1525話 無謀な挑戦
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チビ神からしばらくはホコは攻めてこないだろうとは聞いていたが、それを鵜呑みにするわけにはいかないので、バザールと綾乃を呼び俺なりに対策を考えることにした。
「やっぱり、クリエイトゴーレムによる監視網を作成すべきだと思うんだけど、どう思う?」
「そうでござるな。綾乃殿は、改造をしている張本人として、どう思うでござるか?」
「魔核で学習機能を付加できるようになってはいるけど、あのシステムって自分の体に合わせた動きを、模倣するのには向いているんだけど、物を見て判断するっていうことには致命的に向いていないのよね。何て言えばいいのか……体を動かすことに特化している学習システム? って感じかしら」
綾乃の言わんとしていることはよく解る。見取り稽古は得意なのだが、勉強することには向いてない。脳筋タイプのCPUみたいな感じか?
だけど、魔法は無限の可能性があることを俺たちは知っている。ならば、学習や判断に特化したタイプの魔核が作れてもおかしくはないはずだ。
「綾乃の言っていることはよく解るけど、実際に人造ゴーレムを作ときに見取り稽古に特化するように作ったのは間違いない。それに、回復に、自動修復に特化した魔核や、魔力を生み出すことに特化した魔核だって作っているのだ。判断に特化した魔核が作れないわけがない! と思うのだが」
綾乃とバザールは腕を組み、唸りながら悩んでいる。
「できるできないを論じることに意味はないでござる!」
バザールが突然声を上げた。
「できるかできないかは、やれることをすべてやってから判断すればいいでござる。幸いにも時間はたっぷりあるのでござる。できなかったら、その時に考えればいいことでござるよ!」
確かに、できるかできないかを論じることに意味はないな。やってみてできなかったら、その時に考えればいい。まさにその通りである。
俺たちは、新しく用意した、使っていなかった工房に移動する。
「試しにいくつか作ってみよう。性能の向上やその他の改善点は、作ってからじゃないとわからないから、考えようがないからな。まず問題はないと思うが、俺たちに対する絶対命令権はきちんと入れておけよな。ハリウッド映画みたいに、機械の反乱なんてシャレにならないからな」
「機械が高度になれば、本当にあんな世界が来るのかしらね?」
「どうなんでござろうな? 自己犠牲を良しとしない機械が出てくればあるかもしれないでござるが、魔法……クリエイトゴーレムによる魔核では、死の概念がないでござるからな。特に綾乃殿が構築したシステムにより、人間でいうところの脳が壊れたところで、復元可能でござるからな」
人造ゴーレムには、個性が存在していない。没個性的と言えなくもないが、戦闘を前面で担うための道具であることを考えると、余計なことを考える必要なく戦ってくれることが望ましい。だから、今の状態は俺たちにとってのベストでもあるのだと思う。
魔法はイメージが大事なので、始めは3人とも別の場所で自分なりに、今回の件に対して最も適切だと思うものを作ることにした。
俺も自分の作業場に移動して、悩んでいる。時間は長めにとっているが、そこまで余裕がある時間でもない。まず必要な要素を考えていくことにした。
まず必要なのは、人間でいうところの目に相当する器官だろう。通常の人造ゴーレムにも搭載しているが、できるだけ人間に近付けるため2つの目を人間のように配置している。
人間と同じ必要があるかはわからないが、想像しやすいので今回は人間の頭部をイメージして視覚機能を作成する。
クリエイトゴーレムで作っているとはいえ、イメージしただけでなんとかなるなんてすごいよな。昆虫みたいに複眼にしたら、何か変わったりするのだろうか? って、複眼のイメージができないから無理だわ。実際に持っていないものを再現するのは、さすがに無理だな。
口は必要ないか。音声を出すだけなら、スピーカーの原理を応用すればいいから、人間の出す声のシステムを模倣する必要はない。
というか、目と判断する脳以外は、今回は必要ないな。他に機能が欲しければ後で考えればいい。
目で見たことを判断する脳に相当するものか。ん~、よく考えたら、学習機能を持つ魔核って人間のそれを模倣したわけじゃなかったな。イメージするなら、機械に物を覚えさせる感じだな。繰り返し繰り返し勉強させる……AIの教育みたいなものかな?
でも、そうなると、人間のような思考をする魔核って作れるのか?
既存のAIは、トップダウン型、プログラムに知識と経験を積ませ、学習によって最終的に本物の知性へと近づけようというもの。現在、人工知能と呼ばれるもののほぼすべてが、トップダウン型と呼ばれるものだったはず。演算能力に物を言わせて学ばせる、みたいな感じだったっけな?
それに対して、ボトムアップ型、脳細胞が連結された生体器官の構造そのものを人工的に再現し、そこに知性を発生させようという考え方。
脳細胞って千何百億ってあって、それが電気信号なんかで繋がって思考しているんだっけ?
例えば、2千億個の魔核を用意したとして、それを単純に繋げただけじゃ人間の思考を模倣することはできないよな? 繋げただけの状態なら、赤ちゃんと変わらんけど、問題はそこじゃないと思うんだ。繋げたからって人間みたいに学習するかって話だよな。イメージでなんとかなるものなのか?
正直、どこからどうやって手を付けていいかわからん。トップダウン型だと、不測の事態に陥ったらフリーズしそうだよ。
ん? フリーズ……止まるか。
未知のことに対応できるようにって考えてたけど、未知のことで対応できなくなったらフリーズする機能を、積極的に利用するのはどうだろうか?
って、だめだな。未知のことに対応しないでスルーする可能性だってあるんだしな。
なにせ、何が起こっているか理解できないから、判断できずに放置する可能性だってあるのだ。その判断基準を覚えさせるなんて無理だろ。そんなことができるなら、対応できる人造ゴーレムを作れるわ!
だめだな。いろいろ考えすぎるとドツボにはまる。地球で俺より頭のいい人たちが、長年研究しても完成の『か』の字も見えないボトムアップ式の人工知能のようなものを、さっき作ろうと思いついて作り始めた俺に作れるはずがない。
だから、考え方を変えよう。
魔核による学習機能の速度は速い。それを使って、普段とは違う変化があったときに、報告を上げる仕組みと、それを判断する仕組み、の二段階で作成してみよう。
普段と違うという定義があやふやだけど、今回はとにかく作ってみないことにはわからないので、試作することにした。
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