ライのお店2
「響ーなんで一緒に出来ないの?」
俺が学校で自分で作った弁当をつついていると俺の前の席に座って俺のほうに向いて弁当を広げる奈津美が聞いてくる。
福富さんは休みだそうだ。
「んー、一緒にしてもいいが、俺を見つけてみな」
こう挑発的に言えば、奈津美は俺を見つけようとするだろう。こいつの性格的に。
それに、俺の《Magia Online》内でのアバターは少女だからな、まず気付かれない。
ロールプレイだってβからずっとやってるから慣れた。
「うー」
「というかお前は彼氏と一緒に弁当とか食べなくていいのか?」
俺の知ってるカップルは昼休みは一緒に弁当を食べたり話したりしてるんだが。
「今日、休んでるからね」
それまたなぜに。
「《Magia Online》するからズル休みだってさ。
美香もね」
立派な廃人だな・・・
あの真面目な福富さんもか・・・
「美香はあのベルってプレイヤーみたいになりたくて純魔法使いになるって、私は布製の防具作って弓使ってるわ。
響は?」
「俺は純魔法使いだな」
「へー」
なんだその目は。
「あんたもベルみたいになろうと思ってるわけ?」
・・・ベルが俺なんだが、まぁ教えない。絶対変態扱いされるからな。
それに《アルケミー》からもあまりアバターテストのことは教えないように言われてるし。
「まぁそんなもんかな」
俺は弁当に入れておいた昨日の残りのから揚げをつまむ。
結局昨日は母親は帰ってこなかったみたいだ。作っておいたから揚げが数個しかなくなってなかった。
数個だと小食の父親が食べたぐらいだろう。
「それ欲しい!」
奈津美が俺の弁当箱にあるから揚げを箸で指している。
「食え食え。
その分、スパゲッティくれ」
さっきからおいしそうだったんだよな。
*
洗濯物よーし、夕食の仕込みよーし、ガスよーし、戸締りよーし。
よしログインするか。
今日もデンと会えたら・・・てか昨日フレンド登録するの忘れてた。
まぁいいか。
デンと会えたら森でレベル上げが出来るんだが・・・そう簡単にはあえないよなぁ・・・
「《Magia Online》ログイン」
とりあえずライの店に行ってみるか。
*
「そこをなんとかなりませんか??」
「んーこっちも在庫がないものを売ってくれって言われても・・・困るのよねぇ・・・」
ライの店につくとライと一人の女性が話していた。
なんというか・・・子供に大人が迫っているみたいだ。
「あっちょうどいいところに来た!」
ライが俺を見つけて手招きしているが、なんかいやな予感がする。
というかあの女性の背格好・・・見覚えがありすぎて・・・
「《ワイルドベアーの皮》取ってきて!」
はぁ・・・?
「《ワイルドベアー》って《南の森》のフィールドボス」
「うん。
この人がアイテム作成で《ワイルドベアーの皮》は必要ならしいんだけど、2枚必要なのよ。
1枚は知り合いから譲ってもらったのだけど、後1枚がどこにも売ってないらしいの」
ほー・・・というかもう《ワイルドベアー》倒した人いるのか。
何人パーティか知らないが、廃人だろうな。
俺はβで《ワイルドベアー》を倒すのに一週間かけた。
レベリングに一週間かけて《ワイルドベアー》を2時間ぐらいかかって倒せた。
そのときは魔法の呪文詠唱なんて知らなかったから物凄く時間かかったんだよな。
「あなたってもしかしてベルちゃん!?」
女性が俺の視線に合わせて屈みながら聞いてきた。
一応、頷いておく。
というか女性の面影が俺の知り合いっぽい・・・
「私、ナツミって言うの」
はい。確定。奈津美だ・・・
「ベル、あなたソロで《ワイルドベアー》倒せるわよね?」
ライに聞かれるが知らん。
《ワイルドベアー》がβから変更されていないとすれば、レベル的にも火力的にもつらいぞ。
「ちょっと来てー」
ライは俺をカウンターの奥の小部屋に連れて行く。
「あのナツミってプレイヤー、奈津美ちゃんでしょ?
手伝ってあげたら?」
まぁ昔から付き合いがあるし知ってるよな。
最近だって一緒に食事したし。
「ソロじゃきつい」
「大丈夫よ。ナツミちゃんにも行ってもらうから」
レベル上げにもなるからね。とかいってもそれでもきついと思うんだが。
「これ、あげるわ」
そういってライが取り出したのは俺が良く着ていたセーラー服。
βから引き継いでないからないはず・・・
「βよりも性能は落ちるけどね」
渡してくるので、受け取りステータスを確認する。
【セーラー服】 STR+5 DEX+5 INT+6 LAK+5 物理防御+20 魔法防御+20 耐久値200/200
初期の装備からしたら物凄く強い装備だ。
てか、今このステータスの装備はないんじゃないかな。
《Magia Online》は1レベあがるとAPが5貰えるから1レベあがったようなものだ。
このゲームでの1レベは結構な差となって現れる。
「これで行ってもらえないかしら?」
なぜそんなにナツミに協力させたがるんだろうか。
「これを作ったのはナツミちゃんよ、まだレベルが低い内からこんなに高ステータスのを作れるなんて才能よ!
ここで別の商店に取られたら痛手でしかないわ!!」
・・・俺の母親はこういった人だったな。
「はぁ、そんな装備見せられたらな行くしかない」
ちなみに俺もライも笑っている。
こういった先行投資とか大好きなのだ。
だから俺は株で成功したし、ゲーム内でライは鍛治屋や薬師、錬金術師と顔が広い。
βでは一番人の集まる店がこのライの店だった。
今はほとんど人のいない店だけど。
「言っとくけどあの後、βの知り合いが皆、顔見せに来たんだからね」
サーセン。
*
「じゃぁ行く」
「ぇ?行ってくれるの!?」
「ついでにナツミのレベルも上げるから一緒に行く」
プレイヤーのレベルがあがれば素材を自分で狩りに行きやすくなるからな。
「ぇ、本当!?」
「いい」
俺はナツミの前でウィンドウを開いてライから渡されたセーラー服を着る。
別に脱げるわけじゃないからどこで着替えても問題ない。
「あっそれって・・・」
「今回の報酬として先払いで貰った。
ナツミは気にしなくて良い」
「ぇ、ライちゃん」
「いいの、いいの。
装備は使われてなんぼだしー」
裏では出来たものをここに持ってきて欲しいとでも考えているだろう、ライが手を振りながら俺達を見送る。
俺を先頭にライの店から出て、街道を通ってフィールドに向かう。
「じゃぁ行く。
ポーションとかはある?」
「うん。一応」
よし、なら狩りといくか。
セーラー服で1lvあがるといいましたがあれは一つのステータスについてです。
アバターテストは"絶対"ではないので別に言っても問題なかったりします。
ベルの場合変態扱いされると思いますが。