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魔王の器  作者: 月野文人
第四章 大陸大乱編
188/218

覚悟の行方

 オッペンハイム王国のディートハルト王太子によるウエストミッド襲撃は、敵味方双方に大きな衝撃を与えた。

 ルースア帝国の方は反乱勢力を引き付ける餌としてウエストミッドを利用し、それはある程度成功したといえるのだが、いきなり城内に敵の侵入を許したという事実は完全な誤算だった。かつてシュッツアルテン皇国の都であったウエストミッドの守りは固く、容易には落ちないというのも策の前提であったのだ。

 もしオッペンハイム王国が大軍で城を攻めながら同じことを行っていれば、その後背を突く間もなくウエストミッドは落城していたかもしれない。それでは策でも何でもない。大陸西方中央の重要拠点をただで差し出すだけになる。

 ルースア帝国は西方北部の戦線を一旦縮小し、ウエストミッドの守りを固めると共に、ディア王国軍をウエストミッドに戻して都内、城内の調べを徹底的に行うことにした。それにより元西方伯家屋敷から城内に通じる秘密通路が見つかるのは後日の話だ。


 オッペンハイム王国の方の反応は二分していた。ディートハルト王太子の死を悔やむ者たちと、その死を無駄死にと蔑む者たちだ。

 後者の言い分はルースア帝国が恐れた通り、北部侵攻軍四万でウエストミッドを攻めた上で襲撃を行えば、落城させることが出来たのに何故それをやらなかったのだというものだ。だが、この批判の声はやがて勢いを失うことになる。

 ディートハルト王太子が率いていた北部侵攻軍四万は、命令通りにウエストミッドに向けて南下したのだが、目的地に近づくにつれて櫛の歯が欠けたように部隊が離脱していき、終いには半分の二万にまで減少してしまった。

 ただこれはディートハルト王太子にとっては予想通りのことで、オッペンハイム王国に形ばかりの忠誠を誓っていた小国が抜けていっただけのこと。いざルースア帝国との戦いとなった時に裏切る可能性のある部隊がそうなる前に消えてくれただけだ。

 そうなった時点でディートハルト王太子から指揮権を受け継いでいた部下は、オッペンハイム王国への撤退を決意。進路を西に変えると急進した。後ろを付いてきているであろうルースア帝国軍を振り切る為だ。そしてそれは成功に終わる。

 この軍の動きが伝わったことで、オッペンハイム王国の中でディートハルト王太子への批判の声は小さくなる。何よりもアーテンクロイツ連邦共和国が全く動きを見せていない。ディートハルト王太子の指示がなければ、侵攻軍二万がどうなっていたかを考えるのは容易なことだ。

 それでも完全に批判の声が消えたわけではない。ウエストミッド襲撃に何の意味があったのか多くの者は分からなかったのだ。


「……何故、共和国は動かない?」


 眼下に見えるルースア帝国軍を眺めながら、ディーフリートの口から出たのはアーテンクロイツ連邦共和国のことだ。

 シドヴェスト王国連合の領内を南北に流れる川沿いに作られた城砦。以前もルースア帝国軍と戦ったことのあるこの場所に、シドヴェスト王国連合軍は防衛線を張っている。対するのはルースア帝国軍一万。もともと三万だったルースア帝国軍は二手に分かれている。

 この場所から北上したところにある旧グラーツ王国の王都、今はシドヴェスト王国連合の占領下にあるグランツーデン攻略に二万の軍勢を向けているのだ。


「裏切られたのだと思われます」


 ディーフリートの呟きに答える声はオッペンハイム王国の使者のものだ。ディートハルト王太子の死とその後の状況を伝えにきたのだ。もっとも大まかなことはディーフリートは自国の間者がもたらした情報でとっくに知っているが。


「裏切ることに何の意味があるのだろう? 帝国を利するだけにしか僕には思えない」


「ただ強いだけで大局の見えない愚か者なのです」


「……それはないと思うけどね」


 カムイの視野がそんなものだとはディーフリートは思わない。人には見えないものを見ているのが、カムイたちなのだ。では今、自分には何が見えていないのかがディーフリートは気になっている。


「とにかく共和国は信用なりません。今後は我が国単独で戦うことを前提に戦略を練らねばなりません」


「単独?」


 使者の単独という言葉にディーフリートは引っ掛かった。反乱側はシドヴェスト王国連合とオッペンハイム王国の同盟軍だ。単独という言い方はおかしい。


「ディートハルト様が亡くなられた今、ディーフリート様が新たな王太子であり、次代のオッペンハイム国王となります」


「……ちょっと待ってくれ。僕は既にエリクソン王国の王だ」


「はい。存じております。ですのでこの機会にオッペンハイム王国とシドヴェスト王国連合は同盟ではなく統合という形に移行するべきかと」


「統合……しかし……」


 オッペンハイム王国の統合はディーフリートも考えていたことだ。大陸西方の南部と西部、そこからさらに中央部に進出することで確固たる勢力を築き上げるという戦略なのだ。

 だがその統合の仕方は使者が言うようなものではない。


「今、エリクソン王国は連合の盟主の座におりますが、その力は決して抜きんでたものではありません。そのような不安定な連合でこの先戦っていけるでしょうか?」


「だからといってオッペンハイム王国の傘下に入ることを良しとするわけにはいかない」


「傘下ではありません。オッペンハイム王国はディーフリート様の国になるわけですから」


 使者が言っているのは、あくまでもディーフリート個人にとっての話だ。連合を構成する各国がどう思うかを考えていない。


「……しかし、王は父上だ」


「その王の座をすぐに渡しても良いと陛下は申されています」


「何だって?」


 使者の言葉はディーフリートにとってかなり驚きだった。てっきり、シドヴェスト王国連合を傘下に置くための口実だと思っていたのだ。


「両国の軍を足せば、七万五千から八万。ルースア帝国に対抗出来ない数ではありません」


「……しかしな」


「ディーフリート様。ようやくこの日が来たのです。西方伯家は、皇国はなくなってしまいましたが、我らの手で世の中を変える時が来たのです」


「……ヨハン」


 使者はかつてディーフリートと共に皇国学院で学んでいた者。西方伯家の従属貴族家の一人だ。皇国の、西方伯家の在り方に疑問を感じていたディーフリートを支え、改革を成し遂げようと仕えていた一人。

 そんな彼らはディーフリートが西方伯家を去った後、どんな思いで過ごしてきたのか。今どんな思いでディーフリートをオッペンハイム王国に迎えようとしているのか。これを考えるとディーフリートは無下には出来なくなる。


「覚悟をお決めください。ここで立ち上がらなければ、我らが目指していた良い世界は作れません」


「……そうだね。覚悟を決めないとだね」


 皇国学院時代に、自分たちはどんな世の中を目指していたのか。今のディーフリートには思い出せない。まだ何も知らなかった頃に、ただ西方伯である父のやり方に反発して、自分は同じでありたくないと考えていた。

 私利私欲ではなく、領民の為、そして国民の為に尽くそうと考えていた。

 だが、ディーフリートはカムイを知ってしまった。カムイを知って、カムイが異種族共存という夢物語を目指しているのだと分かった。実現出来ない夢だと思っていても、どこか自分の目的がみすぼらしく思えてしまった。

 その夢をわずかでも実現する手助けをしてやろうと思った。シュッツアルテン皇国の皇帝代行となり、その力があれば、ノルトエンデを守ることくらいは出来ると考えていた。

 だが皇国という鎖から解き放たれたカムイは、ディーフリートの力など全く必要とすることなく、圧倒的に不利であったはずの状況から、庇護者となるはずだった皇国が恐れるくらいの力を手にしてしまった。

 カムイへの嫉妬が生まれたのはこの時だ。実際には以前から嫉妬の気持ちはあったのだが、それを認めることはしていなかった。

 カムイに並ぶ力を手に入れる。オッペンハイム王国とシドヴェスト王国連合の統合は、それを実現する絶好の機会かもしれない。ディーフリート・エリクソンは大陸西方の三分の一に届く領土を持つ国の王になるのだ。

 その誘惑がディーフリートの心を揺らしている。


◇◇◇


 ディーフリートがかつての部下、オッペンハイム王国の使者に覚悟を求められている頃。エリクソン王国の城でセレネは懐かしい顔と対面していた。

 今ではほとんど表に出てくることのない謎の人物と化しているオットー商会総帥のオットー本人だ。もっともセレネの前ではオットーは皇国学院の同級生であったオットーのままでいる。


「本当に久しぶりね」


 思ってもいなかった来訪者を迎えて、セレネは嬉しそうだ。


「そうだね。商会を作ってからも南部に来ることなんてなかったからね」


「噂は聞いているわよ。何だか凄いらしいわね?」


「そうだね。今ならセレネさんに極上のステーキを奢ってあげられると思うよ」


 皇国学院時代にディーフリートに奢ってもらったものだ。懐かしい話題をオットーは持ち出してきた。


「……残念だけど、この街にはあのステーキはないわね」


 オットーにとって残念なことに、セレネはその話題にのってこなかった。逆に表情がわずかに曇っている。


「この街にないのであれば、ある街に食べに行こうか?」


 セレネの反応が悪くてもオットーは話を続けた。この反応を確かめる為に、この話題を持ち出してきたのだ。


「それってどこの話?」


「たとえば……ノルトエンデとか?」


「…………」


 オットーの口からノルトエンデの言葉が出てきた。それを聞いたセレネは黙り込んでしまう。


「今ではノルトエンデは牧畜が盛んな土地だからね。美味しいお肉があると思うよ」


 セレネが黙り込んでしまってもオットーは話を止めようとしない。その意味をセレネも気が付いた。


「……行けない」


 オットーはカムイのところに行けと言っているのだ。それをセレネは拒否した。


「どうして?」


「……カムイに会わせる顔がない」


「それはディーフリートさんのせいかな?」


「そうだけど、私のせいでもある」


 ディーフリートが実行した策略についてはセレネも大よそを知っている。その中身は間違いなくカムイへの裏切り。それを止められなかった自分にセレネは責任を感じている。


「どうして止めなかったの? セレネさんだったら、さすがにあれはないと分かるよね?」


 いくつかあるディーフリートの策略で最悪なものは、ウエストミッドの貧民街へ軍隊を誘いこんだことだ。公然の秘密であった魔族の存在を、あえて事情を知らない帝国の勇者の耳に入るように仕向けたのだ。

 その結果、カムイたちにとっての原点ともいえる貧民街は焼失した。

 焼失そのものは、カムイの決断を促す為にわざと事態を大きくしたダークのせいではあるが、貧民街の主であるダークにはそれをする権利がある。ただ策略の道具として利用したディーフリートとは違う。


「貧民街のことは知らなくて。私も事前に全てを知らされているわけじゃないの」


「そう……」


 セレネとディーフリートの間に溝を感じて、オットーは表情を曇らせた。 


「でも止めても聞いてくれない。カムイがどう思うかなんて話すとすぐに不機嫌になるの」


「それは……ヤキモチだよね?」


 溝はそれほど深くないようだ。


「そうだとしても、そんなヤキモチ嬉しくない」


「まあ、それで国の方向を決められてもね。周りが迷惑だ」


「……そこまでじゃないと思うけど」


 さすがに私情が国政に影響を与えることなどないとセレネは思っているが、これは間違いだ。


「そこまでだよ。ディーフリートさんはカムイを敵に回した。それはシドヴェスト王国連合がカムイたちを敵に回したと同じことだよ」


「もう、そこまで?」


「はぁ……セレネさんもディーフリートさんと同じか」


 セレネの返事を聞いて、オットーはわざとらしく大きくため息をついた。


「何が?」


「カムイに甘えている。何をしてもカムイは許してくれると思っている。まあ、セレネさんについてはカムイは大抵のことは許してくれると思うけどね」


「私は、そんな……」


 オットーの話を聞いて、セレネは顔を赤らめている。この反応はオットーには驚きだった。


「セレネさんって、意外に悪女なの?」


「えっ? どうしてそういう話になるの?」


「だって、今の反応。カムイに気があるみたいじゃないか」


「…………」


 大きく目を見開いてセレネは黙ってしまった。


「えっ!? あるの!?」


「そんな驚かないでよ! 冗談よ! ちょっと昔を思い出しただけだから!」


 からかうつもりが、オットーの反応が大きすぎてセレネのほうも驚いてしまった。


「昔はカムイのことが好きだったんだ」


「…………」


 この沈黙は冗談ではない。


「いやぁ面白い。学院時代であれば大喜びするところだけど、今更だからね」


「今更よ。オットーくんは相変わらず、恋愛話が好きね?」


「まあね。でも、今日は残念だけど真面目な話。このままだと駄目だと思うよ」


 オットーも出来ることなら恋愛話や昔話で盛り上がりたいところだが、それで終わっては忙しい中、何とか時間を作ってセレネに会いに来た意味がない。


「でも、ディーは私では止められない」


「見捨てるという選択肢もある」


 もう一度、オットーはカムイの下に行くように話をした。これが最後の機会だと思っているのだ。


「……それは出来ない。ディーが、息子がいるのよ」


「子供の為?」


 子供の為だけであれば、なおさらセレネはシドヴェスト王国連合を離れるべきだとオットーは思う。シドヴェスト王国連合が滅びてしまえば、その大切な子供の命も失われることになるのだ。


「それだけじゃない。ディーを、ディーフリートを一人には出来ない」


「そうか……じゃあ、仕方ないね」


 これを言われてしまっては、オットーはこれ以上、誘うことは出来なくなる。無理強いするつもりはオットーにはない。セレネが自分の気持ちに正直に生きていてくれればと思っているだけだ。


「ごめんなさい。わざわざ来てくれたのに」


「いや、決めるのはセレネさんだから。それに僕が聞きたかったのは……まあ、これは良いか。もう一つ、忠告を」


「何かしら?」


「ディーフリートさんを支えるのであれば、こんなところにいては駄目だね。遠くでただ黙ってみているだけなんて、セレネさんらしくないと僕は思うよ」


「オットーくん……」


「セレネさん。僕たちは一度悔しい思いをしている。戦う力がなくて、大事な仲間の側にいられなかった」


「……そうね。私も悔しかったわ」


 これも学院時代のこと。演習合宿でオーガに襲われるとなって生徒の半分が囮にされた時の話だ。オットーとセレネはディーフリートによって、残される半分から先に逃げる組に移された。ディーフリートがカムイに頼まれたのだ。

 先に逃げられることを嬉しく思う気持ちは全く湧いてこなかった。カムイたちと共に戦えない弱い自分が情けなかった。


「僕は何とか戦う力を手に入れた。セレネさんは?」


「私は……」


 セレネにはオットーのように力を手に入れたと言えるものは何もない。


「セレネさん。僕は何とか力を手に入れたいと頑張ってきた。偉そうだけど、その中で分かったことがある」


「何かしら?」


「必要なのは覚悟。戦って、たとえ敗れて死んでも悔いはないと思える覚悟。どんなに無様でも、這いつくばってでも戦い続ける覚悟。戦うのに必要なのは力ではなく覚悟だって」


「……必要なのは覚悟」


「セレネさんはその覚悟を持たなければならない。それが始まりだから」


「……分かったわ」


 自分にはその覚悟がなかったとセレネは分かった。持っていたはずだった。死を覚悟した戦いをセレネも経験したことはあるのだ。

 忘れていたその覚悟をオットーはセレネに思い出させてくれた。

 何をすればいいのか、何が出来るのかはまだセレネには分からない。それでもじっと待っているだけの自分はもう止めようとセレネは思った。


◇◇◇


 ウエストミッドからほど近いところにあるレーネ山。かつて皇国学院の合宿に利用されていた宿泊所は随分と前から、裏社会で生きる者たち、その家族の住処と化していた。

 今その悪党どもの住処は何とも物々しい雰囲気に包まれている。

 千に届く数の武装集団が出発の準備をしていた。

 号令の声、馬のいななきが周囲に響く。雑然とした雰囲気ではあるが、その動きは統制のとれた正規の訓練を受けた軍隊のものだ。

 この集団を何軍というべきか、今はまだ決まっていない。かつてアーテンクロイツ共和国軍、ノルトエンデ軍と呼ばれたカムイ率いる軍勢だ。


「南の道の整備はきちんと終わっているって。この数で進んでも問題ないってさ」


 住人たちとの打ち合わせを終えてマリーが戻ってきた。


「この時点でそう言い切るってことは本当か。案外真面目だな。元盗賊たちだから、サボっていると思ってた」


 マリーの話を聞いてカムイは意外そうな顔をしている。


「それで金が貰えるんだから働くだろ? それに北は皇国、今はディア王国だね。その見張りの目があるから面倒らしいよ」


 元々この宿営地から麓に降りるには北に伸びる山道を進むしかなかった。それでは不便なので、カムイは随分前に南への抜け道の整備を指示していたのだ。


「整備を頼んだことも忘れていた抜け道が役に立つとはな。俺って天才じゃない?」


「そういうの天才って言うのかい? 幸運ではあるけどね」


「何でも良い。とにかく役に立つのは間違いない」


 この宿泊所から南の抜け道を使って麓に降りる。カムイたちの目的地はその先にある。


「南を抜けても、そこからグランツーデンまではどんなに急いでも十日はかかる。その間に見つからないと良いけどね」


 カムイたちの目的地はシドヴェスト王国連合とルースア帝国が戦っているグランツーデンだ。もちろん、それは最初の目的地というだけだが。


「そこは天才の強運に任せろ」


「……何だか浮かれているね」


「そうか? そうだとしたら、うじうじと考えているより、戦いに臨む方が気が楽だからだろうな」


「お前の場合は、考えている時も楽しそうだけど? 特に人を陥れる策を考えているときは」


「それじゃあ、俺の性格が悪いみたいだろ? 俺はマリーさんとは違う」


「……やっぱり、浮かれている」


 人を挑発するような言葉。久しぶりに感じるカムイの軽さに、マリーはやや戸惑いを覚えている。


「じゃあ、思い出の地だからかな? 俺とマリーさんの二人きりの思い出」


「最悪の思い出だね」


 最悪ではあるが、それがカムイとマリーの距離を縮めたきっかけでもある。そう考えると、マリーも何となく感じるものがある。


「あの時はまさかマリーさんとこんな関係になるとは思わなかった。そう考えるとやっぱり面白い」


「そうだね。そして、まさかの関係の奴がもう一人。あの時は……仲間とは言えないか」


「まあ。結局あの頃から、それほど変わっていないってことじゃないかな。それぞれの都合で敵味方が変わる……もっと中途半端な関係か。それをはっきりさせに行くわけだ」


 グランツーデンの次は、どこになるかは今は分からないが、とにかくディーフリートのいる場所が目的地となる。


「それで最終的にはどうするかは決まったのかい?」


「それは落とし前をつけてもらうつもりだけど、オットーから結論を出すのはぎりぎりまで待ってくれって」


「はあ? この期に及んでそんなんでどうするんだい?」


 今日、この地を出発する予定だ。動き出せばあとは一気に目的に向かって突き進むだけ。計画を練り直す時間なんてない。


「その時までには連絡が来ることになっている。それが何か分からないけど、今は気にせずに計画通りに進むだけだ」


 オットーが何をしているのかカムイは知らない。オットーが話そうとしなかったので、何か事情があるのだろうと思って、聞くことも調べることもしていなかった。


「そうかい。まあ、それは良いや。まずはグランツーデンだね」


「ああ、まずはカルロスの奴をとっちめてやる。他国の臣下だからと思って手出しを控えてきたけど、国を捨てれば個人の問題だからな。遠慮はいらない」


「……個人で王国連合の重臣に折檻かい? それもどうかと思うけどね」


「まあ、細かいことは気にしない。事はまだ始まったばかり。今はまだ遊びの時間だ」


「……お前らの場合は、その遊びが怖いんだけど。まあ、あたしが遊ばれるわけじゃないからいいか」


「そういうこと」


 動き出したカムイたち。

 敵味方など関係のない無秩序と思えるような戦いが始まる。それが大陸に混沌を生み出し、その混沌が敵の姿を明らかにする。そう考えているのだ。

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