第1話 新時代の戦争‐湾岸危機と第7軍団‐①
今回は連載版という事で、地上戦を最初から最後まで追いかける形になっています。それと、これまでに執筆してきた短編3本と同一の世界観ではありますが、内容的には完全に独立しているので他のを読んでいなくても大丈夫です。
ただ、演出の都合上、専門用語や特殊な言い回しが頻出するのはご容赦ください。
1991年1月17日に20世紀最後の大規模戦争となった『湾岸戦争』が勃発した事は、うろ覚えであっても多くの人々が正確に答えられるだろうが、開戦へと至る経緯については自分から積極的に調べようとしなければ目にする機会さえ少ないように思われる。
そこで、まずは当時のイラク首脳部がどうして国際法を犯してまで隣国クウェートに対する軍事侵攻を決意したのかを簡単に見てみよう。
その際に大きなキーワードとなるのが1980年に勃発し、一応はイラク側が優勢だったものの最終的には決着が付かないまま1988年に停戦を迎えた『イラン・イラク戦争』だ。
この戦争は名称が示す通り、政治や宗教の面でも対立のあったイランとイラクの間で軍事的・経済的にも重要な位置にあった川の領有権を巡って勃発した地域紛争みたいなものだったが、エスカレートを続けて長期戦となった果てに浪費した莫大な戦費は、気が付けば国家財政を破綻させる程の金額にまで膨れ上がっていた。
しかも、それだけの資金と数十万人にも及ぶ死傷者を出しておきながら得られたものは全く釣り合わないほど僅かで、最終的にイラク政府の手元に残ったのは戦費として外国から借りた約800億ドル(当時の為替レートで約10兆2400億円)に上る対外債務と、予想外に長引いた戦争の中で分不相応な規模へとなし崩し的に肥大化した軍隊だけだった。
なので、当時のイラク首脳部は世界有数の産油国である事を利用し、原油の輸出によって財政再建を図る安易な解決策を選んだのだが、そういう時に限って輸出価格の指標となる原油価格が想定よりも下がっていたので思ったほど利益が上がらなかったのである。
ところが、イラクの独裁者は原油価格が下落した原因はOPEC(石油輸出国機構)の定めた割り当て量以上に増産している湾岸産油国にあるとして脅しをかけ、その中でもクウェートに対してはイラクのルメイラ油田(この油田は国境を挟んでイラクとクウェートの両国に広がっている)の原油を掠め取っているとして特に強く非難した。
もっとも、原油の勝手な増産に関しては様々な思惑が絡んでいるのでイラク側の主張が全て間違っているとは言えない部分もあるが、こうまで強くクウェートを非難したのにはイラクがクウェートを主権国家として認めていないという特殊な事情があった。
ただ、その根拠となるものが「クウェートは昔からイラクの一部であり、クウェートの現政権は欲深い者達(いわゆる資本家)と帝国主義者(この場合は欧米諸国を指す)が共謀して作った傀儡である」という独裁者特有の自分勝手な意見である事を忘れてはならない。
確かに、イギリスの植民地統治を経て独立を果たしたという歴史を考えればイラクの一部だったのかもしれないが、それでもクウェートは国際法の下で独立を認められた主権国家だ。
なので、たとえ過去の歴史や国連を始めとする国際機関の裁定に不満があったとしても国際法で決まった以上は従わなければならない。ところが、そういった基本的なルールでさえ独裁者の前では紙くず同然だという事を今回の一件で証明してしまった。
そして、国境を接する隣国への軍事侵攻を決意した最後の理由が『イラン・イラク戦争』によって肥大化した軍隊の有効活用であった。
なぜなら、軍隊という組織を維持するには平時であっても莫大な費用や物資が必要になるのだが、戦時体制を引きずって必要以上に多くの兵士を抱えていた当時のイラク軍の規模は国家財政に大きな負担を掛ける状態にまで陥っていたのだ。
ちなみに、イラク軍には正規軍とは別に『共和国防衛隊』と呼ばれる精鋭部隊が存在しており、ある意味で独裁者の私兵とも言える特殊性から同部隊には高性能な兵器が優先的に配備され、兵士達も独裁者に忠誠を誓う極めて優秀な者達を中心に構成されていた。
当然、この共和国防衛隊も当初は大統領官邸を守る数千人規模の部隊だったのだが、独裁体制を維持し続ける為にイランとの戦争中も強大化を推し進めた結果、最盛期のクウェート侵攻を決意した頃には総兵力が15万人にも達する巨大な戦闘マシーンに変貌を遂げている。
そんな訳だからクウェート侵攻においても信頼の厚い共和国防衛隊が攻撃の主役を務め、書類上では数が多くて充実しているように見える正規軍の方を占領地域の安定化に使うのも自然な流れであった。
少々話が脱線したのかもしれないが、こういった事情で巨大化した軍隊の維持が国家財政を悪化させている原因なら、あまり軍事に詳しくない人の脳裏には軍縮を行えば良いという案が真っ先に思い浮かぶだろう。
しかし、ただ軍の規模を縮小するだけでは何の解決にもならない事は組織の構造をふまえた上で少し考えれば直ぐに分かる。
そもそも、軍縮とは民間企業におけるリストラと同じなのだから実行すれば多くの兵士達が失業するのは当然の結果として、他にも軍隊に関連する様々な業種(出入り業者・軍需産業・基地周辺でのサービス業など)が衰退してしまうからである。
そして、このような形での失業者の増加は治安の悪化や地域経済の減衰へと繋がり、そういったマイナス要素は最終的に税収の減少を招き、負担を軽くして楽になるどころか国家経済を悪化させる逆効果となる可能性すら抱えている。
つまり、総合的に判断すると必ずしも軍縮が経済にとって正しい選択になるとは限らないのだ。もっとも、それは民主主義を標榜する国家でも抱えている共通の課題であり、支配者に富と権力が集中する独裁国家においては微妙に抱える問題も異なってくる。
おおよそ見当が付くとは思うが、強権的な支配や恐怖で国民を押さえ付けるタイプの独裁者にとっては自身の持つ絶対的な権力を維持する事こそが最重要命題である事が多く、それゆえ目に見える形での成果を国民に示し続けるのが体制維持の常套手段の1つとなっていた。
これを当時のイラク指導部に当てはめると、地味で効果もはっきりしない政策よりも新たな戦争を起こす事を選択した背景には『イラン・イラク戦争』での失敗を帳消しにし、同時に独裁者が最も恐れるクーデターによる権力失墜へと至る道を早々に潰しに掛かったとの推測も充分に成り立つ。
そこには古今東西、圧政を敷いてきた独裁者が反体制派によってトップの座から引き摺り下ろされた後の末路と言えば、その場の流れで勢いに任せて見せしめのように処刑されるか、結果の分かりきった形だけの裁判を経て死刑が執行されるものと相場が決まっているからだ。
特に独裁者自身がクーデターによって権力を手中に収めていたのなら、失脚した際に失うものの大きさと恐怖は他の誰よりも現実的な脅威として認識している事だろう。
とりあえず、かなり大雑把で湾岸戦争終結後に判明した事実なども含んだ説明になったが、これらの理由があってイラクは国際社会の予想に反してクウェートに対する軍事侵攻を実行に移したというのが現在の定説になっていた。
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結論から言えば戦端が開かれて僅か1日という短時間でクウェートの首都は陥落し、その6日後の1990年8月8日にはイラクによる勝利宣言(事実上の占領を意味する宣言)まで行われたのだが、開戦前の段階で当事者のクウェートを含めてイラク軍がクウェートとの国境沿いに集結している事に気付いていない者はいなかった。
なぜなら、非常に見通しの良い地域という事もあってイラク軍は戦力を集結させる行動そのものは全く隠していなかったし、共和国防衛隊の大部隊が砂漠の真ん中に設営された簡易陣地で待機する様子はアメリカ軍の偵察衛星によっても確認されていたからだ。
そうなると、どうして各国はイラク軍の動きを偵察活動で把握しておきながら、こうも簡単に侵攻を許したのかという疑問が最初に浮かぶだろう。当然、その原因も戦争終結後の現在では分析が進んで判明しているので、ここで何があったのかを少し話しておきたい。
まず、クウェート首脳部が問題行動の多いイラクの独裁者を刺激したくないという理由で全軍の警戒態勢を解除していた事が挙げられる。
確かに、国境沿いで軍事演習が行われるたびに警戒態勢を取っていれば対応に当たる側も次第に慣れて緊張感は薄れていくだろう(実は、それがイラク側の真の狙いだったとも言われている)し、こちらの対応によっては相手に開戦の口実を与える(それこそ、言いがかりに等しいようなものでも)かもしれないから出来るだけ穏便に済ませたいという考えも理解できる。
だが、自分達が武器を持たないで何もしなければ相手からも絶対に攻撃されないというのは希望的観測に基づいた幻想に過ぎず、どれだけ無駄に思えても常に戦争に備えておく事が平和を保つ1つの方法だというのが今回のケースで得られた教訓だった。
それは例えるなら、私達が義務でもないのに事故に遭ったり病気になったりしても困らないよう任意で様々な保険に加入する感覚に近く、安全保障戦略に基づいた軍事力というものは国家にとっての保険みたいなものだからだ。
2つ目の要因としては、アメリカ軍上層部が自分達の軍事常識に囚われた思考のままで情報を分析した結果、イラク軍が次に起こす行動を読み違えたのが深く関わっている。
事実、大規模な侵攻作戦を実施すると仮定した場合に取るべき行動をアメリカ軍の軍事常識に当て嵌めてみると、当時のイラク軍の間で飛び交っていた軍事交信の量は明らかに少なかった上に軍事物資の集積は作戦を控えているとは思えないほど乏しく、なにより大部隊の毎日の作戦行動を支えるには前線へと繋がる補給線があまりにもお粗末で耐えられそうになかったからだ。
その為、彼らはイラク軍の大部隊が行動を起こしたのを実際に確認した時でさえ戦闘は局地的なものになると予想していた。前述した通り、軍隊というものは平時であっても大量の物資を消費する存在だという点に関しては世界共通の認識となっている。
だからこそ戦時ともなれば、作戦行動前の最初の段階で膨大な量の軍事物資を集積し、その後も作戦行動に伴って消費される軍事物資を補うのに充分な量を安定して前線に送れるよう支援体制を整えるのが作戦計画を立てる上での常識だった。
しかし、そのような民主主義国家の軍隊における常識は独裁者に率いられた軍隊には一切通じず、どんな状況でも彼らは命令さえあれば行動を起こす事が出来た。
そして、3つ目の要因としてイラク軍上層部の方でも情報管理の重要性を強く認識しており、アメリカの情報機関に動きを掴まれないよう偽装工作を入念に行った事が挙げられる。
その偽装工作とは、通信傍受対策として重要な指示は昔ながらの伝令や有線電話を使って伝え、先にも述べたようにアメリカの軍事常識を逆手にとって作戦遂行に欠かせない軍事物資の集積すら意図的に極限まで減らして侵攻計画を隠したのだ。
もっとも、軍事物資の集積を極限まで減らす行為は作戦展開によっては致命傷となる程のリスクを抱えているのだが、今回のイラク軍が想定する当面の敵は自分達よりも遥かに規模の小さいクウェート軍なので、もしかすると彼らの中では小規模な戦闘だけで簡単に勝利できるとの確信みたいなものがあり、長期戦の可能性を排除した事は賭けでも何でも無かったのかもしれない。
ただ、そういった自分達にとって都合の良い解釈や敵の巧みな策略が1つに重なった結果、イラク軍の大規模侵攻を事前に察知する機会は永遠に失われ、後に戦史に名を残す戦闘を除いてクウェート軍は組織的な抵抗を行う事なく自分達の領土から無念の脱出をする羽目になった。
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イラク軍によるクウェート侵攻は1990年8月2日の深夜、時計の針が午前0時を30分程すぎた頃に始まった。
まずは工兵部隊(直接的な戦闘よりも障害物の設置や撤去、架橋といった土木作業がメインの部隊)がイラクとクウェートを隔てる国境線の障害物を除去する為に本隊に先行して越境し、その後方を共和国防衛隊の誇る主力兵器である『T-72』MBT(主力戦車)や『BMP1』IFV(歩兵戦闘車:歩兵を敵の攻撃から守りながら輸送するだけでなく、必要に応じて火力支援も行える装甲車両)、砲兵火力を支える『GCT』自走榴弾砲(砲撃システムそのものを車両に直に搭載して自走できるようにし、素早い移動と砲撃を両立させた兵器)といった重車両が数kmにも渡って隊列を組んで進んでいたのだ。
これが今回のクウェート侵攻作戦で攻撃の主力となる共和国防衛隊の1つ『ハムラビ戦車師団』で、同師団はイラク南部にある国境沿いの街サフワンの先にあるアブダリ税関所を抵抗を受ける事もなく突破すると、そのままクウェート領内を南北に貫く幅広の高速道路を南下してジャハラ・シティを目指した。
ちなみに、ジャハラ・シティは首都クウェート・シティの玄関口に当たる都市であり、ここを制圧すれば首都への道が開けたも同然である。
また、それとは別にハムラビ戦車師団所属の1個旅団は別働隊として本隊が進む高速道路よりも東に位置する海岸沿いの道を進撃し、本隊の側面を警戒すると共にクウェート軍の抵抗を排除していった。
さらに、もう1つの共和国防衛隊の部隊『タワカルナ機械化師団』もサフワン方面より南下するルートでクウェートの重要拠点を目指していたのだが、さすがに1本の高速道路で2個重師団(MBTやIFVといった重量のある装甲車両が中心の部隊)の全車両が移動するのは無理があり、車列が長くなるほど側面から攻撃されるリスクも大きくなるので、やや西にある幹線道路も使って移動したと思われる。
そして、3つ目の共和国防衛隊の部隊『メディナ戦車師団』は、上記の2個重師団よりも更に西の地点から国境を越えてクウェート領内の道路をジャハラ・シティに向けて進軍している。
なお、このメディナ戦車師団の任務には北からクウェート・シティ制圧を目指す主力の2個師団の側面援護を果たすだけでなく、サウジアラビアとの連絡線を遮断してクウェート軍の退路の1つを断つ事も含まれていた。
最後に、この3個師団以外の部隊として第8特殊部隊師団に所属する強襲チームがペルシャ湾方面より侵入して市街中心部を攻撃している。
その部隊名が示す通り、彼らは首都の重要拠点を素早く制圧して国家指導部の要人を捕縛するよう命令を受けた特殊部隊で、午前5時頃に行われた空爆の直後に約80機のヘリ編隊によるヘリボーン作戦(ヘリを使って地上部隊を敵地に投入する戦術)と小型艇を使った海岸からの揚陸作戦によって部隊を目標地域の直近へと素早く送り込んでいた。
その際、先遣隊として少人数で編成された幾つかの部隊が戦端の開かれた直後の首都中心部にヘリで潜入したらしく、後続の特殊部隊本隊を誘導する彼らの姿が不審者という形で確認されている。
ただ、これ程の規模でイラク軍が侵攻してくるとは予想もしていなかったクウェート軍の対応は完全に後手に回ってしまい、気球を使った国境沿いの早期警戒レーダー網がイラク軍の動きを探知した段階で戦闘準備の整っていた部隊は皆無に等しかった。
「大佐、我が方のレーダーがイラク軍の越境を確認しました!」
「それは本当か!?」
「はい! ずっと動きを追っていたので間違いありません!」
夜中に報告を受けた大佐は最初、何かの悪い冗談だと思って自分の耳を疑った。しかし、それが事実だと理解すると今度は警戒態勢を解除していた事に文句を言いたくなったが、ぐっと堪えて直ぐに指揮官として部下に命令を下す。
「では、直ちにシャヒード旅団を出撃させろ!」
「分かりました!」
こうしてイラク軍越境の報告を持ってきた兵士が大佐の命令を関係各部署に伝える為に敬礼をして駆け足で部屋から立ち去るのを見届けると、大佐は小さく溜息を吐いて指揮官としての毅然とした態度を崩して怒りと焦りの入り混じったような複雑な表情を浮かべた。
確かに、シャヒード旅団はクウェート陸軍の中でも最精鋭だと称される優秀な部隊ではあるが、それは万全の状態で戦える時に限った話である。なぜなら、どんなに強力な兵器であっても燃料が無ければ動けなくて的になるだけだし、弾薬が無ければ眼前の敵への攻撃すら出来ない。
また、時代と共に構造が複雑になる一方の現代兵器は一種の精密機械と言っても過言ではないので、出撃前には入念な点検と整備を行うのが鉄則であり、それを怠って戦闘中に故障でも起こそうものなら命で代償を支払う羽目になるだろう。
つまり、戦場で自分や仲間の命を預ける事になる以上、信頼の出来ない兵器に乗り込んで戦うなど自殺行為に等しいというのが全ての兵士が共通して抱く感情だった。
そして、今回のケースでも上記のような事情があったので、たとえ敵が国境を越えて自国の領内を堂々と進撃していたとしても戦闘準備を終えるまでは出撃できなかったのだ。
しかし、1人の人間であると同時に優秀な軍人でもある大佐は直ぐに意識を切り替えて個人的な感情を心の奥底に封印すると、自分がするべき仕事を片付ける為に先に出て行った兵士の後を追うように移動するのだった。
「いつ出撃できる?」
「少なくとも、あと7時間は掛かります。警戒態勢を解除していたのが影響して兵士の招集が間に合わない上に、車両に弾薬や燃料を補給するのに必要な人員まで不足しているので。それと、各兵士に配る水を輸送するトラックも到着が遅れています」
「状況が厳しいのは理解した。だが、時間が無いんだ。出来るだけ急がせろ」
「分かりました」
これは結果論だが、相手を刺激しないよう警戒態勢を解除していた事が初動の遅れに繋がり、それが部隊全体の行動にまで影響を及ぼしていた。なにせ、このままでは敵を撃退する前に出撃すら出来ないまま基地ごと破壊されるか、占領されてしまいかねないからだ。
しかも、今はクウェート全域が酷い混乱の渦中にあるだろうから、他所から人員を回して貰う事も基地へ辿り着く事も非現実的な選択肢になりつつある。
それどころか、情報が錯綜していて支援要請の連絡が正確に上級司令部へと伝わるのかさえ怪しい状況になっている可能性を考えれば、彼らには自分達の力だけで時間内に出撃準備を整えて敵の迎撃に向かうという選択肢しか残されていないだろう。
その後、兵士達の努力の甲斐もあってシャヒード旅団の主力はイラク軍越境の報告を受けてから約5時間半後の午前6時頃には出撃態勢を整え、偵察隊所属の4両の『FV601サラディン』装輪装甲車(コンバットタイヤを装着した装甲車両)を先頭に車列を組んでジャハラ方面へと進出する。
もっとも、戦闘の中核を担う旅団の装備は37両の『チーフテンMk5』MBTと1両につき11名の歩兵を乗せた8両の『M113A2』APC(装甲兵員輸送車)、7両の『M109A1B』155mm自走榴弾砲と3両の『M901ITV』対戦車ミサイル車両に過ぎず、主だった地上戦力だけでも共和国防衛隊の3個重師団を投入したイラク軍とは雲泥の差があった。
「大佐、第3戦車中隊より報告! クローラー(履帯:よく耳にするキャタピラは商標名)にトラブルが発生して戦車1両が動けなくなったそうです!」
「我々の作戦に変更はない! 本隊は現在のスピードを維持したまま予定通り前進を続ける! その戦車の乗員には、『修理を終えた後、可能なら追いかけてきて合流しろ』とだけ伝えるんだ!」
「了解しました!」
ところが、勇んで出撃した割には10分と経たない内に貴重な戦車の1両に深刻なトラブルが発生して道路上で動けなくなり、ただでさえ少ない戦力がますます心許無くなってしまう。
ちなみに、そのトラブルというのは走行中にクローラーを構成する1つ1つの部品を連結している部分が壊れ、それが原因となってクローラー自体が切れて転輪から外れてしまうというものだった。
意外に思われるかもしれないが、こういった装軌車両(クローラーで走行する車両)は長距離を自走すると駆動系へ負担が掛かって故障し易くなる。
ただ、今回のケースのように大した距離を走行していないのにトラブルを起こすのは流石に稀で、それが無くても苦しい状況にあるシャヒード旅団にとっては不運としか言いようがなかった。
しかし、こういった悪い出来事というものは何故か重なる事が多く、またしても今後の展開を不安にさせる光景が指揮車両のハッチから頭を出して周囲の様子を窺っていた大佐の目に飛び込んできた。
「くそっ、アイツら……!」
指揮官である以上は偶然目にした光景であっても動揺を悟られてはいけないのだが、さすがに何事も無かったかのように振舞うには厳しいものだった為、思わず感情的になった彼の口から悪態が零れる。
なぜなら、味方のサレム航空基地がイラク空軍機らしき2機の航空機、おそらくは『Su-22』戦闘爆撃機(NATOコード:フィッター)によって爆撃を受けているのを見てしまったからだ。
当然、基地を守る味方の防空部隊も反撃は行っている筈なのだが、敵機の機動を見る限りではダメージを与えた様子は無く、一撃離脱による攻撃を終えると遠雷のようなエンジン音を残して高度を上げながら悠々と北西の空へと飛び去ってゆく。
「どうする事も出来ないとは、歯痒いな……」
ただ、大佐は最後に誰にも聞こえないぐらいの小声で呟くと、再び個人的な感情を押し殺して鋭い視線を前方に向けるのだった。
その後、旅団はジャハラ・シティ郊外にある6号環状線の立体交差(サルミ道との合流ポイント)を南北から挟み込む形で戦車部隊を配置し、さらに自走砲部隊を両部隊への支援砲撃が可能な位置に配置して待ち伏せ態勢を整える。
なお、この場所に旅団の主力が展開したのは交通の要衝であると同時に、クウェート中枢の制圧を目指すハムラビ戦車師団の主力が通過するルート上では比較的待ち伏せに適した地形だったからだ。
ちなみに、ハムラビ戦車師団の全部隊が6号環状線に入った訳では無く、半数近くの部隊は1つ手前の立体交差から高速道路80号線に入って海岸沿いのルートでクウェート・シティ方面に進出している。
「大佐、6号環状線を進撃中の敵部隊が射程に入りました!」
「直ちに攻撃を開始するよう第7戦車大隊に伝えろ!」
「了解!」
午前6時45分頃、シャヒード旅団は敵に傍受されるのを警戒して無線封止をしていたので偵察班の兵士から直に敵部隊発見の報告を受けた大佐は、ほとんど迷うような素振りも見せないで旅団の命運を左右する決断を下すと、より敵の侵攻方向に近い立体交差の北側に配置した第7戦車大隊(『チーフテンMk5』MBTの26両が主力)に攻撃開始の命令を出した。
すると、無線封止の影響で少し時間が経ってから第7戦車大隊に今までとは異なる動きがあり、各戦車に搭載された55口径120mmライフル砲(砲身内部にライフリングと呼ばれる弾道を安定させる為の溝を掘った主砲。この場合の口径とは砲身長を表し、砲口サイズの120mm×55で6.6mとなる)が次々に6号環状線を進むイラク軍部隊に照準を合わせていく。
もっとも、各車両に搭載されたディスプレイに戦術情報をリアルタイムで表示する高性能な戦術データリンク・システムが搭載されている時代ではない(そもそも、ハイテク兵器の先進国であるアメリカ軍の車両ですら未搭載)ので、いきなり大隊に所属する全ての戦車が短時間で互いに重複しないようターゲットを選定して同時に射撃を行う事は非現実的であり、総攻撃と言っても実際には予め決めておいた順番で複数の小隊(3両)ごとに射撃していくという意味であった。
「よし、攻撃開始!」
こうして全ての準備が整うのを指揮車両のハッチから身を乗り出して見ていた大隊長は、戦闘に備えて敵歩兵が撃ってくるライフル弾ぐらいは防げる指揮車両内に戻ってハッチを閉めると即座に手元の無線機を掴み、大きく息を吸い込んで指揮下の戦車部隊に対して攻撃を開始するよう叫んだ。
さすがに、この段階までくれば無線封止を続けていても意味は無いので、無線の使用は命令の伝達速度と利便性を考慮しての判断だった。
すると、最初に攻撃を行う小隊に所属する戦車の主砲から一斉にAPDS(装弾筒付徹甲弾:砲口径より直径の小さく細長い重金属製の弾芯を軽金属製の筒で覆い、砲口から飛び出した直後に分離させる形状の対装甲目標用の砲弾。これは発射時に砲弾の受けるエネルギーが同じ場合、断面積が大きい方が初速は速くなり、空気抵抗は断面積が小さいほど少なくなるのを利用して着弾時の運動エネルギーを出来るだけ大きくする事を狙った結果でもある)が発射され、砲口を飛び出した直後に装弾筒を分離した弾芯部分は音速を優に超える高速で6号環状線を移動する敵部隊の先頭集団へと襲い掛かっていく。
そして、クウェート軍側に地の利があったお陰で現代の戦車戦における標準的な砲戦距離(約1000~1500m)を確保できたという事もあり、発射されたAPDSは僅かな時間(1秒ほど)で敵師団の先頭集団を構成する戦車に着弾する。
しかも、今回の待ち伏せ射撃では多少なりとも装甲の薄い敵戦車の側面(基本的に戦車の装甲は砲塔を含む正面が最も厚く、全体の重量の問題から他の箇所は正面よりも薄くなる)を捉える格好になっているので、第2世代MBTに属するMBTの中でも火力と防御力に秀でた『チーフテンMk5』にとっては相手が共和国防衛隊の誇る第3世代MBTの『T-72』であっても必殺の一撃だった。
その結果、戦闘が始まって早々に1両ずつの『BMP1』IFVと『BRDM2』装輪装甲車、それと2両の『T-72』がAPDSの直撃で装甲を貫通された直後に爆発を起こし、激しい黒煙を噴き上げながら炎上して路上に無残な残骸を晒した。
当然、この程度の戦果を挙げただけで攻撃が終了する筈も無く、偵察隊から敵撃破の報告を受けた第7戦車大隊の隊長は攻撃を続行するよう命令を下す。
「4両の敵車両の撃破を確認しました!」
「よし、このまま各小隊には一撃離脱による攻撃を続行するよう伝えろ!」
「了解です、隊長!」
ただし、いくら奇襲を成功させたからといって同じ場所から射撃を続けていては発射地点を割り出されて反撃を受けるのが常識だったので、クウェート軍の各戦車は素早く射撃態勢を整えると1~2発の砲弾を発射しただけで即座に全速力で後退して潜伏地点から脱出し、予め決めておいた次の攻撃位置へ移動するという動きを繰り返して道路上のイラク軍部隊を攻撃していった。
その為、道路上には破壊された多数のイラク軍戦闘車両が黒煙を噴き上げて炎上する障害物として至る所に散らばる形となり、奇襲による混乱と相まって順調だった部隊の進撃が一時的に停滞する。
ここでセオリー通りの対応を取るなら、攻撃を受けた側は即座に反撃に転じて全部隊の総力を挙げた攻撃で正面から敵を粉砕するか、反撃によって敵部隊を拘束しつつ捕捉を免れた別働隊による迂回攻撃と組み合わせて奇襲部隊を撃破するのだが、どういう訳かイラク軍は反撃する素振りさえ見せずにクウェート軍の攻撃が続く中で破壊された車両を避けて進撃を再開したのだった。
確かに、どちらの戦術を採用しても時間のロスと損害は避けられないので、あえて敵の撃破は後続の戦闘に特化した部隊に任せて機動力のある前衛部隊は進撃を優先するというのも場合によっては有効な戦術になるかもしれない。
だが、今回のイラク軍の動きを見る限りでは待ち伏せ攻撃を受けた事さえ理解できておらず、ただ単に上層部の命令に盲目的に従って進撃しているのではないかと思わせる反応であったが、命懸けで戦っている現場の兵士達に真相を探る余裕や手段など無かった。
「次の射撃地点へ移動するんだ! 急げ!」
なので、クウェート軍戦車もセオリー通りに待ち伏せからの一撃離脱に徹して道路上のイラク軍戦闘車両を片っ端から攻撃し、主砲の発射とほとんど同時にディーゼルエンジン特有のエンジン音と排気煙を周囲に撒き散らしながら次の場所へと移動していく。
もっとも、同世代平均を上回る強力な主砲や頑丈な装甲に比べて『チーフテンMk5』の搭載するエンジンは明らかにパワー不足と言える僅か750hp(馬力)の出力しか発揮できず、特に湿地帯や砂漠といった悪路での機動性に大きな弱点を抱えているので今回のように砂漠地帯で移動と停止状態からの攻撃を素早く切り替えながら行動するのには不向きであった。
しかし、それ以上にイラク軍の反撃が不活発な事も手伝って戦闘そのものはクウェート軍戦車大隊ばかりが攻撃して戦果を上げる一方的なものとなっていた。
「くそっ、数が多すぎる……!」
激しい戦闘の所為で誰が言ったかまでは分からないが、そんな悲鳴にも似た叫びがクウェート軍兵士の間から聞こえてくる。実際、どれだけ戦闘を優位に進めようともハムラビ戦車師団の保有する戦力を全滅させられる規模の戦力をシャヒード旅団は初めから有していなかったのだ。
だから、多少の遅れはあったと思われるものの、イラク軍は立体交差の南と北にある跨道橋(高速道路を跨ぐ陸橋)の確保に成功する。
そして、これによって戦闘地域は徐々に拡大していき、今では立体交差の南側に配置されたシャヒード旅団第8戦車大隊第3中隊所属の7両の『チーフテンMk5』MBTもハムラビ戦車師団を相手に激しい砲撃を繰り返していた。
「目標、2時方向にいるトレーラー上の自走砲! 弾種、AP!」
戦車内は騒音が酷いので手を伸ばせば届きそうな距離にいてもインターコム(車内用通信装置)を通して車長の命令を受けた砲手は手元のハンドルを操作し、撃破された車両の残骸を器用に避けながら低速で移動するHET(重装備輸送車:大型トレーラー)のトレーラー部分に砲塔を後ろ向きにして積載してある『GCT』155mm自走榴弾砲に主砲の照準を合わせた。
そして、この間に装填手は分離装薬方式(弾体と発射用の装薬を一体にした薬莢式とは異なり、それぞれを個別に装填するタイプ)という事で砲尾の扉を開けて先に砲身内部へ弾体を押し込むと、すぐさま弾体とは異なる場所に保管されている装薬を取り出して同じように砲身内部へ押し込んで最後に扉を閉めて密閉する。
「目標捕捉!」
「装填完了!」
実際には、ここまでの一連の作業は10秒も掛からずに行われており、ほとんど同時に上がった部下からの声で射撃準備が整った事を把握した車長は当然のように次の命令をシンプルな言葉で下す。
「撃て!」
それを聞いた砲手が主砲発射ボタンを押すと主砲の発射に伴う衝撃と轟音が砲塔内にまで伝わり、続いて装薬へ点火した際に生じる特有の臭いも狭い砲塔内に充満していく。
もっとも、今日だけで既に何発も主砲を発射してきた彼らにとっては衝撃も音も臭いも特別に意識する類のものでは無く、自分達が発射した砲弾の事など忘れて半ば条件反射のように全員が次の行動に取り掛かっていた。
なお、こうして発射されたAPDSは砲口から飛び出した直後に不要となった筒を分離して重金属製の弾芯だけとなり、進行方向に対してやや斜め前方より標的の砲塔側面の装甲に火花を上げて着弾すると多少の減速こそあったものの反対側の装甲まで一気に貫通してゆき、その衝撃でバランスを崩した自走砲はHETより落下して鈍い音を立てながら180度近く向きを変えた状態で道路上に取り残される。
さすがに、複数の戦車から狙い撃ちされている状況下で車両を停止させて回収作業などを行うのは自殺行為だと分かっているのか、HETの方も積荷の『GCT』自走砲が被弾して落下した直後に少し速度を落としただけで逃げるように走り去った。
「よし、後退だ! 次の射撃地点へ移動するぞ!」
「了解です!」
そうやって射撃を終えた『チーフテンMk5』の1両が後退を始めた直後、周辺警戒も兼ねて付近に展開していた味方歩兵から決して無視できない報告が中隊長の下に届き、今まで以上に張り詰めた空気に周囲が覆われた。
「敵戦車が接近中! 数は4!」
「方位は!?」
「11時方向! おそらく、側面に回り込むつもりです!」
しかし、第3中隊所属の戦車隊の反応は早かった。
「中隊各車、11時方向から接近中の敵戦車を最優先で攻撃しろ!」
無線を通じて中隊長から命令を受けるのと同時に中隊所属の7両の『チーフテンMk5』MBTが砲塔を次々に旋回させ、それに合わせて各戦車の操縦手は構造上の都合から仰向けに近い姿勢で操縦装置を動かして信地旋回(左右のクローラーを逆方向に回転させて前進や後進をする事なく方向転換を行う操縦方法)で車体の向きも変えて最も装甲の厚い正面を敵戦車へと向け、これから始まろうとしている戦車同士の砲撃戦に備える。
なお、戦車そのものの出力重量比(エンジン出力を車体重量で割った数値で、この値が大きいほど加速性能や最高速などの点で優秀な結果を残す事が多い)ではイラク軍の『T-72』の方が少しだけ上回っており、路外(整備された道路以外の不整地)を素早く走破して側面に回り込む動きで相手の弱点を衝こうとするのは理に適っていた。
だが、死角の多い戦車を援護する歩兵からの報告で敵の戦術を見抜き、接近するイラク軍よりも一足早く射撃態勢を整えた『チーフテンMk5』戦車隊は『T-72』が射撃位置へ就く前に攻撃を始め、中隊所属の戦車がほぼ同時に発射した計7発の砲弾は吸い込まれるみたいに移動中の3両の『T-72』を捉え、あっという間に激しく黒煙を噴き上げて炎上する鉄屑へと変えてしまう。
「目標、正面を移動する敵戦車! 弾種、AP!」
「目標捕捉!」
「装填完了!」
「撃て!」
それでもクウェート軍戦車隊は攻撃の手を緩めるような真似は一切せず、ただちに主砲弾を再装填すると残った1両の『T-72』に狙いを定め、轟音と共に高速のAPDSを叩き込んだ。
その結果、この憐れな『T-72』は複数の『チーフテンMk5』MBTの120mmライフル砲から同時に撃たれる事となり、最後は砲塔内に搭載してあった多数の弾薬が誘爆を起こして砲塔を空中に10m以上も吹き飛ばす大爆発を発生させ、炎と黒煙に覆われた無残な残骸を砂漠の中に晒すのだった。
当然、ごく短時間で完膚なきまでに叩き潰されたイラク軍戦車小隊に生存者がいる筈も無く、各戦車3名ずつ計12名の乗員は大半が被弾した直後に即死した挙句、戦車から脱出する暇もなく数時間に渡って焼かれ続けた所為で身元確認すら不可能になるという凄惨な最期を迎えた。
ところが、今度はシャヒード旅団の方が壊滅するかもしれないという危機的状況がいきなり発生し、それまで優勢に戦闘を進めてきた兵士達の間にも激しい動揺が起きる。
「敵のヘリが接近中!」
なお、この危機的状況を作り出した存在こそ9機の『Mi-24D』攻撃ヘリ(NATOコード:ハインド)に護衛された30機の『Mi-8』輸送ヘリ(NATOコード:ヒップ)で、重々しくも騒々しいローター音を戦場一帯に轟かせて北西の空より姿を現したからだった。
そして、そこには第1次世界大戦で新兵器として初めて戦場に登場して以来、テクノロジーの進化と時代の変化に合わせて最強の陸戦兵器としての地位を確立していった戦車ではあるが、地上戦に特化したがゆえに立体的な3次元機動から強力な武装で攻撃してくる攻撃ヘリや航空機には敵わないという厳しい現実があるからだ。
それに、近年では輸送ヘリは汎用ヘリに分類される事も増えており、ロケット弾などで武装した機体ともなると地上部隊にとっては決して侮れない攻撃力を発揮した。
勿論、攻撃ヘリとして運用される(限定的ながら兵員輸送能力もある)『Mi-24D』に至っては標準装備の12.7mmガトリングガン(4銃身)以外にロケット弾や対戦車ミサイルまでスタブ・ウイング(機体側面にある兵装搭載用の小翼)に搭載しているので、こうなると装甲の有無とは関係なく地上部隊からすれば天敵みたいに危険な兵器だった。
しかも、現在のシャヒード旅団が保有する対空兵器は全てを合わせても歩兵部隊に少数だけ配備された『スターバースト』携帯式SAM(地対空ミサイル)と一部の車両が歩兵掃討用に搭載している各種の機関銃(ヘリに対しては牽制射撃程度の効果しか見込めない)しかなく、どう考えても敵の大規模なヘリ部隊と正面から戦うには圧倒的に火力が不足していたのだ。
当然、いかなる戦闘車両であろうとも開けた場所での純粋なスピード勝負となればヘリの速度には絶対に勝てないので、この場より離脱するという選択肢は初めから存在しない。
「総員、対空警戒を怠るな!」
それでも何もしないよりは遥かにマシだと判断したのか、中隊長は無線機越しに指揮下の全将兵に対して警告を発すると指揮車両のハッチを開け、敵のヘリ部隊が現れた方角の空を見上げて無意識に鋭い視線で睨みつけた。ところが、ここで思わぬ事態が発生する。
「攻撃……、してこない?」
どういう訳かイラク軍のヘリ部隊は眼下に展開するクウェート軍部隊をあっさり見逃すと、速度を落としたり編隊を解いたりする事もなく上空を通過して何処かへ飛び去ってしまったのだ。
その為、未だに地上部隊同士の戦闘が続いていたにも関わらず、彼は呆気にとられたような表情を浮かべて飛び去るヘリの後ろ姿を目線で追い掛けると疑問を声に出してしまう。
これは推測だが、この時のイラク軍ヘリ部隊は輸送ヘリが主体でジャハラ・シティ方面に向かって飛行していたので、どこかの重要拠点にヘリボーン作戦を仕掛ける途中だった可能性が高く、単に与えられていた任務の都合でクウェート軍を攻撃しなかっただけなのかもしれない。
ただ、いかなる理由でイラク軍が絶好の獲物を見逃したのかは当事者でなければ分からないものの、それによってシャヒード旅団が命拾いした事だけは紛れも無い事実であり、お陰で攻撃ヘリの襲撃という最大の窮地から脱した同旅団は心置きなくハムラビ戦車師団との戦闘を継続できた。
「目標、1時方向の敵トラック! 弾種、HEAT(対戦車榴弾)」
「目標捕捉!」
「装填完了!」
「撃て!」
こうして轟音と同時に『チーフテンMk5』の主砲から発射されたHEATは2秒に満たない時間で立ち往生した『W50LA』野戦トラックの荷台下部に着弾すると、モンロー効果(炸薬を円錐状に窪ませる事で爆発のエネルギーを中心線上の一点に集中させる方法)によって内張りの金属が瞬時に融解してメタルジェット(液状となった高温高速の金属)となって車体を構成する鉄板を易々と貫通し、内部構造に深刻なダメージを与える。
すると、やや遅れてトラックの荷台からはオレンジ色の火の手が上がり、その炎は手近にあった可燃物を片っ端から呑み込みながら車両全体へと瞬く間に拡がっていき、最後は燃料タンク内のディーゼル燃料に引火したのか派手な爆発を起こして盛大に燃え上がった。
「敵の歩兵部隊が突撃してきます!」
しかし、別の場所では被弾しながらも運良く爆発を免れた『GAZ66』野戦トラックから10名以上の歩兵部隊が降車し、彼らは数人ずつに分散して遮蔽物の陰で攻撃を凌いでいた別の複数の歩兵部隊と合流すると果敢にも反撃してきた。
普通に考えれば完全武装の歩兵と言えども所詮は生身の人間であり、敵戦車を葬るのを目的に強力な武装と頑丈な装甲を併せ持った戦闘マシーンに攻撃を仕掛けるのは自殺行為に映った事だろう。
だが、現代の歩兵部隊には主力戦車を一撃で破壊する事も可能な携帯式の対戦車ミサイルが配備されているケースも多く、戦車内からの視野が極めて限られている所為で死角が出来やすい戦車にとっては状況次第で歩兵も天敵になり得る。
事実、第4次中東戦争序盤にスエズ運河を強襲渡河して橋頭堡を築いたエジプト軍に対して反撃に出たイスラエル軍戦車部隊は、油断から対戦車ミサイルを始めとした対戦車兵器を集中配備した防御陣地へ無策で突入して200両以上の戦車を失う壊滅的損害(開戦3日目にも別の戦域において半日で50両を失う)を受けている。
この戦闘は戦車部隊が戦車を除く各種の対戦車兵器によって組織的に撃破された世界初の戦いであると同時に、他兵科(歩兵・砲兵・偵察部隊など)の支援を受けずに戦車部隊が単独で攻撃する事へのリスクを血の教訓と共に知らしめた戦いでもあった。
ただし、シャヒード旅団の戦車部隊指揮官は対戦車兵器の危険性を士官学校や部隊配属後の教育で充分に熟知していたので、前線部隊からの報告を受けると直ぐに手元の無線機を掴んで味方に支援攻撃の実施を要請する。
「こちらは第8戦車大隊第3中隊だ! 支援砲撃を要請する! 座標は――」
「第51砲兵大隊、そちらの支援要請を受諾した! では、こちらは3分後に砲撃を開始する!」
「頼んだぞ!」
なので、後方に控える第51砲兵大隊所属の7両の『M109A1B』155mm自走榴弾砲は支援要請を受けると直ちに砲塔を旋回させつつ主砲(33口径155mm榴弾砲)の仰角も調整して攻撃態勢へと移行し、砲兵大隊指揮官の発した言葉通りに3分後には反撃を始めたイラク軍歩兵部隊の展開する区域を覆うように155mm榴弾の雨を降らせた。
この榴弾砲による砲撃の利点の1つは発射された砲弾が放物線を描いて目標に着弾する為、信管との組み合わせによっては塹壕に入ったり遮蔽物の陰に隠れたりしても被害を防ぐのが難しい点にある。
実際、破壊された車両の残骸や凹凸のある地形を遮蔽物として利用する事で水平方向の射線から逃れていたイラク兵達は、遮蔽物を飛び越えるようにして頭上から降り注いで着弾と同時に信管が作動して起爆する榴弾の撒き散らす高速の金属片によって全身を切り刻まれたり、単純に爆発時の衝撃で吹き飛ばされたりして次々に死傷していった。
当然、そんな状況下ではクウェート軍戦車への反撃どころではなく、彼らに残された選択肢は砲撃が当たらないよう祈って隠れ続けるか、車載機銃やアサルトライフルの銃弾に当たらないよう祈りながら射線の隙間を駆け抜けて砲撃対象になっていない場所まで逃走するかの2択だった。
そして、砲兵大隊所属の『M109A1B』自走榴弾砲は3発/分の発射速度で5分間に渡って指定された区域全体を焼け野原にする勢いで集中的な砲撃を加えると、現代戦では半ば常識となっている敵砲兵部隊による対砲兵射撃(飛翔する砲弾の弾道を専用のレーダーで捉え、それをコンピューターで解析する事で発射地点を割り出し、その情報を基にした砲撃による反撃)を警戒して即座に砲撃を止め、先程とは逆の動きで攻撃態勢を解除したかと思うと盛大にエンジンを吹かしてディーゼルエンジン特有のエンジン音を響かせて別の場所へ移動していく。
こうして的確な指揮のお陰で敵歩兵部隊による反撃を未然に阻止したシャヒード旅団所属の戦車部隊と歩兵部隊は戦果拡大の為に追撃を仕掛けようとしたが、それよりも一足早くハムラビ戦車師団の方が新たな行動を起こす。
「隊長、敵が後退していきます!」
さすがのイラク軍も侵攻速度の大幅な低下と損害の大きさを深刻に受け止めたらしく、未だに炎上を続ける複数の破壊された戦闘車両や多数の死傷者を戦闘があった区域の各所に残したまま逃げるみたいに後退を始めたのだ。
そんな状況の変化を部下からの報告で知った旅団指揮官の大佐は、ほんの一瞬だけ考え込むように正面を見据えて黙っていたかと思うと無線機を右手で掴み、はっきりとした口調で指揮下の全部隊に対して新たな命令を発する。
「旅団指揮官より全部隊に達する! これより補給部隊を向かわせるので各部隊は直ちに弾薬の補給を行い、完了後は別命あるまで周囲を警戒しつつ現状のまま待機せよ。なお、後退中の敵部隊への追撃は原則として禁止する。ただし、偵察部隊は索敵活動を継続し、何か異状があれば直ぐに報せろ。以上だ」
「了解!」
このように彼が命令を出すと即座に全将兵からは了承を示す短い応答が無線越しにあり、それぞれが自分の為すべき事を理解しているのが姿を確認できなくても雰囲気から伝わってくる。
ちなみに、大佐が追撃による戦果拡大よりも補給作業を優先した背景には先程の戦果を差し引いても戦力面でクウェート軍が劣勢なのに変わりは無く、今後は奇襲効果が期待できない状況でイラク軍師団の再侵攻を迎え撃たなければならないと判断したからだ。
そういった事情もあって戦闘は一時的に小康状態となり、遠くの方から響いてくる砲声や爆発音こそあるものの、この地域に限れば戦闘行為を連想させる音は消えていた。
「隊長、司令部が西からも敵部隊が接近中と言ってます!」
「分かった! 確認の為、こちらからも直ちに偵察部隊を向かわせろ!」
「了解!」
もっとも、その静けさは長くは続かなかった。なにせ、真偽を確かめる為にシャヒード旅団の偵察員が直接向かったところ、少し前に交戦したハムラビ戦車師団と同規模の部隊(メディナ戦車師団)が整然とした車列を組んで接近しているのを目撃したからだ。
そんな中で不可解な点があったとすれば、彼らの侵攻ルート上でハムラビ戦車師団が奇襲を受けて大きな損害を出したにも関わらず、新たに出現したメディナ戦車師団の部隊に待ち伏せを警戒している様子が全く見受けなれなかった事だろう。
あくまでも推測なのだが、ここまで無警戒だとクウェート軍による反撃など軽く粉砕できる程度のものだと侮っていたか、無線封止を徹底しすぎて逆に部隊同士の連携すら満足に取れていない状況で作戦を遂行していたとしか考えられない。
だから、大急ぎで本隊へと帰還した偵察員から敵部隊に関する詳細な報告を受けた大佐は最初、なんらかの罠ではないかと疑って眉をひそめたが、1分にも満たない沈黙の後に罠の可能性は低いと考えて先程と同様の待ち伏せ攻撃を仕掛ける事を決断する。
「総員、戦闘配置に就け! 攻撃目標は西から接近中の敵部隊だ!」
「了解!」
その結果、軍事パレードのように車列を組んで6号環状線とサルミ道が合流する立体交差付近まで進出してきたメディナ戦車師団の前衛部隊に対し、待ち構えていた第7戦車大隊の『チーフテンMk5』MBTが小隊ごとに120mmライフル砲による猛烈な射撃を浴びせた。
「目標捕捉!」
「装填完了!」
「撃て!」
まず、各戦車の装備する主砲の砲口を音速の5倍近い高速で飛び出したAPDSが前衛部隊の中核をなす『T-72』MBTや『BMP1』IFVといった装甲車両の装甲を貫通して次々に破壊し、続いて発射されたHEATが『W50LA』野戦トラックや『UAZ469B』汎用車両などの非装甲車両を片っ端から炎上させた上で残骸に変えていく。
そして、第7戦車大隊の後方にあたる南方へと布陣した第51砲兵大隊の『M109A1B』自走榴弾砲が155mm榴弾砲の砲身を高々と持ち上げて断続的に砲撃を行い、味方戦車部隊の先制奇襲攻撃で混乱状態に陥った敵部隊へ容赦のない追撃を仕掛けてセオリー通りの戦果拡大を図った。
しかし、時間が経過するにつれて少しずつ混乱から立ち直り始めたメディナ戦車師団も組織的な反撃を始めるようになり、その第一歩として自走砲大隊所属の『2S3』152mm自走榴弾砲がクウェート軍砲兵大隊の展開する地域一帯に152mm榴弾の雨を降らせる。
幸い、イラク軍の自走榴弾砲の発射した砲弾が着弾する前に『M109A1B』部隊は別の場所へ移動していたので直接的な被害は無かったが、今までのように味方戦車部隊と連携して効果的な支援する事が難しくなった所為で前線における総合的な火力は低下した。
さらに、この自走榴弾砲による砲撃はクウェート軍戦車大隊にも及び、こちらでも損害は出なかったものの結果として戦車大隊は攻撃の中止と後退を余儀なくされる。
当然、その隙を衝いてイラク軍の生き残った各種戦闘車両は牽制目的の射撃を行いつつも部隊としては戦闘地域からの離脱行動へと移行し、後方で再編成と補給を受けるべく同じルート上を進撃中の本隊との合流を目指して立体交差付近からは遠ざかっていった。
厄介な事に現状ではシャヒード旅団に追撃を行う余裕は無いのだが、それを補うかのようにクウェート軍側の援軍が空から現れた。
「隊長、味方の空軍機が来ます!」
もっとも、ここで現れた空軍機はシャヒード旅団を援護する為にはるばる別の空域より飛来したのでは無く、単純に自分達の機体が配備された基地を守ろうとして最も近くまで迫っていたイラク軍に狙いを定めたというのが現実だった。
ただ、地上で戦う将兵達からしてみれば空軍機の現れたタイミングが丁度、旅団が戦闘の主導権を失いかけた状況と重なった為に援軍という形で認識されただけである。
そんな訳で、サレム航空基地を離陸した3機の『A-4KUスカイホーク』攻撃機は基地北方の高度12000ft(約3658m)で2機と1機に別れると、それぞれメディナ戦車師団とハムラビ戦車師団に対する爆撃に向かった。
その動きは上空で別れた後もほとんど同じで、それぞれの攻撃機はイラク軍の対空兵器による攻撃を警戒して高度12000ftを維持したまま接近を続け、ターゲットとの距離が一定にまで迫ったと思った瞬間、いきなり機首を大きく80度以上も下げて急降下態勢に入る。
そして、エンジン推力を抑えていても急降下によって僅かに加速しながら高度3500ft(約1067m)付近まで一気に降下する間、攻撃機のパイロットは上昇させるのと同じ要領で機体に1G(重力加速度)以上の負荷を掛けると同時に左右の主翼下パイロン(兵装や支援機材などを機体に搭載する為の装備)から1発ずつ、計2発の『Mk82』500ポンド(約227kg)LDGP(低抵抗汎用爆弾)を投下し、爆弾が機体から離れると直ぐに機首を上げて上昇機動に移行すると最大推力で離脱した。
ちなみに、この爆弾は無誘導の自由落下爆弾なので機体から離れた後は物理法則に従って放物線を描きながら重力に引かれて落下し、地上へ着弾すると同時に爆発して爆風と高速で飛び散る無数の破片によって周囲の物や人に着弾点との距離に応じたダメージを与える。
しかし、何の変哲も無い従来型の無誘導爆弾ゆえに理想的な状態で投下できたところで『Mk82』LDGPはパイロットが狙った地点へピンポイントで着弾する可能性は極めて低く、その証拠に今回の爆撃でも3機の『A-4KU』がイラク軍車列の中央に投下した6発の爆弾による戦果は、『BMP1』IFVが1両と2両の『GAZ66』野戦トラックを破壊したに止まった。
それどころか、命中精度の向上とイラク軍の反撃を警戒して敢えてパイロットに高い操縦技術が求められる急降下爆撃を選択したにも関わらず、ハムラビ戦車師団を爆撃した『A-4KU』が機体後部への至近弾という形で『SA-9』自走SAM(NATOコード:ガスキン)から発射されたミサイルを被弾しており、この被弾が原因の機体損傷で飛行に支障をきたした事から早々に戦闘空域を離脱してジャビル航空基地へと緊急着陸している。
一応、戦闘空域には残った2機の『A-4KUスカイホーク』が爆撃終了後も敵部隊に対する牽制目的で旋回しながら待機していたが、出撃時に各機が搭載していた爆弾を2発とも投下し終えた事で大幅に対地攻撃力の減少した攻撃機では効果が薄かった。
なので、地上部隊による奇襲と攻撃機の空爆による混乱から完全に回復した2つの共和国防衛隊の重師団が態勢を立て直し、相手の戦力と布陣を踏まえて砲兵部隊や防空部隊の援護の下で戦車大隊と機械化歩兵中隊を中核とした部隊による反撃が始まると正面戦力で劣るシャヒード旅団に勝ち目は無く、ここへ来て同旅団の指揮官である大佐は徹底抗戦か撤退かの決断を迫られる事となった。
「総員に達する! 南へ撤退しろ!」
ただ、彼は即答に近い形で撤退の決断を下す。実際、お互いの戦力差を考えれば徹底抗戦を選択したところで旅団ごと包囲殲滅されるのは火を見るより明らかで、それだと多少の時間稼ぎにはなっても部隊の全滅と引き換えにして得られるものとしては割に合わないからだ。
もっとも、指揮官の決断が早かったお陰でシャヒード旅団は目立った損害を出さずにリスクの高い撤退を完遂してみせ、最後は無事に国境を越えてサウジアラビアに脱出している。
また、早朝より2箇所の航空基地から出撃して果敢に迎撃戦を展開したクウェート空軍の『ミラージュF1CK』戦闘機が搭載する『R.550マジック』赤外線誘導AAM(空対空ミサイル)や『A-4KUスカイホーク』攻撃機の『Mk12』20mm機関砲、各地の防空部隊に配備された改良型『MIM-23ホーク』SAMによって今回の侵攻作戦期間中にイラク軍ヘリを少なくとも30機以上は撃墜したとするクウェート側発表の記録も残されている。
さらに、上記のヘリに加えて爆撃の為に飛来した2機の航空機(『Su-22』戦闘爆撃機と『MiG-23BN』攻撃機)も改良型『MIM-23ホーク』SAMが撃墜したとする報告が未確認ながら存在した。
ところが、これらの空軍機や防空部隊の活躍は何故か広く知られる事は無く、クウェート軍による唯一の組織的抵抗としてはジャハラの立体交差付近での戦闘だけが大きく取り上げられ、最後は1990年8月8日にイラクの独裁者によってクウェートの一方的な併合が宣言されて終結となった。
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こうして見ると、イラクによるクウェート制圧は事前の準備・作戦展開・情報戦などの軍事戦術的な部分では成功を収めて共和国防衛隊が現代戦に適応した戦闘軍団である事を見事に証明したが、その背後では事実上の敗北に匹敵するような戦略的誤算が生じていた。
ここでいう誤算とは、侵略を強引に正当化する常套手段の占領後に傀儡政権を作る第1段階として特殊部隊による首都強襲で現クウェート首脳部の身柄の拘束、あるいは殺害を目的とした作戦を共和国防衛隊による侵攻と並行して実行に移したものの、対象となる要人(首長や国家元首といった王族)には一部を除いて捕捉する前に逃げられてしまった出来事を指す。
彼らは、いち早く危険を察知した側近の進言に従ってイラク軍が国境を越えた直後には少人数の護衛を伴っただけで防弾仕様の専用車に乗って脱出を始め、脱出先である隣国のサウジアラビアで早々に亡命政権を樹立して国際社会に自分達の正当性と政権が健在だという事をアピールしている。
そして、この亡命政権の樹立はアメリカを始めとする中東での影響力拡大を狙う国々に「クウェート正当政権の回復」という軍事介入に繋がる格好の口実を与える事となった。
まずは、自分でも特殊だと思う作品を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
このシリーズは現代戦を可能な限りリアルに表現する事に拘っているのですが、それゆえエンターテイメントとしては無理が生じていると思います。序盤の戦争勃発までの経緯がそうですね。
しかし、実際に起きた出来事をベースとする以上は外せないと考えて入れました。
その代わりと言ってはなんですが、今回も見所となる戦闘シーンはしっかりと書かせてもらいましたので、それでお許しください。
もっとも、タイトルになっている第7軍団は影も形もありませんが……。
さて、なんとなく予測はついていると思いますが、内容的には第1話はまだ終わっていません。なので、次話は第7軍団が湾岸地域に集結するエピソードです。




