帝国の勇者
戦乱の渦中にある大陸西方。そのほぼ中央に位置するウェストミッドでは連日、軍議が開かれていた。
シドヴェスト王国連合とオッペンハイム王国の反乱側の戦略目標がウェストミッドにあることは間違いない。いずれ攻めてくるであろう反乱軍との戦いの準備で軍部は休む暇もない忙しさだ。
今ウェストミッドで動いている軍はルースア帝国軍ではなく、ディア王国軍だ。ルースア帝国の西方駐留軍はほぼ全てが出払っており、ウェストミッドの防衛任務はディア王国軍が担っている。ウェストミッドはディア王国の王都なので当然といえば当然なのだが。
「物資が不足しております」
「そんなことは分かっている。それの調達を行っていたのではないのか?」
部下の報告にオスカーは苛立った様子を見せている。籠城戦の準備が思うように進んでいないのが理由だ。
その原因も分かっている。人手不足なのだ。
軍の四分の一がディア王国を離れた。ただ、この割合は兵数であり、軍部の高官だけで算出すると離脱したのは半数に上る。帝国への従属の経緯を知っている者ほど納得がいかず、もしくは愛想を尽かし、ディア王国を離れていた。
その補充もままならないうちに新たな戦争だ。問題が起きないはずがない。
「調達しようにも、すでにかなりの物資を帝国軍が徴発しており、思うように集まりません」
部下が言い訳をしてくる。
「それも分かっている! お前も分かっていたはずだ!」
「はっ! 申し訳ありません!」
これは完全な八つ当たりだ。オスカーが苛立っている原因には、帝国軍のこうしたやり様もある。極端に言えば、自分たちさえ良ければそれで良いという、身勝手なやり方だ。
間違いなく攻められるウェストミッドを離れて、自軍の防衛線の強化に走った。ウェストミッドにあった物資を根こそぎ持って。
百歩譲ってそれは許せる。それによってウェストミッドを守れるのであれば。
だが実際は、帝国軍が警戒している共和国には全く動く様子がなく、それに対して防衛線を張った帝国軍は無為の時を過ごしているだけ。その間も貴重な物資は消費されているというのに。
「……東方での調達は?」
「はっ。それはもちろん進めております。ただ到着までにはかなりの時間がかかります」
調達の手はウェストミッド周辺を離れて、東方にまで伸ばしている。ただ遠くで調達すれば運んでくるのに時間がかかるのは仕方がないことだ。
「輸送部隊を……いや、しかし」
そして問題は大量の物資を運ぶにはそれだけの輸送隊が必要だということ。それを送り出そうと思ったオスカーだったが、すぐに思い直した。
輸送隊を出せば、その間はウェストミッドを守る軍勢が減ることになる。
「防衛計画は完成したか?」
オスカーは別の部下に作戦の立案状況を尋ねた。
「まだ基本部分だけで完成には至ってはおりません」
「それでも良い。防衛に必要な人数は?」
「……今の試算では最低三万。これは待機部隊も考慮しての数です」
「ぎりぎりか……」
ディア王国軍のおよそ三万。ウェストミッドの防衛には全軍を参加させる必要がある。
攻城側は籠城側の三倍の兵力が必要と言われる。これだけであれば、一万か二万で守りきれることになるのだが、残念ながらそうではない。
旧皇都の都であるウェストミッドは広すぎるのだ。広すぎる為に防衛地点の数も多く、そこに配置する兵の数も多くなる。それが最低三万という数だ。これを何とかしようと思えば。
「いくつかの防衛地点を放棄すればどうなる?」
兵が休みなく戦い続けるか、兵を配置する場所を減らすしかない。オスカーは後者を考えた。
「……半分で済むかと」
部下からは望む答えが出てきたが、これだけで決断するわけにはいかない。
「問題は?」
「外壁を突破された場合に次の防衛線は城壁になります」
「そこまで?」
ウェストミッドには外壁、内壁、そして城を囲む城壁がある。内壁を放棄することになるとまではオスカーは思っていなかった。
「あくまでも各外壁の門に均等に部隊を配置した場合です。敵の攻撃地点だけを厚めにすれば、もっと余裕は出ます」
「それを行うか……」
籠城戦は防衛側が有利。だが攻撃側にも利点はある。好きな場所を攻められるという利点だ。東から攻めると見せかけて南に回る。それに防衛部隊が対応出来るかが問題になる。もちろん壁門を簡単に突破されるはずがないので、出来ないことではない。
「……イーゼンベルク家からの回答は?」
オスカーの思考はまた次に移った。
「抜け道など知らないと」
「そうか……」
ウェストミッドの防衛にあたってのオスカーの最大の懸念事項は、元西方伯家であるオッペンハイム王国は公にされていないウェストミッドの情報を持っているのではないかということ。密かに王都内に侵入出来る秘密の進入路などが敵側に知られていれば防衛など出来はしない。
西方伯家が知っているとすれば東方伯家も知っているに違いないと使者を送ったが、返事はいま聞いた通り、事実かどうかも分からない、にべもない返事だ。
イーゼンベルク家とディア王国との関係は未だに改善していない。それでいてイーゼンベルク家は独立はしていないという中途半端な関係のままだった。
本当は元南方伯家であるグラーツ王国に聞けば良いのだが、グラーツ王国の王都はシドヴェスト王国に攻められている最中で使者を送れないのだ。
そして、もっと言えば国王であるクラウディアが知っているべき事柄なのだが、こういう情報をクラウディアは全く引き継いでいなかった。
「……こちらから打って出るという戦い方もありますが?」
オスカーの懸念は部下も知っている。不安を抱えて籠城を行うのであれば、城を出て戦う選択もあると提案してきた。
「必ず勝てるのであれば。自分の立場でこれを言うのは問題だが、同数では絶対に勝てるとは言えない」
シドヴェスト王国連合軍には魔族が加担している。この情報はとっくの昔にオスカーの耳にも入っている。この情報があるからこそ、帝国軍は未だに共和国に拘っているという面もある。共和国が魔族の部隊を貸しているのではないかと疑っているのだ。
これについてはオスカーも否定出来ない。だからこそ共和国を警戒し続ける帝国軍にも文句を言えない。
「もう一度、イーゼンベルク家に使者を送って援軍を。それが無理でも物資の提供と輸送をお願いしてみるべきかと」
「……そうだな。使者を送ってくれ」
イーゼンベルク家が要請に応えるとは正直オスカーは思っていない。部下もそうだ。それでもやれることは全てやろうと考えて、使者を送ることにした。
「いっそのこと、共和国にも使者を送ってみますか? 万一、反乱軍と戦ってもらえることになれば、それで全ては解決です」
「……俺としてはそうしたいところだが、帝国が認めない。これは、あくまでも帝国の戦いだ。こちらに交渉の自由はない」
今回の戦いは帝国に対する反乱だ。ディア王国軍は、その鎮圧を手伝っているに過ぎない。それで、これだけの苦労をし、それでいて裁量はないのだから報われない。
帝国の成立により、最も割りを食っているのは、最も成立に貢献したディア王国であるというのは皮肉な話だ。クラウディアの自己保身の為に、帝国に差し出されたのだと考えれば当然の結果ともいえるが。
「オスカーさん。出撃するよ!」
そのディア王国の苦労の張本人であるクラウディアが会議室に飛び込んできた。しかも、何とも不穏な言葉を発しながら。
「……今なんと?」
聞き間違えであって欲しい。こんな願いを込めながら、オスカーはクラウディアに尋ねた。
「反乱軍を討つために軍を出すの」
残念ながらオスカーの願いは叶えられなかった。
「帝国との話し合いで、我が軍は籠城することに決まっております」
あえて帝国を出して、オスカーはクラウディアのとんでもない考えを否定する。
「そうだけど勝てば良いんだよ」
分かっていたことだが、クラウディアには通用しなかった。
「……それはそうですが。確実に勝てるのですか? 打って出て、万一敗れれば、ウェストミッドは反乱軍に奪われてしまいます」
「大丈夫だよ。私たちの軍には勇者がいるから」
「……はい?」
また耳を疑う言葉がクラウディアの口から発せられた。
こんな話をオスカーは初めて聞いた。そして今聞いても、クラウディアが何を言いたいのか分からない。
「勇者が魔族を倒してくれるから絶対に勝つよ」
「……その勇者というのはどこにいるのですか?」
「あっ、そうだね。最初に紹介しないとだね」
嫌味のつもりでオスカーは言ったのだが、クラウディアは勇者を紹介すると言ってきた。そして、実際にその声に応えて騎士服を来た男たちが会議室に入ってくる。
オスカーはその男たちに見覚えがあった。帝国が主催した剣術大会の成績上位者だ。
「……彼らが勇者ですか?」
確かに剣術大会の目的は、カムイにも勝てるような強者を見つけること。それだけの実力者であれば勇者と呼んでも間違いではない。だが、彼らはそのカムイの臣下であるニコラスに負けた者たちだ。
「そうだよ」
「しかし彼らは」
「ちゃんと勇者選定の儀式をして、神の御使いの加護を得たわ。おかげで皆、凄く強くなったの」
「……勇者の選定の儀式というのは、神教会が行っていた?」
「そうだよ。神教会にいたレナトゥスさんに手伝ってもらったの」
「神教会にいたレナトゥス?」
レナトゥス神教会にいたレナトゥス。それが只者であるはずがない。そんな人物がいつの間にディア王国に、クラウディアの側にいるようになったのか。オスカーは久しぶりにクラウディアに得体の知れなさを感じた。
「じゃあ、紹介するね。まずはケヴィン・オクさん」
クラウディアの紹介を受けて男が一歩前に出て挨拶をする。挨拶といっても目線がわすかに下がった程度の挨拶ともいえない挨拶だ。
それ以降に紹介された者たちも似たようなものだ。誰もが尊大な態度で、中には見下しているような視線を向けた者までいる。
「まだ全員が勇者じゃないけど、そのうちに全員の儀式を終わらせるから」
「……全員が勇者ってことですか?」
目の前に並んでいる男たちは七人。大会の上位成績者として帝国の騎士に取り立てられた全員だ。
「そうだよ。ルースア帝国八神将って呼ぶことにしたの。四の倍だから、こっちの勝ちだね」
四が共和国のアルトたち四柱臣を指していることはオスカーにも分かった。今もまだクラウディアがカムイを意識していることに少し驚いたが、それ以上に気になったのが。
「……七人ですから七神将ではないですか?」
数が違うことだ。
「本当は八人が騎士になってくれる予定だったから」
優勝者であるニコラスは帝国騎士への叙任を拒否した。それで予定が狂ったのだ。
「……最初からそのつもりで大会を」
剣術大会を開こうと言い出したのはクラウディアだ。その時からクラウディアは勝ち残った者たちを勇者にしようとしていたのだと分かった。
「一人欠けたから、八人目はオスカーさんね」
「はっ?」
「オスカーさんも選定の儀式をすれば凄く強くなれるよ。オスカーさんは元から強いから、間違いなくカムイに勝てるようになると思うな」
「……考えさせてください」
カムイより強くなれる。これには大いに心が揺れたオスカーだったが、すぐに受け入れることは堪えた。努力などなく儀式をするだけで与えられる強さ。これに納得出来ないという思いと、代償もなくそんな力が得られるのかと不安に思ったからだ。
「そうなの? でも八神将になるのは決定だからね」
「それは……」
そんな恥ずかしい名乗りもごめん被りたいところだが、クラウディア相手の場合には、全てを拒否することは却って物事を悪化させると考えて黙っていることにした。
「じゃあ、魔族を倒してくるね」
「……まさか陛下も?」
「そうだよ。私は皇家の者として、帝国を守る為に出来るだけのことをしなければいけないの。これは誰にも止められないよ」
「……そうですか」
クラウディアが初めて見せた皇后としての覚悟。これにオスカーは驚いた。
オスカーは知らない。クラウディアの台詞が、王国が攻めてきた時にまだテーレイズの妃であったヒルデガンドが会議の席で発した言葉とほぼ同じだということを。
別に知っていたとしても、何が変わるわけではない。国王であるクラウディアが王都を出て戦うと言ったのだ。騎士団長であるオスカーであっても無理に止めることは出来ない。
――この日から数日後。一万の軍勢を率いてクラウディアはウェストミッドを発した。付き従ったのは、クラウディアがいうところの勇者、帝国八神将のうちの四人。ケヴィン・オク、エルヴィン・フル、ハーラルト・ファレグ、そしてライナー・オフィエルの四人だ。
このクラウディアの行動が、大陸動乱の行く末を変えることになる。
◇◇◇
グラーツ王国の王都であるグランツーデン。その都は今、シドヴェスト王国連合軍に攻められている。攻めるシドヴェスト王国連合軍は三万。籠城側は一万で、それに周辺に展開した一万、これは初戦で打ち破られたグラーツ王国軍が再集結した軍勢、が加わる。
籠城戦であれば守る側がやや有利という状況だが、シドヴェスト王国連合側はグランツーデンを落城させるつもりはない。ウェストミッドに向かって進軍する際に後背を脅かされない程度に痛めつけるのが目的だ。
攻撃はもっぱら王都外にいる一万に向かっており、それを支援しようと出撃してくる王都内のグラーツ王国軍を迎撃して被害を与えるという戦いが繰り返されている。
これは今のところ上手く行っている。グラーツ王国軍の数は開戦当初に比べるとかなり減っているはずだ。
この戦場に限らず、帝国との戦いは、シドヴェスト王国連合の優勢で進んでいる。だが、それでも全てが思い通りというわけではない。それに対してディーフリートは苛立っていた。
「どうして他国は動き出さない?」
ディーフリートの不満は他国の動きにあった。自分たちがきっかけを作れば他国も反乱に同調するはずだった。実際に戦況はディーフリートの思う通りに進んでおり、帝国軍は無駄に分散し、隙を見せている。
元東方伯家であるイーゼンベルク家、もしくは中央諸国連合が動けば、ノルトエンデ方面に展開している帝国軍の後背を突くことは容易で、打ち破るのは難しくない。アンファング方面に展開している帝国軍に対しては、アーテンクロイツ連邦共和国であれば正面から挑んでも勝てるだろう。
だが今のところ、ディーフリートが期待した動きはどの国も見せていない。
「この期に及んで他国を期待してどうする?」
ディーフリートの問いに答えたのはカルロスだ。その声音にはやや呆れの感情がのっている。
「期待しているわけじゃないよ。帝国を倒す絶好の機会を何故見逃すのか理解出来ないだけだ」
「倒す気がないからではないのか?」
「……そんなはずはない」
ルースア帝国による支配を良しとしている国などない。これがディーフリートの考えの前提だ。
「仮に納得していないとしても、確実に勝てる算段がなければ立ち上がることはないのでは?」
ディーフリートの言葉にまたカルロスは疑念を返す。
帝国支配に納得していなくても、国の滅亡を賭けて戦うとは限らない。多くの国が建国したばかりなのだ。
「その確実に勝てる状況は作った。それがどうして分からないかな?」
「我らがそう思っていても他国が思わなければ意味はない」
「……ではどうしたら他国は分かってくれるというのかな?」
否定的な言葉ばかりのカルロスにディーフリートは苛立ってきている。
「それは相手に聞いてくれ。俺に分かるのは、恐らく何かが足りないということくらいだ」
そしてカルロスも苛立っている。もともとカルロスは今回の挙兵に諸手を挙げて賛成していたわけではない。半ば強引に事態を動かしておいて、今になって愚痴るなという思いがある。
「それは分かっているよ」
「ではそれを解決するしかない」
「その方法が見つからないから困っているのさ。カムイは一体何を考えているのかな?」
アーテンクロイツ連邦共和国が動かない理由は分からない。だが、その動かないという事実が中央諸国連合に影響を与えているのは分かっている。
カルロスが言った何かが足りないという思い。これをカムイも持っているのではないかと中央諸国連合が考えれば動こうとはしないだろう。ディーフリートはこう考えている。
「カムイは帝都にいるという話だ。何を考えていようと動けない」
「カムイであれば簡単に逃げ出せるはずだ。なぜ、それをしようとしない?」
「……そんなことまで分かるか」
カムイの考えが読めたら苦労などしない。それが出来ないから今こうして悩んでいるのだ。
「……なんとしても共和国を戦いに引き込む必要がある。帝国本国から増援が来る前に西方を押さえるには共和国の力が必要なんだ」
カムイへの対抗意識を持ちながら、そのカムイに頼らなければならない状況は、ディーフリートにとって納得いかないものだ。だが今はそれに拘っていられない。共和国だけでなく、中央諸国連合、そしてイーゼンベルク家も戦いに巻き込み、帝国本国からの増援を迎え撃つ体勢を急ぎ整えなければならないのだ。
「それは分かるが、まずは目の前の戦いに集中したらどうだ?」
ディーフリートの焦りはカルロスにも感じられる。それはカルロスに不安しかもたらさない。
「それは分かっているよ。でもここでの戦いはやがて終わる。そうなればウェストミッド攻めだ。ウェストミッド攻めは単独では無理だ」
いざ、ウェストミッドが攻められる事態となれば、共和国を警戒している帝国軍も、さすがに戻るはずだ。野戦であればまだしも攻城戦では、敵より少ない数で確実に勝てるとはディーフリートは言い切れない。
ただ、この心配は今となっては不要なことだ。
「伝令! 伝令!」
伝令がかなり慌てた様子で、わざわざ声を上げながら駆け寄ってくる。何か緊急の事態が発生した証だ。
「何があった!?」
まだ近くまで来ていないうちから、カルロスは伝令に問い掛ける。
「ディア王国軍がウェストミッドより出陣! その数一万! 真っすぐ南下しております!」
カルロスの問いに伝令は大声で答えた。
「……何だと?」
ウェストミッドの守りを薄くしてまで、ディア王国が出撃してくるとはカルロスは思っていなかった。それはディーフリートも同じだ。
「到着予定はいつごろかな?」
カルロスに変わって、ディーフリートが伝令に問い掛ける。
「進軍はそれほど急いだものではありませんでした。後一週間はかかるのではないかと」
「そう。ディア王国軍を率いているのは誰かな?」
「はっ! 軍旗から国王クラウディア・ヴァイルブルクが自ら出陣しているものと思われます!」
「はっ? クラウディアが?」
クラウディアが戦場に出たことは、これまで一度もない。そのクラウディアが何故ここで、それもたった一万の軍で出撃しようと考えた理由がディーフリートは分からない。
「……オスカーもいるのだろうな。そうだとしても、こちらにとっては都合が良いね」
堅牢なウェストミッドから、それも一万という数で出撃してきた。各個撃破の絶好の機会をクラウディアが作ってくれたようなものだ。いかにもクラウディアらしい愚かさだとディーフリートは思った。
「どうする? グラーツ王国軍はかなり数を減らしたはずだが、それでも合流されれば、二万か二万五千くらいにはなるのではないか?」
カルロスはディーフリートより少し慎重だ。
シドヴェスト王国連合軍は三万。敵がほぼ同数になると考えて、警戒している。
「迎え撃つよ。ディア王国軍を打ち破れば、ウェストミッド攻めは一気に楽になる。この機会を何とか活かさないと」
「そうか……戦場はどこにする?」
「グランツーデンの押さえに半分を残して北に進もう。そうだね……ロイエ平原でどうかな?」
魔族の機動力を活かすのにもっとも良さそうな場所をディーフリートは選んだ。グラーツ王国と連携されたくないので、ある程度は距離を取りたいという理由もある。
「ロイエ平原だな。分かった」
目的地を決めるとすぐにディーフリートとカルロスは動き出した。
北上することになれば、ディア王国軍と遭遇するまで一週間もかからなくなる。その短い期間で迎え撃つ準備をしなければならないのだ。グズグズしている暇はない。
軍の再編を半日で終わらせると、ディーフリートに率いられたシドヴェスト王国連合軍一万五千はロイエ平原に向かって進軍を開始した。
残った半分を率いるのはカルロスだ。
「ディーフリート、油断するなよ。あのクラウディアが戦場に出るなんて普通じゃない。何かあるに決まってるからな」
離れていく自軍を見つめながら、カルロスは呟いた。