1061話 何があったんだ!?
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ドラゴンシールドを受け取って、今後の打ち合わせを軽くしてから帰路に着く。
「ん~素材が持っている特性に、さらに付与できることは分かったけど、本当にどこまで効果があるんだろうな? 実験するわけにはいかないしスカルズのメンバーも、最近は被弾が減ってるみたいだから、調べる方法がない?」
検証方法がないため、何処まで軽減される物か分からない。まぁ、スカルズのメンバーに渡して、それとなく効果があったか聞いてみるか?
足元をちょこちょこ歩くダマを蹴らないように注意して、工房へ戻……っと、シエルは?
後ろを振り向くと、ちょっと離れた所を一生懸命歩いていた。そっか、魔獣とはいえ亀だったのを忘れていた。あれ? いつもはこんなに遅くないのに、どうした?
よく見ると、シエルの後ろに……さらに亀がいた。しかも、尻尾に噛み付かれて、引きずって一生懸命俺を追ってきているのだ。微笑ましいけど! 声をかけるか振り切っちゃえばいいのに、なんでそんな面倒な事になっているんだ?
シエルの下に向かうと、ダマが俺の背中に跳び付いてきた。こんな時になんだ? こんな所で甘えるような奴じゃないのに、本当にどうしたんだ?
『さすがに人前では大きな声でしゃべれないので、この体勢になりましたにゃ』
と、俺の心を読んだかのように背中から念話を送ってくる。ちなみにこの念話、固定の対象に伝えるものでは無いのだ。普通の声と一緒ではないが、念話を発生させたモノから放射状に声が広がるのだ。なので、近付いて念話の範囲を狭めれば、聞かれる事は無い。
でも何でそんなことする必要があるんだ?
『シエルはどうやら、雄亀に気に入られてしまったみたいで、行かないでくれと抵抗されているみたいです』
痴話喧嘩? いや、でも、シエルは誰かと付き合ってたのか? それより亀って番とかあったっけ? 卵を産むのは知ってるけど、どうやって受精させてるんだ? 知らない事が多いな。って、
「シエルは相手の事どう思ってるんだろ?」
聞いてみた所、シエルが身振り手振り、足振り? 顔を振ったり、前足で何かを訴えてくるけど、俺には何を言いたいのかわからん。ここでしゃがんで話しかけたらヤバい人に見えるだろうな。
『主殿、どうやらシエルはこの初めて会った失礼な亀に迷惑している様です』
そうなのか? 迷惑してるんだなって、声を出してないのに分かるなんて、ダマってエスパーか!?
『あってない期間が長かったですが、これでも数万年の付き合いですからにゃ。この位は当たり前ですにゃ』
そう言われた瞬間、俺はダマが振り落とされるくらいの勢いで振り向いてしまった。
『危ない! そんな化け物を見るような顔でって、人間から見れば化け物ですにゃ……』
「そうじゃなくて、数万年も生きてるって所に驚いてんだよ。化け物とか関係ないし。可愛ければ何でもいいんだよ」
『あ~私たちは、生物でありながら生物ではないですからね。寿命と言う概念は存在しないんですよ』
「ん? 不老不死なのか?」
『不老ではありますが、不死では無いですよ。大怪我をすれば死ぬ可能性もありますからね』
あ~そっか、不老不死って言葉があるけど、不死って死なないって事だもんな。生物である以上死なない事は無理か、精霊なら不死の存在になれる?
そんな事を話していると、足に衝撃が……あっ! シエルごめん。決して放置してたわけじゃないんだ!
必死に訴えてくるシエルに言い訳をしながらどうするか考える。その亀は邪魔か? そういう意味を込めて見ると分かってくれたようで、また何か訴えて身振りで何かを言ってくれた。そしてダマに確認してみる。
『どうやらシエルの後ろの亀に、気に入られたというよりは、どこかの商人に連れられてここに来たけど、売れなかったので捨てられたみたいです。まだ子供みたいで、大人亀を見つけたので必死になっているらしいです』
「連れられてきたのか……シエル、悪いけどこいつ連れて帰るわ。さすがに人間が勝手に連れてきて売れないから捨てるって、申し訳なく感じるからな。そのサイズなら、ミドリの庭で生活できるだろ? 嫌なら庭の池でもいいし、とりあえず連れてくよ」
しょうがないな、と言っているのは俺にも分かった。そうすると、後ろにいた子亀にシエルが何か言っているようだ。そうするとシエルが器用に首を使って、甲羅の上に子亀を乗せて歩き始めた。
あ~お前が歩くの遅かったのって、その子亀に気を使っていたのか。見知らぬ亀に優しいな。
工房の中に入ると、綾乃がソファーに倒れていた。何があったんだ? 奥にはバザールも倒れてるな。マジで何があったんだ!?
「あ~工房長! やっと帰ってきてくれた。綾乃さんとバザールさんが帰って来たと思ったら、急に倒れたんですよ。バザールさんは男ですので床に放置してますけど、綾乃さんはソファーに運びました。銅線を取りに行って何があったんですか?」
えぇ? 話の流れからすぐに倒れた感じか? どこか悪いのか? って、ブラウニーが特に問題なさそうに放置してるから、病気では無いのか?
「ご主人様、お帰りなさいませ!」
工房のドワーフが何があったのか聞いてくるのと同じタイミングで、工房付きのブラウニーが俺に挨拶してきた。
「綾乃様は、どうやら昨日寝れていなかったようで、銅線をもらって帰ってきたら安心した所で意識が飛んだようです」
そう報告してくれると、そのまま食事の準備がありますので! とキッチンへ戻っていった。
え~分かってたのなら、ドワーフたちにも教えておいてよ。こいつらが帰ってから、半日くらい経ってるのにまだ寝てればさすがに心配するよ。
ドワーフも原因が分かったようで安心していた。
それにしても、バザールは半日あの状態か男とは言え哀れだな……っていうか、バザールって寝ないんじゃなかったっけ? 何で寝てるんだ?
分からない事が追加され、俺はしばしほうけてしまった。
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