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街角

 黒髪に髭を生やした男が、旨そうに煙草を吸っている。人足が絶えない街頭の隅で、ガードレールにもたれかかり、ぼうっと風景を眺めながら、男は薄汚れたアパートを見ていた。

 そして、煙草の火がもう少しでフィルタにまで達そうかという時になり、アパートの階段から足音が聞こえる。

「待たせたな、ジョン」

「久しぶりね」

 七三分けにメガネをかけた男と、女性の二人組が、男が女に手を貸しながら降りてきた。

「いいや、構わんさ。バベットさんも変わりないようで何よりだ」

 ジョンは、煙草を携帯灰皿で揉み消した。

 三人は特に何か目的があるわけでもなく、ぶらりと歩く。

「しかし、意外だったわ、ジョン」

「何がだ」

「トーマスが辞める、って言ったときに嘆願するなんて」

 三人は露天に差し掛かる。盛況そのもので、色取り取りの果物、野菜、シシカバブやらフランクフルトやら、煮物までが一同にひしめいている。活気が溢れ、皆たのしげだ。

 ジョンは、バベットの言葉にどうでも良さそうに返した。

「トーマスが部下を大勢あの事件で失ったのは事実だし、ナイナスを裏切った形になったのはそりゃまああるけどさ、ナイナス自身も腹に一物抱えてたわけだろう。責任を取って、ってのはな。それに、オニキスからの後押しがあっただろう」

 トーマスは肯いた。

「まさか、オニキスが俺の進退に口出しをしてくるとは思っていなかったけどね。今じゃ雲の上の人だっていうのに」

 そう言うとトーマスは上の方を見上げた。

 そこには高いビルの壁に、大きなポスターが貼られていた。

 オニキスの顔が大きく笑顔で描かれ、片手を振り上げている。そしてその横にはこれまた大きな文字でこう書かれていた。

「初代大統領オニキス・マクレーンがディスファレントを変える!」

 トーマスは苦笑した。

「まったく、俺はとんでもない人間に銃を向けちまったな」

「まあな。ただ、王族派の選挙に対する妨害工作は凄まじかった中、良く勝てたよ」

 ジョンが言うなりバベットはすぐに言葉を返す。

「何より、クロヌス王の横暴にはみんな閉口していたわ。加えて、フォエーナの件や、核まで使おうとしていたなんて、国際世論も黙っちゃいなかったでしょう。犠牲者は決して少なくなかったけれど、『ダモクレス』の住人と、フォエーナの被害者に対する恩情を誰も忘れないわ。それに、セイムスもオニキスを強烈に後押ししたじゃない。あれだけの事があれば、国民も考えるわ」

「そうだな。確かにそうだ。だがそれだけに、俺は大佐が退役なさった事が残念だよ」

 ジョンの言葉に、トーマスもバベットも俯いた。

「責任感の強い人だからな。クーデターの片棒を担いで、のうのうとそのまま座に居座るというのは、許せなかったんだろう」

 ジョンの言葉にトーマスは苦笑した。

「耳が痛いな。でも、まだこれからさ。これからは、中から変えていかないとならないと俺は心に決めてる。泥ならいくらでも被るさ」

「頼もしいな。頑張ってくれよ」

 ジョンはトーマスの肩を強めに叩いた。

「まあ、俺たちだけが例の件からは蚊帳の外だったからな」

「それも、大佐の優しさだったのさ」

 ジョンの返答に、トーマスは複雑な表情を浮かべた。

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