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油断の君

「あぁ、素敵!世界がとても美しく見えるわ!!」


アメリアは朝からずっとこの調子である。


だが、12歳の時からずっと思い焦がれていた相手が、やっと自分を見てくれたのだ。こうなるのは仕方あるまい。


リリーとベラとヒューは、お庭を走り回る可憐なアメリアを微笑ましく見ていた。


「ですが、お嬢様!あんまり、走り回ると危ないですよ!」


「……えぇ。」


ベラに注意をされた瞬間、アメリアは思い出した。

そうだった…この庭で私はカラムに愛人候補ができることを告げられたのよね…

急にシュンとなってしまった、アメリアにヒューが声をかけようとしたとき、アメリアは何だかおかしなことに気づいた。


「でも、まって。カラムは私に愛人候補のことなど、なーんにも言わなかったわ。それに、お母様もお父様も!」


「アメリア様…?」


「ねぇ、ベラ!愛人候補の話って誰に聞いたの?」


ヒューの心配そうな顔をよそに、アメリアは紅茶とお菓子を片付けているベラに聞いた。


「王宮お抱えの魔術師様ですわ。この前の豊作願いのお祭りに魔術師様は参加され、その後このお庭を見たいと仰って、いらっしゃったのです。そして、花達になにか魔法をかけてくださいました。その時に、魔術師様から聞きました!」


「ウェールズ家のお庭は、とても有名ですよね。私も初めて見た時は、感動しました。」


「ヒューにそう言ってもらえるなんて、嬉しいわ!…魔術師様がこの庭にいらっしゃったのね。その日、ドレスの視察に行っていて、会えなかったわ…」


残念がる顔をアメリアはしながら、内心ホッとした。


できるだけ、死亡フラグは回避したいのよ!


「でも、それってもしかしたら私のことをよく思ってない王宮の人達が、セシリー(ヒロイン)を愛人候補にして、私を除け者にしようと企んでる会話を聞いただけ…とかじゃないかしら?

昨日、カラムもお母様もお父様も、愛人候補について何も言わなかったわ!そんな大切なこと言い忘れるなんておかしいわ!」


やったー!とアメリアは、リリーとベラに話した。


「まぁ!そうでしたね!カーラ様(お母様)アーマンド様(お父様)も、何も言っておりませんでしたわ!そんなことって、おかしいですわね!私ったら、なんでこんなこと…。あの時、冷静な判断力を失っていたみたいです」


ベラは、申し訳なさそうに眉を下げた。


「えぇ、あのベラは異常な程焦っていたもの。ふふ…それに、私も倒れてしまったし…。私達、冷静に慣れていなかったのね!でも、カラムは私を好きだと、愛してると言ってくれたわ!これ以上ない幸せよ!だから、終わり良ければすべて良しよ!」


「お嬢様…立派になられましたね…それに、このほんのちょっとの間に、またお美しくなられましたわ!」


「まぁ、そんなことないわ!」


「大人の魅力ってやつですかね〜」


リリーとベラはニヤニヤと、アメリアを見つめた。


「で、でも…まぁ、えぇ…カラムを信じることに決めたわ。」


コホンとわざとらしく咳をして、アメリアは、庭に咲き誇るツルバラのように赤くなり答えた。


そこで、アメリアは ん?と顔をしかめた。


「でも、待って。そうしたら、ヒューは?愛人候補ができるから、私の護衛についたのよね?」


「違いますよ」


ヒューはニコリと笑った。


「えー!?違うの!」


「てっきり、私…愛人候補ができるからその護衛かと…」


アメリアは驚き、リリーは焦ったようにアタフタとした。


「私は、理由は何だろうとアメリア様にお付きになれるのが嬉しかったので、勘違いされていてもいいかなと思ったのです。…それに、護衛に付いた本当の理由はまだお話できませんので…」


ヒューは困ったような笑顔を浮かべた。


「まぁ、そうだったのね…。でも、これからもヒューは側にいてくれるのよね?なら、まぁ良しだわ」


アメリアは安堵の笑みを漏らした。


「お嬢様…私達、アメリア様を思う気持ちが先回りして、冷静な考えが追いついていませんでした…。本当に申し訳ありません」


青い顔をし、目に薄っすらと涙を浮かべたリリーとベラの謝罪にアメリアは驚いた。


「まぁ、私は気にしてないわ。本当よ!だって、勘違いしようと何だろうと最終的には、私はカラムと仲直りをできたもの!2人には感謝してるわ」


本格的に泣き出しそうな2人の背中を押し、アメリアは部屋へと戻ろうとした。


「んっ。…あら?」


歩き出したアメリアのドレスに、ツルバラのツルが絡まっていた。


「お嬢様?」


「先に部屋へ戻っていてちょうだい。ヒューがいるから、大丈夫よ!」


そのヒューは、庭のテーブルの上を片付けていてアメリアには背を向けているのだが。

そして、アメリアは絡まったツルに、手を伸ばした。

しかし、ツルバラは針が多く、アメリアの指に針が刺さってしまう。その瞬間、指先に割れるような激痛が走った。ジワジワと指先から体に巡る、軋むような痛みにアメリアの細い体が揺れた。


「な…っ…これ……」


「アメリア様っ!!!!!!」


ティーポットや、コップなどを台に乗せ終わったヒューが振り向くと、そこには苦しむアメリアがいた。



今にも死にそうな顔をしたヒューと、ヒューの叫び声を聞いて振り向いたリリーとベラの叫び声を最後にアメリアは、あまりの痛みに意識を手放した。

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