歪み
シュッツアルテン皇国の降伏、ルースア帝国の成立という過程の中で、もっとも精力的に活動していたのは、南部諸国連合だった。
ルースア王国軍が南部を離れた後も、軍を解散させることなく、これまで控えていた南部諸国の完全制圧に動き出した。ルースア王国軍の牽制を受けている南方伯が身動き出来ないところを狙ったのだ。
南方伯家軍の支援頼みだった反連合勢力は、ろくな抵抗も出来ずに、南部諸国連合の軍門に下ることとなり、わずかな期間で旧南部辺境領全てが連合として纏まることとなった。
シドヴェスト王国連合。これが新たな連合の名称だ。
シドヴェスト王国連合は、さらに南方伯領への侵攻を画して軍を動かす。アーテンクロイツ共和国がルースア帝国への臣従を受け入れるようだと伝わったのは、この時点だった。
「……何故だ? ここまできて、どうしてカムイは臆した?」
報告を聞いたディーフリートの表情からは怒りがにじみ出ている。
ディーフリートにとっては信じられない事態だ。共和国は必ずルースア王国と戦火を交えると考えていた。だからこそ、ルースア王国まで巻き込んだ大陸大乱となる中で、覇権争いの一角を占める為に、リスクを冒して一気に勢力拡大に動いたのだ。
「臆したという言い方は正しくないな」
カルロスが冷静な口調で、ディーフリートの言葉を否定してきた。
「何が違うのかな?」
「異種族への平等な権利の付与。そして、辺境領の独立の自由。求めていたものは実現される。あれは目的を果たしたのだ」
カルロスの方が、カムイの目的を正しく理解している。より冷静な目で見ているのだ。一方でディーフリートはそうではない。
「……帝国に膝を屈して手に入れるものだ」
「そうだとしても、手に入るものは同じだ」
「ニコライなんて無能な男に膝を屈して手に入れたものに、どれほどの価値がある?」
「……やはり、価値は同じだと思うが?」
カルロスにはディーフリートが何故、ここまで怒っているのかが分からない。野心を満たそうと始めた行動が頓挫したのは分かる。だが、それは情勢を読み損なった自分たちの失敗だ。
「……この先の展開をカルロスはどう読む?」
いくら話してもカルロスには通じないと考えて、ディーフリートは話を変えた。
「恐らくは帝国に逆らおうとなんて考える国は居ない。ルースア帝国を中心とした新しい統治体制の始まりだ」
「それで良いのかい? せっかく独立したのに、また逆戻りだ」
「まだはっきりとは言い切れないが、皇国の辺境領だった時よりはマシだと思うが」
「何だって?」
共和国の臣従に並ぶくらいに、ディーフリートにとってカルロスの答えは誤算だった。ルースア帝国の支配に、元辺境領は激しく反発すると思っていたのだ。
「もしかして、元辺境領の反抗を期待していたか?」
ディーフリートの反応で、すぐにカルロスは、その思いを読み取ってみせた。
「……その言い方だと期待しても無駄だということかな?」
「交渉条件を知らない段階では何とも言えない。だが、勝てる算段がなければ、戦わないことは分かる」
将来に絶望して自暴自棄になっていた嘗ての辺境領主ではないのだ。勝ち目のない勝負に、ようやく手にした独立を賭けるなどするとは思えない。少なくともカルロスはしない。
「勝てる算段があればか……」
「あるのか? あるのであれば、説得出来るかもしれないぞ」
帝国に勝つ方策があるのであれば、ディーフリートは怒りはしない。カルロスは答えが分かっていて、これを聞いている。
「……今はない。共和国が臣従するなんて思っていなかったからね」
「では無理だな」
「そうか……。そうだね」
「うちも臣従で良いのだな?」
ディーフリートが納得の言葉を口にしたところで、カルロスはシドヴェスト王国連合の方針を確認した。他の連合国との調整も必要なのだ。盟主国であるエリクソン王国の意向は、はっきりとさせておかなければならない。
「そういう方向になるだろうと思うけど……。少し気持ちを整理する時間をもらえるかな?」
気持ちが納得するにはまだ早かった。ディーフリートは、カルロスの返事を聞く前に席を立って部屋を出て行ってしまった。
「……ごめんね」
じっと黙って二人の話を聞いていたセレネが、謝罪の言葉を口にしてくる。
「謝罪じゃなくて、止めて欲しかったな」
「聞いたでしょ? 気持ちの整理が必要なのよ」
今回の戦乱において、ディーフリートがかなり意気込んでいたことをセレネは知っている。セレネが心配になって何度も忠告したほどに。
「時間がないんだ。俺たちの連合をグラーツ王は恐れている。帝国をけしかけて、攻めてこないとは限らない」
グラーツ国王となった元南方伯にとって、シドヴェスト王国連合は今も脅威だ。実際につい先日までグラーツ王国の国境をうかがう気配を見せていたのだ。当然だろう。
「攻めてくるかしら?」
「恐らくはない。だが、臣従するのであれば帝国の印象をわざわざ悪くする必要はない。そうでなくても、俺たち連合は領土の広さだけは決して小さいとは言えない。帝国が力を削ごうと考える可能性はある」
南部辺境領の全てを統べたシドヴェスト王国連合は、中央諸国連合やグラーツ王国よりも広い領土を有している。もちろん、個々の王国では比べものにならないのだが、連合という形で纏まっていることは、帝国にとってそれなりに脅威なはずだ。
「切り崩しを図ってくるかしら?」
「まず、間違いなく」
「……困ったわね」
セレネの形の良い眉がしかめられた。帝国の切り崩し工作をかなり脅威に感じているのだ。だが、これで困るのはカルロスの方だ。
「困ったじゃない。連合を纏めるのはエリクソン王国の役目だ」
「それは分かっている。分かっているけど、今のディーにはね……」
「……何かあったのか?」
セレネの言い様にカルロスはわずかであるが顔色を変えた。
連合の盟主はエリクソン王国で、エリクソン王国の王は、代行という立場ではあるが、ディーフリートだ。連合の中心であるディーフリートに不安があっては、この先の対応はかなり厳しいものになる。
「分かってるでしょ? かなり焦っているの」
「ああ、それは分かる。だが、何故だ? 今更、何を焦る必要がある?」
「多分、今の自分に納得していないのだと思うの。自分はまだまだ、こんなものじゃない。こういう思いが強いのね」
「分からん。連合の盟主の座にまで就いて、何が不満なのだ?」
ディーフリートはエリクソン王国の王権を有し、シドヴェスト王国連合の盟主でもある。これの何が不満なのか、カルロスにはさっぱり分からない。
「……これ絶対にディーに言わないでね?」
「言うなというのであれば言わない」
「今の立場はカムイに与えられたもの。こう思っているんじゃないかな?」
「それは……、確かに本人には言えないが事実だ」
南部辺境領主同士の争いを治め、ディーフリートをまとめ役の立場に置いたのはカムイだ。もっと言えば、それを他の辺境領主が受け入れたのは、カムイがディーフリートを高く評価しているという理由もある。
「そうでしょ? それが嫌なのよ。自分の力で南部を纏めたいの」
「それは、いくら何でも我儘な望みではないか?」
ディーフリートの立場がカムイにお膳立てされたものであるのは、動かしようのない事実だ。それを嫌がっても意味はない。素直に感謝して、与えられた立場で出来ることをするのが、あるべき態度だとカルロスは思ってしまう。
「出発点が違うのよ」
「出発点?」
「ディーは西方伯家で生まれ育って、ソフィーリア皇女の婚約者にまでなった。皇国の国政を見るかもしれなかったの」
「……辺境国の連合の盟主程度では満足出来ないか」
カルロスの視線が厳しくなる。カルロスはその辺境国の一国の王になる立場だ。そして皇国からの独立を果たせたことを喜んでいる。セレネの話は、そんな自分が馬鹿にされているようで不快に感じた。
「そうじゃないわ。どう説明すれば良いのかしら?」
ディーフリートの心情を上手く説明出来なくて、セレネは悩んでしまう。辺境領主の家で育ったセレネも完全にディーフリートの思いを理解しているわけではない。このズレがディーフリートの問題なのだ。
「……黄金の世代と呼ばれていたはずの自分は、一体、何をしたのだろうっていう感じ?」
少し悩んでセレネが口にしたのはこれだった。
「何となく分かってきた。つまり、嫉妬か?」
「……その言葉は使いたくなかったのに」
嫉妬という表現が正しいのかはセレネも分かっていない。だが、ディーフリートの焦りの原因が、カムイたちにあることは何となく感じていた。
「それは結構な問題だぞ? どうして、それを注意しない?」
「私が出来ると思う? いえ、注意は出来るわ。でも、どう受け取ると思う?」
「お前な……。今更、三角関係もないだろうが?」
連合の問題が夫婦間の問題になってしまった。セレネの言い訳を聞いたカルロスは一気に呆れ顔に変わる。
「変なこと言わないでよ。私はもう何とも思ってないわ」
「……もう?」
「…………」
これがセレネが初めてカムイへの思いを認めた瞬間だ。十年以上、決して口にしなかった過去の思い出を。
「そうだとは思っていたが」
「だから、今は違うから」
「当たり前だ。それを承知で聞きたい。どうして諦めた?」
カルロスの気持ちも連合の補佐役から、元同級生に変わっている。同級生であったカルロスにとって、セレネとカムイの関係は興味のある話題なのだ。
「……それ聞く?」
「俺から見て、お前とカムイはお似合いだったからな。ディーフリートと付き合っていると聞いた後も、ずっとカムイとの関係を隠すための作られた噂だと思っていた」
「その逆はあったけどね」
ヒルデガンドとの関係を誤魔化す為に、セレネとカムイの噂が立てられたことは何度もあった。今となっては、セレネにとっても懐かしい思い出だが、当時は複雑な思いを抱いていたものだ。
「やっぱり、ヒルデガンドの件で身を引いたのか?」
「……その前」
「前? カムイには他にも誰かいたのか?」
「違う。……無理だと思ったのよ」
躊躇いながらも、セレネはカルロスの問いに答えている。これまで誰にも話せなかった分、一度口にすると止められなくなっているのだ。
「分からん。どういう意味だ?」
「私はカムイたちと知り合って、ちょっと目立つことになったけど、元は平凡な女なの。そんな私がカムイに付いていくことが出来ると思う?」
「……テレーザは傍に居るぞ?」
「貴方、私に喧嘩売ってるの?」
テレーザがカムイの側室になったという事実をセレネは未だに認められていない。
「冗談だ。カムイについては分かる。だが、そうなるとディーフリートはどうしてだ? 西方伯家で、しかも皇女の婚約者候補だ。平凡にはほど遠い存在だったと思うがな」
「簡単に言うと、最初から割り切ることが出来た。良い思い出で終わるって」
辺境領主の一人娘であったセレネもまた本来、自由な恋愛など許されないはずの立場だった。お互い様という表現は適切かは別にして、それに似た思いがあったことは事実だ。
「……お前、結構、ズルい女だな?」
「うるさい。自覚はあるわよ。当時の私は自分が傷つかないようにすることしか考えていなかった。それが分かっていたから、ヒルデガンドさんを素直に応援出来たの」
傷つくことになると分かっていて、カムイへの想いを諦めなかったヒルデガンド。そんなヒルデガンドに対しては、嫉妬心が湧いても、それは少なかった。
「……この件、ディーフリートに話したほうが良いのではないか?」
「どうしてそうなるのよ?」
「いや、今のディーフリートに必要なのは、お前と同じ諦める気持ちではないのか?」
「……それは違う。それはディーの志を否定することになる。今は間違った方向に進んでいるとしても、前に進むことを諦めるのはダメだと私は思うわ」
カムイは特別な存在で、普通の人が敵う相手ではない。こんなことをセレネはディーフリートに告げられない。それはディーフリートの高みに上ろうという意思を否定することになるからだ。
「……ディーフリートも王の器を持つといわれた男だからな」
「それが余計なのよ。ディーは仁徳で人を惹きつけるタイプなの。それがカムイの傍に居て、そのカムイに王の素質があるなんて言われるから、力でねじ伏せるようなやり方を真似てしまうの」
カムイが第一印象で感じたディーフリートの印象は人たらしだ。大貴族など一切寄せ付けるつもりのなかったカムイが、心に潜り込んできそうだと恐れたことがきっかけだった。
「乱世の王と治世の王か?」
「どうかしら? あの馬鹿は治世でも立派な王になりそうだけどね」
「……確かに」
仁徳ではないが、人を惹きつける何かをカムイは持っている。乱世であろうと治世であろうと関係ない何かだ。
そして、ディーフリートも乱世では無能というわけではない。ただカムイとは異なる向き不向きがあるというだけだ。それがカムイを意識してしまうから、おかしくなるのだとセレネは考えている。
「……何だか腹が立ってきたわ。今度会ったら、絶対に蹴りを入れてやる」
「頼むから、その前に、自分の夫に喝を入れてくれ」
「……検討してみるわ」
カムイに蹴りを入れられても、ディーフリートにはそれが出来ない。結局、出会った頃の関係性が今も気持ちの中に残っているのだ。
「お前な。その遠慮が……、急ぐ必要はないか。しばらくは大きな動きはない。その間に、冷静になってもらえれば良いだけだ」
セレネのこうした遠慮が、ディーフリートのカムイへの嫉妬を生んでいるようにカルロスは思えた。だが、口にするのは止めておいた。嫉妬が全て悪い方向に進むとはカルロスは思っていない。自分も又、カムイには嫉妬しているのだ。
「大丈夫。ディーは必ず自分を取り戻してくれるわ」
「ああ、そう願っている」
立ち直ることがなければカルロスは、ディーフリートを切り捨てる決断をしなければならない。それがシドヴェスト王国連合の為であるならば。
◇◇◇
旧シュッツアルテン皇国の皇都は、そのままディア王国の王都となっている。だが、今、その城に翻っている旗は、ディア王国のそれではなく、ルースア帝国の軍旗だ。ルースア帝国の皇帝となったニコライは、今、この王都に居た。
「アーテンクロイツ共和国との交渉は順調に進んでおります。臣従の方向に進んでいるものと判断して宜しいかと思います」
報告を行っているのはヴァシリーだ。共和国との交渉にあたっていたヴァシリーだが、最後の大詰めといえるところまで交渉が進んだことで、一旦、ニコライ帝の判断を仰ぐために戻ってきていた。
「それは良いが、決着はいつになるのだ?」
臣従の方向に進んでいるだけではニコライ帝は満足出来ない。共和国の決着がついてもまだ大陸制覇は終わりではないのだ。
「条件を提示されました。この条件を我が国がのめば、それで決着かと」
「条件。それはどのようなものだ?」
「はい。非合法奴隷の摘発に関して、共和国に捜査権限を与えて欲しいというものです」
ヴァシリーが王都に戻ったのは、これを受け入れるかの判断を求める為だ。
「……具体的な内容が分からんな」
「非合法奴隷の売買をしている者、非合法奴隷を保有している者、こういった者たちを調べて、摘発する役目です」
「……共和国の目的はなんだ?」
謀略ばかりの共和国だ。ニコライ帝は、言葉通りには受け取れなかった。
「非合法奴隷の解放を確実に履行させる為と考えます。発布だけして、何も行動に移さないのではないかと怪しんでいるようです」
「ふむ。条件を受け入れることの問題は何だ?」
「……非合法奴隷の解放が口先だけのものであれば、問題はありますが、そうでなければ特にはないと思われます」
これを言うヴァシリーは、この条件を受け入れるべきだと思っている。帝国が動く必要がなくなる一方で、共和国は各地で活動を行う必要がある。共和国の国力をわずかでも削ることが出来れば、これほど良いことはない。
「好き勝手に動き回られるのは気に入らんな」
「そこは仕組みの問題かと。摘発には帝国の許可証が必要とでもしておけば、勝手なことは、そう出来なくなります」
「ふむ……」
ニコライ帝は少し考える素振りを見せる。考えるといっても具体的に何かあるわけではなく、何となく怪しんでいるだけだ。
「行き過ぎがあるようでしたら、その時、改めれば良いのではないでしょうか? まずは、共和国を臣従させること。これを優先すべきと思います」
とにかく共和国を臣従させること。そこから、じわじわと力を弱めていけば良いとヴァシリーは考えている。
「本当に臣従するのだろうな?」
「それは、そういう交渉でありますから」
「信じられるのかと思ってな。クラウディアはどう思う?」
ニコライ帝は問いを、この場に同席していたクラウディアに向けた。それを聞いたヴァシリーは、内心の不快さが表に出ないように無表情を装っている。
「きちんと約束すれば守ると思うの」
「それが信じられるか不安なのだ」
「じゃあ、試してみれば良いわ。ここに呼んで臣従を誓わせるの。それも大勢が居る前が良いかな。そうすれば、嘘なんてつけないと思うの」
「なるほど。それは良い考えかもしれんな」
ニコライ帝はクラウディアの提案を素直に喜んでいる。この様子を見て、益々、ヴァシリーは気分が悪くなった。
ニコライ帝には、あまりクラウディアには近づかないように進言していたのだ。油断させておいて、ディア王国が何かを企てている可能性もないわけではない。そうでなくても本国には、本来の正妃と次代の皇帝が居るのだ。正妃の座をクラウディアに譲るのは仕方がないにしても、後継争いが起こるような事態は何としても避けなければならない。
「ヴァシリー。傘下に入る国の者たちを王都に呼びつけて、臣従を誓わせるというのはどうだ? 我が帝国の威光を知らしめるにも良い方法だと思うがな」
ヴァシリーの内心の鬱屈など気付きもせずに、ニコライ帝はクラウディアの提案をそのまま告げてくる。
「……はい。検討してみます」
実際に悪い案ではない。特にカムイが、他国の者たちが見ている前で、ニコライ帝に臣従を誓うというのは大いに意味がある。
ただ問題は、これを要求したことで、共和国が臣従を拒否する事態になること。そして、悪意を持って共和国が謁見に現れた時に、果たしてニコライ帝を守れるのかという不安だ。
「さすがはクラウディアだな。良い案を教えてくれた。そうは思わないか?」
「……はい。そう思いますが、妃殿下は何故、この場におられるのですか?」
ルースア王国において、国政にかかわる事柄に王妃が口出すことは許されてこなかった。帝国となっても、それを変える必要はないとヴァシリーは考えている。まして、元皇国の皇帝であるクラウディアが国政にかかわるなど有り得ない。
「クラウディアは共和国の者たちのことを誰よりも良く知っている。共和国について、意見を求めるのは当然ではないか」
「……そうかもしれませんが」
そうであったとしても、共和国にかかわる事柄を話すとき、それも意見が必要な時だけ呼べば良い。
「クラウディアも一国の王だ。だが、まだまだ未熟で色々と学びたいというのでな」
「……そうですか」
ヴァシリーのクラウディアに対する警戒レベルが一気にあがる。未熟というが、クラウディアはシュッツアルテン皇国の皇帝だったのだ。それで今更、何を学ぶ必要があるのかとヴァシリーは思う。
「私が陛下にお願いしたの。迷惑かけてごめんね」
不満そうなヴァシリーを見て、クラウディアが謝ってきた。その口調も仕草も、確かに王というには、未熟を超えて、幼さを感じてしまうほどだ。王として学ぶべきことは山ほどあるだろう。
だが、ヴァシリーはそれにどこか違和感を感じている。心に湧いた警戒心が何かが違うと盛んに訴えていた。