1533話 政策の裏側
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子どもたちへの支援は、将来への投資ということで、中立地域以外にある街の住人、というか、多額納税者を納得させた。
中には納得しなかった多額納税者もいたのだが、そういう人たちには今年の納税分をすべて返還して、現在使っている建物を相場の倍の値段で買い取りを行い、上位冒険者の護衛をつけて最寄りの街へ送り出している。
多額納税者と言っても、俺の街で一番納税しているのは、俺の商会だったりするので、その商会が問題ないと言っている……というより、推奨して最大出資者になっているので、逆らおうという多額納税者はほとんどおらず、自分たちも優秀な人材を確保するために、出資者になれないか画策しているほどだ。
ほぼ追い出される形で街を退去したのは6組織。他の街で俺の街を批判するだろうけど、批判するのが他の国でこちらに干渉してくることはまず不可能だ。
商会のネットワークを通じて支店のある街の領主には、追い出した者たちを受け入れるのであれば、カザマ商会が撤退する旨を伝えているので、よほどのことがなければ受け入れることは無いだろう。
受け入れる場所に関しては、商会を置いていない街は商会にうまみがなく、領主に問題があると判断されている街なので、追い出された組織の人間はこの後苦労するだろうな。
本来はこんな方法はとりたくなかったのだが、グリエルとガリア、ゼニスに加え、リンドやミリーも加わり、温い対応は絶対にしてはいけないといわれたので、みんなに任せることにしたら、こういう対応になった。
正直な話、そこまでする必要があったのかと思い、対応が終わった後にグリエルに質問してみた。
「シュウ様は、何か勘違いをしておられるかと思います。表面上を見れば、確かに理不尽な政策です。ですが裏を返せば話は変わってくるのです」
そういって話し始めた。そして、ある紙の束を俺の前に差し出してきた。
「私の話を聞きながらでいいので、そちらに目をお通しください」
グリエルに渡された紙の束は、今回街を出ていくことになった6組織の資料だった。
「見てもらえれば解ると思いますが、シュウ様の街では取り締まりすれすれのことをしていますが、他の街では領主と組んで、住人から搾取していると調査報告が上がっております。多額の税金を納めているので、追い出されないと高を括っていたみたいですが、ちょうどいい機会でしたので追い出したのです」
どうやら、ただ政策に賛成しないから追い出した、という訳ではなかったようだ。
俺の街では、法に触れるようなことはしていなかったが、他の街では営利目的で領主と組みかなりあくどいことをしていると、報告書に書いてあった。
他の街でした犯罪については、俺たちの街で裁くためにはその街の領主の依頼が必要なのだ。領主と組んでいる以上、こちらから報告したところでしらを切られて終わりなので、せめて自分の街では悪さをさせないように見張るしかなかったのである。
今回の政策、俺が直接打ち出したということで、大々的に街で広報をしたようだ。その政策に付随する形で、この6組織にピンポイントで不利になるような政策も、同時に打ち出すことによって街から追い出したそうだ。
きれいごとだけでは済まないことは解っていたが、この政策によって、巻き込まれた人たちが少なからずいたことに心を心を痛めた。
グリエルたちが最大限援助策を打ち出しているが、全部を救うことは無理だ。何十万人も人がいるのだ。すべての人を救い上げるなんて、とても無理な話である。
それとは別に、他の街でここまであくどいことをしていたのなら、暗部を使って処理をしそうな気もしたのだが……
「調べてみたところ、主犯格的な存在はシュウ様の街に入ってこずに、安全な街から指示を出しているだけだったのです。暗躍していた裏の人間は処理させていましたが、まっとうな商売をしている人たちもいたため、完全につぶすわけにもいかなかったのです」
とのことだ。
悪い奴がいるとわかってても、それを知らない下の人間まで処理するわけにはいかないよな。だから、暗躍していたやつらまでしか手を出せずにいたらしい。
運び込まれる品の中に違法なものがあれば、すべて没収していたが、すべてを見極められるわけではなく、少量は街で出回ってしまっていたらしい。
どうしても後手に回ってしまうのは、仕方がないのだろう。
問題の多かった奴らは、ほぼ追い出せているので対応が楽になったと言っていた。
俺の知らないところで頑張ってくれている現場の人たちには今度、ボーナスでも支給しよう。グリエルに何がいいか聞いておいてもらおう。
「そういえば、暗部の者たちから提案があったのですが、脳細胞の修復についての実験をしたいとのことで、計画書が上がってきているのですが、許可をいただけませんか?」
「ん? 俺に回ってくるってことは、何か問題のある実験ってことか?」
「問題と言いますか、重犯罪者を使った人体実験ですね。元々処刑される犯罪者を使って、人体実験をしてみてはどうかということだそうです」
「人体実験か。犯罪者とはいえ、無駄に苦痛を与えることになるってことか? 一応、どんな実験か聞いてもいいか」
「詳細はこちらになりますが、簡単に言えば、麻薬を使い脳細胞を壊し万能薬で麻薬の効果を抜いてから、回復魔法やポーションの効果を調べる、といった感じですかね」
なるほど、ただの人体実験なら俺のところには話が来ないが、麻薬を使うとなると話は変わってくるな。
俺たちの街では、麻薬は一切禁止されている。痛みを和らげるモルヒネのようなものもあるが、すべて魔法と魔法薬でなんとかなってしまうので、麻薬はどんな種類でもすべてを禁止している。
そのうえで麻薬を使うとなると、俺の許可が必要になる。だから、話が俺に回ってきたんだな。召喚できるのも、ダンマスの能力を付与しているモノたちだけだからな。
「非人道的と悩むのもわかりますが、脳に関しては我々もわからないことが多いのです。可能な限り調べられた方がいいと具申します」
分かってはいるんだけどな、どうにも日本にいたころの常識が邪魔をする。
「ちょっと、考える時間をくれ、バザールとかと相談してみる」
すぐに答えを出せなかったので、同郷であるバザールに相談してみることにした。綾乃にしないのは、なんとなくだ。
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