虚ろな君
前半は、リリー視点となっております。
カチャカチャとベラが、一口も飲まれていない紅茶を下げる。
「…ごめんなさい。喉が渇いていなくて。」
虚ろな顔をした、お嬢様が呟く。
「…お嬢様、お庭にでてお散歩でも致しませんか?」
「いいえ、いいわ…」
それだけ言うとお嬢様は、窓際へと歩いて行ってしまった。
昨日カラム様とのことがあってから、お嬢様は食欲がなくあまり夜も眠られていない様子。
私とベラで、精神的疲労に効くアシュワガンダの紅茶も作ってみたけれど、それも一口も飲まれません。
そして、お嬢様はヒューの姿を見る度にカラム様のことが脳裏に浮かぶのか、辛そうなお顔をするので、ヒューにはドアの前で待機していてもらっています。
「…どこか、遠くへ行きたいわね。私とベラとリリーと3人だけで…。」
お嬢様は何度もこう呟きます。
クラウド様とアーマンド様は、お帰りになさるときに、領民たちに引き止められ 宴にご出席されているので、明日まで帰ってきません。
何もできない自分が歯痒くて、悔しくてたまりません。
そんな時、コンコンとノックが響きました。
「まぁ、カーラ様…!」
急いで、ベラがドアへと向かうとそこにはカーラ様がいらっしゃいました。
「アメリア、ちょっといらっしゃい。」
カーラ様は、フワリと微笑むと部屋の中央にあるソファーへとお座りになりました。
「…どうしたの、お母様。」
ゆったりとお嬢様は、カーラ様の正面にお座りになりました。
「今、アーマンドとクラウドは領地に行ってしまっていないでしょう?隣国の王宮で開かれるパーティーにお招きされているのだけれど、アーマンドもクラウドも私も行けないのよ。明日には帰るってアーマンドは言ってるけど、きっと領民に慕われている彼はあと2日は帰らさせてもらえないわ、きっと。その間、私はここに残ってやる仕事があってパーティーに行けないのよ。…でも、友好を結んでいる隣国の王宮からお招きになっているから、断れなくて…。だから、アメリアに行って欲しいの。」
「…隣国の?…行くわ。」
私とベラは顔を見合わせました。カーラ様は、気分転換も兼ねて誘ったようですが、まさかこんなにも落ち込んでいるお嬢様が簡単に承諾するとは思いませんでした。
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こんなにも苦しいのは初めてだった。目から見える物は全てが色を無くしたみたいで、手も足も重く動かすのが凄く億劫。
空腹のはずなのに、吐き気がして喉を通らない。
これ以上リリーとベラに迷惑をかけたく無いのに、どうにもできない。
ずっと、心の中に悪魔が住んでいるかのように私に囁きかける。
セシリーのせいで、カラムが奪われた。
セシリーのせいで、カラムは惑わされたのよ。
セシリーさえ、いなければ…
そんなこと思ってない!と叫んでも、悪魔は消えてくれない。
このままでいたら、いつか自分は悪魔に喰われて乙女ゲーのアメリアになってしまうのではないかと怖くなる。
だから、アメリアはこのままではいたくなかった。
そんなときに、誘われた隣国のパーティー。
攻略対象の隣国の王子、アーウェル•メイヤールがいようとなんだろうと、アメリアはどうでも良かった。
どこでもいいから、とにかく遠くへ行きたかったのだ。
カラムとセシリーを忘れられ、アメリアを襲う悪魔を追い払えるぐらい遠くへと……




