表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

略奪と後悔と

 夜。漆黒がすっぽりとすべてを覆う。そんな中、赤や青、黄色など色取り取りの夜景が、遥か上空に浮かぶ。上空四千メートルに夜景のみが光る光景は、極めて非現実的な光景だ。

 そして、その下に聳える古びた巨大な城。その傍ら、軍の基地内で、ナイナスが憤怒の形相で軍服姿の男に詰め寄っていた。男はカイゼル髭が特徴的だが、白髪が目立ち始めた初老の男。その目は優しく、そして悲しみに満ちあふれていた。

「アルドヘルム中佐! いったいどういうことです! 私は到底納得できません!」

 ナイナスは息を切らし、肩を震わせていた。だが、アルドヘルム中佐は、首を横に振った。

「私の抗議は受け入れられなかったよ。こう言ってはなんだが、私個人としては君たちの仲を引き裂こうなど微塵も考えていなかった。残念だ」

 ナイナスは、視線を落としたアルドヘルムにさらに詰め寄った。

「他人事ですか! 私にとっては到底承服できる内容ではありません。まさか、納得しろとでも言うつもりではないでしょうね! こんな横暴が、こんな横暴が許されていいはずがない!」

「では、王家に逆らって生きていけると本気で考えているのかね! 王家がどこまでも君を追い詰めるのは目に見えているぞ!」

 ナイナスはぎらりと燃えるような目でアルドヘルムを睨み付けた。

「我が身かわいさに、私に退けと仰いますか? 冗談ではない! 何があっても、私はこれを承服しませんよ! そうでしょう!」

 それを、アルドヘルムはゆっくり首を横に振り打ち消した。

「それが何を意味するか、わかっているはずだ。横暴は事実だ。だが、それに伴って、すでに我々も動いている。もし君が表立って動けば、即座に君を暗殺するよう、手はずが整えられている。今、射殺命令は出ていないが、すでに君には三人の射撃手が狙いを付けている状況だ。下手に動けば、文字通り自殺行為になる」

 にやり、とナイナスは笑った。

「望むところじゃありませんか。いやしくも、私たちは効率的に人間を殺すことでおぜぜを頂いている。満足に振るうのが、嗇かだとお思いで?」

 ナイナスは覚悟していた。王国にいる全ての軍人を相手にしても、構わないと感じていた。

「今君に狙いを付けているのは、マドックとバベット、それにトーマスくんだ。君は戦友の彼ら三人に引き金を引かせたいのか!」

 ナイナスは絶句した。プライベートでバーベキューを突くほどに仲の良い、彼ら戦友が銃を自分目掛け構えている。あまりにも王家のやり口はひどいと感じ、しばし後に激昂した。

「じゃあどうしろって言うんです! ミーヤが、王家に無理矢理略奪されるってのに、何一つ手を打たずに静観しろと? ふざけるのもいい加減にしてください!」

 今にも噛み付かんばかりのナイナス。だが、アルドヘルムとて、冷静ではない。

「では、私が冷静でいられると思っているのか、君は! 私とてミーヤの父親だ! 彼女の幸せを心から願っている! 誰が王家に人身御供のような真似で差し出したいなどと考える!」

 アルドヘルムの一喝に、ナイナスは拳を握り締めた。

「それならば、尚のこと!」

「打てる手はすでに打った! 私はねナイナスくん、随分とクロヌス王とは近しい関係で、一族は皆彼に忠臣として仕えてきた。それでも、王家の意向を変えることはできなかった……。だが、君も知っているだろう、この国では法は地に落ち、政とて王家の横暴の言いなりだ。人間は平等ではない……。そして、王家は常に最強の手札を握っている。仮にクーデターを起こそうにも、『ダモクレス』がある以上、勝ち目はない」

 ナイナスは歯噛みした。悔しさと怒りが全身を覆う。

「ナイナスくん。今は耐えるべき時だ。民主化の波がすぐそこまで来ている。絶対王制など、この近代の世で続くものではない」

「オニキス・マクレーンですか。確かに彼は有能だ。しかし、だからと言って一体何年待たねばならないんです! 十年ですか? 百年ですか? どれだけ、どれだけ待たねばならないんです! そして私のこの憤りは、一体どこに持っていけばいいんです!」

 アルドヘルムはじっとナイナスの目を見た。

「娘は言っていたよ。たとえ何があろうとも、心は君と共にある、とな。そして何があっても、君を生きさせろと言われた。君の生存、それが娘が王家に突きつけた条件だよ」

 ナイナスは壁を殴りつけた。

「畜生! 畜生……ッ!」

 殴りつけるたび、拳が血まみれになっていく。それは、彼の悔しさから溢れ出た血涙にも思えた。ややしばらくし、彼自身もその双眸から涙を流し、号泣しつつもなお、殴り続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ