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ルディアと王都防衛隊~海の国の入れ替わり姫~  作者: けっき
第4章 アニークをつくるもの
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第4章 その3

 ユリシーズ・リリエンソールは小さくチッと舌打ちした。

 呼ぶと聞いていたからいるのは知っていたが、改めてその存在を目にすると腹立たしいことこのうえない。こいつのせいで一人の騎士が苦しめられているという事実。それは政治的な対立があるという理由以上にユリシーズの内なる敵意を轟々と燃え上がらせた。


「ふむ、これで全員揃ったかの。それではさっそく指輪争奪戦の段取りを説明してくれるかね?」

「はーい。つってもやることは例年の『海への求婚』とそんなに変わらないんですけどね」


 小会議室の演壇に立ち、レイモンド・オルブライトは彼が催す儀式の概要について語る。曰く、ジーアン人の目があるので墓島に寄るのも波の乙女に愛を乞うのも今年はやめにしておくが、ほかはできるだけ簡略化せずに進めるそうだ。楽隊も雇ったし、群舞を披露してくれる踊り子たちも手配済みとのことである。彼自身は新造させた小型ガレー船に乗り込んで指輪を海に捧げる大任を務める予定らしかった。まったく図々しい男である。少し前まで小さな部隊の一槍兵に過ぎなかった身のくせに。


「まあ大丈夫とは思うんすけど、指輪の取り合いで暴力沙汰になるとまずいんで警備兵乗っけたゴンドラは何艘か配備しとくつもりです。俺も参加したことあるんでわかるんすけど、結構皆周り見えなくなるんすよねー」


 真剣さの窺えない間延びした声にユリシーズは顔をしかめる。緩んだ口元、尊大な立ち振舞い。こんな男を選ぶとは王女も落ちたものである。

 気に入らないのはそれだけではなかった。己以外の委員会の面々は明らかにレイモンドを歓迎していた。本はとにかくよく売れる。刷れば刷るほど外貨を得られる。特に「パトリア騎士物語の続編」は強力なカードだった。

 聞くところによれば上巻の発売日だった昨日は早朝から彼の書店に長蛇の列ができたという。亜麻紙の原料となるぼろきれも高値でやり取りされることが増え、庶民の貴重な収入源となりつつあるようだ。

 ほかにも稼ぎを奪われるはずだった写字生たちが印刷工房と足並みを揃えて豪華版騎士物語を販売したり、組合ごと懐柔された版画職人が大判ポスターを売り出したり、小さな成功が相次いでいる。当然のごとくレイモンドの評判は日を追うごとに高まっていた。


「ところでガレー船の漕ぎ手は集まっているのじゃろうな? 小型といえども三十人は必要じゃろう?」

「ああ、平気っすよ! 募集かけたら四隻分は来てくれたくらいです!」


 ニコラス老からの質問にレイモンドは明るく応じる。やはり彼は今この街で最も勢いのある男らしい。ガレー船を動かすのに海軍の助けは不要だと伝えてきたときは「ほざくなよ」と憤ったが、この短期間で百名以上の漕ぎ手を招集できるとは。


(それもすべて民間からの応募者だ。グレースが暴れるはずだな)


 妹の姿をした女狐には「あんな者をのさばらせてはなりません。尻軽の民衆にリリエンソール家の偉大さをもっと知らしめてやらなければ」と口酸っぱく言われていた。だがなかなか状況は厳しそうである。大運河には指輪争奪戦に備え、数日前から場所取りのゴンドラが現れているほどだった。航行の邪魔だというのに水路で泳ぎの練習をする者も後を絶たない。

 皆それだけ活版印刷機が欲しいのだ。少なくとも明日の勝者が決まるまでは、このレイモンド人気は不動だろうと思われた。


(今のうちにいい気になっておけばいい。私は私でじっくりやるさ)


 ふんとユリシーズはレイモンドを睨む。世の趨勢(すうせい)など些細なことで変化するのだ。この男の前に躍り出るチャンスを逃さねばそれでいい。


「俺からは大体こんなもんですかねー」


 レイモンドは印刷機の引き渡しや職人の紹介は明後日に回す旨、もし問題が起きた際は十人委員会に相談したい旨を告げると一礼して演壇を降り、壁際に身を引っ込めた。

 続いてニコラス老が呼んだのはユリシーズだ。「ではお前さんも『海への求婚』のすぐ後に開催するレガッタの流れを確認してくれるかの」との要請を受け、ユリシーズは「ええ」と自席を立ち上がった。


「レガッタもコースの変更などはありません。例年と違うのは優勝チームから十位入賞チームまで、主催のアニーク陛下に賞金を授与していただく点です。私がお願いしたところただちにご快諾くださり、予定の倍は出資していただけそうでした。リリエンソール家の働きかけで東方交易の正常化に一歩近づいたこと、人々も喜んでくれるでしょう」


 視界の端でレイモンドが口をすぼめたのがわかる。晴れ舞台に思いきり対抗イベントをぶつけてこられたのだ。愉快な気持ちではないだろう。しかし彼の幼馴染はもっと不愉快な毎日を強いられているのである。この程度で不快感を顔に出すなどまったく片腹痛かった。


「そうそう、女帝陛下及びジーアン十将のラオタオ殿、ファンスウ殿、それとハイランバオス殿にお乗りいただく大型ゴンドラですが、当日は漕ぎ手を担う海軍兵の二名のほか、私とアルフレッド・ハートフィールドが護衛として同乗する予定です」


 ユリシーズはちらとレイモンドに目をやって告げる。成金男は表情を変え、間抜けな垂れ目をぱちくりと瞬かせた。

 彼には意味がわからなかったらしい。誰の目にも「特別席」と知れるそこに防衛隊の隊長を乗せる意味が。


「ほう、そうか。まあ普段から二人でアニーク陛下のお相手を務めてもらっているからのう……?」


 常に冷静沈着なニコラス・ファーマーもユリシーズの言に目を瞠る。ほかの面々も同様にざわめいた。何しろ帝国自由都市派のユリシーズが王国再独立派である防衛隊に名誉の分け前をくれてやろうとしているのだから。

 この件を伝えたとき、グレースからも「護衛なら海軍だけで十分でしょう。なぜですの?」と追及を受けた。だが本当のことなど答えられるはずがない。華々しく民衆の前に立つであろうレイモンドの陰で、落ち込むに決まっているアルフレッドをどうしても放っておけないからだなどと。

 女狐には「アニーク陛下が三人一緒でなければ嫌だと渋るものでな」と嘘をついた。リリエンソール家が東方と強い繋がりを持つこと示すには多少の難点にも目をつぶらねばならないと。だが実際はこれくらいなら彼がルディア陣営の男であるのを差し引いてもぎりぎり味方してやれそうだと考えただけである。宮殿奥に引きこもっている今はアルフレッドが女帝のお気に入りだと知る者は少ない。しかし祭りとなれば必ず大勢の目に留まる。レイモンドだけでなく、彼の名だってもっと知られてもいいではないか。そう考えてしまったのだ。


「貴賓用ゴンドラで指輪争奪戦を見物したら、我々はレガッタのゴールである真珠橋に向かいます。着順に銀行証書を渡していく形式です。レガッタが終了次第、同じゴンドラでレーギア宮に引き返します」


 できるだけ涼しい顔をしてユリシーズは「特別席のことは我々にお任せを。女帝陛下のご機嫌取りもジーアン人とのやり取りも一番慣れていますので」と締めくくった。誰からも異論はなく「では詳細は現場の担当者と打ち合わせることにしよう」と臨時会議は解散の運びとなる。

 ユリシーズはふうと小さく息をついた。身の内で二つの感情がせめぎ合う。馬鹿げたことをしているのではないかという疑いと、いいやこれでいいのだという強い思いが。


「帰る前に少しいいかな、レイモンド君……」


 席を離れた委員たちはすぐさまレイモンドを囲んだ。新しい印刷機について、彼自身の近況について、聞きたいことがどっさりとあるらしい。その脇を通り抜け、ユリシーズは足早に小会議室を立ち去った。


(本当はあの成金を完膚なきまでに叩きのめしてしまいたいが、そんなことをしたらアルフレッドは喜ぶどころか本気で心を痛めそうだしな……)


 深々と嘆息する。お人好しにもほどがある騎士の顔を思い浮かべて。

 アルフレッドはいくら酔っても決して誰も悪く言わない。それらしいことを口走ったのは一度だけ、ルディアに対する不服と猜疑を抑えきれなかった一度だけだ。

 彼が嘆くのはいつも己の不出来である。どうするのが良かったのか、欠けていたのはなんだったのか、繰り返し自問を続ける。落ち度があるのはあの女のほうだろうと何度ユリシーズが諭しても。

 ──ルディアには向けられた好意を小さく見積もる悪癖がある。長続きすることを信じない。それで自分も苦労したのだ。彼女の心を射止めてからも。


「…………」


 甦りかけた情景を、かぶりを振って霧散させた。とにかく今は明日のことだと海軍の待機する国営造船所へ向かう。

 大鐘楼を崩壊させ、国王暗殺を狙ったのはほんの二年前である。まさか己がレガッタを開催する側になるとはな、とユリシーズはひとりごちた。




 ******




 ブロンズ製の扉が開く重い音にルディアはついと顔を上げる。表の貼り紙をよく読まなかったらしい客に騎士物語なら完売だぞと告げようとして「ああ、おかえり。会議はもうおしまいか?」と言い直した。


「あれ? 今日はあんたが店番なんだ。パーキンや皆は? 国営造船所のほう行ったのか?」

「ああ、そうだ。今のうちに近くでガレー船を見ておこうと言ってな。明日は漕ぎ手を務める者以外、私とパーキンしか乗船はしないだろう? 職人総出でもぬけの殻だ」


 無人の工房を振り返り、ルディアは小さく肩をすくめる。

 騎士物語の続刊が出た翌日とあって売り物はほぼ残っておらず、店内はごく静かなものだった。客足もほとんどなく、時折中を覗く者がいてもお目当てがないとわかるとすぐに出ていく。退屈すぎて見本用の騎士物語を流し読みしていたほどだ。


「で、どうだった? 委員会の臨時会議は」

「それがさー、一つ腑に落ちないことがあって……」


 レイモンドは渋面で腕を組む。名だたる貴族と関わるようになったからか、皆が彼をその一員として扱うからか、軍服風に仕立てた衣装も今ではしっくり彼の身に馴染んでいた。

 背負った槍だけはいかにも安物で雰囲気にそぐわないが、ルディアから支給された最初の武器を彼は手放したくないらしく、上等な革のホルダーをつけて大事にしてくれている。そういうものが視界に入ると自然と胸が温まった。


「レガッタが女帝主催だってのは前に聞いてた通りだったんだけどさ、東方のお偉方が乗る観戦用ゴンドラにアルも護衛として乗り込むみたいで」

「ふむ?」


 レイモンドの報告にルディアは怪訝に首を傾げた。聞けばそのゴンドラにはユリシーズも同乗するらしい。「あいつがアルを自分と同格扱いなんてちょっと気持ち悪くね? なんにも得がないじゃん」と槍兵は不可解そうだった。


「それは確かに妙だな。レガッタ開催はどう考えても我々への当てつけなのに、アルフレッドを隣に置いたら宣伝効果が半減だ」


 ルディアはうーんと考え込む。ユリシーズは帝国自由都市派としてジーアンや東パトリア上層部と親しいところをアピールするつもりだったのではないのだろうか? 安全のために海軍だけで防備を固めると言い張れば疎外するのは簡単だ。てっきり明日のアルフレッドは目立たぬ裏方に追いやられると思っていたのに。


「まあ多分、アニークが駄々をこねたのだろう。アルフレッドがいないなんてイヤ、とか言って」

「あー。女帝陛下には逆らえねーもんな」

「一応警戒はしておこう。何か思惑があるのかもしれない。まさか恩を売っただけなんてことはあるまい」


 ほかに変わったことはないか尋ねる。レイモンドは「会議では特になかったかな?」と斜めを見上げて返事した。ルディアもまた「そうか」と返す。

 至って普通のやり取りだ。断らなければ、忘れなければと思い悩んでいた頃に比べ、不毛な思考にエネルギーを吸われなくなった今は随分と楽になった。決断してやはり正解だったと思える。あのままくよくよしていたら肝心な場面で判断を誤る愚鈍になっていたかもしれない。


「お前も今から国営造船所に向かうのか? 気をつけて行けよ」

「あんたは行かねーの? 今日はもう閉めちゃえばいいじゃん。店番してても誰も来ねーだろ」


 そう言ってレイモンドはカウンターの向こうからルディアの手を握ってきた。たちまち心拍数が上がり、対応がしどろもどろになる。


「だ、誰も来ないわけではないが、まあ、閉めてもいいなら私も行くかな」

「うんうん! あ、けどちょっと待って。出かける前に見せたいものがあるんだった」


 こっちこっちと手招きすると槍兵は店の奥の階段室に歩いていった。慌ててカウンターを出てルディアも後を追いかける。ドアを閉めると彼は中から鍵をかけた。なんだか妙に念入りだ。見せたいものとはなんだろう。

 階段脇の狭い通路でレイモンドはルディアを振り返った。なんとも楽しげな笑みを浮かべる槍兵に恭しく跪かれたのは直後である。そうして彼はポケットの奥の光るものをそっとこちらに差し出した。


「じゃーん! 波の乙女の婚約指輪でーす!」


 精巧な金の環にルディアは目を奪われる。彫り込まれた守護精霊の祈る姿に。

 それは二年前、すったもんだの建国祭の日に手にしたものとそっくりだった。指輪は王家追放の際、ほかの美術品と一緒に失われたと思っていたのに。


「記憶頼りのデザインの割によくできてると思わねー? これ全部パーキンがやってくれたんだけど、あいつほんとに金細工職人だったんだなー」


 どうやら指輪はレイモンドが金を出して新しく作ってくれたらしい。槍兵はルディアの左手を取ると「()めていい?」と乞うてくる。アンディーンの名を出せない代わりにこれで箔をつけさせてくれと。


「か、構わんが、ブルーノの指にはちょっと小さいんじゃないのか?」


 どぎまぎしつつそう答えた。レイモンドはそんな注意などお構いなしで手袋を脱がせ、薬指にリングを通してくる。


「…………」


 予想に違わず波の乙女をかたどったそれは第二関節でつっかえた。それでも槍兵は満足したようで、ルディアの左手を包む両手に優しい力をこめて囁く。


「なんか運命感じるよな。俺が最初にあんたにあげたの指輪だったの……」


 自分で言っていて照れたのかレイモンドは「いや、あげてはねーか! 買い取ってもらったんだっけか!」と真っ赤になって立ち上がった。

 当時の情景が懐かしく思い返される。初めて己の正体を知ったときのこと。あれから色々あったけれど、彼は変わらず自分の側にいてくれる。


「結局お前の給料を倍にはしてやれなかったし、私も買い取れてはいないぞ。お前がくれて、私は受け取った。そういうことにしておいてもいいだろう」


 指先を握り返してそう告げた。レイモンドは一瞬目を瞠り、感激した様子を見せる。そうして彼はルディアを広い胸にそっと抱き寄せた。


「……うん。本物贈るときはまた、ちゃんとぴったりのやつ作る」


 ゆっくりと左腕を持ち上げられ、不格好にはまった指輪ごと口づけられた。なされるがまま髪を撫でられ、背を撫でられ、じわりと頬を熱くする。


(うう……、しまった。ちょっと喜ばせすぎたな)


 ルディアは今しがたの己の言動を反省した。

 毎度同じパターンだ。二人きりだといつも気づくとこうなっている。(とろ)けた瞳に見つめられ、抱きしめられるのが嫌なわけではないけれど。


(う、浮つきすぎじゃないか怖い……)


 断らなければ、忘れなければで悩むことはなくなったが、今のルディアには別の強固な悩みが生まれつつあった。

 普通に会話しているときはなんでもない。他人がいるときもなんでもない。ただレイモンドと婚約者として過ごすときだけやたらと自信がなくなるのだ。自分がどんどん馬鹿になっているような気がして。

 ユリシーズと付き合っていた頃、はたしてこんな風だったろうか? こんなに頭がふわふわしたり、くらくらしたり、身動きも取れないことなんてあっただろうか?


(なぜ少し触られたくらいで動揺するんだ? いつまでたっても慣れないし、このままでは取り返しのつかないへまをやらかしそうな気がする……)


 体温を感じていると離れがたい。一分なんてもう数えてもいなかった。次が見つかれば返す身体だから抱擁以外に恋人らしいことなど一度もしていないが、その線引きがなかったら今頃どうなっていたかと思う。


(駄目だ。さすがに逸脱しすぎだ)


 心を奮い、ルディアはレイモンドを押し返した。「もう行くぞ」と耳まで赤いまま店に戻り、カウンターの片づけを始める。


「窓の鎧戸閉めてきゃいい?」


 返事も聞かずに施錠する男は上機嫌だった。彼はルディアが動じれば動じるほどに「姫様可愛い」などとぬかして喜びがちだ。何が可愛いだ馬鹿者め、と内心毒づきたくもなった。なけなしの理性を集めても十分な冷静さを保てずにこちらは不安で仕方ないのに。


「よーし、そんじゃ俺たちのガレー船を見にいこー!」

「わっ、こら! ゆっくり進め!」


 手早く店じまいをするとレイモンドはルディアの手を引いて工房を後にした。書店の面する国民広場。明日はここが彼を見にくる人で溢れる。


(頼もしくなったなあ)


 猫背をやめた槍兵を見やって感嘆の息をついた。二年前は支払った給与分の信用しかしなかった相手とは思えない。

 二年後も、その二年後も、同じように彼は側にいてくれるだろうか。婚姻はどこまで未来を保証してくれるだろう?

 先のことを考えるとき、自分が愛というものの確実性を信用していないのを感じる。頭の隅で「今だけだ」と身構えていることを。

 どうしても踏み込みきれない。心のすべてを明け渡しきれない。失う痛みを想像すると。いつも、いつもそうなのだ。気がつけば安全圏に戻ろうと心理的距離を置き始めている。


(こいつは本当に私なんかでいいのかな。普通の人間とはあまりに違う生き物なのに……)


 恋とは悩みを際限なく増やすらしい。考えすぎるのをやめるためにルディアは小さく首を振った。

 広場の人混みを縫って歩く。雑踏を行く人々の中には既に仮面を身に着けた気の早い者もいた。

 久方ぶりの祭りを控え、群衆はどこかそわそわしている。だがそこには不信を煽るエセ預言者もいなければ大鐘楼の入口を封じる兵士もいなかった。塔が一つ崩壊しそうな事故の予兆もどこにもない。

 明日はきっと何事もなく終わるだろう。問題はその次である。レイモンドの印刷事業と王国再独立派をどう結びつけていくか、そろそろ明確なビジョンを持って動き出さねば。

 機運は高まりつつあった。同時に人々の興奮も。

 愛すべき乙女に捧げる指輪の儀。明日また、そこから新しいアクアレイアを始めるのだ。

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