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魔王の器  作者: 月野文人
第四章 大陸大乱編
198/218

遅れてきた者たち

 ノルトエンデ最大都市ハルモニア。アーテンクロイツ連邦共和国の都であったその場所は今、かつての賑わいを失っている。ハルモニアは連邦共和国の行政・軍事に携わる文武官とその家族が住む為に作られた都市。連邦共和国が解散してからも、その機能は維持し続けてはいるが、その長であった者たち、そしてノルトエンデ内の治安を維持するに必要な数だけを残して軍の多くが出撃してしまっては以前と同様というわけにはいかない。さらに残された者の中には置いてきぼりにされたような気持ちを抱いている者たちもいて、街の雰囲気は決して良いものにはならない。


「……はあ」


「…………」


「ふう……」


「……何? 何かあったの?」


 何度もため息をつくルシアに何があったか尋ねるティアナの表情はややうんざりしている。聞かなくても理由は分かっているのだ。


「カムイ様がいなくて寂しいですわ」


「……じゃあ、会いに行けばいいじゃない?」


「そうですわね! やっぱり会いに行くべきですわね!」


「冗談よ! というかもうこれ何度目?」


 ルシアがカムイに会えないことへの寂しさを口にするのはこれが初めてではない。最初の頃は真面目に慰めていたティアナだったが、さすがに何度も同じことをやられるとまともに相手にする気がなくなる。勝手にすればという気持ちで、会いに行けばと言うのだが、それをルシアは許しをもらったとばかりに受け取ってカムイに会いに行こうとするのだ。

 そんなことをされてはティアナが困ってしまう。そもそもルシアがいくらカムイの後を追っても会えるはずがない。


「だって皆がいなくなってしまって退屈ですわ」


「それはそうよね……」


 いないのはカムイだけではない。ヒルデガンドもアルトたちも、とにかく旧アーテンクロイツ共和国における主要メンバーはほぼ全員が戦いに出ている。残っているのは戦う力を持たない文官くらいだ。


「せっかく……まあ、これはいいですわ」


「……何よ?」


「何でもありませんわ」


「……そういう気の使い方は却って嫌味じゃないかしら?」


 二人はもう長い付き合いだ。ルシアが何を言おうとしたのかティアナには分かっている。


「……せっかく結婚出来たのに一人ぼっちは寂しいですわ」


「そうね。それは同情するわ」


 ルシアとの結婚を決めたカムイだが、ろくに新婚生活を楽しむことなく大陸中を駆け回っている。ずっと待ち続けていたルシアだが結婚しても待つことは変わらなかった。これにはさすがにティアナも同情している。


「せめて子供が出来ていれば違っていましたわ。カムイ様の可愛い赤ちゃんを育てながら待つのあれば、きっと幸せな思いで待っていられましたわ」


「…………」


「子供っていうのはですね。男性と女性が……」


 子供の作り方を話そうとするルシア。


「知っているわよ!」


 ティアナは声を荒げて、それを止めたのだが。


「あら? それはどちらで?」


 ルシアに変な突っ込みを許すことになってしまった。


「……ルシア。貴女、性格悪くなっていない?」


「カムイ様に似たのかしら?」


 性格が悪いと言われているのにルシアは嬉しそうな顔を見せている。話す相手の少なくなった今は、ティアナとのこういうやり取りが楽しみの一つなのだ。


「ルシアは心配じゃないの?」


 ルシアに少し元気が出て来ると今度はティアナが落ち込んだ様子を見せる。


「もちろん心配ですわ。でも私には待っていることしか出来ませんわ」


「そういうところは強いわよね」


「強くはありませんわ。私には戦う力がない。だから諦めるしかないのです」


「……それでも強いわ。戦う力が少しはあるのに何もしようとしない馬鹿もいるのよ」


「そうですわね」


 二人の視線が馬鹿、ではなくティアナの兄ラルフに向く。ずっと二人に存在を無視されていたラルフだが、ここでようやく会話に加わる機会を得た。


「何だ? 文句でもあるのか?」


「あるわよ。馬鹿兄貴はどうしてのんびり座ってお茶飲んでいられるの?」


「どうしてって……お茶の時間だから」


 午後、こうしてお茶を楽しむのはもう何年も続けているラルフの日課だ。今更文句を言われることではない。


「ああ。嫌だ。ろくに働くこともしない穀潰しが、お茶の時間? いつから貴族様になったのよ」


 だがティアナはさらにラルフを罵倒する。


「俺は別にそんなつもりは……」


「つもりも何も実際に働いていないでしょ? そのお茶のお金は誰が出しているの? 毎日の食事代は? 兄貴が寝泊まりしている部屋は誰のものなの?」


「それは……」


 それを言われるとラルフは困ってしまう。ラルフの立場はただの居候。誰かに食事代や宿代を請求されたこともない。


「ねえ、どうしてじっとしていられるの? 皆、戦いに行ったのよ?」


 ティアナが怒っているのはこれだ。カムイたちは全員が危険な戦場に向かった。そんな中で一人ノルトエンデに残ってぶらぶらとしているラルフのことが許せないのだ。


「俺の役目は戦いを止めることだ」


「じゃあ、今すぐ止めなさいよ」


「止めるのは、それが間違った戦いだったらだ。それが俺にはまだ判断がつかない」


「分からないって、皆は仲間を守るために戦っているのよ?」


 カムイたちの戦いは正義の戦い。ティアナは無条件にそう思っている。だが、そうではない。


「お前は仲間の為であれば多くの人たちを戦争の犠牲にしても良いと言うのか?」


「それは……」


「俺だってただブラブラしているだけじゃない。戦争がどんな状況かの情報は出来るだけ集めている」


「どうやって?」


 ティアナにはノルトエンデの外の情報に接する機会はない。以前はそれを教えてくれていた人たちも戦争に出ているのだ。


「師匠に聞いて」


「ライアンさん……」


 かつてカムイたちの師匠であったライアンは今、ラルフの師匠となっている。強くなりたいという思いがラルフにライアンに師事することを決断させ、ライアンもその思いに応えた形だ。


「師匠たちも思い悩んでいる。俺なんかよりも遥かに深刻だから同列に並べるのは失礼だけどな」


「そうね……」


 神に、その使いである神族に逆らうわけにはいかない。そうであったとしても、カムイと共に戦えないことを口惜しく思っていないわけではない。


「どうしてカムイは神に逆らうような真似をする? せっかく平和になりかけたこの世界をまた戦乱の渦に叩き込むようなことをする?」


 この世界が平和になるのであれば、ルースア帝国が支配しようと誰が支配しようとかまわない。ラルフには勇者になりたいという欲はあっても、支配者になりたいという欲はない。権力を握ろうと握るまいと周囲に認められればそれでいいのだ。

 そのラルフからすると今カムイたちが行っていることは納得が出来ない。ティアナにはまだ善悪の判断がつかないと告げたが、気持ちとしてはカムイを止める方向に傾いている。実際に止められるかは別にして自分はそう行動すべきだとラルフは考えている。それがカムイとの約束だからだ。


「カムイ様が戦いを引き起こしたわけではありませんわ」


 ラルフの言葉にルシアが異を唱えてきた。反乱を起こしたのはディーフリート。シドヴェスト王国連合とオッペンハイム王国であってカムイたちではない。ルシアの言い分は正しい。


「それはそうかもしれないが、戦いを大きくしているのはカムイだ」


「戦いを大きくしようとしたのもカムイ様ではありませんわ」


「しかし、実際に大陸全体に戦火が」


「帝国の勇者がいつ選ばれたのかを考えればいいのです。これからルースア帝国の下で大陸が平和になろうという時に何故、勇者が必要だったのかを考えればいいのですわ」


「何故、勇者が必要だったか……何故だ?」


 ラルフには答えがすぐには思いつかなかった。


「私も知りませんわ。カムイ様は最後まで話してくれなくて」


 ルシアにだって戦争を厭う気持ちはある。その気持をさりげなくカムイに示したこともある。何故戦争が必要なのかと。最後まで答えは得られなかったがカムイには戦う理由があることだけは分かった。

 これについてカムイは意地悪で話さなかったわけではない。ルシアが聞いた時はまだカムイの中でも確たるものがなかっただけだ。


「神と戦う理由なんて……」


「ひとつ思うのは相手が誰であれ、殺されるとなれば戦いますわ。勇者はルースア帝国がカムイ様を倒せるほど強い騎士を必要として選ばれましたわ。でも、実はそれを必要としたのは帝国ではなく神だった。そういうことではないかしら?」


「神が自分たちを殺そうとするなら、剣を取るしかないか……」


「実際のところは分かりませんわ。私にはカムイ様の思いの全てを推察することなど出来ませから。でも、一つだけラルフさんに教えられることがあります」


「それは何だ?」


「こんなところで思い悩んでいても真実は見えない。答えを求めるのであれば、自分の目で何が起こっているのかを見るべきですわ」


「……そうだな。その通りだ」


 何をすれば良いか分からないのであれば、出来ることをすれば良い。賢才ぶって頭で考えても自分に答えを見つけ出せるわけがない。当たり前のことをラルフはルシアに教わった。


「行くのですか?」


「ああ、行く。どこにとは聞かないでくれ。今の俺には目的地は分かっていない」


 ただ時を来るのを待つだけではこれまでと同じ。ラルフも、ようやくではあるが行動を起こす覚悟を決めた。その先に何があるか分からないとしても。


「それで良いと思いますわ」


「……やっぱり、俺はカムイのことが嫌いだ」


「えっ?」


「素敵な女性は皆カムイのものだ。これじゃあ俺が結婚出来るはずがない」


「まあ……意外とお上手ですわ」


「でも、今更だ」


「ええ。今更、私の気持ちが他の人に揺れることはありませんわ」


「だから俺はカムイが嫌いだ。出会った時からずっと嫌いだった。そう思って……」


 何年の年月をカムイの近くで過ごしてきたのだろう。近くにいるようでカムイは一人でどんどん高みに昇っていった。その背中はいくら追っても追いつけない。それでもラルフはカムイを追いかけてきた。そしてまた、ラルフはカムイの後を追う。それが自分の役目だと信じて。


◇◇◇


 大陸西方北部の都市アンファング。シュッツアルテン王国の都であるその場所に向けられたルースア帝国側の軍勢はディア王国軍二万。数としてはシュッツアルテン王国にとってそれほどの脅威ではない。シュッツアルテン王国軍は総数一万五千。それがアンファングに篭って戦うのだ。攻撃三倍の法則で考えれば守るシュッツアルテン王国側がかなり有利な状況だ。だがルースア帝国側はそれが全てではない。北部にはルースア帝国本軍から別れた三万の軍勢が展開しており、これだけで三倍強。さらにウェストミッドにはディア王国軍一万が残っている。決して楽観出来る状態ではなかった。

 何よりもただ守っているだけでは敵を追い払うことは出来ない。大陸西方西部の戦況がルースア帝国の有利に進んでいるのであれば敵増援がある可能性もある。そうなるとシュッツアルテン王国は一気に孤立させられる羽目になる。なかなか難しい状況だ。


「ルースア帝国とシドヴェスト王国連合との戦いは、ほぼ膠着状態となっております」


 シュッツアルテン王国にとって最も気になる西部の戦況を報告しているのはファルコ・クノール将軍。膠着は悪い状況ではないが楽観も出来ない。数の上ではシドヴェスト王国連合側が勝っているはずなのだ。


「膠着……それはなかなか上手くやっているようだな」


「はっ?」


 膠着状態という報告を良しとするテーレイズ王。クノール将軍は意味が分からずに戸惑いを見せている。


「カムイは西にいるのであろう? それで戦況が膠着しているなど何か企んでいるに決まっている」


「それは何を?」


「俺に分かるか。分かるのは今の状況に帝国が焦りを覚えれば、我らは少し楽になるということだ」


「帝国は西に増援を行うとお考えですか?」


 西部の戦いの膠着を嫌うならば打つ手は決まっている。北部に展開している軍勢を西に向けることだ。そうなればシュッツアルテン王国と対峙する敵が減ることになる。


「行わない理由があるか?」


「ないのですか?」


「……少しは自分で考えたらどうだ? 帝国の失敗は軍を分散して数の利点を自ら放棄していることだ。カムイとディーフリートが協力していると勘違いしているのだろうな」


 今現在、反乱勢力は一つにまとまっていない。カムイとディーフリートの不仲、というよりオッペンハイム王国にはカムイの下風に付こうという考えがない。ルースア帝国に並び立つという野心を持って反乱を起こしたのだ。臣従という選択肢はよほどの事態にならなければ生まれるものではない。ではカムイはどうかとなれば当然考えてもいない。今のカムイにとってディーフリートは仲間になれる存在ではない。ただ利用するだけの相手だ。

 そんな反乱勢力の状況をカムイはルースア帝国に悟らせないようにしている。西部で戦っているのは、それだけが全てではないが、理由の一つではある。


「陛下はその過ちに帝国が気づくと思われているのですか?」


「普通は気づくのではないか? 帝国にとっての反乱勢力で最大の軍勢を保有しているのは王国連合。それを潰してしまえば反乱側は兵数不足。大陸西方を押さえきるだけの軍勢がいなくなる」


 現在、大陸最大の兵数を誇るルースア帝国でさえ全土を完全に押さえ切るだけの力はない。まして、その何分の一という軍勢しか持たない他国では自国領を守るので精一杯。それではルースア帝国にとって脅威にはならない。

 これにルースア帝国がいつ気づくか。もう気づいているかもしれないとテーレイズは考えている。


「……陛下がまとめられてはいかがですか?」


 反乱勢力がバラバラであるからそうなるのだ。そうであれば誰かがまとめればいい。その旗印にテーレイズ王にと考えるクノール将軍はシュッツアルテン皇国の再興を諦めたわけではない。


「仮にそれをしたとして、その結果、帝国を討てたとしても今度は我らが反乱に怯えることになる。俺はそんなのはゴメンだ」


「しかし、誰かが大陸制覇を成し遂げてこそ、世の中は平和になるのではないですか?」


「それをするには情報の移動力を高めなくてはならない。それが難しければ、せめてもっと人の数を……」


 大陸制覇。これを完全に成し遂げるには足りないものがいくつかある。テーレイズ王はそれが少し分かった気がしている。大陸の隅々まで命令を行き渡らせる、それもタイムリーにそれを行うことは今の情報伝達速度では不可能だ。それはかつてのシュッツアルテン皇国、今はルースア帝国の混乱を見れば分かる。情報が届くまでに状況は変化してしまっている。それでは的確な判断など出来ない。そして、これは戦争中だけでなく平時でも同じだ。これを解決するには情報伝達の速度を上げること。カムイは魔族の力でそれを実現し、敵を翻弄してみせた。だが、それさえも大陸全土となればどうなるか。難しいとテーレイズ王は考えている。

 では他の方法はとなると、各地に信頼出来る優秀な臣下を配置して統治を任せることだが、こんなことは遥か昔から行われている。貴族がそうなのだ。一時はそれが出来ても不平不満が全く出ない豊かで平等な統治など簡単に出来るものではない。いつかは反乱が起きる。それを中央が押さえきれなくなった時、大陸の統一は崩れることになる。大陸全土までいかないもっと狭い範囲でも何度も起きてきたことだ。この世界はずっと離合集散を繰り返してきた。一度も大陸全土を統一するという偉業がなされないままに。


「……陛下?」


 考え事に沈み込んだテーレイズ王にクノール将軍が声を掛ける。


「……もしかしてカムイに大陸統一をさせたくないのか」


「カムイ・クロイツには出来るのですか?」


 問いを発するクノール将軍は不満そうだ。クノール将軍もカムイの能力は高く評価している。だが、カムイがそれを成し遂げてはシュッツアルテン皇国の再興にはならない。


「出来るのかもしれない。そして出来てしまっては困るのかもしれない」


「はっ? それはどういう意味ですか?」


「ノルトエンデは貧しい土地だった。民はノルトエンデで生きなければならない境遇を恨んでいただろう」


「……そうかもしれません」


「だが、カムイはそのノルトエンデを豊かな土地にしてみせた。不平不満を民から、完全とは言わないが、消して見せた。もし、それが大陸全土で実現出来るとなれば、どうなると思う?」


「それは……いや、しかし大陸全土を豊かな土地になどは」


「それを言ったら大陸全体の平和など訪れるはずがない。不満を持った者たちがいれば、その者たちは必ず諍いを起こす。人とはそういうものだ」


 そして暮らしに不自由はなくても自分よりも恵まれた者がいれば、それに対する不満が生まれる。それを我慢出来るかどうかは、不満の程度と抑止力の強弱による。


「大陸制覇などは一時の夢ですか」


「そうなのかもしれない。だが……」


 国を豊かにし、反乱を起こしても決して成功しないと思わせるだけの力があれば一時の夢であっても実現は出来るかもしれない。さらにもし、それによって得られる幸福感を民が手放したくないと思うようになれば一時が少し長くなるかもしれない。争いのない豊かな世界を手に入れた時、人は次に何を望むのだろう。その答えはテーレイズ王には出せなかった。

 争いのない豊かさを手に入れた人族は、さらなる豊かさを求めて争いを起こすことになる。それはそれ以前の争いよりも更に広い範囲で、さらに激しいものになり、やがて世界を滅ぼすほどの規模になる。人間はそうして滅びたのだ。この事実を知らないテーレイズ王は。


「皇国の始祖はそれを望まれた。異種族が共存する平和で豊かな国を造る為に、この大陸の支配者になろうとした。そうであれば」


「そうであれば?」


「我らもまたその為に出来ることを為さなければならない。それがシュッツアルテンを名乗る我らの使命」


「ではっ!」


 ようやくテーレイズ王がその気になった。シュッツアルテン皇国の始祖と同じ大陸制覇を実現する為に。これを思ってクノール将軍の胸は、他の臣下の胸も大いに高鳴っている。

 だが、それは高望みというものだ。


「カムイ・クロイツを大陸の覇者にする!」


「はあっ!?」


 臣下の期待は大いに裏切られることになる。


「才覚のない俺でも四英雄の代わりくらいにはなれるかもしれないな。ああ、カムイにはすでに四柱臣がいるか。そうなると俺は……」


「陛下! そのような情けないことを!」


 カムイに覇者の座を譲り、その下風に付こうというテーレイズ王に不満の声をあげるクノール将軍だったが。


「大陸制覇に立ち上がることの何が情けない!」


 テーレイズ王に叱責されることになった。


「……立ち上がるのであれば御自らを覇者に」


「神と戦ってか? お前らは勘違いをしている。立ち上がれば必ず勝てるわけではない。神族に歯向かえば神の怒りを買って、我らは滅ぼされるかもしれないのだ」


「それは……」


「それでも俺は命がけで立ち上がると言っている。この大陸は我らのものだ。それを空からただ眺めているだけの相手に……そう、そうなのだ」


 戦う理由。テーレイズ王の胸にようやく確たるそれが生まれた。地のことは地の者に。そもそもその様なことを言われる筋合いもない。地の世界で数万年の時を人間は人族はあがきながらも生きてきたのだ。救いの手など必要ない。滅びる時がくれば勝手に滅びる。自らの生死を決める権利は自らにあるはずだ。

 これを傲慢と言うなら言えばいい。それが神が生み出した人族というものなのだ。

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[一言] ついにあの面倒くさがりのテーレイズが行動の目的をみつけた(;o;)
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