1300話 エルダートレントの生態
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エルダートレントを支配下においてから気付く。
「こいつをどうやって移動させよう?」
捕まえる事ばかり考えており、捕まえた後の事を全く考えていなかった。とりあえず、コミュニケーションがとれるか確認しなきゃな。
バッハに頼み、エルダートレントが落ちた穴に降りていく。
しばらくすると、バサバサと枝を振るうエルダートレントの姿が見えて来た。
「おーい、俺の言う事が分かるなら一旦枝を揺らすのやめてくれ」
大きな声を出し、お願いしてみる。
そうすると、バサバサする音が聞こえなくなり大人しくなったように見える。
バサバサと言っているが、遠く離れているからそう聞こえるだけであって、近くではビュンビュン鞭みたいに音速超える速度で動いている気がする。
「改めて近くで見ると、やっぱりでかいな」
そんな事を言っていると、エルダートレントから生えているツタが触手のように、ウネウネとしながら俺の方へ近付いてくる。
手を伸ばすと、それに絡まるようにして何やら気持ちが伝わってくる。ん? 接触する事によって、気持ちを伝える事ができるのか? 喋れはしないだろうけど、意志疎通をはかるには便利かもしれないな。
「お前は、こいつみたいに体を小さくしたりできるのか?」
バッハの方を指さすと、やればいいんでしょ? と言わんばかりにバッハが体を小さくする。絡みついているツタからは、否定の意思が伝わってくる。
「規格外の魔物は結構いけるんだけど、エルダートレントは無理か、さてどうしたものやら? ディストピアまで穴をあけるか?」
そんな事をつぶやいていると、ツタから……
植物関係の依り代が欲しい! と言った気持ちが流れ込んでくる。
「依り代? 植物関係って事は、木の人形か? 魔力がこもっていた方がいいのか? もう少し詳しく教えてもらえないか?」
いろんな気持ちが流れ込んでくるが明確なのは、木や草のような植物である事、魔力はあっても無くても問題ないが魔物はダメとの事、本当の体は後で別に用意してもらいたい事の3つだった。
前2つは分かるが、最後の3つ目は、正直よくわからん。本当の体って、それじゃないのか? よく分からないけど、とりあえず依り代になる物か、植物系の魔物が良ければ簡単だったんだがな。
召喚リストを眺めて、この世界特有の植物を発見した。食魔植物という、魔力を食べて育つ薬草の一種のようだ。どうやら面白い特徴があって、食べた魔力は成長以外にも風魔法を使って音をたてる事ができるらしい。
魔獣も動物も植物を食べる、雑食や草食タイプだと食べられてしまうので、大きな音を立てて追い払う習性があるのだとか、食肉植物や寄生植物等色々な魔物を見てきたつもりだがここに来て、魔物でもない植物が魔力を食べ魔法を使うとか。
面白そうなので召喚して鉢に植え替えてエルダートレントに見せてみる。
そうすると、これで問題ないようだ。ツタから伝わってくる感じからすると、しっかりと手で持っていてほしいとの事だ。
言われた通りにしっかりと鉢を持ち様子を眺めている。
食魔植物にエルダートレントのツタが絡まり、しばらくするとツタの力が抜けた。ん? 大丈夫なのかこれ?
心配していると、手に持った鉢の中の食魔植物が動き出す。魔力の動きを感じるが害意は無いようなので、様子をみる。
何やらいろんな音が聞こえてきた。どうやら鑑定の結果、手に持った食魔植物にエルダートレントが乗り移ったらしい。依り代って言うのはそう言う事か! じゃぁ目の前の大きな木は?
ギギギィッ
そんな音を立てて傾き始めている。
ちょっと待て!
「バッハ!俺を掴んで上に運んでくれ!」
バッハに乗る時間も惜しく、バッハのかぎ爪に捕まれ木の下敷きにならないように移動してもらった。
「ふ~危なかった。根がむき出しで、バランスが悪いのに倒れない方がおかしいよな。出来ればこうなる前に忠告してほしかったよ」
そう言うと、鉢の中の食魔植物がしょんぼりとした。萎れた感じになる。面白い感情表現だな。そう言っていると、また魔法を使って何かをしようとしている。
『!#D)F"#I!”#R、ア、ア、ア、アー』
ファッ!?
『ア、イ、ウ、エ、オ』
風魔法を使って、言葉を再現したようだ。これには驚いた。
『ゴシュジンサマ、タスケテクレテ、アリガトウ』
「んあ? 俺はお前の事を助けたのか?」
『ソウデス。オオキクナリスギテ、イドウデキナクナッテイマシタ。ツタノトドクハンイニショクブツガナクナッテシマイ、イドウデキナカッタノデス』
片言で聞き取りにくいが、言っている事が分かる。
エルダートレントの生態は、リビングアーマーのように植物に乗り移っていくようなのだ。乗り移るためには、接触していないといけないのだが、のんびりと眠っている内に範囲内から植物が消えてしまったらしい。
そう言えば、エルダートレントの周囲には木が生えてなかったな。軽く見積もっても1キロメートルは周囲に何もなかった。
トレントならある程度、根を使って動けるのでは? と思ったのだが、体が大きくなり過ぎてそれもできなかったとの事。そこに俺が来て、支配下に置いて植物を用意した事で移動できるようになり、お礼を言ってきた感じだ。
お前も苦労していたんだな。だけど、Lvがカンストしていても、しょせん小さな食魔植物なので先程までの異常なステータスでは無い。まぁ、この状態でもレベル100位の冒険者であれば、一方的に倒せるのでは? という位は強い。
今まで使っていた体は不便なのでいらない。俺に新しい体を準備してほしいって言っていたのはこの事のようだ。
大きくないとお前の力が活かせないけど、大きな木を置くのには……また面倒がかかるな、どうしたものやら?
そう思いながらバッハに帰るように指示する。
ディストピアに到着した瞬間に、手の中のエルダートレントが暴れ出した。
何事かと思ったら、家の庭にある世界樹をみて興奮していたのだ。植物系の魔物なので、世界樹がすごいと感じているのだろうか? そういえばあいつもかなりでかくなっているよな。
高さが100メートルを越えている。こいつが高くなりすぎて、南側にある鍛冶エリアに迷惑がかかるから移動させようかと思っていたら、日陰になるからちょうどいいとの事だった。
鍛冶エリアでは、カエデの工房と違い冷暖房は無い。繊細な温度管理が必要な場所で使うのはナンセンスなのだとか、じゃあカエデは? と思ったが、ガルドがいるおかげでそこら辺は問題ないのだとか。中級の精霊でもダメなようだ。
カエデも知らなかったらしく、その話を聞いた時は冷や汗を流していたな。
鍛冶エリアの工房内は、常に炉に火が入っているので熱いのだ。夏場は日陰になっているくらいがちょうどいいのだとか。
冬場なら、工房と外の間位にいれば過ごしやすいから、太陽はいらん! とか言っていたな。
そんなこんなで、今も大きくなり続けている世界樹の枝は、結構な範囲を覆っている。
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