1022話 末端の兵士の辛いところ
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別に予定していたわけではないが、俺達を待ち伏せしていたと思われる奴らの生き残り3人がいる場所にたどり着いた。魔物達に襲われて逃げた位置より更に移動して、街道までたどり着いていた。
街道までたどり着いた重傷な3人を村人が見つけた。後ろの馬車から、
「シュウ様! ケガを負った兵士のような人が3人います!」
と、俺を呼ぶ声がかかった。どうするか悩んだが、村人に言われてしまい、気付かないふりも、こいつたちを知っているふりもできないので、とりあえず対応する事にした。
「こいつら兵士か?」
「一応話を聞こうとしたのですが、傷が深いようで話せないようです」
村長が俺にそう言ってくる。そりゃ、重傷で2日間も何も食べて無けりゃ喋れんわな。
「キリエ、必要最低限の治療だけしてやってくれ」
「シュウ様? 最低限の治療でいいのですか?」
「敵か味方か分からんのに、本格的な治療はできないよ。敵だった場合、治した瞬間に襲い掛かられることもあるかもしれないだろ?」
「そうですが……」
「こんな話を知っているか?
戦場で敵味方関係なく治療していた魔法使いの夫婦がいたそうだ。その日も戦場で、怪我をした人たちを敵味方関係なく治療していた。その時に運ばれてきた1人の青年は、もう少しで死に至る重傷だったが、夫婦が協力してその青年は命をつないだ。
次の日に目が覚めた青年は、大怪我を負った恐怖、今自分がいる場所が敵陣営の中と言う事を理解した瞬間に錯乱したらしい。
その時に暴れて、近くにいた夫婦とそれ以外の人間を殺めてしまったそうだ」
俺がなんかの本で読んだ事のある内容を、この世界に適当に合わせて村長に聞かせた。そうすると、何とも言えない表情になっていた。
「村長もいろんな経験をしていると思うけど、戦場に出て殺し合いをした事ある人間に、何者か分からない人間を完全に治療するお人よしなんて、そう多くないぞ」
そんな話をしている間にキリエは、出血と内臓の負傷を治療して、すぐに死ぬ事は無い状態にまで回復させていた。それでも、2日も何も食べていないし飲んでおらず、血も流しているので虫の息な事には変わりない。
「お~い、聞こえてるか?」
「あんたたちは?」
3人の内の1人が、俺の声に反応して声をあげた。
「たまたま通りがかった旅人だよ」
「そうですか、助かりました……」
俺たちの事を見ようとしているが、認識できていないようで目を細めている。あの状態で2日間だからな、さすがに体にガタが来てるのか。
「それで、こんな所で怪我を負って倒れてたんですか? ここら辺は、治安がいいはずですが?」
すべてを知っているのに、知らないふりをして聞いている・・・俺はしっかりと演技ができているだろうか?
「俺たちは、どこかの村の住人を全員奴隷に落とそうとしていた、闇の奴隷商人を待ってこの近くで待機していたんだ。その時に、魔物の大群に襲われて100人近くいた仲間をほとんど失い、俺たちも重傷を負ってしまったんだ」
どうやら俺たちは、悪の奴隷商人と言う事らしい。こいつらの上司が俺達の事をどうやってか知って、悪人だという事にしてこいつらに襲わせようとしたって事かな?
「村の住人を奴隷? 私たちの事のように聞こえますが、シュウ様は奴隷商人では無いですし……そこの兵士さん、どの位の人間が奴隷に落とされるという話でしたか?」
「およそ300人程だと聞いている」
「私たちの村の数と同じですね。偶然にしては一致する箇所が多い気がします。あなたたちに指示を出している上司は、なぜこの街道で待ち構えているように言われたのか、理由をご存じですか?」
「不確かな情報だが、ここを通るという話を聞いたらしく、我々を配置する事にしたそうです」
「俺からも1ついいか? 村の人間を全員奴隷に落とすとして、何処の村が襲われるとか、その近くの村の領主に情報を伝えたりはしなかったのか?」
「どこの村が襲われるかまでは、分からなかったそうです」
「じゃぁ、何でこの街道を通る事を知っていたんだ?」
「その奴隷商人は、聖国で奴隷を調達していったん中立地域のミューズに向かって、ゴーストタウンで売りさばくと聞いている。だからこのミューズへの街道を見張っていれば発見できると聞いていた」
「なるほどね。で、多分だけど、その奴隷商って言うのは俺たちの事なんだろうな。実際は違うけど、お前たちの上司は俺たちに何か恨みでもあるんかね?」
「お前たちが、奴隷商……?」
「俺たちが奴隷商に見えるか?」
「見えないな」
「じゃぁ、仲間が全員いたとして、俺たちと話した事ない状態で、集団で動いてたら奴隷商と勘違いしたんじゃないか?」
「無いと言いたいが、話もしていない状況でこれだけの馬車が移動していれば、勘違いしただろうな」
「まぁ、お前さんの上司たちが何を考えて、俺たちを狙ったんだろうな? あ、ちなみに俺たちは、教皇と知り合いだぞ。色々事情はあるけど、これが証拠な」
そう言って通行書を見せてみる。辺境の兵士が知っているかは分からないが、一応証明になるから見せておこう。
「最後に1つ聞いていいか? お前たちは、俺たちを捕まえるか?」
「いや。そもそも、100人の仲間がいてもそれは出来なかっただろう。あなたと敵対したくない。それに、現状では何もできないですしね」
「そっか、それならキリエ、完全に治してやって。だれか、食事を持ってきてやってくれ」
こいつらの仲間を俺が殺してるんだけどな。なんか悪い気がするが、文句は上司共に言ってくれ。
完全に治してもらった3人は、現状を把握して騎士団長に騙されていた事を理解したようだ。
話を聞いてみたら、末端の兵士はそもそも神殿騎士団の試験を受けられないらしい。どんなに強い人間でも、ある程度実戦経験を積んで、領主や騎士団長の推薦を受けないと試験を受けられないとの事。
じゃぁ騎士団長は? と思ったら、場所にもよるが、騎士団長は神殿騎士団を退団してからなる事が多いとの事だ。
でも、そうじゃない所もあり、その筆頭がこの3人の街の騎士団長らしい。
今までの話を総合すると、領主も騎士団長も、聖国の理念には沿わないかもな。後で教皇に手紙を出しておこう。しっかりとこいつらの街の名前を聞いたから、しっかりと確認してくれるかな?
3人の兵士は、もう動けるまで回復したので、街へ戻るそうだ。助言として、俺たちの事は話さない方がいいと言って送り出した。
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