第2章 その3
一時間後、アルフレッドたちは件の廃村に到着した。人々の生活の痕跡だけが残る地は、元々誰も住んでいない山奥や無人島よりなお寂しい。
牧場と畑と果樹園と、小さな森の点在する牧歌的な村落には生温い風が吹きつけていた。野盗よりは野獣に気をつけたほうが良さそうだなと警戒しつつ、一行は適当な空き家を探し始めた。
トゥーネが気に入ったと上がり込んだのは切妻屋根の一軒家だ。家畜小屋と穀物貯蔵庫が住まいと一体化した大きな農家で、中には寝床に使えそうな綺麗な藁が残っていた。白い木の骨組みと、隙間を埋める赤レンガの色合いが実に愛らしい。フェイヤもここがいいと言うのでただちに荷物が下ろされた。
食料はアルフレッドが街で買い込んだものだけで二、三日回せそうだった。井戸もあったが伝染病に見舞われた村で生水を飲めるはずがなく、一度沸かすことにする。
アルフレッドは外に出て薪を集めて火を起こした。するとこの珍しい状況にわくわくしたのか、女たちが炎の周りで踊り出した。
「こら、フェイヤ! トゥーネもそういう火じゃないぞ」
「わかってるよ! でも誰もいないんだもの! 存分に踊らなくちゃって気がしない!?」
「こんな村のど真ん中でロマがのびのびできるなんてねえ!」
小言に耳を貸す風もなく、二人は派手な色をした長いスカートを花のように開かせる。くるくる回ってステップを早め、すれ違いざま手と手を叩き、実に楽しげに笑い合った。解放感に満ちたダンスを見ていたら注意する気も失せてきて、アルフレッドは焚き火の前に腰を下ろす。
「鍋に水を張ってきたぞ……って、なんだあいつら、もう盛り上がってやがるのか?」
農家の奥から出てきたジェレムが踊り子たちに目をやった。集団の長らしく気が早いぞと叱ってくれるかと思ったら、老ロマは鍋を火にかけるが早く背中のリュートに手を回す。しかもそれをぐいぐいとアルフレッドに押しつけた。
「音楽がなけりゃ始まらんだろう。俺が歌うからお前は弾け」
三対一ではもう逆らえない。大人しく楽器を受け取って「何をご所望だ?」と尋ねる。ジェレムがリクエストしてきたのは最近フェイヤがご執心の『酒神と烈女のゴンドラ』だった。わだかまりがなくなって、アクアレイア人の歌も楽しめるようになったらしい。
(まあいいか、たまには昼間から騒ぐのも)
息をつき、気持ちをさっと切り替える。奏でたメロディに老ロマは澱みなく渋い歌声を乗せた。
来たれ、我が軽舸に 誰が汝の明日在ることを知らん
青春は麗し されど川のごとく過ぎ去る
愉しみたければ今すぐに 今日は再び巡らぬものを
触れよ、我が唇に 誰が汝の明日在ることを知らん
青春は短し されど星のごとく輝く
愉しみたければ今すぐに 今日は再び巡らぬものを
燃えよ、我が灯火よ 誰が汝の明日在ることを知らん
青春は尊し されど夢のごとくうつろう
愉しみたければ今すぐに 今日は再び巡らぬものを
フェイヤはもう大喜びで跳ね回り、妖精の羽を得たかのごとく踊りまくった。そんな彼女にトゥーネも上機嫌で付き合っている。ジェレムはしばらく同じ節を繰り返していたが、今のところ喉を傷めず歌えている風だった。
「ねえ、ロマの歌は? 私皆で歌いたいな! 全部ちゃんと覚えられたし!」
少女の提案に老ロマはわかったと頷く。全力を出せば宴はそこでしまいだと承知しているはずなのに、彼らはこだわりなく声を合わせる準備をした。無理するな、などと制しても水を差すだけだろう。弦に指をかけ、アルフレッドも黙って開始の合図を待つ。
「ライライライ、ライライライ……」
一瞬静まった空気を破り、哀切な声が響き渡った。ライライライ、ライライライと言語的には意味のない音が、それゆえに強烈な感情をこめて歌われる。
圧倒され、呆けそうになりながらアルフレッドは厳かにリュートを爪弾いた。トゥーネもフェイヤも声を添え、焚き火を囲んで歌の輪が出来上がる。
――オレンジの実る国へ行こう。そこが我らの住んでいた国。きっといつか一緒に帰ろう。友よ、我が子よ、愛する人よ。
ロマにもロマ語はあやふやになってしまったが、そんな歌詞だそうである。願えども決して叶わぬ望郷の歌。国の名さえ忘れた彼らの故郷はもはや歌の中にしかない。だから歌い継ぐことが絆の証明を果たすのだ。
どうしたらジェレムみたいに歌えるの、と以前フェイヤが聞いていた。この歌にたくさん思い出があるだけだ、というのが彼の返事だった。かつて同じ歌を口ずさんだ仲間の顔が、老ロマの瞼にはいつも浮かんでくるらしい。
声は最後まで衰えなかった。ライライライ、とジェレムは歌を締めくくり、それからほんの少し咳き込んだ。
「まああ……! なんていい歌なの……!?」
耳慣れぬ声がしたのはアルフレッドがリュートを下ろした直後である。瞬時に構えて立ち上がると、畦道のブナの陰から旅装束の大柄な女が現れた。
「感動したわ、すごいのねあなたたち!? なぜか湖のほとりに住んでいた頃の記憶が甦って、涙が止まらなくなっちゃった……!」
女は高そうな絹のハンカチで目尻を拭う。その節くれた長い指、ごつい体格に既視感を覚え、アルフレッドは「うん?」と目を凝らす。
「あら? 赤髪のあなた、どこかで会ったかしら」
向こうもこちらに見覚えがあるようだ。まじまじと見つめ合い、あっと同時に声を上げた。
「確かフエラリウスの街で……!」
「ああ、あたしにぶつかってきた可愛い子!」
彼女も――彼かもしれないが――合点したらしい。人の顔を頭に入れるのはレイモンドほど得意でないが、この女性はインパクトがあったので覚えている。
「やーん、また会えて嬉しいわ! あたしたち、ひょっとして運命に導かれているのかしら!?」
恍惚顔で擦り寄ってこられ、思わず一歩後ずさりした。フェイヤとトゥーネが険しい顔で立ち塞ぐと女は「あらま、ごめんなさい」とおどけて身を引く。軽いなりに空気は読めるようである。
「お前たち、この村の人間か? 少し聞きたいことがあるんだが」
また新しい声が響いてアルフレッドは振り返った。どうやら今日の彼女には連れがいたらしい。三十歳そこそこの、鋭い目をした引き締まった肉体の男がこちらに近づいていた。未知なる人間を前にして彼は犬か狼みたいにフンフン鼻をひくつかせている。
「いや、俺たちはしばらくここに泊まろうかと立ち寄っただけだ。着いたのもついさっきで」
ロマを見て、普通村の人間かどうか尋ねるだろうか。訝りつつアルフレッドは問いに答える。男の重ねた質問は更に奇妙なものだった。
「そうか。この辺りで人の顔をした獣など見かけなかったか? 噂でもいい、知っていることがあれば教えてくれ」
「は、はあ? 人の顔をした獣?」
なんだそれは。確かそれもフエラリウスの街で話題になっていた気がするが、まさかこの男はあんな怪談を信じてここまで足を延ばしたのだろうか。いや、他人の信じているものを否定する気はないけれど、距離も相当だっただろうに色々な意味ですごい男だ。
「化け物の話だったらセイラリアで耳にしたぞ? ロマの中にも遭遇した奴がいるらしい」
「えっ!? ええっ!?」
ジェレムの耳打ちに更に驚愕する。彼の聞いた話によれば、この近くを通りがかったロマの一団が人面羊に追われたそうだ。老けた中年の顔をしており、怖いほど可愛くなかったとのことである。
「じ、実際に見た人がいるのか……」
隠す理由もないのでそのまま男に伝えると、彼は「やはり怪物は近辺にいると見て間違いない。もう少し粘るぞ」と連れの女に訴えた。だが彼女はあまり乗り気でなさそうだ。
「あんたねえ、旅の目的見失ってんじゃないわよ。一日だけねって約束だったでしょ?」
「何を言う。俺が寝るまでが金曜日だ」
「ちょっとちょっと、いつまで探す気!? ほんと勘弁してくれない!?」
金切り声に男はそっと耳を塞ぐ。アルフレッドは純粋に不思議で「化け物を探してどうするつもりなんだ?」と尋ねた。
「無論、戦って勝つ」
武闘派も武闘派の返答に目をしばたかせる。彼なりの冗談かなと思ったが、どうやら本気で言ったらしい。
「ごめんなさいね! こいつ生まれたときからアホの子で!」
詫びる女にアルフレッドは「いや」と首を横に振った。男は田園を眺めて飄々としている。そのしなやかな筋肉と腰の短刀に隙のなさを見て取って、ふむとアルフレッドは一考した。
「腕には覚えが?」
「ああ。戦うのは好きだからな」
「だったら見つかるかわからない化け物とじゃなく、俺と手合わせしてもらえないか? このところ単調な一人稽古しかできていなくて困っていたんだ」
「ほう? 手合わせ?」
こちらの誘いに男はにやりと振り返る。女のほうは「もう!」と頭を抱えていたけれど、「とにかく明日出発だからね!」とどやして引き下がった。
「名前は?」
「アルフレッド・ハートフィールド。そちらは?」
「ダ……」
「ダ、ダーリンとハニーよ! 本名はごめんあそばせ! ちょっとわけありの旅だから!」
男に答えさせまいと女がその後ろ頭をはたく。わけありというと駆け落ちか何かだろうか。どう見ても男同士だし、明かせぬ事情があるのかもしれない。出身なども尋ねないほうが良さそうだ。
「わ、わかった。それじゃあダーリンさん、頼む」
アルフレッドは焚き火に土を被せると戦えそうな広い場所を求めて移動した。お茶目な愛称で呼ばれても男はまったく動じていない。見習いたい精神力だ。ハニーさんやロマたちもわらわら後をついてくる。
手合わせの場は農家の裏の庭になった。家畜を放すのに使っていたスペースらしく、いい具合に均されており、白い柵に囲まれている。
模造剣を抜こうとしたらダーリンさんに「真剣を使え」と止められた。相当自信があるらしく、軽く手足を伸ばす彼は怪我の心配などこれっぽっちもしていない様子だ。
「アルフレッド、頑張って!」
「負けるんじゃないよ!」
女性陣の声援にいささか気恥ずかしくなる。しかしダーリンさんと対峙した瞬間、雑念はすべて消し飛んだ。
始めと言ったのはハニーさんか。その声がまだ地に落ちきらぬうちに眼前でふわりと風が起こった。
(速い)
息つく間もなく距離を詰められ、胸当ての上から掌底を食らう。衝撃は緩和されているはずなのに、一瞬呼吸ができなくなった。
「ッ……!」
追撃に備えて剣を立てるがダーリンさんはすぐにはこちらに向かってこない。間合いを測り直すように最初の位置まで下がってこちらの様子を窺う。短刀を抜く気はないらしく、両の拳は握られたままだった。
「……今度はこっちから行くぞ!」
想定した以上にできる。後手に回ると対応しきれないと断じ、アルフレッドは思いきって踏み込んだ。振りかぶった剣は易々と避けられる。だがそこまでは計算のうちだ。右手だけ柄から離して肘で相手の脇を狙う。
「!」
しかしこれも難なくかわされた。ダーリンさんはアルフレッドの肩を掴むと曲芸的な宙返りをしてみせる。こちらが振り返るタイミングに合わせて蹴りを放つのも忘れなかった。
「ぐうっ!」
腰を真横から蹴り飛ばされ、体勢を崩す。けれどまたもダーリンさんは畳みかけてこようとしなかった。安全圏まで退避して、一旦敵の状態を見極める。
(意外だな。モモと似た速攻タイプかと思ったのに)
やりにくい。いちいち攻撃を区切られると流れの中で生まれる勝機が生まれなくなってしまう。実力に差があるときは尚更その小さなチャンスを掴まねばならないのに。
「そういえば勝敗の条件を決めてなかったな。先に両膝をついたほうが負けということでいいか?」
問いかけに「ああ」と答える。答えた途端ダーリンさんは矢のような速度で向かってきた。
(くそっ、どうする!?)
構え直す猶予を与えられても初撃を受けきれなければ意味がない。腕でも足でも服の裾でもどこでもいいから捕まえて、素早い動きを封じなくては。
(よし、こうだ!)
戦略を決めるとアルフレッドは地面に剣を置いて両手を広げた。それを見たダーリンさんは寸でのところで身をかわす。掴みかかったアルフレッドの腕はむなしく標的を擦り抜けた。
「うわっ!」
前屈みになった背中を掌で押され、危うく転倒しそうになる。片膝はついたが持ち直し、背後を振り向いたところで顔面に膝が入った。
「――」
視界にきらきら星が瞬く。そんな中で、我ながらよく腕を伸ばしたなと思う。捕らえたと思ったのは一瞬で、剣を掴み直す前に振りきられてしまったが。
「なかなか骨があるじゃないか」
ふっと笑って彼は再び初期位置についた。やはりこのまま、アルフレッドの体力を少しずつ削って仕留めにかかるつもりらしい。狼めいた攻撃スタイルだ。致命的な重傷は与えないものの、さっと仕掛けてさっと逃げる。そして勝利を確実にしていく。
しばらくは持ち堪えたが、結局ダーリンさんのペースを崩せずに敗北した。ショックだったのは新しい片手剣を短刀の鞘で受け止められてしまったことだ。これがバスタードソードなら、その重量で確実に粉砕できていただろうに。
「……ありがとう。やはり俺にはもっと鍛錬が必要だ。あなたのその戦い方、とても勉強になったよ」
「俺も久々に運動らしい運動ができた。礼を言う」
手合わせが終わり、お互いに握手を交わした後、ダーリンさんはひと言だけ付け足した。「次はお前が今の武器に慣れた頃にやりたいな」と。
「ああああー! 最っ高……! 男が男に立ち向かう姿ってやっぱりイイわ、グッとくるわ……!」
へとへとの身体を引きずって歩くアルフレッドにウァーリは割れんばかりの拍手を送る。寄り道ばっかりするんだからと憤慨していたことも忘れて感動に胸を震わせた。
アルフレッドは頑張った。あのバカ狼によく食らいついていた。何度痛打を浴びせられてもやけを起こさず、最後まで闘志を失くさずに。
(なんていい子なの!? ああ、手元に置いて育ててあげたい!)
涙の溢れる目頭にハンカチをぐっと押しつける。こんな光景を見た後で誰が素面でいられよう。勢いのまま気づけばウァーリは行商人から買ったワインの瓶を開け、「飲みましょう! あたしの奢りよ!」とアルフレッド一行を誘っていた。
「えっ……?」
騎士もロマたちもぽかんとしていたが、構わずダレエンに「ほら、早く器を探してきて!」と叫ぶ。どうして俺が、などとくだらない疑問を持たない狼男はパッと一軒家に入っていった。ほどなくして人数分のカップを抱えた連れが戻ってくる。
「あ、あの、ハニーさん?」
「残念だったわねえ、アルフレッド君! でもね、あたしやり方次第では全然こいつに勝てると思うわ! 基本的にこいつ前と近くしか見えてないのよ! 昔からそうなの! それでいつもあたしがフォローに回されて」
「いや、ハニーさん、飲むって皆も一緒にか?」
「当たり前でしょ!? 小さくたって水で薄めりゃ飲めるわよねえ!?」
問いかけたロマの少女はびくりと長い三つ編みを跳ねさせる。次いで一行のまとめらしき老人に注いだ酒杯を差し出すと、困惑も露わに彼はアルフレッドと顔を見合わせた。
「……ま、まあじゃあ、これも何かの縁ということで」
騎士の言葉に頷いて老ロマが葡萄酒を受け取る。中年の女ロマもダレエンの手から酌を受けた。
「驚いたな。ジェレムたちと旅に出てそろそろ四ヵ月になるが、パトリア人に飲もうなんて言われたのは初めてだ」
ジェレムというのが老人の名前らしい。アルフレッドは残る二人もトゥーネとフェイヤだと紹介してくれた。
ああなるほど、ロマへの偏見があるんじゃないかと疑ったのねと納得する。様々な民族を目にしてきて、実際にその一員として暮らしもした己としては、人間など似たり寄ったりと知っているからなんとも思わないけれど。
「んふふ、あたし楽しければそれでいい女だから、細かいことわかんなーい」
にっこり笑ってウァーリはアルフレッドにも酒の入った杯を回した。騎士の太腿にしがみついている女の子にも「お姉さんと水割り作ろっか!」と笑顔を向ける。
「酒盛りするなら人面獣を探しにいけんな」
「しょうがないから一日延ばしてあげるわよ。これでお互い息抜きできて平等じゃない?」
しわの寄ったダレエンの眉間を指でつつけば「ならばよし」と返事があった。焚き火の脇に置かれた鍋はいい感じに冷めており、フェイヤにもすぐ小ぶりの杯が渡される。
「はーい、それじゃアルフレッド君の健闘にカンパーイ!」
「そこは俺の勝利じゃないのか?」
「うるっさいわね、若いコに譲るってこと知らないの?」
「だが勝ったのは俺だろう」
「お酒はあたしのお酒でしょ!」
「ハ、ハニーさん……」
日も暮れぬうちに小さな酒宴は始まった。最初は所在なさげにしていたロマたちも酒が回るとやや気が抜けて、少しずつ手やら口やら動きだす。
旅を住み処とする民族は例外なく音楽好きだ。ロマしかり、草原の民しかりである。ウァーリが即興詩を吟じ、ダレエンが手拍子を打つのを聴くと、彼らはむずむずし始めた。どうしても血が騒ぐのだろう。老ロマの指がリュートの弦を弾くまで三曲とかからなかった。
夢心地の旋律が奏でられているというのに人が歌わない道理はない。女たちもまたウァーリと競って美声を空に響かせた。最後にはそれぞれの歌が混ざり合い、大合唱になっていたほどだ。
楽しくなって立ち上がり、ウァーリはアルフレッドの手を取った。思う存分回りに回り、今度はフェイヤに手招きする。視線を合わせ、呼吸を合わせ、手と手が触れれば自然と心は近づいた。トゥーネやジェレムとも肩を組み、半ば強引に踊りに引き込む。物怖じしない、開けっ広げなウァーリに対し、ロマは徐々に警戒を緩めた。
非常識はダレエンも同じである。いつの間にか彼はアルフレッドのすぐ横に陣取って、今までにどんな強敵と戦ったか武勇伝を聞き出していた。そのうち彼は老ロマにも似たような問いを投げ、男だけで盛り上がり始める。
それならこちらも女だけで集まろうとウァーリはトゥーネたちに呼びかけた。間もなく小さな輪が生まれ、話に花が咲き始める。酒はどんどん減っていき、笑い声はいや増した。トゥーネの意外な男性遍歴にフェイヤが大きな愛らしい目を白黒させる。昔は美女だったのだろう女ロマは過激な過去を面白おかしく語り続けた。
――そんなこんなで気づけば夜も更けていた。話し込むウァーリとトゥーネのもとに「そろそろお開きにしよう」とアルフレッドが告げにくる。トゥーネの手を握りつつ、ウァーリの膝に丸まって眠るフェイヤを見つけ、赤髪の騎士は仰天した。
「も、もうそんなに仲良くなったのか?」
感心しきった彼の態度にウァーリはおほほと笑みを浮かべる。「年の功よ」と前髪を掻き上げ、余裕のウィンクを決めた。この翌日、今度はこちらが度肝を抜かれることになるとも知らず。




