1557話 なんとも……
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それにしても、最後の機動はすごかったな。あれ、やったことあるけど、体に負荷がめっちゃかかって気持ち悪くなるんだよね。
オーガがどんな動きをしたかというと、簡単に言えば2射目の矢を撃ってから、ダゴンの水のバリアを迂回して後ろを取った、だけなのだがその軌道がおかしいのだ。
半球状の水のバリアがあって、オーガとダゴンの逃げた先を線でつなぎ、バリアを迂回するように台形のような形になるように移動しているのだ。
これ自体は何もおかしなことではないと思うが、台形の角になる位置での方向転換がすざましかった。
角になる位置で地面に軌道変更用のアームを突き刺して、直線軌道を円軌道に、直線軌道、円軌道……最後にダゴンの後ろを取るときは、360度とは言わないが、300度近い回転軌道を描いて移動している。
強引に方向転換するあれ、スピードある状態でやると体にすごいGがかかって、気持ち悪くなるんだよね。
一般人があのスピードで移動すれば、確実に気絶するだろうな……ん? そう考えると、重力とかに対する耐性も高いのかな?
「最後のあの軌道、ちょっとおかしくない? なんであんなことできるのよ!」
って、何も言わないでボケーッと見てたのは、知ってたからじゃなくてお前も驚いてたんかい!
「確かにあの軌道はすごかったでござるな。某は骨だけでござるから、あの軌道をしてもなんともないでござるが、生身でよくあんな動きができるでござるな」
バザールも驚いている。
「お前らも知らないってことは、暗部の鬼人たちが編み出したというか、やっている動きってことかな?」
俺は暗部の人間に戦慄を覚えた瞬間だった。単純なスピードならおそらく問題なく対応できるが、複数しかも不意打ちであれをやられたら、やばいかもしれん。
と、そんなことを考えてしまった。
「とりあえず、次どうするんだ?」
「8勝しているわけだし、マーフォークの方はおそらく、次の試合を捨ててあの武器を召喚するでしょうね。ダゴンの方はよくわからないけど、あのまま戦術が変わらないのかしら? 動きがよくなっているから、油断したら足元すくわれそうだけど」
「もう、3式のテストはこの辺でいいのではないでござるか? どうせなら、2式の方を使いたいでござる!」
やっぱり男の子のロマン、ロボットの操縦をしたいんだな。しかも、実戦経験をつめるからな!
「何言ってるのよ! 2式は10勝目をするときに使うから面白いんじゃない! 次の試合も同じように、オーガにやらせるわよ!」
綾乃、面白いとか言ってるけど、勝手に決めんなよ!
すったもんだがあり、次の試合が始まった。
ダゴンは変わらず、でもここにきてハーピーに戻したのは何でだろう? と思ったが、すぐに理由を理解した。
攻撃の届かないはるか上空まで飛んでいったのだ、というのは大げさだな。上空と言っても限度はあり、こちらからの攻撃も届きはするけど、下に対戦相手が残っている状態では狙うこともできないな。
なので、ダゴンとオーガの戦闘が開始される。
先ほどと同じように牽制と妨害、たまに本命の攻撃と、かなり上級者的な戦いをしている。
ダゴンは全周囲防御ではなく、ピンポイントに切り替えてきている。ピンポイントでもしっかりと水流があるため、矢はそれ仕込み籠手の矢も簡単に防がれている。
拳大の重量級の矢に対しては防ぐことをやめ、斜めに水の流れを作ってそらすことに成功している。
正面で受け止めると爆発的なエネルギーで破裂したように水がはじけるが、角度をつけて受け流すことで攻撃を無効化しているのだ。
そんな中、俺たちは、
「おぉ! これすごいな! 俺も水使ってあんな風に戦ってみたいな」
「忍ばない忍びの漫画で、砂を操っているキャラがいたから、あれをまねたら?」
「あれも悪くないよな。もとになった砂鉄を操る忍術もいいな」
「砂鉄を操るのは、電撃姫もやっているでござるよ」
漫画と小説の入り乱れる会話をのんきにしていた。
オーガが移動して側面や背後を取ろうとしても、水の妨害と補助で上手く立ち回っている。このダゴン、戦闘前と比べるとかなり成長しているよな。あっちの試合も見たことあるけど、ダゴンの水でおぼれさせるか、水棲魔物なら水を出さずに戦うか力押しのイメージだったのにな。
「あっ!」
綾乃の気の抜けた声、でもそんな声を出したくなるのもわかる。
だって、ダゴンとオーガが戦っている不意を突いて、ハーピーがダゴンの頭から串刺しにしたのだ。
ん? なんで先にオーガを狙わずにダゴン? オーガの方が倒しにくいと判断したのか?
ダゴンを倒した後、すぐに上空へ退避してしまった。
「そういうことか。俺たちは勝ち数が多いから、上空に逃げれば前の試合みたいに自害するとか思ってるんだな。あれは対空装備がなかっただけなのにな」
「でも、不意打ちは上手かったでござるな。見ていた某たちも、存在を忘れていたでござるよ」
確かに、不意打ちは上手かった。だけど、その後のこと考えているのだろうか? 対空装備を持ったオーガは……
「あれ? あいつ寝転がってね?」
「寝転がったでござるな」
「何寝てんのよ!」
オーガが地面に横になったのだ。無防備な様子をさらけ出してどうするつもりだ? 体力的にオーガの方が有利なのは明白だけど、どっちも魔物だからにらみ合いをしたら……先に寝た方が負けじゃねえか? それなのに横に何のかお前は!
2時間ほど硬直が続いた。何やら画面に文字が、投稿動画サイトのように文字が流れ始めた。その9割以上を占めていたのが、さっさと戦え! といった内容だ。
ってか、この機能なんだ?
運営から? このまま両者が動かなければ、共に負けとなります。だってさ。それはハーピーに言えよ、こっちは被害者みたいなもんだぞ!
向こうからすれば俺に1勝を取られるくらいなら、負けでいいと思っているのかもしれない。アナウンスされても動く気配がなかった。
オーガが仕方がないとばかりに動き出して、弓と仕込み籠手で攻撃するが、さすがに距離が遠すぎて当たらねえ。500メートル近く離れてるもんな。
更に6時間が経過。
俺と綾乃は普通に寝て、5時間ほどで目を覚ましている。
「決着つかないわね、どっちかが寝るまでこれ続くのかしら?」
さっさと終わらせろ! とか文字が流れているが、マジであのハーピーに言ってくれ。
結局、この試合は3日間続いた。決着は、ハーピーの意識喪失による落下で首の骨を折って死亡。何ともしまらない結果だ。どうせ負けるなら、さっさと負けてくれよ! この3日、娘たちと会えてないんだぞ! こんちきしょうめが!
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