アルドヘルムの戦い
狭い部屋。そこは、軍の施設でも、殊更に狭い、一部の人間しか知らない部屋だった。
明々と電灯が灯り、強く二人の男を照らす。本来は書庫として利用されていたのだろう、右の壁には本がぎっしりと敷き詰められ、正面の鎧窓の手前には、様々なコンピュータが、雑然とした配線と共に所狭しと並べられている。
二人の男達は軍服に身を包み、インカムを身につけ、二人の目線が重なる箇所に置いてあるモニターをじっと見つめていた。
奥の革椅子に腰掛けていた男が、おずおずと口を開く。
「ナイナスくんは、最深部に到達したのかね?」
カイゼル髭が特徴的で、皺が深く刻まれ、髪はすべてが真っ白になった男、アルドヘルムが、口を開いた。
「ええ。奴はよくやりました。様々な困難を乗り越えて、よくやりましたよ。もう俺たちからアドバイスできることはほとんど、ありません」
白髪が多少目立ち始めた黒髪の男、ジョンが老年の男に答える。
「そうだな。無用な戦闘をすべて避け、銃すら撃たずに彼は最深部まで潜り込んだ。たいした男だ。あんな事さえなければ今でも……」
「それは言いっこなしですよ。さあ、ナイナスが脱出するまでは、まだ気は抜けませんよ」
ジョンは大きく伸びをした。
すると、その途端扉を叩く音がした。二人は顔を見合わせる。
「大佐……ここのことは?」
「誰にも知らせるわけがあるまい。特に、王などに知れればどうなるか……」
再び扉が叩かれる。ジョンは傍らの銃を取った。だが、それをアルドヘルムが手で制する。
そしてアルドヘルムは扉の前に立った。
「大佐!」
「責任は私が取ると言ったはずだ、ジョン!」
そして、扉の鍵を開け、叩いていた主を招き入れた。
「アルドヘルム大佐! お迎えに参りました。貴族院への招聘を命じられておりまして、お探し致しました」
ジョンは不審な顔を見せた。理解できない。
「今日、貴族院があるなんて聞いてないですよ? どういうことです?」
だが、ジョンの疑問の言葉にアルドヘルムは答えなかった。
「赴こう。すまないがジョン、後は任せた。責任はすべて私に押しつけたまえ。宜しく頼んだよ」
そして、アルドヘルムは歩いて行った。ジョンはその様子を、唖然とした様子で見ていた。




