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希望の君

「姉さん、いる?」


ヒューの気さくな性格に乗せられ、アメリアとヒューの話は盛り上がっていた。


「えぇ、どうぞクラウド」


ヒューとの会話が楽しくて、ご機嫌なアメリアは音符がつく程、上機嫌にクラウドを招き入れた。


「…挨拶は、もう終わったんだよね?僕、姉さんと話をしたいから下がってもらえるかい?」


「失礼致しました」


クラウドの言葉に、ヒューは一礼し アメリアに微笑んでから、素早く部屋を出て行った。


「クラウド、いらっしゃい。さぁ、ここに座って!」


アメリアは、座っているベッドの隣をポンポンと叩いた。


クラウドは、やれやれといったように息を吐き出してから、アメリアの側へと歩いた。


「姉さん…僕は男だし、もう小さなクラウドじゃないんだよ」


「あら、そんなの知ってるわ。クラウドが女の子だったら、ビックリよ!それより、立ってないで座りなさい!」


自分よりずっと大っきくなってしまったクラウドを見上げ、アメリアは言った。そして、諦めずに自分の隣をポンポンと叩く。


「…はぁ…、まぁいいよ」


クラウドは観念し、アメリアの隣に腰を落とした。


「姉さん、こんなこと誰にもしてないよね?…天然タラシだよね、本当。」


最後の聞き捨てられないセリフに、アメリアは、頬を膨らませ、口を尖らせた。


「クラウドったら、背が高くなるのと比例して冷たくなったわ!」


「姉さんが、そんなんだからだよ。僕がいないと、姉さんには悪い虫が付き放題だ。カラム様には、同情するよ…。ツンとした顔してるのに中身は子供だよね。…まぁ、そんなところも魅力なのかもしれないけどね…」


最後の方は、ブツブツと何を言っているのかは分からなかったが、カラムという単語に、アメリアはもっと頬を膨らませた。


「なんで、カラム様の名前がでてくるのよ!」


「はいはい。」


適当に流され、アメリアはクラウドを睨んだ。クラウドは、そんなアメリアをチラリと見てから、話を変えた。


「そういえば、リリーとベラが、姉さんが元気ないって倒れそうな程心配してたから、来たけど大丈夫そうだね。」


「まぁ、リリーとベラが…」


悪いことをしたわ…と、アメリアは顔に影を落とした。


クラウドの話に合わせ、コロコロと変わるアメリアの表情に、クラウドは目を細めて微笑んだ。



「じゃあ、僕は行くよ。」


落ち込んでるアメリアの頭を、あやすように撫でてからクラウドは部屋をでていった。


「ふふ、これじゃ、私が妹みたいね」


アメリアは、落としていた視線を上げ、クラウドが出て行ったドアを見つめた。




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「おはようございます、お嬢様」


カーテンを開けられ、入り込んでくる太陽の眩しさにアメリアは目を覚ました。


「おはよう、リリー。昨日は色々迷惑をかけてしまってごめんなさい」


「あら、迷惑だなんて思ってませんよ!確かに死ぬ程心配しましたが、何事も無かったので良し、です!」


カーテンの隙間から差し込んだ、太陽の光よりも、眩しいリリーの笑顔にアメリアは、頬を緩めた。


「おかしいですね〜…ベラが、目覚めの紅茶をお持ちするはずなのですが…遅いですね…」


「あら、今日は何の紅茶かしら」


そして、リリーとの会話に華が咲き始めたころ、パタパタと足音が廊下から聞こえた。


「失礼致します。お嬢様!カラム様が今日お屋敷にいらっしゃいますわ!」


ベラは、紅茶の乗った台をカチャカチャと揺らしながら、口早に告げた。


「まぁ…カラム様が…。分かったわ。」


紅茶を受取り、味を堪能したあと、アメリアは、ベラの手を借りドレスに着替え、リリーに髪を結ってもらった。


アメリアの美しさを彩る程度の薄いお化粧。そして前髪を編み込み長い髪は背へと流し、スプレー•グリーン色の裾がフワリと広がるシンプルなドレスを着た。


「カラム様は、もういらっしゃるの?」


「はい。」


最後に、鏡をチラリと見てから、アメリアは、リリーとベラと共に部屋を後にした。


今日は、カラムが目を見てくれますように…と期待を込めて。


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コンコン

ノックをすると、久し振り聞く心地の良い声が聞こえた


「あぁ、アメリア。今日も美しいね。」


久し振りのカラムは、言葉では表せない程の美しさであり、誰もが感嘆の声を上げ、見惚れてしまう笑みを浮かべていた。


「お久し振りですわ。カラム様。」


私が見たいのは、お手本のようなその笑顔ではなく、昔のような気さくな笑顔なのに…とアメリアは視線を落とした。


「…その様呼びは、いつ終わるんだ?昔のように、カラムと呼んで欲しいのだが。」


カラムは、形の良い眉をピクッと動かし、アメリアに聞いた。


「カラム様が、私と目を合わせてくださったら…ですわ」


「そうか。分かった。」


ずっと目を合わせてくれなかったのに、そんな簡単に!?とアメリアは驚き、落としていた視線を上げると、それを待っていたかの様にカラムは右手をアメリアの頬に寄せ、左手を背中に当て、グイッと引き寄せた。


「カラムっ!!」


咄嗟のことに、アメリアは頬を染め名を呼んだ。


「やっと、呼んだ。」


口角だけを上げ、ニヤリと笑うその姿は、なんとも艶かしい。

なんなの、この天使は!それとも悪魔なの!アメリアは、あまりの恥ずかしさに目を潤ませ、唇を噛んだ。


「そんな顔をされると……あぁ、こうなるから、目を合わせられなかったんだ。」


突然のカラムの衝撃発言に、アメリアの高ぶっていた感情は急降下した。


やっぱり、私の見た目の問題だったのね…アメリアは溢れ出しそうな涙を必死に堪えた。


「違うんだ、アメリア。すまない。言い方が悪かった。そんな泣きそうな顔をしないでくれ」


「何が違うというの?婚約パーティーがあってからずっと目も合わせてくれないし、態度も冷たかったじゃない!ずっと、長い間気にしない様に心がけていたけど、もう無理だわ!私、ずっと寂しかったのよ…。本当のことを言って……私…のことが嫌いなの?」


とうとう耐えきれなくなったアメリアは、ポロポロと涙を流した。エメラルドの美しい瞳から落ちる涙は宝石のように見えた。

今までずっと、耐えてきた思いをぶつけると、カラムは切なげに言葉を発した。


「今までアメリアの目を見れなかったのは……恥ずかしい話なのだが、聞いてくれるか?」


アメリアは、小さくコクっと頷くとカラムと共にソファーへと座った。

大人5人でも座れるぐらいの大きさなのに、カラムはアメリアの腰を抱き、ピッタリとくっついた。


「私は、アメリアとの婚約が嬉しかった。そして、婚約パーティーの日、君を見て私は自分にガッカリした。

あまりにも君が美しかったからだ。天女のごとく神秘的で、どこか儚げで、私は一瞬にして目を奪われた。だが、その時己の未熟さに気がついた。その時の私は君の目を見る資格もない程に未熟だった。」


「まぁ、そんなことありませんわ!」


カラムは、ゆっくりと首を振った。


「君は、どんどん美しくなっていった。笑う顔、怒る顔、悲しむ顔…全てが愛らしく、私は君を手放したくないがために決めたのだ。

君の隣に相応しい男になろうと。

そうして、私は剣に武術に勉強にと、様々なことに取り組んだ。まぁ、その間君に会うことが出来なかったし、会っても照れて目が見られなかった…。君の側にいるために頑張っていたことが、結果的にこうして、側にいることができず、君に誤解を招いてしまって、冷たい男だと思われてしまって、元も子もないのだがな。」


カラムは自嘲的に笑うと、アメリアの頬を愛おしげに撫でた。


「では、私のことは嫌っていないのですか…?」


「嫌うなど、あり得ない。心から愛しているよ、アメリア」


ずっと、綺麗な宝石よりもドレスよりも何よりも欲しかったその言葉に、アメリアの心はジンワリと溶かされてゆく。

そして、アメリアは喜びの涙を流した。


「ずっと…ずっと好きだったのよ…」


カラムは、滝のように宝石(なみだ)が流れるアメリアの瞳にキスを落とし、そっと抱き締めた。


そして、アメリアは愛人候補のヒロイン、セシリーのことなど忘れ幸せに浸かったのであった。


この先も、この幸せが続くように…と。


だが、そんなアメリアの切なる思いは悪夢(ゲーム補正)によって、打ち砕かれるのであった…


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