《エレルニア》
俺は何気なく開いたゲーム内掲示板をそっと閉じる。
(俺は何も見なかった)
「どうしたのお兄ちゃん?」
《エレルニア》で売っていた、焼き鳥をデンは頬張りながら俺に首を掲げてくる。
「いや、何でもない」
俺の心の内にしまっておこう。
*
「よしっ!準備完了!
あの薬屋のおじさん、いい人だったね!」
デンは今さっき大量に買ったMPポーションを飲みながら言ってくる。
ちなみにMPポーションの大量購入が終わったから今は《エレルニア》の太い木の幹に座ってジュース代わりのMPポーションを飲んでいるところだ。
「あぁ、大量に買ったら値引いてくれたからな」
見込んでいるポーション不足が起こらなくても、俺はMPポーションを結構使うから売れなくてもいいからな。
(開いてる枠で《薬師》でも取るかな・・・)
《薬師》はほとんど取る人がいないスキルだが、ポーションや強力なバフ効果を生み出すドーピング薬を作れるスキルだ。
もちろん、強力なバフ効果を出すにはそれ相応の素材が必要になるが・・・
《薬師》の中には《採取》というスキルがある。これはフィールドにある薬草を採取できるようになるスキルだ。
《薬師》がなくても取ることは出来るが、取れる個数が減ってしまう。
たまに薬草を摘んでも消滅したりとかな。
「じゃぁ《ヘネシリウム》に戻るのです」
デンは幹の上で立ち上がり、俺を立ち上がらせる。
俺とデンは手をつないでその幹から飛び降りる。
大体地表まで160メートルといったところだろう。
地表まで大体5秒しかない。
「《浮遊》」
俺は《浮遊》の呪文の最後のワードを唱えると同時に魔力を流す。
使い慣れた呪文だからか1秒もかからない。
ほぼ目の前まで迫っていた地面が一気にはなれ、俺達は宙に浮かぶ。
アバターの体重はアバターの大きさで決まるから、STRに振っていない俺でもデン程度なら持ち上がる。
それにゲームだから脱臼といったこともない。
「では、帰るのです!」
デンがあいている手を《ヘネシリウム》に向かって向ける。
さて飛ぶか。
*
《Magia Online》は移動手段として良くあるゲートでのワープといった便利機能はない。
その代わり地方を繋ぐ、馬車や、貸し馬があるがほとんどは皆歩きだ。
だが、《無属性魔法》には熟練度を100まで上げると使えるようになる《浮遊》という飛行魔法がある。
これがとても便利なんだが、姿勢制御が難しくまともに使える人は少ない。
だが、ベルとデンは片や純魔法使いにして《最高の魔法使い》、片や複雑な三次元機動を行うランカーの一人。
しかも二人は兄妹だ。
時間を合わすのはそこまで難しくない。
つまりは空中の練習を二人で行い、現在のような手を繋ぎ飛行するということが出来るのである。
微力ながら《浮遊》がデンにも影響を与えているのは本人たちは知らない現象である。
*
「到着なのですっ!」
俺達は飛んだまま、街の上空を飛びライの店の前に着陸する。
《浮遊》はそこまでMPを食う魔法じゃないから、《エレルニア》から《ヘネシリウム》まで20分間ずっと飛んでも全体のMPの3割ぐらいしか減ってない。
歩いたら1時間はかかる道のりだがな。
もっとレベルがあがって、INTに振る量が増えたら消費量も割合的には減るだろう。
――――カランッ
デンがライの店の扉を開ける。
いつついたのか知らないが、ドアに鈴がついて来客を知らせている。
「デン、ベル!来たわね!」
ライは他の客がいるにも関わらず大声で俺達を呼び、カウンターに手招きする。
周りから見たら小学生にも見える三人組だ。控えめな動作でSSを撮っている人もいる。
「数時間ぶりなのです」
「あなたたち《キリングベアー》倒したんでしょ?」
ライが俺達に聞いてくると店にいた客にわずかに驚愕の表情が現れた。
さらりと現れた話題の人物に目を白黒させている。
「倒した」
「どうだった?」
「《流星群》で5%、デンがいなかったらつらかった」
前衛がいるのといないのとでは結構違うからな。
「違う違う。
剥ぎ取りの方よ」
そっちか。
俺はアイテム欄から大量に剥ぎ取ってきた《キリングベアー》の皮と肉を数個を残して出す。
となりではデンも出している。
《エレルニア》で少し売ったから数は減っているが十分数はある。
「大収穫なのです」
「わぉ!」
ライがここまで取れるとは思ってなかったのだろう目の前の現在ではここにしかないアイテムを見て、思考中の顔になる。
「今剥ぎ取りって言ったか?」
「あぁ、聞こえた」
「モン○ン!?」
客にも剥ぎ取りが聞こえたのだろう、口々に話している。
最後の奴、その通りだ。
「とりあえずここにあるだけで一人6万リムって所ね」
「高い気がするのです」
「希少価値がついてこれくらいよ。
それに・・・あれ買ってきたんでしょ?」
あれってMPポーションのことだよな
「もちろんなのです。
NPCのポーションは今、どんな感じなのですか?」
「囲い込みするパーティが増えて、一般パーティやソロには回らないのが現状よ。
囲い込んで買い込んだポーションを相場の倍以上の値段で売る奴も現れたわ」
・・・おぉう。思ったより深刻になり始めてきたな。
客もあのパーティがあそこで囲い込みをしているなどという会話をしている。
「なら、これを"適正価格"で売って欲しいのです」
そういってデンは《エレルニア》でいろんな薬屋や雑貨屋を回って買い占めてきた(数十本は各店に残してきた)MPポーションを大量に出す。
その数、約300本。
俺も自分で使うように100本を残して残りを全て出す。それでも200本はある。
「よくそれだけ資金が出来たわね」
「《キリングベアーの肉》をベルが《料理》して向こうで売ったのです」
ただ《キリングベアーの肉》を売るのはさびしいから《料理》で付加価値をつけて道を行きかうNPCに売ったのだ。
このゲームのNPCはもちろんクエストの開始でもあるが、その前に住人であるとも言える。
NPCにもしっかりとした生活があり、食事だって行う。
ボスの《キリングベアーの肉》の《料理》だ。
少々高い値段でも十分売れた。
「あーなるほど」
「で、お願いできますか?」
「任せておきなさい!
今度は私から予算だすからなくなったらまたお願いするわ」
飛んだら直ぐだし、まぁいいか。




