ミスッ
――――ふーんふんふふふんふんふん
湖のほとりに建つログハウス風の建物から、高い音の鼻歌が聞こえてくる。
曲は有名なアニメ映画会社の曲だろうか。
歌が聞こえるほうに向かってみよう。
ログハウス風の建物のバルコニーからその鼻歌は聞こえてくるようだ。
バルコニーを覗くとそこには銀髪の少女が揺り椅子をゆっくりと揺らしながら、《使い魔の卵》を抱えて、うとうとしている。
バルコニーは南に面していて、太陽がさんさんと降り注ぐ。
ここまで来るのに、モンスターとの激闘を繰り広げていた我々探検隊にひと時の安堵が生まれた。
ここまで来て見るべき風景は格別で我々、探検隊に一生の思い出をもたらしてくれた。
*
「ん?」
俺はもう少しで寝そうというときに人の気配を感じて目を覚ます。
俺が寝ているこの揺り椅子は俺のお気に入りだ。
南向きのバルコニーに持ち出して、降り注ぐ陽光の中のんびりするのが俺のβでの楽しみの一つでもあった。
ところで何してんだ?
あのトミーのパーティは。
いつものフルパーティだが、服装がどこぞの遺跡にもぐる考古学者だし。
あっトミーと目があった。
「べ、ベルちゃん。
な、ななな何してんの!?」
覗き見してたのがそんなに後ろめたいんならしなかったらいいのに。
「昼寝」
と、あと《使い魔の卵》が羽化しないか見てた。
「そ、そぅ・・・」
俺は卵を近くにおいておいた机の上に乗せて、揺り椅子から降りる。
「ここまで来るの。
早い」
あと1週間はかかると思ってたんだが。
「先にいるベルちゃんに言われたくないなぁ・・・」
たしか・・・クラムだったかな?男性が呟くが、ソロのほうが経験値回りがいいの知らないのかねぇ。
まぁ《Magia Online》のゲームシステム的な内容はあまり公開されてないけど、結構検証してる人はいるんだけどなぁ。
「飛んできた」
俺は指を空に向けて言う。
これで伝わるだろう。
「と、飛んで・・・?」
「ん。
《浮遊》」
言うより見せたほうが早いからな。
とりあえず、1メートルぐらい浮いてみるか。
「お、おぉぉぉ。
何だそれ!!
どのスキルで手に入るんだ!?」
盾持ちが俺に詰め寄ってくるが、掲示板の住民が作った《Magia Online》の攻略Wikiとかに一応書かれてるんだけど。
なんで見ないのかね。
「《無属性魔法》で取れる。
全部攻略Wikiに載せてあるはず」
俺が載せたんじゃないけどな。
あのWiki、運営が見て、よくここまで検証したなぁって言ってたから、ほぼ正解だと思うぞ。
「ちょっと見てくる!!」
盾使いがログアウトしていった。
「・・・いいのあれで?」
せわしすぎないか?
あれでパーティーの前衛が任せれるか?
「戦闘中はまじめなんだけどねぇ・・・
なんか吹き飛ばされたときにどうにかしたかったみたいだよ。
落下ダメージとか軽減もしたかったらしいし」
その吹き飛ばされる途中で《浮遊》を唱えれたら落下ダメージを軽減は出来るが・・・
まず唱えるのが無理じゃね?
*
俺はまたお気に入りの揺り椅子に座って、卵を膝に抱える。
なんとなく温めたほうが早く羽化しそうだからだ。
「ふぅ・・・」
座る前にキッチンから持ってきた《料理》スキルで作った紅茶を飲み一息つく。
湖のほとりでは、トミーたちのパーティーが戦闘訓練を行っている。
ここに来るまでで、物凄く自分たちの連携の取れなささを実感したんだとさ。
気付くのが遅いと思うが俺は何も言わない。
自由に楽しめ。
「・・・?」
なんか卵が揺れた気がする。
産まれたとしても、小動物がいいな。
グリフォンとかじゃなくて、小さい家の中で飼えるぐらいのが。
*
――――ドォォォォン!!
湖から急に巨大な水しぶきが上がった。
・・・ナニゴトッ!?
「A陣形だ!!」
クラムが叫んでいるが、パーティーは突然のことで浮き足立って陣形を組めていない。
というか陣形の話してたっけ?
あれは・・・水生生物の《ビッグクラブ》だな。
特徴としてはでかいカニ。この一言でまとめれる。
しかし、このあたりはピースフル設定のはずなんだが・・・
――――ピロンッ
なんだ?
メッセージか?
『ゴッメーン!湖の所ピースフル設定にするの忘れてたー!!
適当に現れたモンスターやっつけといてー!!byライ』
・・・もしかして見られてる!?
タイミングよすぎだろ。
「《ビッグクラブ》は、腹が弱点!!
攻撃手段は爪だけ!!
動きは早くない!!」
初めてベルとして大声出したかもしれない。
ここまで来れるレベルと、戦闘能力の持ち主なら片手間でも倒せるモンスターだ。
まぁ奥地な分、レベルだけは高いモンスターだから経験値はまぁまぁおいしい。
「ケンは爪を抑えろ!!
トミーは後ろから援護!!
ライムも後ろから!!」
おぅおぅ。
クラムが張り切ってるな。
ちょっと見ていると面白いもんだ。
湖から何匹か《ビッグクラブ》が出てくる。
トミーたちのパーティーは一体相手にするので精一杯のようだ。
『ピースフル設定に出来るまであと5分はかかるからそれまでに殲滅しておいてー
モンスターを消す処理が無くて楽だから』
またチャットが飛んでくると、殲滅しろとな・・・
てヵ、《ビッグクラブ》がこっちに向かってきてるんですが・・・
はぁ・・・
「《エネルギーボルト》《マジックアロー・フルバースト》」
俺は揺り椅子に座ったまま、魔法を行使する。
一応、倒しきれないことがあるかもしれないから、何発か残して残りは全てカニにぶつける。
すると、俺に大量の経験値とドロップアイテムが入ってくる。
「殲滅完了」
念のための《マジックアロー》があまってしまったから、適当に回して遊ぶ。
ちょっとしてからやっとトミーたちが《ビッグクラブ》を倒しきると同時に、家の回りを覆っていたピースフル設定のフィールドが広がり、湖を包み込んだ。




