1193話 被害
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3日目……聖国の兵達は疲弊している顔をしていたが、中規模の戦闘が行われている。
3000人程の兵力を防衛地に向かって3方向からの攻撃だ。それに対してレイリーは、打って出て備えの無い場所での戦闘を避けるために、自分たちの作った陣地にこもり守りを固めた。
自分たちに有利になる場所から弓を放ち、自分たちの距離で戦えるように工夫している。塹壕は山なりの攻撃に強くないが、100メートルも離れて放たれる矢を、正確にその位置に落とすのは難しい。風がなければ違うかもしれないが、風のある現状では相手の矢の効果はあまりない。
有利に戦況が動いているが、こちらは無理に攻める必要もない。時間がかかればかかる程こちらに有利だという事を理解しているからだ。しっかり統率されている軍は強いな……
軍の衝突は問題無さそうだ。
問題になっているのは、ダブルの冒険者たちのクランだ。軍の動きに合わせて、2つは軍のさらに外側から、最後の1つは軍の中に紛れて攻めてくるようなので、気が抜けない状況ではある。
両サイドは副官たちの部隊が対応して、敵部隊に紛れ込んでいる奴らはスカルズが対応する事に決まった。
スカルズが乱戦の場所に派遣されたのは、スカルズの装備品が影響している。レッドドラゴンの装備にパワードスーツの防御性能を考えると、乱戦であれば被害はないと判断された。それに副官たちでは、乱戦になると自分たちはともかく部下の安全が……
普通に考えて、あれだけの装備をしているスカルズにダメージを与えようとすれば、周囲にどれだけの被害がでるか……それを考えると、乱戦の方がスカルズには合っているのかもしれない。
だが、物量には勝てない可能性はあるので、援護が出来るように備えている。
虎の子の魔法部隊を中央に配置している。可能なら魔法を使わせたくないのだが、スカルズが危険にさらされるくらいなら火の魔法を叩き込む予定だ。
レッドドラゴンの装備は火に強いのでこの作戦を立てたようだ。しかもこの作戦は、スカルズからお願いされたようだ。
他にも、配置が決まった際に竜騎士たちが使っている火炎壺を、大量に収納の腕輪に収めていた。
とにかく、火に強い自分たちの装備を前面に押し出している。でもさ、心臓によくないからあまり無理はしないでくれ。
朝のスカルズの姿を思い出しながら戦場を見ている。マップ先生で位置を確認しながらスカルズの動きをみている。
衝突が開始されて1時間が経った頃、戦場に変化が現れた。
中央にいた冒険者のクランのメンバーが、軍に紛れ込んできたのだ。嫌らしい事に装備は、自分たちが普段使っている装備に軍人っぽい加工がされており、パッと見た限りでは冒険者と分からない位に装備が偽装されているのだ。
とはいえ、軍人と冒険者では動きの質が違うので見る人が見れば、少しのヒントで判断する事ができる。問題は、1000人規模の兵士たちに紛れている事だ。
今日は前線にレイリーも出ている。相手のダブルの冒険者とそのクランが不測の動きをした場合に、対応しやすいためだ。レイリーであれば、ダブルの冒険者に対応しながら他の敵にも、同時に相手をする事ができるであろうという判断からだ。
レイリーは長い間戦場に出ていたためか、レベル以上に実力が高いのだ。同じレベル同じステータスであれば、俺はレイリーに勝つことはできないと断言するくらいに、地力の差がありすぎるのだ。
長生きしているだけのエルフやドワーフではこうはいかないだろう。鍛錬を積み戦場に立ち続けていたレイリーだからこそ、この強さがあるのだと思う。
声は聞こえないが、レイリーが号令を出しているのは見えている。
陣地から打って出ずに盾を上手く使いながら、守りを固めている。そこに隊列を組んだ敵兵士が食らいつく。
訓練の通りポールアックスを振り上げ相手をめがけて振り下ろす。目に見えているのでしっかりと防ぐのだが、攻撃の重さで盾持ちの敵が怯む。それを見逃すわけはない。
こちらの盾持ちが距離を詰め鈍器というか、片方がハンマーで反対側が先の尖った形をしている武器を振るって、相手の盾を壊していく。つるはしのように尖った側のハンマーは、面白いように相手の盾を凹ませ穴をあけていく。
敵軍の盾持ちの人間が交代する隙をついて、ダブルの冒険者たちが動き出した。今まで見た事ない大きさの斧を持ち出してきたのだ。大斧……柄の長さが3メートルを越えており、刃の厚みが普通の剣を10本束ねたくらいあるのではないだろうか? 刃の大きさも左右の刃をあわせて縦横1メートル程ある様に見える。
どれだけでかい武器だよ! さすがにあの斧は拙い。重さだけでも振り下ろせばかなりの力になる。しかしそれだけではない。それを普通に担ぎ上げているのだ。スピードがなくとも振りわせるだけの力を持っているという事だ……
かなり使い辛い武器ではあるが、武器として戦場に持ち出されたからには、道具として成立しているという事だ……
その大斧が振り上げられて、振り下ろされた。隊列を組んでいるため、盾使い質には逃げ場がない。気合を入れて大盾を構えるが……直撃した兵士の盾は粉砕され、右手と左足を半ばから失っていた。
その兵士はすぐに回収され、後方へ連れていかれる。こっちの軍は、あの一撃で恐怖につつまれてしまった。
これは拙い……戦況が大きく変わる一撃だ。
さすがに放置できないので俺が出ようとしたが、すぐに止められてしまった。止めたのは近くにいたシュリとアリスだった。
何で妻の護衛が久しぶりについているかと思えば……この時のためだったのか。シュリに羽交い絞めにされアリスに押さえつけられていた所に、ピーチから声がかかる。
「ご主人様。私たちの出番は今ではありません。レイリーさんからも体勢を立て直す、と連絡が入っています。負傷した兵士の人には悪いですが……負傷も予定の内です。死ぬ人だって出ます。だから、手足の1本2本をなくした人を見て、動揺しないでください!」
俺の思考が高速で空回りしているのが分かる。どうにかだけの力があるのに動けない、レイリーからの要請もないので動かないのは正解。でも、手足を失っている人があそこにいるのだ……ディストピアのために戦ってくれている人たちなのだ。
シュリの羽交い絞めが解かれたかと思ったら、アリスが体制を変えて三角締めをしてきたのだ。
ただ、この体勢は長くは続かなかった。首を絞められている上に呼吸すらするのが厳しい体勢になっているのだ。俺の意識は、3分ともたなかった。
ただ、意識が遠のく前にみたピーチ、シュリ、アリスの3人の苦しい表情が印象的だった。
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