1223話 駆け引き
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「領主館に向かって歩いているようだな」
使者としてここに来た奴は、左右にふらふらしながら領主館に向かっているのが分かる。すると、住人を表す光点に向かって少し動きが早くなった。光点がほぼ重なってしばらくすると……
「え? 住人の光点が消えた? 他の光点が近付いてきたな、家族かな? げぇ、また光点が消えた」
2つの光点が消えた事で状況を把握してしまった。
「シュウ様。どうやら使者としてきた奴が住人を殺したようですね。称号に殺人ではなく、虐殺者が付いています。今のように住人などを殺してきたのでしょう」
理不尽に殺された住人がかわいそうだな。
「殺しておくべきだったか? もっとしっかりと使者の情報を調べておくべきだったな」
「さすがに使者を殺すのはよろしくないですね。決まりとしてあるわけでは無いですが、不文律として使者を殺す行為は、忌むべき行為だとされています」
「でもさ、侵略戦争を仕掛けてきた聖国に配慮する必要はないだろ?」
「そうですが、今回は伝言を持って帰ってもらわないといけなかったので、やはり殺すのは無しですね。巻き込まれてしまった住人には悪い事をしましたが、本当に悪いのは使者としてきた奴ですからね」
「ご主人様。いくら使者の情報を調べていたからと言って、帰り道でまさか住人を殺すなんて誰も想像できないです。ですから、ご主人様が気に病む事はありません。もっと言えば、敵国の人間ですので配慮する必要もないです」
ピーチは、俺の罪悪感を減らすために俺を励ましてくれているようだ。異常者の行動なんて理解できるわけない。ピーチの言った通り、俺が気に病む必要はないよな。
「わかったよ。だけどレイリー、今度奴が使者としてまた来たら、どうにかして処分したい。方法を考えてくれないか?」
「そうですね。使者は信用が命なので、真実の目を使って称号を見せていただく事にしましょう。もし拒否するようであれば、信用に値しないとして拘束して、無理やり真実の目を使いましょう。
そこで犯罪の上位称号の虐殺者がある者を使者として遣わせたこの街は、自分たちをバカにしていると拡声器を使って街に知らせてから、存在自体が悪なので処刑しましょう」
「俺が言ったとはいえ、処刑して大丈夫か?」
「良くはないでしょうね。ですが、犯罪の上級称号持ちなど百害あって一利なしでず。殺してしまった方がこの世のためです。もしそれで戦争になれば、全力をもって相手をしましょう。シュウ様が今回の事で心を痛めていると知らせを出します。スカルズのメンバーとライガが暴れてくれると思います」
スカルズはともかく、ライガも出動する事になるのか。自分から望んでいるとはいえ、出来るだけ前には出てほしくないんだけどな。
それから1日……
「街の方に動きはないな。兵糧攻めの方はどうなってる?」
「そちらはですね、4つ程商隊があの街へ向かおうとしていたので、3つの商隊からは食料品をすべて2割増し程で買い取っています。ついでに交易品も適正価格で買い取っています。こちらから、中立都市の名産を売っていますので、そのまま引き返してくれています」
「買取りだけじゃなくて、商売をしていたのか。ここで中立都市の商品が手に入ったのであれば、商人としては儲けものだな。そもそも聖国の人間では手に入れにくい商品だから、こちらの願いに応じてくれた感じか?3つはって言ったけど、後1つは?」
「最後の1つは、どうやらあの街の偉い人間が出資している商隊だったようで、売ってくれませんでしたのでお話で解決しています。これからも、あの街の息のかかった商人が拒否すると思いますので、丁寧にお話して対応します」
どうやら残りの1つは、物理的に解決をしたようだ。
「街から出た商人はどうしたんだ?」
「出て行く分には特に問題は無いので放置ですね。長距離移動馬車の方は、収納系のアイテム持ちがいない限りは何もしないつもりです」
商人以外に対しても、きちんと対応を考えている様だった。
「それにしても、領主館に隣街の領主がいるって分かっていると言ったのに、丸1日反応が無いのは、こっちを舐めてんのかね?」
「どうでしょうか? シュウ様の魔法を見せつけているのに、時間稼ぎをしようとは考えないと思いますが、あんな奴が使者としてきているので少々読みにくいですね。明日の朝一で何の反応も無ければ、こっちから少し仕掛けましょう」
そういって、到着して2日目が過ぎて行った。
案の定、朝になってしばらく待ってみたが、マップ先生でも動きが見られないので、レイリーが何かを仕掛けるようだ。
何をするのか気になったので、レイリーのいる指令室となっているテントに向かってみた。
そこには、完全装備に身を包んだスカルズとライガがいた。いや、ライガはいたけど、取り押さえられているので、本当は呼ばれてないのだろう。
「レイリーのじっちゃん! 何でだよ! 何で俺を出してくれないんだ! こういう時こそ俺の出番だろ!」
やっぱり招かれていないけど、自分の出番だと思って指令室に来たようだ。取り押さえているスカルズの皆……お疲れ様。
レイリーの話は進んでいるが、ライガは納得していない。このままだと1人でも飛び出していきそうな勢いだな。
それを察したレイリーは、スカルズのメンバーのいう事をしっかりと聞く、という条件で作戦に加わる事を許可した。だけど、もしいう事を聞かなければ、罰を与えると強い口調で言っていた。年齢を考えるとやり過ぎな気もするが、軍……兵士を自分の意思でやっている以上、決まりも守らなければいけないよな。
そして行われる作戦は分かりやすく、少数精鋭による城門の破壊だそうだ。確かにライガ向きの作戦ではあるな。小柄とはいえ、シュリと同じ病気……呪いを持っているのだ。力や体力は抜群だ。
さすがに大きな城門に対して、素手で挑むような事はしないようだ。即席ではあるが、破城槌を作ってそれを使用する事にしたのだそうだ。
30分後には準備が終了し、出撃していった。
「走ったりしないで、マジで歩いて城門まで移動するのか」
全身装備をまとったスカルズとライガがゆっくりと城門まで歩き始めた。
それを発見した城門の上にいる兵士は、弓の射程範囲に入ると攻撃を始めた。
「パワードスーツに対して、何の強化も無い弓矢で攻撃した所でダメージも無いよな。自分たちの強さを誇示する行動って言ってたけど、敵兵から見たらおそろしい存在だよな」
敵兵は結局、スカルズの足止めをする事をできずに、到着させてしまった。望遠鏡で見てるけど、矢が軽く3桁後半位の数が地面に突き刺さっていると思う。
おーライガが破城槌6発で壊したな。ライガの力であれば、簡単に壊せる扉って事か。俺たちも壊せるけどな……って何はり合ってんだ?
スカルズは、優雅に後退を始めた。
『私たちが引き渡しをお願いしている隣街の領主の居所を教えても、この街の領主は私たちの事を侮って話し合いに応じないようですので、少々実力行使で城門を破壊させていただきました。今日中によい返事がない場合は、他の城門も破壊させていただきます。すべては、領主が引き渡しに応じない事が原因です』
城門を壊したのは俺たちの都合だが、すべては領主のせいだという事にして住人の怒りを、そちらに誘導しているようだ。
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