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ダモクレスの剣Ⅱ

 次にクロヌスが目を覚ました時、彼はどこかの椅子へと括り付けられていた。囚人用の拘束衣を着させられ、完全に動くことができない。

 だが、よく見ればその椅子は、玉座であった。クロヌスは見覚えがあった。この玉座は、『ダモクレス』に備え付けたものであったことに。彼の表情は凍り付いた。

 そして、クロヌスの顔を覗き込む男達がいた。

「お目覚めいかがでしょうか。さて、どうしてここにいるかわからないよね。ヒントは、ここは空の上なんだよ」

 クロヌスは背筋に寒いものを感じ、額にじっとりと汗が滲み始めていた。そして気丈にも答える。

「ここは『ダモクレス』か……? 今は封鎖されているはずでは……」

 救急隊員の格好を相変わらずしている男は大げさに相槌を打って見せた。

「正解! そうそう、あなたがとんでもない事をしでかしたおかげで、『ダモクレス』は閉鎖が決まって、一部の警備員以外はいなかったんだよ、まあ、相変わらず浮いてるんだけどね」

「では、何故ここに儂を!」

 男は嘲るように笑った。

「もしかして、本当にわからないとか? どこの筋かは教えられないけど、かなーり有力な筋からの依頼なんだよね、これ。貴族院にもいっぱい敵作ってたし、セイムスなんて、あなたのこと国中で敵視してるよ。ディスファレト教関連でも、あなたを恨んでいない人なんかいないんじゃないかな。まあはっきり言っちゃえば、恨み買ってないなんて、あなたも思ってないでしょ。いーっぱい買ってるよ、あなた。両手に余るくらいは確実に。誰が依頼したか、ちょっと考えてみてもいいんじゃないかな」

「儂を殺すつもりか?」

「ただでは殺さない、っていうか、手を汚すの、ぼくらのポリシーじゃないしね。この『ダモクレス』はあなた以外の全員を外に出して、落ちるよ。真下のディスファレト城に。もちろん、そっちも避難勧告は完璧。だから犠牲者はあなた一人だ。時間は結構あるよ、クライアントも粋だよね、ゆっくり悔いろ、って事じゃないかな」

 クロヌスは狼狽した。

「儂なら富も、名声も、地位も約束できるぞ! どうだ、そのクライアントよりも良い条件を掲示できるぞ!」

 男は見るからに嘲笑した。

「あなたの現在の総資産、見せて貰ったけどろくなモンじゃないよね。それに、名声も地位も、無理でしょ。立場わかってない人の発言だよ、それ。

 そして何より、あそこにいる二人。彼らね、両親が敬虔なディスファレト教信者でさ。フォエーナ、飲まされてるんだよね。それであなたを許すと思う?」

 クロヌスは何も言えなくなった。

「じゃ、ごゆっくり。警備員も連れて、ぼくらはここを離れるよ。どうか快適な空の旅を!」

 そう言い、三人はその場を離れていった。

 クロヌスは、だだっぴろい部屋の、玉座に括り付けられ、一人取り残された。

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