俺はサバの味噌煮定食が食べたいんだよ!
やっとここまで来た。そう、やっとだ。苦節3年、念願の魔王城までたどり着いた。
これでやっと、やりたくもないことを終わらせて、帰って『アレ』が食べられる。そう考えるとよだれが……。
おっと、今はそんなことを考えてる場合じゃない。一刻も早くこんなバカげたことを終わらせて、おやっさんの『アレ』を食べなければ。3年もの間、『アレ』を食えなかった恨みは王国連中にもぶつけにゃならんが、まずは魔王にぶつけよう。ああ、そうしよう。
俺は、大きな門をぶち破る。
「き、貴様!何者だ!」
お、石像が喋ってる。これがいわゆるガーゴイルってやつだっけか?
「さあな。自分で考えな」
俺はそう言いながら剣を振るって石像の首を薙ぐ。とりあえず、面倒くさいんでやっちゃったが、大丈夫なのか?
そう思っていたら、警報音が鳴りだした。あちゃあ、失敗だったか。まあ、いいさ。やることにかわりはないしな。
3年前、俺こと前島宏成は突如異世界に召喚された。
「勇者様、世界を救ってください」
目の前にいたのは超絶美人なお姫様風の人物だった。普通の男ならば下心から絶対に断ったりしないんだろうなと思いつつ、俺はこう言った。
「知らん!というより、ここどこだ!」
「ここは、ファリシアと呼ばれる世界であなた様は勇者様です」
俺が勇者?寝言は寝て言え。俺はタダの30歳になったばかりの童貞サラリーマンじゃい。そんな俺が勇者?夢見がちな高校生でも召喚してろよ。
「だから、知らんっつってんだろ!いいから、元の世界に返せ!」
「魔王を倒してください!勇者様!」
「知らんわ!俺は……、俺は……!おやっさんの飯を……、おやっさんのサバの味噌煮定食が食べたいんだよーーーーーーーーーーーー!」
俺は叫んだ。俺の声の限界まで。
「サバ?味噌煮?」
俺の言っていることを理解できていないようだ。
「そうだ!サバの味噌煮だ!」
俺は、会社に入ったばかりのころ仕事場になじめず、夜中にふらふらと町を彷徨っていた。まあ、そんなふらふらしたサラリーマンをみたオヤジ狩りが目をつけるのも当然だ。俺は標的にされて、金をむしり取られ路地に放置された。
そんな俺を助けてくれたのが、近くで定食屋を営んでいるおやっさんだった。おやっさんは厳しいことを言いつつも俺を慰め、タダで飯を作ってくれた。その時に食べたのがサバの味噌煮定食だった。
これがマジで絶品で、今まで魚を毛嫌いしてた自分が情けなくなるくらいにマジでうまかった。それからというもの、俺は毎日夜はその定食屋に行き飯を取るようになった。だけど、俺は一つだけ自分の中に条件をつけた。「おやっさんのサバの味噌煮定食を食べていいのは月一又は仕事が成功したときのみ」と。
それからというもの俺は、月一のサバの味噌煮定食の為に仕事を頑張り続け、早十年近くが経っていた。そんなある日おやっさんが、こう言ったのだ。「最高のサバが手に入るんだ。お前に食わせてやるから、絶対に食べに来いよ」
俺は、歓喜したよ。ただでさえ滅茶苦茶うまいおやっさんのサバの味噌煮定食を最高のサバで作ったらどうなるのか。間違いなくほっぺが落ちるだろうな。
そんなわけで、俺はその日の仕事を速攻で終わらせて、帰り道にあるおやっさんの定食屋の扉を開けた。そしたら、自分がいたのがよく分からん白亜の城の中だったってわけだ。ちなみに、おやっさんのサバの味噌煮定食を食べれるのなら、結婚なんてしなくてもいいとさえ俺は思っているからな?
「だから、さっさと、俺をおやっさんの定食屋に戻せ!俺のサバの味噌煮定食が俺を待ってるんだよ!」
「そ、そんなこと言われましても……」
「魔王?勇者?そんなことマジでどうでもいい!おやっさんのサバの味噌煮定食が俺を待ってるんだ。だから、俺はすぐにいかないと!」
「で、でも、魔王を倒すまで、送還できないんです……」
「な、何ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
叫んだ。マジで叫んだ。魔王とやらを倒すまで、おやっさんのサバの味噌煮定食を食べられないだと……。
「…………な」
「な、何ですか?」
「……けんな」
「?」
「ふ・ざ・け・ん・なーーーーーーーーーーーー!」
びくぅ!っと擬音が聞こえるくらいにビビるお姫様風の女性。
「ざけんじゃねぇ!魔王だか何だか知らんが、俺がサバの味噌煮定食を食べるのを邪魔する奴はだれであろうと許さん!」
「は、はい!」
「もちろんお前らも許さんが、まずは魔王とやらだ。奴がいなけりゃ、俺はおやっさんのサバの味噌煮定食を食べれたんだ!ぶっ殺す!」
「わ、わかりました!」
「いいから、武器をよこせ!今すぐ出発だ!」
「は、はいーーーーーー!」
俺はその日のうちに出発したのだった。
そして、苦節三年。こうして、魔王城までたどり着いて魔王のいる玉座の間まで来たのだが、
「あんたが、魔王か?」
「は、はい。私が魔王です」
いたのは、どう見ても幼女な魔王様だった。
「……。マジかよ。いくらなんでも、幼女を殺すとかサバの味噌煮定食がかかっていてもできねぇよ……」
俺は膝をついてうなだれる。まさにOTLを再現している。
「あ、あの!」
「なんだ……」
「わ、私、魔王になったばかりでよく分からないんですけど、何か悪いことをしたんなら、謝ります。御免なさい!」
よく分からんが、謝られた。
事情を聴くと、この子の父親が先代魔王でこの子はその後を継いで、魔王になったそうな。しかも、魔王になったのはつい先日のことで、魔王になって何をすればいいのかすらわかってないらしい。
「そもそも、父が何をしていたかなんて知りません……。でも、たくさんの人に迷惑をかけていたらしいんです。でも、私は何にも知らなくて……」
おおぅ。泣き出してしまった。
「べ、別に怒ってないさ。それで、君は魔王になったからといって何かしたいわけじゃないんだね?」
「はい……。と、言うかですね。こんな時代に魔王なんて必要ないと思うんです。むしろ、魔王とかいらないですよね?」
「さぁ?俺はよく知らんしな。この世界の人間じゃないし」
「え!?そうなんですか?」
「ああ、お前の親父さん。つまり、先代の魔王を倒すために呼ばれたんだよ」
「そ、それは……。私の父が大変迷惑をおかけしましたようで……」
「いや、いいさ。で、君はどうしたいの?魔王なんてやめたいんでしょ?」
「はい。やめて、どこか平和なところに行きたいです」
「そうか……。ところで、君いくつなの?」
「はい?質問の意図が分りませんが、今年で29歳ですよ」
わぉ。俺の四つ下かよ。これで四つ下とか、マジでありえねぇ!
「そ、そうか。じゃあ、俺についてくるか?どうせ、俺も一人だし誰かといたいなら、一緒にいてやるよ」
「いいんですか!?」
「ああ。一緒に俺の世界に来いや」
こうして、俺は幼女な魔王と自分を召喚した王国へと帰って行った。ちなみに帰り道は妨害とかが一切なかったから一か月もせずに帰れました。
「というわけで、帰してもえらえますよね?」
「はい、わかりました。魔王が既に死んでいた何て驚きしかありませんが」
「よっしゃ!ところで聞きたいんだが、俺は召喚された時間に戻れるのか?」
「はい、たぶんですが」
「たぶんかよ!」
「なにしろ、返した人がもう一度来たことはありませんので、確認が取れていないので」
「そ、そうか。じゃあ、この子も一緒に頼むわ」
「はい」
ああ、ようやくおやっさんのサバの味噌煮定食を食べられるぜ。
光が収まると、そこは定食屋の中だった。
「おう。おまえさんか。って、なんて格好してやがる。それにその子はなんだ?」
「うぉ!マジだ。俺何でこの服着たままなんだ!?」
俺が着ていたのは異世界で最後に来ていた服だった。鞄も異世界に忘れたのかと思ったが、よく考えたら、あちらに行ったとき俺は鞄を持っていなかった。店の外を見ると、落ちていた。ああ、よかったぜ。
「ああ、そうそう。この子はええっと……。誰だっけ?」
「私ですか?私は、メルティア=エスペリーゼ=ファルティロイズです」
「外人さんか。まあ、いいさ。約束通り、お前さんには最高のサバの味噌煮定食を用意してやるから待ってな。外人さんはどうする?」
「この子もサバの味噌煮定食でいいです。いいよな?」
「はい」
俺達は、席に座る。
「そういや、自己紹介してなかったな。俺は前島宏成。しがないサラリーマンさ」
「サラリーマン?よくわかりませんが、私はメルティア=エスペリーゼ=ファルティロイズです。しがない、新人の魔王です。どうぞよろしくお願いします」
「おう」
しばらく他愛もない会話をして過ごしているとおやっさんがサバの味噌煮定食を持ってやってきた。
「ほらよ」
目の前に置かれたのは光り輝くサバの味噌煮定食だった。何これ?やべぇ!マジでうまそうなんだけど。
「食え。うまいぞ」
「いただきます!」「?い、いただきます」
俺は、すぐさま箸をサバの味噌煮には付けず、ご飯を口に含む。
「え?ご飯からなんですか?」
「ああ、こうやって、まずは口の中の味をご飯に吸収させるんだ。そうやってから、サバに手をつけるんだ」
俺は、光輝くサバの味噌煮に手をつけた。
うぉ!何なんだよ、このサバの味噌煮は!箸を置いただけで身がほぐれたぞ!
本当にマジでうまそうだ。そう思いつつ、メルティアの方を見てみると、俺と同じようにご飯を口に含んでいた。
「こうした方がおいしいんですよね?」
「ああ」
ちょっと間、待ってやる。
「?何で食べてないんですか?」
「うまいものは一緒に食ったらもっとうまい。だから、一緒に喰おうぜ」
「!はい!」
「じゃあ、行くぞ!」
「はい!」
俺達は同時にサバの味噌煮を口に含んだ。
「おおぅ……」「はぅん……」
口の中でとろけるサバの身。しっかりと味噌の味が付いているのにも関わらず、口に広がるサバのしっかりとした味わい。
「最高です!おやっさん!」「こんなおいしい食事初めてです!」
「おう、そうかい!喜んでもらえると嬉しいぜ!」
もう、夢中になってかきこんだぜ。
食事も終わり、俺はメルティアを家に連れて帰った。
「そういえば、お前の親父さん、先代魔王は何で死んだんだ?」
「ええっと、確かおもちを喉に詰まらせて」
「おいおい……。俺の三年間一体何だったんだよ!」
「すいません……」
「いやいやメルのせいじゃないし?」
「メル?」
「呼びずらいからな?まずかったか?」
「いえ///とっても嬉しいです」
とびっきりの笑顔を向けるメル。
どくん!
何なんだ?心臓がはねたぞ?いったいなんなんだーーー!
その後、俺はメルと結婚し、幸せな生活を送った。
サバの味噌煮定食をどうしたかって?もちろん毎日、おやっさんの定食屋に行ってるさ。一か月に一度のサバの味噌煮定食も健在さ!
突発的に書きました。後悔はしていません。
ちなみに、主人公が帰れた理由ですが、召喚された際の魔王が死んだことで世界における抑止力が消えたためです。悪い魔王を倒させようとしていたのは、召喚した国ではなく世界だったということです。
とりあえず、まとまっているかはわかりませんが、投稿です。