1034話 ポンコツ
アクセスありがとうございます。
俺は慌てて家に帰って来た。走ってミリーの下に向かおうとするが、何処にいるんだ? 大きな声で呼んでいると、頭を後ろから叩かれた。
「うるさいであります! お静かにしてください! 3人共産気づいたので、こちらも忙しいんです! これ以上仕事を増やさないでください!」
シルキーのミドリに頭を叩かれた事も驚いたが、それ以上に初めて仕事を増やさないでほしいとお願いされた。今までどんなに忙しくても、仕事で文句を言った事なく、もっと仕事がしたいという感じだったのだが……
「何を考えているか分かりますが、人の命がかかっているんですよ? 忙しい中で仕事が増えれば、私たちだって困ります!」
「え? 命がかかる程の危険がミリーに迫っているのか? 俺の魔法で何とかならないか? DPで召喚した魔法薬じゃ駄目か?」
「も~鬱陶しいですね! 3人が産気づいたと言っているでしょう、ただでさえ生まれたての赤ちゃんは、亡くなってしまう事があるんですから、1人でも大変なのに3人同時なんですから、少しは大人しくしていてください!」
そう言ってどこかへ去って行ってしまった……俺にどうしろと?
途方に暮れていると、誰かが近付いてきた足音が聞こえた。
「ご主人様、お戻りになられましたか。3人同時に産気づくとは思わず、この家では対処が難しかったので、アクア様にお願いしてダンジョン農園の方に専用の施設を建てさせてもらいました。ダンジョン農園に緊急対応として、面倒を見てくださっていた近くの奥様方も入れてしまいました。すいません」
「そんな事気にしないでいいよ、ダンジョン農園には秘密になる物が多かったから、自由にいれていないだけで、目の届く位置にいるなら気にする必要ないよ。ばれた所で、3人の安全には変えられないから問題ないさ」
でもさ、家で大声出してたのが、ダンジョン農園まで聞こえていたのか? いや、シルキーたちなら俺が帰ってきた事くらい察するから、俺が慌てて帰ってくることも計算に入れて、声を出してるだろうと予測してきていた可能性があるな。
あ、呼びに来てくれたのはピーチではなく、アリスだった。こういう時はピーチがくる事が多かったが、違ったのにはきちんと理由があった。
何かあった時のために、カエデにはキリエ、ミリーにはピーチ、リンドにはライムが付いているそうだ。ヒーラーと言えばネルなのだが何でライムなのかと思ったら、知識の面でライムの方が上なので、回復魔法の能力は多少落ちても、そっちを優先したようだ。
まぁ、ネルも近くで待機しているので協力する形をとると思う。
アリスに誘導されて、ダンジョン農園の中に作った専用の施設に向かう。
中に入ると3人の声が聞こえてくる。みんな痛みに苦しんでいる感じだ。俺がいってもいいのだろうか? 近付いて何かできるのだろうか?
悩んでいると、
「ご主人様、3人に顔を見せてあげてください。何も言わなくても手を握ってあげるだけでも十分ですので、近くにいるからと安心させてあげてください」
アリスが俺の内心をしっかりと把握しており、助言をしてくれたのでその通りに行動に移す。
3人共、苦しそうに元気な男の子を産むね! と言っていたが、俺的にはどっちでもよかった。元気に子どもさえ生まれてくれれば、そして3人共健康でいてくれればそれでいい。
何で男の子にこだわるのかと思ったら、領主であるという事が一番大きいとアリスが教えてくれた。基本的に領主は長男が継ぐものらしい……グリエルもそんな事言ってたような? ってか、別に気にする必要ないだろ? どうせ俺は不老だし。
それに、わざわざ俺の子供に継がせる必要もないしな。まぁ、女の子でも領主をやってみたいって言うなら、全力でその希望をかなえてやるし。もし、無理と言うなら世界を一度壊して……
「ご主人様、悪い事を考えている様子ですが、多分そんな事はしない方がいいと思いますよ」
む? 考えている内容は分からないのに、的確な答えが返ってきている気がする。まぁ、中立地域に関しては、俺の意向が絶対的に通りやすいから、女の子でもきちんと能力があれば問題ないだろう。
今だって、庁舎のトップはグリエルとガリアの男2人だけど、その下に付いている部下は、男女比が半々位なのだ。ただ、発言力の強さは女性の方が勝っているように思える職場だと思う。
だから、女性がトップに立っても問題ないのではないだろうか?
あれ? よく考えたら、ディストピア以外は代理を建てておけばいいんだから、本当のトップは女性でも問題ないよな? まぁ、他の街も領主になってみたいっていう子供ができたら考えようか。
後に領主問題は思わぬ方向に向かって迷走を始める事になる。この時は誰もそんな事は予想できていなかった。
痛みに耐える3人の声に何とも言えないもどかしい気分になり、うろうろしていると……
「少しは落ち着いてください。気持ちはわかりますが、ご主人様が一番落ち着いていないといけないのに、それでは姉さんたちも怒りますよ」
分かっているんだけど、落ち着かないんだって! 3人の痛みの波が一緒の時は、声がしない時はまだ座ってられるんだけど、3人の痛みの波がズレて絶え間なく声が聞こえていると、落ち着ける暇がないんだよ!
だって、痛みに耐えてる声を聞いたら落ち着かなくなるでしょ? 普段模擬試合でケガしてもケロッとしてるのに、そんな3人が痛みに声を上げてるんだから、落ち着かなくなるって!
そうすると、扉が開いた! 中から出てきたのは、アマレロだった。
「産まれたか? 産まれたのか?」
「やっぱり……先ほどから、廊下を歩く音が聞こえると思いましたら、ご主人様だったのですね。お願いですから、もう少しお静かにしてください。静かにできないのであれば、摘まみだしますよ?」
こういう時のシルキーたちには、逆立ちしても勝てないんだよな。何とか気持ちを押さえつけて、椅子に座る。
だが、痛みに耐える声を聴くと気付かぬうちに立ち上がりウロウロしてしまっていた。そこに今度はスカーレットが出てきて、
「もう、落ち着いてください! こっちも気になって仕方がありません! 気持ちを落ち着ける紅茶をお持ちしましたので、これでも飲んでいてください!」
怒っていた。でも、しょうがないじゃないか! ん? アリスに何か耳打ちしてるな。何だろ? 次に何かあったら追い出せとか言ってるのかな?
あっ、この紅茶うめ~! 2杯目に口をつけた時に、何か落ち着いてきた。とってもいい気分になってきた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




