1538話 実験と覚悟
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麻薬の重度の影響下にあった人間でも、ポーションで元通りに戻るという、ちょっと考えられない結果を残したが……本当に元通りになってしまうあたり、この世界の基準がよくわからないところだ。
脳萎縮性の認知症には効果がないんじゃないか? とバザールたちとの話に出たが、実験してみないことにはわからないので、今度対象となる家族に協力を仰いでみる必要があるかもな。そういった事例が少ないこの世界で、対象を探すのは困難だろうけど。
よく考えたら、ポーションのおかげとも限らないんだよな。DランクやEランクですら、冒険者じゃない人たちには縁がないものなのに、ポーションのおかげというのも不思議な話だ。
俺の街では、回復魔法やポーションは簡単に手が入るものになってきているが、他の街ではそうもいかないのが現状だった。住人であれば、格安で治療院を利用できるし、ポーションもきちんとした理由であれば、安く利用できるようになってるけど……
それなのに、ポーションが原因で認知症の人間が少ない、となぜ考えてしまったのだろうか?
そもそも、地球の人間とこの世界の人間では、体のつくりや廊下に差があってもおかしくないよな? 数千年生きる精霊種のエルフやドワーフだっている世界だし、寿命が同じくらいだというだけで、地球と同じという訳じゃないはずだ。
進行性の病気に対しては、もしかしたらポーションはあまり有効的じゃないのかもしれないな。
今日は、バザールの実験のためにまたここにきているが・・・
「そういえばさ、エリクサーの方はどれだけ効果があるか確認してないよね?」
綾乃に言われて、ハッとした。
ポーションにできることならエリクサーにでもできるからと思い、実験していなかったがエリクサーならポーションより効果が高い。もしかしたら、ポーションとは違う実験結果が表れるのでは?
追加で実験が必要だな。
「今日は、その辺を確認することはできませんので、また3週間後くらいに行うこととして、今日の実験内容は、バザール様のスキルの影響範囲でしたよね? 死者、アンデッドには基本的に効果があるのは実証済みで、生きながらに死んでいるような人たちにも効果があるのか? ということでしたね」
生きながらに死んでいるというのは、言葉にすれば簡単かもしれないが、実際にそんな人を探すのは難しいんじゃないか? って思っていた時期がありました。
でも、ここはゴーストタウンの地下、上にはいろんな人がいるのだ。そしてその中には性犯罪者。男であれば、ホモークやホモゴブリンに死なないように一生嬲られる罰が存在する。
その中でそっちに目覚めるやつらもたくさんいるが、2~3割は絶望のままお尻を使われ続けている奴もいるのだ。そういう奴らはそろって死んだ目をしており、何をしてもお反応がない……生きながらに死んでいる状態を体現していた。
ホモークたちには好みがあるが、ホモゴブリンは雑食だからなんでもござれ、だったりするんだよな。そんなのを相手にしてたら、心が壊れるやつらが出てもおかしくねえよな。
そんな奴らと、麻薬で脳を壊した奴らを連れてきて実験が始まる。
『ん~麻薬の方は、反応がありそうな感じがするでござるが、お尻を掘られていた方は、まったく反応がないでござるな』
感覚的なもので、スキルの影響が及ぶような反応があるのが、脳を壊した重犯罪者たちのようだ。心が壊れてしまったホモークやホモゴブリンを相手にしている方は、まったくうんともすんとも言わないみたいだ。
『某のスキルは、脳が影響しているのでござろうか?』
「そうとは限らんだろ。スケルトンとか、脳なんて無いぞ」
『そうでござった! アンデッドに影響のあるスキルでござるから、死に近い方が反応している感じでござるかね? 脳が死んでれば、生命活動を維持することができないでござるから、そこらへんが肝なのでござろうか? 脳死であれば、某のスキルは影響するのであろうか?』
「そもそも、この世界に脳死の人はいないだろ。生命維持装置がなければ生きてけないんだから、そんな状態になれば死ぬしかないよ。それに、脳死状態の人がいたとしても、重犯罪者でもなければお前のスキルは試させないぞ」
『それもそうでござるな。重犯罪者ではない普通の人でござれば、むしろポーションやエリクサーを使った回復実験をするべきでござるな。都合よく、ここの重犯罪者が脳死にでもならない限りは、試せるものではないでござるな』
「とりあえず、戻ってこい。影響がありそうでも、本当の意味で死んでいなかったら、お前のアンデッドを操るスキルは影響を与えないことは解っただろ。そっちの麻薬漬けの重犯罪者は、さっき言ってたエリクサーの実験に使おう」
『了解でござる』
「それにしてもさ、自分で言いだしたけど私たちのこの行為って、地球で考えたら間違いなくアウトよね。死刑を待つ犯罪者とはいえ、人体実験を行うなんてさ」
「急にどうしたんだ? 始める前に俺が聞いたのに、気にする必要ないみたいなこと言ってただろ? 突然なんだよ?」
「別に、何か思ってのことじゃないわよ。こっちの世界って、地球より簡単に人を殺すし女を犯してるから、そんな奴らは全部消えればいいと思うけど、それとは別にさ……考えたら、私たちって外道なことしてるな~って思っただけ」
「だからと言って、何か思う訳でもござらんのだろ?」
話の途中で入ってきたバザールが、綾乃に質問した。
「まぁね。これの対象が普通の奴隷だったり一般人なら、さすがにやる気は起きないけど、相手が犯罪者、特に死刑待ちであれば何も思わないわね。むしろ、人類のためになるんだから、喜んで実験の対象になるべきだと思ってるわ」
言いたいことはよくわかる。地球でだって俺たちが知らないだけで、人体実験は行われているだろうし、それが非人道的である可能性は極めて高い。その実験に使われているのが、犯罪者じゃなく攫ってきた他国の人間かもしれない。
特に平和な日本に住んでいた俺たちが知らない、ダークな世界だって存在している可能性は高い。
日本でだって、知らないだけでそういう実験が行われている可能性だってあるかもしれない。日本での行方不明の件数は8万件そのうち見つかっているのが86パーセントほど……1万人以上が見つかっていない計算だからな。その中でというのは、ない話ではないと思う。
アメリカなんて1日に2000人の子どもがいなくなっている統計があるとか。その中でどれだけの子供が見つかっているかわからないけど、臓器売買だってあるのだ、人体実験にされている人だっていてもおかしくないと思う。
とりあえず俺は、心が痛まない相手を使って、この世界のためになることならどんな手段でも取るだろう。例え悪魔の所業と言われても、悪人を殺して一般人を守る。それが俺の領主としての役目だと思う。
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