1073話 また便利素材が……
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「あ、裏切り者だ」
「裏切り者でござる」
ゴーストタウンの工房に入ってすぐ聞いたセリフだ。いきなり何の事かと思って取り合えず、手に聖拳の効果を宿らせてからバザールの顔、頭蓋骨を前から鷲掴みにする。
「イデデデデッ! 急に何でござるか!?」
「いや、よくわからん誹謗中傷を受けたので、理由を問い詰めるためにやっている」
「誹謗中傷って、強く罵ったりする事でござらんかったか?」
「ん~じゃぁ、俺がムカついたので、裏切り者呼ばわりした理由を、暴力に訴えて聞き出す事にした」
「うぎゃ~、確かにその通りでござるが、いきなりそのスキルを使っての鷲掴みは酷いでござる!」
「わかった。放すからとりあえず、裏切り者呼ばわりした理由を教えてくれ」
バザールを解放して、理由を聞いてみると、すごくくだらないけど、何となく裏切り者と呼びたくなる気持ちが分からなくも無かった。
先週、俺が畑エリアに隣接する形で牧場エリアをつくっている頃、バザールと綾乃はここのドワーフたちにこき使われていたらしい。俺がいないから容赦なく物作りをさせていたようだ。
作らせていた物は、みじん切り器だ。綾乃は軟禁状態から解放されたから、作った小型のドリルを使って物作りに励もうとしたら、拉致られて永遠とその作業をさせられていたとか。
だけど、1週間頑張ってくれたかいがあって、ひとまず先行売り出し分は仕上がったようだ。よく頑張った!
「ってさ、気持ちは分からなくもないけど、裏切り者呼ばわりは酷くないか? 俺は俺で、領主の仕事も一応してるんだぞ! ディストピアに村単位の移住者がくるんだけど、その人たちの得意分野、畜産を出来るエリアを作ってたんだよ。ダンジョン農園の家畜が増えすぎちゃって、ちょうど良かったからな」
その後も10分位話をしてみるが、2人は耳を塞ごうとまでする始末だ。どうにもならないので、今週は俺の権限で、自由に物作りをしていいと許可を出すと、俺たちの工房へ消えていった。
「はぁ……」
歩きながらしてしまった、ため息をドワーフたちに聞かれてしまい、
「どうなさったのじゃ?」
どういっていいのか困った俺は、素直に2人の事を話す事にした。そうすると、ガッハッハ! と笑って俺の背中をバシバシ叩いてくる。あの2人がみじん切り器を作っている時に、死んだような眼をしていたのはそんな理由か! と笑っていたのだ。
だからと言って、ドワーフたちがあいつらを使った事を責めるつもりも無ければ、あの2人に謝るつもりもないからな。この工房の存在意義を考えれば、ドワーフが正しい。あの2人の言いたい事は分かるが、今週は自由にしたのでチャラだ。
俺は、前に頼まれていたミキサーの構想を練る事にした。
「って言っても、構造的には単純なんだよな。動力の問題だけか。電動はダメだから、足踏みか手動のどっちかだよな」
動力はあるにはあるのだが、足踏みにした場合家庭で使えるような値段におさまらないという事と、大きすぎて置き場に困るっていう事だな。力はあっても採用できない問題点だ。
それに対して、手動の場合は力が足りるか分からないし、本体以外にも本体を固定する何かを準備しないといけなくなるんだよな。
ん~とりあえず、作ってみるのが一番か。まずは、透明なガラスのような物って、そんなのあったっけ? 謎の液体は、硬くできるけど透明度が足りないんだよな。ガラスを使うとなるとって、ガラス製品なんてあったっけ?
とりあえず、分からない事があればゼニスに聞いてみるのがいいか。と言う事で、連絡してみた。
「ガラスですか? 割れやすいですからね。運ぶのが大変で、食器に向いてないと色々な理由であまり盛んではないですね。それより、どうしてガラスなのですか?」
「ブラウニーたちからお願いされて、今度はミキサーを作ろうと思ってね。その際に、中が見える透明な素材が欲しかったんだよ」
「透明な素材ですか? それならクリアメタルとか使ってみてはどうですか? 透明な金属で加工が難しく、鉄程の硬度が得られず武器としても使い道が無いので、主にガラスの代わりに食器に使ったりして、見栄えを良くしている貴族がいますね」
なんだその不思議物質は……
「あ~問題があるとすれば、産出量が少ないという事でしょうか。一部の特産品になるので、高級品の扱いですね」
「産出量って、どんなところで獲れるんだ?」
「鉱山系のダンジョンの魔物のドロップです」
俺の得意分野じゃないか! 何て魔物が落すんだ? グラスゴーレム? ガラスって日本語読みで、英語で発音すると、グラスに近いんじゃなかったっけ? で、ガラスなのに金属? 意味不明なのだが!
「ドワーフの爺様方なら、問題なく加工できると思うので、聞いてみたらどうですか? 先週でみじん切り器の方は落ち着いたと聞いていますので、今なら誰か手が空いてるのではないですか? もしあれでしたら、ディストピアの爺様方なら間違いなく扱えるはずです」
加工の問題はひとまず大丈夫そうだな。今回はクリアメタルを召喚して使うことにしよう。実験なので許してもらいたい。ダンジョンに湧くようにして買取りするまでには、それなりに手間と時間がかかるからな。
ゼニスに礼を言ってから、工房に戻るがちょっと忙しそうだったので、昼飯をディストピアで食べるついでに老ドワーフたちの所へ足を運んだ。
「爺共生きてるか!」
「「「「死んどるわい!」」」」
久々の返しに和みながら、老ドワーフたちの工房に入っていく。昨日も会っているのだが、最近は直接仕事の話は全くしていないので、ここに来るのは久しぶりになる。
「元気そうで何より。昨日も会ったから、すぐに何かあるわけないけどな」
「何か用事があって来たんだろ? もちろん、美味い酒も持ってきてるよな?」
老ドワーフ……ドワーフのじっちゃんたちに頼む時は、大体酒かつまみで話を通す事が暗黙の了解になっているので、もちろん持ってきている。それは仕事の話が終わってからだ。まずは例の物を、
「ほほ~クリアメタルか。珍しい物を持ってきたな。ヴローツマインでは取れない鉱石だったから、扱う事はほとんどなかったけど、透明な面白い金属だわな」
「これを、こんな感じに加工してもらいたいんだけど出来るか?」
使用用途を説明した。
「はぁ? 叩いたりしなくていいのか?」
「多少乱暴に扱っても壊れないなら、鍛えなくてもいいんだけど難しいのか?」
「違う違う。クリアメタルは、透明だけど金属って言われるくらいだから十分硬いのだ。だから、用途で考えれば、ただ鋳造するだけで十分だと思うぞ。そもそも、金属だから落としても凹むだけで割れないからの」
「それなら、型さえあればどんな工房でも大丈夫なのか?」
「あ~それなんだが、クリアメタルを溶かすのにかなり高い温度が必要だから、鉄が簡単に解かせる位の炉が無いと厳しいな。普通に鉄鉱石を解かして精錬するレベルでは、時間がかかりすぎて使い物にならなくなってしまうのじゃ」
「って事は、それなりの大型炉じゃないと無理って事か?」
「大型炉があれば、燃料を変えればいけると思うぞ。魔石の粉と石炭を錬成した魔石炭を使えば問題ない。小型炉だと、魔石炭の熱に耐えられない物が多いから注意が必要だけどな」
なるほど……とりあえず、加工に関しては型さえあれば問題ないらしい。問題は炉の方か? うちの工房なら問題ないだろうけど、他の工房だとどうなんだろうな?
そんな事を考えながら、ゴーストタウンに戻った。
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