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再びの通路

 ナイナスはジョンに連絡を取った。どうせジョンが噛んでいると踏んだのだ。そしてその考えは正しかった。ジョンが通信に出たのだ。

「久しぶりだなナイナス。アルドヘルムさんも一緒だ。ナイナス、どうした?」

 ナイナスは事情を説明した。深刻な事態を。ジョンは、ううむと唸り、少々端末を打ち、返答した。

「最短経路でいけば、おおよそ二十分でクロヌスがいるフロアには辿り着けるだろう。そのフロアは居住フロアの一角だからな。子供の足だから、少しは時間が稼げるだろうが。いずれにせよ、彼女は全システムを把握している。厄介だぞ」

「とりあえず、彼女の現在位置と妨害をお願いしたい。それと俺の進むべき進路の確保と指示もだ。すまんな」

「いいや、慣れっこさ。取り敢えず遠隔から搬入用の扉と正面ゲートは開け、居住フロアの防火シャッターを全部下ろす。時間稼ぎと言ってもそのくらいだぞ」

「十分だ」

 ナイナスは駆け出す。搬入口の扉が音を出しながらその口を開いていき、すぐにトーマスたちが撃ち合いをしたあの忌まわしい正面ゲートに差し掛かる。それ程遠くはない。

 初回ナイナスが行ったルート、警備フロアから大回りして研究フロアと進むルートを通らなくても済む。仮にそのルートだと、『ダモクレス』の外周を丸々通る事になっていたが、今回は大幅にルートは短縮できる。

 そこをナイナスは一気に駆ける。息が弾み、心臓が口から飛び出そうになり、喉がからからに渇くが、それでも走る。

「ジョン、コーデリアの現在位置は?」

「待ってくれ。これは……。彼女は流石だな……」

「どうしたんだ、早く言ってくれ」

「正面ゲートを抜けた後、居住フロアへ迅速に物資を運搬するための物資搬入用通路がある。通常人は入ることが出来ないが、今あらゆるラインは止まっているし、子供のサイズなら入る事も可能だろう。彼女はそこから居住フロアを目指している。ちなみに通常の研究フロアを抜けるより、遙かに近道だ。居住フロアの防火シャッターも無意味だった!」

 嫌な予感がする。

 ナイナスは走った。明らかにコーデリアよりも先にクロヌスを確保しなければ、クロヌスを殺す可能性がある。

 しかし、一瞬ナイナスの頭を考えが過ぎった。本当に、クロヌスは救うべき人間なのだろうか。

 コーデリアの手を汚すのは論外だ。それは何としてでも避けなければならないだろう。だからナイナスは急いでいる。

 だが、ダモクレスをディスファレト城以外に不時着させ、その際にクロヌスを放置すればどうだろうか。

 誰も責めるものはいないだろう。不幸な事故として、終わる。間接的に手を下すことになるが、その咎を責める者はいない。

 自分の中の黒い考えがふつふつと沸き始め、コーデリアを止めたくせに、自分が未だクロヌスを許せないと考えていることに気付き、ナイナスは悩んだ。

 思えば、コーデリアの言う通りなのだ。

 ミーヤとの仲を引き裂かれたのも、ミーヤが死ぬ直接の原因を作ったのも、コーデリアがナイナスの元を離れる原因も、コーデリアが感情を失う原因も、すべてクロヌスが原因である。

 しかし、そのすべてに対し、ハーバートが助けてくれていたのも事実だった。

 その彼が間接的に殺すのを良しとしなかった以上、コーデリアに自ら言った言葉通り、助けて司法に任せるのが、人間としてできる最大限の行いだ。ナイナスは自分をそう納得させ、さらに走った。

 が、その眼前に、防火シャッターが立ちはだかる。

「ジョン、これを早く退けてくれ!」

 ナイナスは怒鳴る。だが、ジョンの反応は芳しくない。

「ナイナス、すまない、かなり高い権限からロックされた。遠隔の俺のアカウントでは、これを再度開けることはできない」

「通れないだろう! まさか、コーデリアの仕業か?」

「ああ、間違いなく、そうだ」

 ナイナスは防火シャッターを殴りつけた。

 こんな所で足止めを喰らうわけにはいかない。コーデリアを止めねば、大変なことになる。

 すると、無線から大きな声が聞こえた。

「このアカウントを使え。私のアカウントだ! まだ止められていないはずだ」

 アルドヘルムだった。

「ジョン、行けるのか?」

 ナイナスが不安そうに尋ねる。

「やった、いけるぞ。ただ、時間はない。すぐ通り抜けろ」

「わかった。息はとっくに上がっているが、通り抜けるさ」

「そこを抜ければ、すぐにクロヌスのいる場所だ。あと少しだ!」

 複雑な心境ながら、ナイナスは必死の思いで防火シャッターの間をすり抜ける。途中、予想通りコーデリアの妨害工作で、ゆっくりとシャッターは閉まり始めた。

 残り三枚。やや頭を下げれば通れる。走りづらい。残り二枚。強く頭を下げなければ通れない。走るというより、既に這うに近い状態。そして最後の一枚は、すでに潜るような状態で抜ける。

 腹ばいになりつつ、息も絶え絶えで、どうにか居住フロアの奥に辿り着く。汗みずくになりながらも、ナイナスはもう一度クロヌスをどうすべきかを考えた。

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