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 それは、聖羅学園入学前だった。

 急に、お母様とお父様に連れられ、僕は車に乗せられた。

 いつも以上に、服の身だしなみもチェックされたし、甘ったるい香水もふりかけられた。髪だって、いつもはただのロングヘアーだったのに、前髪が内側にカールするよう、念入りにセットされた。服は、お母様お気に入りのピンク色のパニエ入りのワンピース。

 実はね、僕のお母様は甘ロリファッションブランドを立ち上げてるんだ。僕は、頻繁にモデルになってるのさ。嬉しくない話だ。


「お母様、お父様。これから、何処に行くか教えて?」

「楽しみにしてるといい。お前が、喜ぶ場所に連れてってあげるよ。マイ・プリンセス」


 そうそう。僕のお父様も、普段からこんな調子の人。この前の、僕のキメ台詞は全て「お父様に似たのね。素晴らしいわ!!」って感じに置き換えられた。

 近くに、完璧無敵な王子様が居るってのも、参考になるよ。

 でも、なかなか僕が王子様になれなくて、大変だよ。王子様になるのも、楽じゃないね。


「嫌だよ、僕は今知りたいんだ」

「姫香ちゃん、僕じゃなくて私でしょ?」

「いいじゃないか。僕が使うんだし、好きな一人称を使わせてもらうよ」

「あらぁ、もう反抗期?」


 お母様に、ため息をついた。あぁ、お母様。そんな悲しい顔しないで? 貴方に涙は似合わないよ。

 でも、僕は決めた道を進むんだ。帝王と知王に負けない王子様になるって、そう決めたから。

 だから、ごめんね。お母様……。


「いいじゃないか。今まで、姫香はお前の言うこと全て聞いたんだ。物言わぬお人形のようで、可哀想だった。特に、これと言った自我もなかったしな」

「だって、私のお姫様よ? 可愛いままで居てほしいの……」

「そうだね。でも、マイ・プリンセスの自由にさせないと。そのうち、鳥籠を抜けだしてしまうよ?」

「まぁ、鳥籠だなんて、酷いわ……っ!!」


 あぁ、お母様、泣かないで。どうしよう? このままじゃ、お母様の涙は枯れてしまう。僕のせいだ。

 でも、どうしよう? ここで屈したら、悲劇のヒロインルートまっしぐら。寂しい独り身生活なんて、嫌だよ。友達くらい欲しい。


「そんな、一人称くらいで大げさな。愛しのマイ・プリンセスが悲しんでるじゃないか?」

「でも、でも、貴方……」

「お袋にも言われただろう? 自分の思い通りにするな、とね」

「うぅっ……、可愛い、可愛い、私のお姫様……。私だけの、マイ・プリンセス……」

「大丈夫。ずっと、お母様の側に居るから」

「あぁっ、なんて優しい子なの!?」


 はぁ、お母様が喜んでくれた。これからは、できるだけお母様の前で一人称を使わないように努力しよう。


「お母様、苦しいよ」

「あら、ごめんなさい」


 ごめんね、お母様。でも、薫ちゃんに敵視されないようにするためなんだ。僕は、もう既にあの二人と出会ってしまった……。これから先、どうなっても友達になるんだろう。そしたら、見える未来はただ一つ……、薫ちゃんが転入してくる、あのゲームの未来。

 僕は、どうしてもそれを阻止しないといけない。だから、ごめんね、お母様。こんな、親不孝者でごめんなさい……。


「それに、いいじゃないか。この前、姫香が頑張ったお陰で、飛鳥井家の許嫁になったんだ」

「――へっ!?」


 ちょ、ちょ、ちょっと待って。こんなの、ゲームじゃ知らない設定だ。白桜、飛鳥井。両者はただの友人で、将来を誓い合った仲という設定はなかった。

 逆に、飛鳥井、烏ケ森の二人は、長男長女同士が許嫁になってる。

 どうして、どうして!? 僕が、下手に動いたせい!? ゲームの歴史が変わった!?


「ど、どうしたの?」

「蓮くんは、将来かっこよくなるぞ?」

「だ、だって!! 昨日会った人ともう許嫁なんて、早すぎるじゃないか!?」

「でも、蓮君は運命だと感じてるわよ?」


 あぁ、僕はどうしても運命から逃れることはできないってこと!?

 そんなの、あんまりだ……。


「あぁっ、姫香ちゃん。急に、そんなこと言ってごめんなさいね?」

「そ、そうだよ、姫香。許嫁候補というだけだ。完璧な、許嫁ってわけじゃない」

「本当? 本当だね?」

「あぁ、そうさ。安心しなさい」


 嫌な予感がするなぁ。胃が、キリキリ痛むんだ。

 何が、僕が楽しめる場所さ。そんなの、決めつけないでほしいね!! ったく、騙すなんて酷いじゃないか。


「ひ、姫香。怒らないでくれ。黙っていたお父様が悪かった……」

「知らないよ、勝手にすればいいじゃないか。僕は、所詮お父様とお母様のお人形だしね」

「そ、そんな。姫香ちゃん……。そんなつもりは無かったのよ……」


 その日、僕は飛鳥井家には行かず、お父様とお母様と一緒に、僕の好きな水族館へ行った。

 もちろん、蓮様は来てない。飛鳥井家には、体調が悪くなったと断りを入れたそうだ。

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