1232話 帰れる?
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裁判をする必要は全くなかったのだが、この街の領主が何をしたのかをしっかりと街の人間に知らしめるために開廷している。
いや、裁判は、法的紛争を解決する目的で行う公権的な判断であり、その形式には判決・決定・命令の3種類があるんだったか? そう考えると、今回は裁判とはいえないか?
私刑に近い形になるのか? 戦争の勝者の権利を妨害したから違うか?
よく分からないけど、こっちは一方的にやった事を突き付けて処刑するわけで、法的手続きをしないで処刑するわけだから、魔女狩りに近いかもしれないな。
今俺たちがいる場所は、街の外、壊した城門から100メートル程の位置だ。
様子を見に来ている街の住人や騎士兵士に分かりやすいように、今までの流れを説明している。隣街の領主を匿っていて、嘘を付いて追い返そうとしていた事を伝えると、領主を非難する声が大きくなる。
まぁ、聖国の領主としては、正しい行動と言えなくもないが、巻き込まれた住人にとってはそんな事関係ないんだよな。
だって、普段は領主として贅沢な生活をして、わがままをしているのだ。それなのに戦争で負けて、責任をとらずに逃げて来た領主をかくまっていたと知れば、怒りも爆発するだろう。しかも、ここの領主は善意で匿ったのではなくて、金品を受け取って匿っていたのだ。
俺が住人だったら、巻き込まれたら罵声を浴びせてるだろうな。
俺たちは、宣言通り住人にはこちらから手を出していない。それどころか、この街の大手の商会が俺たちに抵抗して街に被害を出したのに対して、俺たちが被害にあった住人に対して保証をしている。商会から巻き上げたお金だけどな!
色々説明した後にレイリーが、
『この街の領主は、戦争の勝者である私たちに嘘を付き、時間稼ぎをし追い返そうとした。隣街の領主を屋敷の隠し部屋から発見した際にも、自分は知らないと白を切った。
こちらは、何度もいる事は分かっていると伝えていた。情状酌量の余地は無い。ここで処刑をさせていただく。意義申し立てがあるのであれば、話を聞こう。誰かいるかな?』
レイリーは、処刑するとは言ったが、異議申し立てを聞く姿勢を見せている。
一番初めに暴れ出したのは、処刑されそうになっているオーク領主だったが、騒ぎ出した瞬間に近くで待機していた兵士に蹴飛ばされ黙らされていた。
オーク領主は、使者と同じように首と手首を固定され地面に這いつくばらせられている。
『少しよろしいでしょうか? 戦争に勝ったあなたたちが権利を主張して、隣街の領主を拘束したかった事はわかりました。この街の領主が、その人物を匿っていた事もわかりました。ですが、巻き込まれて被害を受けた人たちに対しては何もないのですか?』
身なりのいい青年っぽい人物がレイリーに向かって質問してきた。
『こちらの行動によって被害を出した人に対しては、金銭で補償をしている。畑を管理していた農家の人には、お金以外にも保存のきく食材を渡している。私たちが直接被害を出したわけでは無いが、商会の護衛が魔法で被害を出した人たちに対しても、保証をしているが何か問題でも?』
『それだけでは無いですよね? あなたたちが街を封鎖した事により、被害を受けている人がもっといます。その人に対しては何もないのですか?』
『ん~、私たちは出来る限り被害を出さないように配慮して行動していましたが、被害が出たからと言って補償しなければならない理由はない。善意で直接被害にあった方に保証しているだけでもかなりの事だと思いますが?』
『ですが、封鎖された事によって被害を受けている人だって生活があるんですよ! それに対して何もしないのは、封鎖をした者として最後まで責任をとっていただきたい』
『間接的に被害を受けた人に対しては、街から補償が出るように手配している。細かい所の補償までを私たちがやるのは難しい。問題なく街を運営できるだけのお金は準備されているので、管理する人間が不正でもしない限りは問題ない。それより君は誰なんだ?』
あ、俺もそれは思ってた。身なりがいいから、それなりの地位の人間か親族だと思うけど。
『私が誰でも関係は無いと思うが? あなたたちが取った行動によって実際に被害を受けている人間が、この街には多くいるのです。それに対する責任を果たしていただきたい!』
レイリーは青年を見てから、手元にあるタブレットを操作して、マップ先生で調べてる感じだな。
『ふむ。君は、この領主の庶子のようだな。肩書は庶子なのに、その歳で司祭ですか。かなり優秀なのですかね? この街のトップが司教であるあなたの父上だが、処刑されようとされている今、我々と目に見える交渉で次の領主でも狙っているのかな?』
レイリーがそう言うと、一瞬だけ苦い顔をした。オーク領主のように誰にでもわかるようなミスはしていないな。そういう所は似なくてよかったな。後、見た目もオークではなく爽やかな青年でよかったな。
だけど、相手と状況が悪かったな。既に補償をしていて、細かい部分に関しては多めにお金を残しているので、俺たちは戦争の勝者としてはあり得ない程相手に施しをしている。
『バカにしないでいただきたい! 私はこの街に住んでいる人のために発言しているのです。私利私欲のために声を上げているなど、失礼にも程がある!』
『それは済まなかった。だが、我々は既にできる事をしている。これ以上を望むのであれば、我々は分かり合えないと思う。君に1つだけ忠告しておこう。一方的に戦争を始めたのは聖国だ。それを返り討ちにした我々が、本来なら敵国であるこの街に施しをする必要は無いんだよ。それでも、我々に責任を押し付けるのであれば……』
最後は言葉にせずに含み笑いで話を終わらせた。
青年は馬鹿では無いようで、本来自分たちが要求できる立場にいない事を理解していた。そのため、まだ何やら言いたそうではあったが、すごすごと下がった。
他には声をあげる人はおら……オーク領主が叩かれては黙り、黙っては暴れて叩かれる、を繰り返しているな。
それ以外は静かだった。これ以上は必要ないと判断したレイリーが、領主の首を落とすように命令した。
綺麗に切り落とされた頭は、城門の外に台を建てさらし首になった。城門が壊れたままだと、色々問題があるので直している。他の出口を塞いでいた壁も撤去しているので、俺たちがここにいる以外は問題なく日常が戻ってきている気がする。
実際に戦場になったわけでは無いので、流れ弾に当たった住人以外は他人事に近いのかな? 領主が目の前で処刑されているけど、結局自分に関係ない事だとか思ってそうだな。
ここでやる事も、捕らえる奴も全部終わった。さて、帰ろう。
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