいはできるだろうと、用意しておいた装備が早速役に立つな。
足の裏にスパイク付きのキャタピラのようなものがつけてある。歩くより早かったので採用した2式には本来ない装備だ。それでも、ダゴンやマーフォークたちに比べれば、はるかに遅い速度しか出ないが、それでも十分である。
急に滑るように動き出した2式にビックリした2匹は、予想通り距離を取ってくれた。驚いたことにより制御の甘くなった水からでた2式は、そのままダゴンの方へ移動しながら、両手で10本の矢を次々に打ち出していく。
水の壁に遮られるが、水の制御に能力を使うと多少動きが遅くなることはわかっている。それでも2式よりは早く動けるのだが、この闘技場であれば追い詰めることは可能だった。
距離を縮めて必殺の一撃! を入れようとした瞬間に、水の制御を変えやがった。エリア全体に水を張ったのだ。
ダゴンとあの槍を持ったマーフォークであれば、水中戦では勝てないとわかっていたので、エリアを水浸しにしなかったのだろうが、ここに至っては2式の脅威から逃れるために水エリアに替えたのだろう。
「あ~おしい! もうちょっとだったのに! バザール、水中戦になったわよ! わかってるわね?」
水中戦になることも、もちろん予測していた。その時のための装備として、これまた2式には本来ないモノを持たせている。Sランクの魔核を使った、ヒートシステムだ。水が邪魔なら蒸発させればいいんじゃないか? という発想で作られた装備だ。
元ネタを言えば筋肉スーツに出てくる、機械化小隊の1人が装備していたあれだね。作っている最中に思い付いたから、ネタと同じように手に仕込んでおいた。
魔核から注ぎ込まれる魔力で一気に過熱していき、数千度になる。
2式の手の周辺では、断続的に水蒸気爆発が起きている。水が爆発的に蒸発して水を押しのけ、その力がなくなると水がまた手に触れて爆発、これを繰り返している。
水全体を100℃にすることもできないだろうが、これだけじゃないんだよね。水を温めるために用意した装備は! 全身も500℃近くまで熱を持つようにして、さらにヒートシステムとは逆の手では、アラクネタイプの人造ゴーレムで蓄積した技術で、火魔法を行使できる魔核を埋め込んでいる。
時間はかかったが、水の温度がかなり上昇したことはわかった。耐えられなくはないがダメージをおっている感じだな。ダゴンが自分の周りだけ水を解除すると、マーフォークが突っ込んでいきそのまま戦闘となり相打ち……ちょっと待てよ!
「なんかしっくりこないけど、とりあえず勝ったわ!」
綾乃はガッツポーズだ。
ただ1つ思ったことがある。これって俺が知ってるダンジョンバトルじゃねえな。2式を出した俺が言うのも変だけど、途中ロボットと魔物の戦いみたいになってた。
さて10勝したから、相手から1つSランクの魔物の召喚権利をいただきましょうかね。ダゴンの方はダゴンがいるからわかってるけど、マーフォークの方は、Sランクの魔物って何がいるんだろ?
って思ってたら、観戦してた画面が急に赤い帯が流れた。
対戦相手から『異議申し立てがありました』だってさ。
どうやら、まだ終わらないようだ。
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