皇帝陛下の憂鬱
物事が一気に加速していった。
テーレイズ皇子と東方伯家ヒルデガンドとの婚約が決まってすぐに、ソフィーリア皇女と西方伯家ディーフリートの婚約が正式に発表された。それとともに各貴族家、皇国の有力者の動きも慌ただしくなる。
それに一番困惑しているのは、実は皇帝陛下だった。
二人の婚約は既定の事ではあったが、皇太子位の決定は、まだまだ先の事と考えていた皇帝陛下にとって、周囲の動きは思いもよらないものだ。
「参ったな」
「そうね。まさかこんなに早く、こんな事になるなんて」
皇帝と皇后。この話題になるとどうしても愚痴のようになってしまう。テーレイズ皇子は側室の息子とはいえ、心優しい皇后に、そういう意識はない。二人ともが大切な子供なのだ。こんな若いうちから争いになる事は、そもそも争いになる事さえ、二人の本意ではなかった。
だが、皇帝として全く放置しておく事は出来ない。覚悟を決めて、皇后と二人で話し合おうと、執務を切り上げて、部屋を訪れたのだが、何かアイディアがある訳ではない。
「どうしよう?」
「まあ、いつかは決めなければいけない事よ。それに私達が何をするでもなく、二人に絞られた。これは、まあ、助かったといえば助かったと言えるのでは?」
皇太子候補には、元々は、第二皇子の名も挙がっていた。テーレイズ皇子は、言葉の問題があり、ソフィーリアは女性。第二皇子は支持者は少ないとはいえ、実は有力候補だったのだ。
だが、この期に及んでは、第二皇子を皇太子候補にという声は全く挙がっていない。自然と一人、候補者が消える形になった。
「まあ、そうだけどね。しかし、決めろと言われても、そう簡単にはね」
「順当に行けば、長子のテーレイズよ」
「でもね」
長幼の序を重んじるのが無難なのは皇帝も分かっているが、事はそれで済む状況ではない。
「言葉が不自由だと皇帝にはなれない?」
「いや、僕はそんな事は気にしていないよ。テーレイズは賢い子だ。皇帝の資質は十分にある」
「では何故かしら?」
「僕の責任かな。僕は武のほうは、さっぱりだからね。次代もそれではという気持ちが、皆の中では強いのさ」
「テーレイズはまだ武を示す機会も与えられていないわ。あの子が駄目とは分からないでしょう?」
「大丈夫だともわからない。体が弱いのは事実だからね」
「でもそれを言ったらソフィアだって……。分かったわ。カムイくんね」
「そう。全く、よくまあ、あそこまでの力を今まで隠していたものだ。おかげで、対抗戦の一件がより強烈な印象を周りに与えている。皇国の次代の武はカムイ・クロイツがある限り、安泰だってさ」
「それはちょっと期待をかけすぎよ。カムイくんもまだ若いわ。あの年でそんなものを背負わされては可哀想よ」
「僕もそう思う。でも、今更だ。僕の口からそれを否定する事は出来ない。皇国は武をもって成る。これは、建国以来の皇国の誇りだ」
「そうね。それで、周りの評価はどうなの?」
「カムイくんは」
「そうじゃなくて、二人よ」
「今の所はほぼ五分だね。北と南の方伯家は支持を明確にしていない。争いには関与しないって所だと思う。騎士団はソフィア、魔導士団はテーレイズ」
「真っ二つね。他の貴族は?」
「五分というより、態度を決めかねている。今の時点でどうかと言われれば、ソフィアが優勢かな」
「あら、いつの間に?」
「クラウが頑張っているみたいだ」
「あの子まで?」
皇后にとっては、クラウディアが継承争いに積極的な事は意外な事だ。まだ子供。そういう意識が強いのだ。
「そう。でも、頑張っているクラウには可哀想だけど、他の貴族はまだまだいくらでも揺らぎそうだね」
「まあ、そうよね。誰でも勝ち馬に乗りたいものね」
「そういう事」
「そうなると、どうやって決めるの?」
「その鍵を握っているのが、カムイくんみたいだ」
「ちょっと、そこまでカムイくんに背負わせる気?」
「いや、これは彼が望んでいる事だよ」
「本人が? それはどういう事かしら?」
「対抗戦の後に、さすがに気になって、ちょっと調べさせた。まあ、見事だね。カムイくんは辺境領主の子弟を纏めようとしている。実際にかなりの子弟が彼を慕っているみたいだ」
「纏めてどうするつもり?」
「皇太子位争いに辺境領を巻き込む」
「えっ?」
カムイの思惑は、元々西方伯家という大貴族の令嬢である皇后では想像も付かない事だ。カムイにとって残念な事に、辺境への偏見は皇后にもあった。
「悪い事じゃない。これからは辺境領の扱いは変えていかなければならない。いつまでも辺境扱いしていては、騒乱は治まらないからね。彼らにも皇国の一員であるという自覚、と言うか、実感を持たせる必要があるんだ」
「良いきっかけになると思っているのね?」
「そう。それに、ここで辺境の声を無視しては、僕は辺境領主たちの信頼を得ることは出来ない。彼らの意向はある程度汲むつもりだ」
「そこまでカムイくんは読んでいるのかしら?」
「多分ね。でも初めからではないと思う。最初は、皇国に敵対する方を考えていた感じだ。敵対までは行かなくても、力を見せつけて、強引に皇国に考えを改めさせるって所だね」
「……怖いわね。あの年でそこまで考えていたのね」
「それだけ、辺境の、特にノルトエンデの状況は厳しいって事さ」
「そうね。私はノルトエンデがどういう所かも知らないわ」
「厳しい土地だよ。でも僕の考えでは奇跡の土地でもある」
「奇跡の土地?」
「この世界で、多種族が争いなく暮らしている場所は他にはない。わずかな数とは言ってもね」
「エルフ族もいるのよね?」
「そう。いないのはドワーフ族だけ」
「種族が異なっても共存出来るのね」
「どこでもという訳にはいかない。誰も住むことを望まない土地だから、許されているとも言える」
「教会もいないし?」
「それが一番かな」
人族の他種族への偏見を助長しているのは教会と言い切れるくらいに、教会の異種族排斥思想は激しい。多くの施政者にとって、無駄に事を荒立てる邪魔な存在なのだ。
「守れそう? 教会から彼らを」
「守らなければいけない。そうでないと、魔王との戦いで犠牲になった人たちが報われない。皇国が殺した魔族たちもね」
「初めて聞いた時は驚いたわ。あれが、先帝陛下と魔王とで示し合わされた戦争だったと知った時は」
「最小の犠牲で、魔族の生きる場所を残す。最小の犠牲とは言えないね。失ったものは大きい」
「知っているのは、亡くなられた陛下と魔王だけだったのよね?」
「いや、クロイツ子爵も知っている。陛下の勅命を受けているからね。それに魔族のほうにも、後を託された者がいる可能性は高いね」
皇国と魔族の戦争の真実。それは、魔族の生き残りを賭けた取引の結果だった。教会は魔族の殲滅に本腰を入れて、勇者を選定して、戦いを挑んだ。それは退けた魔族であったが、教会がそれであきらめるはずもない。
何度も攻められては、元々数の少ない魔族は、いずれ種を残すだけの数を残せなくなって、滅んでしまうだろう。そう考えた魔王は一か八かの賭けに出た。
前皇帝に取引を持ちかけたのだ。自分と主だった指導者の命と引き換えに、ノルトエンデで魔族が暮らす事を認める事を。
皇国は、存続する中では世界で最古の国。魔族との混血という人族の起源についての古の真実が代々の皇帝に秘事として伝わっていた。覇権は人族が握っても、魔族を滅ぼしてしまうのは、自分たちの種を否定する事になる。
聡明であった先帝はそう考えて、魔王との取引に応じた。教会の関与する隙を与えずに、軍を出し、それなりに本気で戦った上で、魔王と何人かの魔将を討ち取った。魔王との約束通りに。
そして、ノルトエンデを速やかに皇国に併合して、教会の関与を排除した。
最強国である皇国だからこそ、出来た事だ。魔王の選択は正しかったといえる。
この事実を知るものは、皇国では皇帝と皇后、そしてノルトエンデを先帝から直々に任されたクロイツ子爵のみである。
「カムイくんは知らないわよね?」
「クロイツ子爵が父上の命に背くとは思えないね」
「知っていれば、また違う動きをしたのかしら?」
「どうだろう? 父上も辺境の件では苦労していた。それに教会の手前、ノルトエンデを特別扱いは出来なかったからね。状況が良くなる気配はなかった。知っていても、やはり辺境をどうにかしたいと思ったのではないかな?」
「魔族がどうかではなく、辺境の問題なのね」
「そう。どちらかと言えば魔族は後回し」
「後回し?」
「皇国は大国だけど、教会の影響を完全に排除出来るわけじゃない。それが出来るようになるには、皇国はもっと強くならなければいけない」
「もっと強くって?」
「この世界を統べるくらいに。それも、皇帝が絶対の権威を持った状態でだよ」
「教会にも、貴族にも否応なく、従わせるだけの力が必要なのね?」
「そう」
「そして、貴方は現皇帝」
その役目を担う者だ。
「言わないでくれ。僕にそんな力がないことは、僕が一番良く知っている」
「困ったわね」
「困ったね。皇国内で貴族の力を弱め、辺境を安定させる。その上で、他国を支配下に置く。従わなければ、武力を持ってでも」
「貴方がこの世界の覇者になる。ごめんなさい。私には想像出来ないわ」
「僕もだ。それに父上も、一代で出来るとは思っていなかった。父上が存命のうちに貴族の力を弱めて、皇族の権力を取り戻す。その後で、僕が辺境の慰撫に努めて、皇国全体を安定させる」
「そして次代で大陸制覇?」
「そう。でもね……」
これが先帝が考えた皇国の、この大陸の未来図だ。現皇帝は、先帝の意思を踏襲し、この未来図に向かって、物事を進めようとしているが、それはうまく行っていない。
「でもね?」
「父上が亡くなられた事で、最初から躓いた。父上の威光なしに僕は貴族との権力争いに勝たなければならない」
「失敗したらどうなるの?」
「貴族たちによって、僕は皇帝の座から引きずり降ろされ、次代の皇帝は貴族の傀儡になる。そうさせない為に、父上の存命中に事を進めたかった」
「何が違うの?」
「僕が失敗すれば、父上が僕を廃嫡させる。そして、父上が僕の代わりを選ぶんだ。継承争いに貴族の関与なんて許さずにね」
「でも貴方の次代の継承争いには貴族が」
「だから、カムイくんに頑張ってもらう必要がある。彼の行動は困った事だけど、うまく行けば、一挙に物事が進む可能性がある。継承争いの決め手を辺境の支持に移して、貴族の影響を減らす。それと同時に辺境の信頼を集める。辺境からの人材の登用も積極的に行ってね」
「貴方。それでは一番、カムイくんに重い荷を背負わせる人は貴方じゃないの?」
「そうなるね」
「私は反対よ。そんな事になったら、カムイくんは多くの敵を作ることになるわ」
「それは分かっているよ」
「だったら?」
「でも、他の方法が思い浮かばない。このままでは、貴族の影響力が増すばかりだ」
「でも……」
「出来るだけの支援はするつもりだ。表立ってとは行かないけどね」
「それは当然よ」
「おかげで整理がついたよ。カムイくんが支持しているのはソフィアだ。このまま、カムイくんが辺境を纏め上げる事になれば、必然的に皇太子位はソフィアのものだね」
「そうね。でも、すぐにではないのでしょう?」
「もちろん。まだ何年か先の話だよ。次代の子たちは、まだ子供だ。彼らの成長を待たなければいけない」
「それまでに、貴方は後に続く人たちの為に、もう少し頑張ってあげないとね」
「……厳しいね」
◇◇◇
皇国の頂点の二人に話題の中心にされていたカムイはといえば。
同じ王城内のソフィーリア皇女の部屋を訪れていた。案内されて中に入ってみると、見慣れない顔が何人か先にソフィーリア皇女と談笑していた。
その中にテレーザの顔を見つけて、カムイの顔がわずかに歪む。
テレーザはカムイが嫌がる稀有な存在だ。別にカムイは苦手にしている訳ではない。カムイにとってテレーザは自分に敵意を向けてくる人間。そういう人間に対するカムイの対応は、基本排除なのだが、テレーザに対してはソフィーリア皇女の手前、それが出来ない。
敵と認識している相手と、同席しなければいけない自分の状況が納得いかないだけだ。
「遅かったわね。そんな所で立ってないで、こちらにいらっしゃい」
カムイが入ってきた事に気が付いたソフィーリア皇女が声をかけてきた。
「出直してきます」
だが、その言葉を流して、カムイはそのまま部屋を立ち去ろうとした。
「ち、ちょっと? どうしたのよ?」
「いや、王城には来ないと約束していた事を忘れてました。と言う事で、これで失礼します」
テレーザとやりあった時の約束を引き合いに出して、逃げ出そうと考えたのだが、当然、それをソフィーリア皇女が許すはずがない。
「それは無効よ。そういう約束でしょう?」
「そうでしたか?」
「とにかく、来なさい。これは命令よ」
「……はい」
仕方なく、ソフィーリア皇女たちに近づくカムイ。それでもわずかな抵抗で、入り口に近く、テレーザに一番遠い席を選んで座った。
「それで、何の御用ですか?」
「御用も何もないわよ。全然、顔を見せないから、仕方なく、こちらから呼んだのよ」
「それは失礼しました。ちょっと忙しくて」
「忙しいって、何をしているの?」
「友人の事でちょっと」
カムイが言っている友人とはダークの事だ。貧民街も、想定外に物事が早く動き出した。それへの対応でカムイたちは、大忙しなのだ。
「友人? アルトくんかルッツくんに何かあったの?」
「いえ、別の友人です」
「他にもいたの?」
「ちょっと、それは失礼ではないですか? 俺は元々、皇都育ちです。アルトとルッツ以外にも友人と呼べる者はいます」
「ああ、そうだったわね。でも、貴方が友人と呼ぶ人間は、珍しいのではないかと思って」
「まあ、そうですね」
「その友人も何か手伝ってくれているの?」
「手伝い?」
「私の為に何かしてくれているのかと思ったのだけど、違うのかしら?」
この辺はソフィーリア皇女もお姫様気質な所がある。カムイの行動は全て自分の為に向けられていると思っている。
「あいにくと。その友人は、ソフィーリア様に関わる事はありません」
「あ、そうなのね」
自分の思い違いを恥ずかしく思ったソフィーリア皇女は、少し気まずそうだ。
「君。ソフィーリア皇女殿下の大切な時に、私事を優先するとは、少し問題ではないかな?」
そんなソフィーリア皇女の様子を見て、横から口を出してくる男がいた。カムイにとって、初めて見る顔だ。
「……それは失礼しました」
その言葉だけで、その男にテレーザと同じ匂いを感じたカムイは、すぐに謝ることで、それ以上、会話を続ける事を避けた。
「分かれば良いよ。今はソフィーリア皇女殿下の為に我々は懸命に働く時だ。それを忘れないように」
「はい」
「もうその話は良いわ。カムイくんにはカムイくんの事情もあるでしょう。そんな事を私は気にしないから」
カムイの態度に不穏なものを感じたソフィーリア皇女が、話を終わらせようとしてくる。だが、この言葉だけでは、男の口を塞ぐことは出来なかった。
「ソフィーリア皇女殿下は臣下にお優しいですね。でも、時には厳しさも必要かと僕は思います」
「もういいから。その話は止めて」
はっきりと言わないと通じない相手に、ソフィーリア皇女の顔に苛立ちが浮かぶ。
「ソフィーリア皇女殿下がそう仰るのでしたら」
だが、叱責を受けた事さえ男にはわからないようだ。その様子を見て、カムイは、何故、こんな男がこの場にいるのか不思議に思ったが、それを口に出せば、また、余計なやりとりが始まると思って、心の中に留めておくことにした。
「用件に入りましょう」
「はい」
「当面の行動について、話をしたかったの。私達は具体的にこれからどう動けば良いと思う?」
「それについては、まずは僕からお話が」
「……じゃあ、話して」
「ソフィーリア様の陣営は今でも優勢とは言え、相手を圧倒するまでには至っていません」
「そうね」
「南北の方伯家は恐らく最後まで旗幟を鮮明にする事はないでしょう。ですので、この両家に対する工作は不要です」
「ええ」
「相手方についた魔導士団をこちらに寝返らす事も難しいと僕は思います。仮に魔導士団が、こちらについても、今度は騎士団が相手に移るだけです。ここまではよろしいですか?」
「ええ。それはもう分かっているわ」
「ここからが本題です。まずは皇族の方々、ソフィーリア皇女殿下にとってのご弟妹の方々ですね。この方たちの支持をソフィーリア皇女殿下に集めましょう」
「どうやって?」
「それはクラウディア様のご尽力で。すでにクラウディア様は第二皇子の説得を終わらせています。この調子で残りの方々もソフィーリア皇女殿下を支持するように説得していただきます」
「いつの間に? というか私を支持すると言ったの?」
第二皇子の件は、ソフィーリア皇女の耳にはまだ入っていなかった。継承争いから降りたのは知っていたが、積極的にどちらかの支持に回る事などないと思っていたので、この話は、大いにソフィーリア皇女を驚かせた。
「うん。約束してもらえたわ」
ソフィーリア皇女を驚かせる事が出来て、クラウディア皇女も少し誇らしげだ。
「一体、どうやって?」
「取引かな? 支持をしてくれたら、それなりの地位を用意すると言ったの」
「クラウが取引?」
「そう」
「意外ね。クラウはそういう事には向かないと思っていたわ」
「それについては、少しだけ僕が助言をさせて頂きました。まあ、説得まで漕ぎつけたのは、クラウディア様のお力ですので、僕のやった事など大した事ではありません」
「そう」
「皇族の方々については、同じ調子で続けます。そして肝心なのは、貴族の支持です」
「それも地位を約束するの?」
「地位というよりは、領地です。継承争いで勝てば、負けた側についた貴族の領地を与える。それで間違いなく、支持を集める事が出来ると思います」
「そうね。でも問題は誰を味方につけるか、誰を敵に回すかね」
「それについては、僕と、僕の仲間たちにお任せを。人脈を目一杯使って工作をします。すぐに相手を圧倒してみせますよ」
「それだけの自信があるのね」
「はい。これもクラウディア様のご尽力というより、人柄でしょうか? 学院で多くの貴族の子弟がクラウディア様の派閥に集まっています。その輪を広げて、実家への働きかけを強めていく。これは、中々に良い策かと思います」
この男の言った事は、全くカムイが辺境領の子弟たちに行っている事と同じだ。これは、クラウディア皇女がカムイのやっている事を知って真似た事。
それをこの男は分かっておらず、カムイの前で自慢気に話している。さすがにクラウディア皇女も気まずそうだ。
当然、その事はソフィーリア皇女も知っている。
「……まあ、やり方としては的確ね」
「これで大勢は決まるでしょう。後は皇帝陛下のご裁可を待つのみです」
「カムイ、貴方はどう思う?」
あまりに調子の良い男の言いようと、カムイが何も発言しない事に不安を覚えたソフィーリア皇女がカムイに意見を求めたのだが。
「良いんじゃないですか」
「えっ?」
カムイがあっさりと肯定の言葉を口にした事にソフィーリア皇女は驚いた。その隣のクラウディア皇女もやや不安そうだ。クラウディア皇女もさすがにそんなにうまく事が運ぶとは思っていない。
だが、不備がある部分は、カムイが指摘してくれるだろうとも思っていた。
「良いと思いますよ。当面の動きはそういった所だと俺も思います」
「そ、そう」
「さて、当面の事についての話は以上ですか?」
「後はなにかある?」
「いえ、今日の所は僕からはこれくらいです」
「では、今日の打ち合わせは終わりですね。では、これで失礼いたします。皇都に居られるのも、残りわずか。その前に色々と整理する事もありますので」
「……そう。そう言えば、いつまで皇都に居るの?」
「身辺整理が終われば、すぐにでも領地に戻ります」
「えっ? でも、卒業式はまだ」
「俺が学院に来たのは、卒業が目的ではありません。学院で学ぶことは学びました。もう学院そのものには用はないのです」
これは事実だ。カムイが皇都でやり残しているのは、ダークとオットーのことのみ。辺境領主の意見集約は、ここからはもう学生という身分でやることではない。そういう意味で、カムイは二人の件がなければ、直ぐにでも領地に戻りたいのだ。
「そう。……じゃあ、本当に時間がないわね」
「そうですね」
「まだ、時間はある? そうであれば尚更、少し話したいのだけど」
「今ですか?」
それとなくカムイは視線を周りに向ける。その意味はソフィーリア皇女には直ぐに分かった。
「じゃあ、話し合いは終わりね。カムイを残して戻っていいわ」
「ああ、クラウディア皇女殿下も残られては? 学院ではお世話になりました。そのお話も少ししたいですね」
「クラウも?」
「はい」
「じゃあ、クラウも残って」
「あっ、はい」
「あれ? 私は?」
「テレーザは下がって」
「ええ? だって私も学院で」
お世話はしていない、間違っても仲が良いとは言えない。それで何故かこの発言がテレーザは出来る。
「下がりなさい!」
そして、それはソフィーリア皇女を苛立たせる事になる。
「えっ、は、はい」
二人が部屋から出て行くのを見届けて、ソフィーリア皇女は改めてカムイに向かい合った。
「それで? 本音を教えて頂戴」
「はい。お聞きしたい事があります」
「何かしら?」
「お二人は、何をしたくて皇位を求めるのですか? その返答次第では、俺はソフィーリア様に預けた忠誠を返していただくこととなります」
いつになく真剣な目で二人に問いかけるカムイ。そのカムイの問いに直ぐには、口を開くことが出来ない二人だった。




