幼馴染以上恋人未満
一応ポッキーの日の話です。
「れーい!」
玄関についてあるはずのチャイムを押すことなく、無断で人の家に入ってきた少年の名は高谷竜也。
「何」
勝手に家に入られたことには何も言わず、落ち着いている少女の名は鈴木麗。
2人は幼馴染であり、恋人である。
確かに、恋人と言えば恋人だが、恋人でないと言えば恋人でない。
その理由は、お互いが素直でないからであろう。
2人の関係を最も正しく言い表すなら、幼馴染以上恋人未満、ではないだろうか。
「今日何の日か知ってるか?」
「知らない」
いつも通り、ハイテンションである竜也の言葉を、いつも通り軽く流す麗。
「11月11日だぞ。知らないのか?」
「知らない」
「俺でも知ってるのにさ」
「どちらかと言うと、あんたが知っていることを知っていたくない」
「……それなら! これが目に入らぬか!」
竜也は、手に持っていた箱を麗の前に差し出す。
「ポッキー?」
「そうだ! 今日はポッキーの日なんだぞ。しかも2011年で、1が6つも並ぶ!」
麗は大きくため息をつく。
また馬鹿なことを始めたと思っているのだ。
「と、いうことでポッキーゲームしようぜ」
「……」
麗は思わず黙る。
そして、竜也の突然の提案について考える。
「竜、ポッキーゲームって知ってる?」
「俺が提案したんだしな。両方からポッキー食べるんだろ」
「知ってて言ってるんだ」
麗の言葉にも竜也は態度を変えない。
「麗にチョコたっぷりの方食わせてやるから。ほっひふはへほ」
「……」
竜也の言葉の後半は、ポッキーをくわえたままなので普通の人にはよくわからない。
しかし、十数年の付き合いである麗には、しっかりと「そっちくわえろ」に聞こえた。
「……」
少し悩んでから、ポッキーをくわえる。
そして、大きく一口食べてポッキーを折る。
「ポッキーゲーム終了ね。じゃ、私勉強するから」
「麗! そういうものじゃないだろ」
「……馬鹿なことしてる暇あったら勉強したら?」
さっき開けたばかりの袋からポッキーをとりだし、1人で食べながら言う。
「はいはい。冷たいな」
「……竜」
いつものように、冷たく「竜」と呼ぶ。
幼馴染で、初恋相手で、そして今も大好きな彼女にしか呼ばせない呼び名。
「ん? 今度はなんだよ」
その彼女の冷たい声に反応して振り向く。
その瞬間、頬に温かい感触。
「さっさと家から勉強道具とってくる。勉強教えてあげるから」
「えーっと、麗?」
「10秒以内」
「え! ちょ、麗?」
「10、9……」
いつもと変わらない2人。
幼馴染以上恋人未満。
10秒後、帰ってこれたら愛しい相手を抱きしめよう。
2人ともがそう思っていることに、お互いは気づかない。
あまっ!
作者が途中で恥ずかしくなるような。
気づいたらポッキーの日を軽く1時間過ぎてしまっていた……。