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 僕は、お婆様のお見舞いに来た。聖羅学園への合格を報告しに来たんだ。

 まぁ、それとは別に、飛鳥井家のことも言うつもりだろう。どうせ、諦めてないんだろうね。


「お婆様、聖羅学園に行けるよ?」


 そうそう、僕は世渡り術を身につけた。できるだけ一人称は使わないことだ。

 何かと不便だけど、いちいち嘆かれるよりましだと思うな。


「当たり前だね。お前さんは、いい子だからねぇ。ほら、もっと可愛い顔を見せておくれ?」

「はい、お婆様」


 このお婆様は、父方のお婆様。母方のお婆様は、アメリカに居るから、なかなか会えない。

 ちなみに、お母さんはハーフだ。だから、僕はクォーターかな?


「可愛いのぉ、姫香。お前は、天音(あまね)みたいに騒がしくないから、ええわ」

「天音ちゃん、いくつになりました?」

「高校生になったかのぉ。聖羅のお受験に失敗してから、なかなかいい学校に行けんでな。どんどん口うるさくなってきとるわ」


 はぁ、とお婆様はため息を付いた。

 まぁ、当本人の天音ちゃんは、黒ギャルだからお嬢様っぽくない。だから、親戚から疎遠されてる。

 でも、天音ちゃん本人は、とってもいいお姉さん。僕と会うと、必ずお菓子をくれる。天音ちゃんは、飴が好きだから、毎回可愛い飴をくれる。大体ペロペロキャンディーだ。


「お袋、姫香の前で言わない約束だろ?」


 辺りに、ピリピリした空気が流れる。僕とお婆様が会うと、必ずお婆様は天音ちゃんの悪口を言う。

 だから、うちのお父様とお母様は、極力お婆様と合わせないようにしてるんだ。


「姫香が、天音の毒牙にかかると……」


 お婆様は、これが原因で会えないこともわかってると思う。でも、必ず天音ちゃんの悪口を言う。

 でも、お婆様と天音ちゃんは頻繁に会ってるらしく、喧嘩しながらも仲がいい様子。

 きっと、天音ちゃんじゃなくて僕が嫌いなんだ。僕は、天音ちゃんと違って、キラキラした笑顔は作れない。

 だって、天音ちゃんは心の底から笑うから、いつも周りがキラキラしてる。僕は、そんな天音ちゃんが大好きだ。

 だから、お婆様に嫌われても問題ない。天音ちゃんがそのぶん、可愛がってくれるから。


「もういい、姫香。外で遊んできなさい!!」

「はい、お父様」


 僕は、一応お婆様に手を振った。お婆様は、寂しそうな顔をして僕に手を振り返す。全く、そんな顔するなら、天音ちゃんの悪口言わなきゃいいのに。

 残念ながら、僕は天音ちゃんと違って優しくない。

 だから、遊び相手を探そうと中庭に移動した。

 ここからは、お婆様の病室が見えるんだ。手を振ると、お婆様はすぐに振り返してくれる。遠いから表情はわからない。


「――君、何してるの?」


 急に、真っ白な服を着て、病弱そうな肌色の男の子が声をかけてきた。腕の一部分に絆創膏が貼ってある。年は、同じ年くらい。


「うん? お婆様に手を振ってるんだ」


 そんな子に構わず、僕はお婆様にジェスチャーを送る。すると、同じジェスチャーを返してくれる。僕が遊びに行く時、こうやってお婆様と遠くで連絡を取り合うんだ。いつものことだね。


「病室、行かないの?」


 男の子は、どうやら僕が気になるらしい。木陰に居たのに、気がつけば僕の横に立ってる。

 たぶん、同じ歳の子が珍しいのかも。ずっと、病院だと退屈するもんね。 


「遊びに行けって言われたからね。言うことに従わないと」

「じゃあ、暇なの?」


 心なしか、男の子の声が弾んでる。どうやら、僕の考えは当たってるようだ。


「うーん、対した用事はないよ?」

「――えっと、じゃあ、僕と遊んでくれない? 僕、体が弱くてずっと入院してるんだ……」


 やっぱり、当たりか。髪や肌が驚くほど白いし、腕には絆創膏の後も凄いね。きっと、点滴の後じゃないかな?


「学校は行かないの?」

「今年の四月から、小学校に行く年になるよ。でも、僕は体が弱いから、行くとしたら海外の学校だね……」


 男の子は、寂しそうに答える。どうやら、日本から離れるのが嫌なのかも。

 それまでに、友達が作りたいんだろうなぁ。


「同い年か。体が弱いと大変だねぇ。そうだ、君名前は?」

「僕、薫って言うんだ」


 あれー、君ラバで出てきたあの子と一緒か。まさか、苗字は違うだろうし。あの子は、女の子だしね。それに、見た目も全然違う。別人だね。


「この名前だし、幼稚園でも友達できなくて……」

「そっか、名前で苦労するのは、よくあるよね」


 や、やばい。姫香って名前で王子様キャラやって、果たして僕は大丈夫なんだろうか?

 でも、決めたことだ。駄目元で突き進もう。


「僕は、姫香だよ。僕も、この名前で色々言われたことはあるから、わかるね」


 狙いすぎって、よく幼稚舎で言われたことがある。相手は、姫カットでお姫様っぽい格好をした日本人形のような子だった。

 でも、毎回気の強い女の子が助けてくれるから、気にしてないけどね。


「可愛い名前なのにね。名前負けしてないと思うよ?」

「そう? ありがとうね」


 笑顔でお礼を言うと、薫くんは嬉しそうに笑った。

 薫くんは、真っ白な髪だ。しかも、薫君の目は赤い。兎みたいで、可愛いな。


「薫ー、薫ー。外に出ちゃ、日焼けするから駄目よー?」

「あ、ママー。僕ね、お友達と話してるところなんだー!」

「友達……?」


 ラフそうな格好をした女の人が歩いていくる。さぁ、王子様の発動だ。頑張ろう。


「こんにちは、綺麗なお姉さん」

「あらぁ? お上手な子ねぇ。どこの子?」

「白桜ですよ」

「あらやだ、白桜様? お父さん似なのねー!!」


 薫君のお母さんは、嬉しそうに笑って僕の頭を撫でる。どうやら、お父様を知ってるようだ。


「そうだ、よかったらお部屋でお喋りしましょ?」

「はい、僕でよろしければ!」


 その時だった。遠くから、お婆様の着替えを持ったお父様とお母様が見えた。

 遠くから、僕を呼んでる。帰るよ、と聞こえてきた。

 仕方なく、僕は薫君に「またね」と挨拶をした。

 その時の薫君は、捨てられた兎のような顔をしてた。耳があったら、絶対垂れ下がってるだろう。

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