目的地
一方トーマス達は、度重なる戦闘を抜けて研究フロアを通過していた。勿論彼らも疲弊していたが、それよりも彼らには目標があった。
それは、管理フロア最深部ではなく、トーマスの元生徒によって託された、管理フロアの一室へのカード。そして、それによって開けられる扉へと向かっていた。
最短ルートで管理フロア最深部を目指しているナイナスとは逆方向にあたる。
そして、彼らの道中、警備の数は次第に少なくなり始めていた。
「こっちの警備まで手が回らないんですかねえ。まあ、好都合ですが」
エヴァルトは少し笑った。だが三人ともに傷は負っている。決して楽な道のりではない。
研究フロアは一律で似たような風景である。白い陶器のような表面加工をされた真っ白な壁に、ぴかぴかに磨き抜かれた淡いクリーム色の床だ。そこに血が点々と落ちる。
「正直、あまり余裕はないですね。後輩が残したカードが何を意味するかわかれば、即刻オニキスを暗殺して、帰りたいところだ」
ブルーノの言葉に、トーマスはぼそりと言葉を返した。
「すまんな、俺のワガママを」
「何言ってるんです、隊長。あんたの教え子は俺たちの兄弟みたいなモンだ。それがあんな事になっちまうのを止められなかったんだ。俺たちだって真実を知りたいんですよ」
エヴァルトとブルーノは、傷ついた顔をトーマスに向け、肯いた。
そして、銃声が響く。出会い頭、曲がり角に差し掛かったところからの銃撃。
「クソッ!」
ブルーノがすぐに気付き、二人を押しとどめた。
「調子づいてた矢先にこれですか。まあ、しょうがねえですがね」
だが、ブルーノはそれよりもさらに数段上の殺気を感じ、咄嗟にナイフを抜いた。
見るからに手練れの兵士が一人、立ち塞がっている。短く刈った髪に整った髭、精悍な顔立ち、身のこなしも、振る舞いからしてもただの兵士ではない。
「ナイフさばきには自信ありげだが、ここは通すわけにはいかん」
にこりともせずに、男は呟き、ブルーノが返しで薙いだナイフを宙返りで避ける。
「隊長! 先を急いでください! 早く! 全滅してしまう!」
ブルーノが切羽詰まった声をあげる。言いながら、目線は男から一切離さない。余裕が皆無なのだ。
「隊長! 行きますよ!」
「しかし!」
迷ったような表情を浮かべたトーマスを、エヴァルトは押し切る。
「生き残るのが先決だ! その気持ちも汲めないのか、アンタは!」
そう一喝し、胸ぐらを引っ掴んで立たせ、走り出す。
「退けろォ!」
サブマシンガンを勢いよく撃ち鳴らし、エヴァルトは走る。突っ切るつもりなのだ。
鬼気迫る様子のエヴァルトに、銃撃を加えていた警備兵二人は仰天した。そして、そのまま走るエヴァルトに、サブマシンガンを蹴られる。
派手にサブマシンガンが転がっていき、そのまま二人は管理フロア前の扉へと赴く。
そして、カードをカードリーダーに通す。承認され、扉が開く。猛然と二人は走り出す。そう、その奥に彼らが求めた、真実がある。




