5
ショーくん天音ちゃんから貰ったクマを抱っこしながら、僕は我が家に帰ってる途中。
久々に、ショーくん天音ちゃんコンビに会ったせいか、僕は気分が良かった。
腕の中には、ふわふわしたうさみみ帽子を被ったクマ。
間違えても、さっきのように『クマさん』とは呼んじゃいけない……。
特に、蓮様悠斗様の前ではね。今後、王子様キャラを作る上で、完全なる弱みになるだろう。
いやぁ、実にハメを外しすぎた……。我ながら、反省するよ。
「うふふ、可愛いクマさんね?」
「そうだなぁ。でも、大きすぎて抱っこできるかい?」
「大丈夫さ、これくらい軽いよ」
「そう? でもなんだか、クマさんが姫香をおんぶしてるみたいね?」
心外だなぁ。もう少しすれば、僕だってクマの身長を超えるよ。
そんなことを言えるのも、今のうちさ。
「そうだなぁ。抱っこしてきた時は、クマが一人で歩いてきたのかと思ったよ」
「前も見えないから、よたよたしてたわね?」
「真っ直ぐ歩けるさ……」
あぁ、なんか恥ずかしいね。クマが顔を隠してくれるからよかったけどさ。
で、でも、天音ちゃんとショーくんとゲーセンに行ったのは、後悔してないよ。実に有意義な時間だったさ。
――はぁ、初心忘れるべからずだね。
「うふふ、ちょっと寄り道して行きましょ?」
「そうだね、姫香のご機嫌もいいみたいだし」
「まぁ、こうなるならもっとお洒落させればよかったわぁ」
「ははっ、実にそうだね。承太郎君も来てくれるなんて、思わなかったからさ」
「もうっ、ショウちゃんも一言言ってくれたらいいのに。貴方のお古のスーツあげようと思ったのよ」
そういえば、ショーくんは一度もスーツを着た姿を見てないね。本人も、そんな高い物は持ってないと言ってたし、あるなら就職活動の時に役立つのにね。
「そうだな。承太郎君は、息子のようなものだ。立派になってもらいたいよ」
うんうん、とお父様は頷いている。
実のところ、僕が天音ちゃんとショーくんに懐くせいか、お父様とお母様は二人を贔屓してるようだ。
僕自身も、少々ハメを外すからね。
――あぁ、『くまさん』とか『小さくないもん』とか、色々治すべき所はありそうだ……。あー、顔が熱い。
「――本当なら、ショウちゃんを養子にしたいのだけれど……」
「――そうだね、我々では、助ける手段がない……」
「お父様、お母様……」
どうやら、僕が考えてる程世の中甘くないらしい。
金さえあれば、ショーくんは助けられると思ってた。
でも、ショーくんが受け取らないから、このままなんだと思ってた……。
違う、のか……。僕にも知らない世界があるんだ。
僕も、まだまだだね。
「そう、悲しむな」
「うん……」
「大丈夫、そのうち、きっとよくなる。そのために、お父様とお母様は頑張るからな」
「えぇ、心配しなくていいわよ?」
お父様とお母様は、優しい顔で笑ってくれる。そして、僕にピッタリくっついてくるんだ。
なんだか、二人は僕じゃなくて、自分自身に言い聞かせてるようだ……。
お父様、お母様。いつでもいいから、本当のことを聞かせて下さい……。
弱みは天音ちゃんとショーくん。