ワイルドベアー
「ねぇベルちゃん。
ベルちゃんって中学生?」
ナツミが聞いてくるがそれはネチケット的に聞くべきではない。
「高校生」
まぁ教えるけど。
「ぇ・・・!?」
この反応が楽しいからな。
年齢ぐらいなら知られても問題はない。
「わ、私と一緒!?」
ナツミが物凄く動揺するのが伝わってくる。
一緒というより幼馴染です。
言わないけど。
「《マジックアロー》」
俺は近付いてきていたゴブリンに向けて《マジックアロー》を撃つ。
《索敵》は暇があれば使ってるからレベルが上がってる。
そう簡単には抜かれない。
「わぁ!!」
これぐらいで驚いていたら疲れるぞ。
「《ワイルドベアー》を倒したパーティはどんなパーティ?」
一応、廃人パーティの情報ぐらいは知っておこう。
「えーと・・・私のリア友のパーティなんだけどね。
確か純魔法使い、両手剣、片手剣、銃、盾が二人、だったかな」
戦闘パーティの王道だな。
前衛として盾がモンスターの攻撃を受けて両手剣、片手剣が近接攻撃。
後衛で純魔法使いと銃が遠距離という感じだな。
片手剣は片手で盾ももてるから壁としても使える。
だから後衛の護衛という事も出来る。
「そのパーティがぎりぎりで勝てたらしいよ」
ふむ・・・このゲームでのパーティの上限は6人だからフルパーティでぎりぎりという事はそこまでレベルは高くないということか。
パーティ内では経験値は平等に分配だし、ドロった金も平等に分配で、アイテムだけはランダムなんだとさ。
だから6人で一体の敵を狩っていると効率は6分の1、6体倒してやっと一人で1体倒したときと同等になる。
「βのままだとこの先」
俺とナツミはどんどん《南の森》の奥まで入っていく。
ここまで数十体モンスターを狩ったおかげで、《無属性魔法》の熟練度が50まであがってくれたから覚えた
《加速》がしっかりとあることを俺は確認してどんどん進む。
この《加速》は俺がβ時代に愛用した魔法の一つで、INTの%分だけAGIが数分間あがるというスキルだ。
熟練度が低い今だと10秒間に10%程度だが、βだと俺は5分間40%まであがるようになっていた。
だからあんなふうな回避が出来ていたんだ。
*
「うわぁー」
ナツミが横で少し前にいる《ワイルドベアー》を見ながら声を上げる。
《ワイルドベアー》は大体大きさは普通乗用車を縦にした感じだろうか。
一言で言うと大きいという言葉に集約される大きさだ。
とりあえず・・・奇襲するか。
「《マジックアロー》!!」
最大威力の最大数を《ワイルドベアー》に叩き込む。
もちろん操作してクリティカルの首を集中的に狙う。
――――ガァァァ!!
当たったみたいだ。
「ナツミはここから撃って」
俺はナツミが弓を準備するのを後ろに感じながら、前から迫ってくる《ワイルドベアー》を睨む。
この森によく来るレベル帯では《ワイルドベアー》のスピードにはついていけないが、一応βでそのスピードに慣れている俺だとそこまで早くは感じない。
というか遅い。
《ワイルドベアー》は大きな腕を振りかぶり俺に振り下ろしてくる。
(右上からの斜め振り下ろし)
軌道が読めたら少ないAGIの数値でも回避は出来る。
これが対人戦だと、ひっかけがあるから出来ないがこの当たりのモンスターなら単純だから簡単に出来る。
βのランキング組は大体目線から攻撃の軌道を読むぐらいはやってのける。
俺が攻撃を捌いている間にもナツミが弓を放ち、確実に《ワイルドベアー》に叩き込んでいく。
もう一人、前衛がいたら楽だが贅沢は言っていられない。
回避を繰り返しながら《マジックアロー》を唱えて撃ち込む。
《マジックアロー》はいろんな場面で使えて便利だ。
比較的呪文も短いし、誘導性もある。
避け切れない横ぶりの攻撃は腕を《マジックアロー》で攻撃して上に持ち上げ、その下をしゃがんで回避。
ちょっとだけノックバックも発生する有能な魔法だ。
「《加速》」
おっと危ない。
二本の腕で同時に攻撃してくるようになった《ワイルドベアー》から逃げるに、長い銀髪が少し爪に当たり切られた。
まぁ髪は少ししたら伸びてくるしいいか。
MPポーションは飲むのがめんどくさいから体に叩きつけてポーションを割ることで回復させる。
*
sideナツミ
私の前では一週間前ぐらいに見た動画が現実となっているようだった。
いや、ここは現実じゃないんだけどね。
私の弓の照準の先ではβのランキング1位の銀髪の少女が小さな体を使って《南の森》のフィールドボス《ワイルドボア》の腕の攻撃を右へ、左へ、たまに下へ華麗に避けていく。
敵の攻撃に自分の魔法を当てるとか・・・一体どうやってるのよ・・・。
もう30分は戦っているんだけどベルちゃんは被弾ゼロ。
たまに後ろに下がって《ワイルドベアー》が襲い掛かる前にMPポーションを体に叩きつけて回復している。
私も弓を弱点狙って撃ってるけど、与えたダメージはベルの方が多い。
美香の奴、よくこんなHPの多い《ワイルドベアー》倒せたわね(遠い目)。
響は俺のこと見つけてみろーって言ってたけどまず無理。
5万人の中から一人を見つけるって無理無理。
純魔法使い目指してるっていってたけど、そのトップが多分このベルちゃんなのよね。
年は私と同じらしいけど、良くて中学生、でなければ小学生に見える。
別にちゃん付けでいいって言われたからそう呼んでるけど、必要なこと意外はしゃべらない無口な子。
このベルちゃんと会ったのはライちゃんのプレイヤーショップだった。
ライちゃんは幼いアバターだけど、どこか大人の女性の雰囲気が伝わってくる子だった。
噂で聞いたことあるけど、リアルとアバターの姿を大幅に変えて影響を調べている人達がいるということを聞いたことがある。
その話題はすぐに静かになったけどね。
その噂が本当だったらライちゃんはその一人だと思う。
ベルちゃんは・・・うーん。言われて見れば中学生、小学生っぽくはない。
「ナツミ。
攻撃して」
あぁ・・・全然攻撃こないから別のこと考えてた。
今日は私のレベル上げと素材集めだもんね。
そういえば、いい忘れていた気がします。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。