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song

作者: 水依ゆさ

ゆきの降る季節

寒い街の路頭

ふと声が聞こえた気がして

その場にとまった

声を頼りにとおりから外れた道に入ると

誰も使っていない階段に腰掛けて

彼が歌っていた

聞いたことのない歌

それでもなぜか懐かしいようなそんな曲だった

私は彼に近づいた

彼はこっちを見ていった

なんかリクエストある?

わたしはなぜか意地悪したくなって

ずっと昔の誰も知らないような曲名を言った

彼はちょっと悩んだ様に考えたあと

歌いだした

楽器もなくて

歌も特別うまいというわけでもなかったけど

私は彼のとなりに座って最後まで聴いた

どうだった?

歌い終わった彼が聞いた

まぁまぁかな

その答えが悪かったのかよかったのか分からない

けれど彼はちょっと笑った

この曲知っていたんだ

昔おじいちゃんから教えてもらった

そう言って笑い

彼はまた歌いだした

何分も何時間も

凍えるような気温

空から次々と降ってくる雪は膝や肩に降り彼を飲み込んでしまいそうだった

彼の歌を聴くためにずっと私は黙っていたが

歌が終わったときふと思った疑問を口に出した

なんでこんな人のいないところで歌っているの

ここで待っている人がいるんだ

もう何時間も来ないのに

約束したのはずっとまえだから、忘れてしまったのかもしれない


ずっと前


それがどれほど前かわからないけれど

人は忘れる

約束したときは覚えていても時間とともに約束はどこかに流れてしまう


きっとその人は約束したことなんて忘れてるよ


うん

わかっているのに待っているなんてばかみたい

うん、自分でもそう思う

彼は笑った

困ったように笑う彼につられて私も笑った

その人恋人?

恋人ではなかったな

彼は数瞬の間を置いた後そういった

またきてもいい?

私は聞いた

いいよ

また聴きに来て


それから

私は何度か彼と出会った場所に行った

でもそこには誰もいなくて

誰からも忘れられたような階段があるだけだった

私は彼が座っていた場所に座って

歌ってみた

彼が歌ってくれた歌

涙が次から次へとほおを伝った

歌い終わったとき

彼に抱いていた感情が何なのかようやく気付いた







幼いころに聞いた歌

何年も前に聞いた歌

思い出は簡単に色あせるのに

歌だけは色あせることなく心に残っているのです

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