ナイナスとハーバート
そして、今アルドヘルムとナイナス、コーデリアは、ハーバートの墓の前にいる。
質素な、とても質素な墓。豪華で偉そうなイメージだったハーバートとは打って変わった、みすぼらしい墓だった。
「ハーバート。ようやく全てが終わった。『ダモクレス』も無くなった。もう、二度とディスファレトをあんな悲劇を襲うことは、ないだろう」
墓に話しかけたナイナスに、コーデリアが尋ねた。
「ねえナイナス。あの返らなかった手紙を書くとき、どんな気持ちだったんですか?」
「なんだ唐突に。お前に何かを託せる、ほんの少しの可能性でもあるのならって、必死だったさ。本当に必死だった」
「そうですか。それは読んでいて伝わってきました。だからこそ、これをその時読めなかったことが悔しかったです」
ナイナスは苦笑した。
「そうか。俺はいつであろうとも、お前が読んでくれたことが何より嬉しいさ」
コーデリアは微笑んだ。そして、ハーバートの墓に話しかけた。
「ハーバートさん、あなたは私のお父さんです。色々あって、ずうっとナイナスを認められなかった。でも、何があってもナイナスは私を守ってくれました。近くにいてくれていなくても、それでも守ろうと必死でした。ハーバートと同じように。
比較対象の問題じゃないと思います。でも、今日からはナイナスも、私のお父さんです」
そして、コーデリアは向き返り、ナイナスに手を差し出した。
「これからもよろしく、お父さん」
「ああ、これからもよろしく、コーデリア」
二人は握手をした。遠くで小鳥がさえずっている。
「さて、では帰ったらお爺ちゃんがご飯を作ってあげよう。どうもナイナスではご飯は無理なようだ」
「そんなことないですよ! 作りますって!」
ナイナスは必死に弁解したが、コーデリアはそれがおかしそうに、笑った。
風に乗った白い花ががやさしく、コーデリアの頬を撫でていき、そして舞い上がっていった。
もう夏だ。コーデリアに似合う服を買わなければと、ナイナスは考えた。




