誓(仮)後編
誓後編…
戴冠式が始まった…国王になるべく準備を整えるダーニス。新しい国王を祝おうと沢山集まった賓客と国民達。しかし重要国のエルフ・マーメイド・ウフル王国からは使者が訪れるだけで国王夫妻、皇太子は訪れなかった…しかし誰も予期せぬ賓客がやって来る国王ダーニス以外は予期せぬ…
大広間では式典が始まるため賓客達が雑談をしながら王の謁見の間へ移動がはじまった・・・・
・・・賓客達が各々の席に着くとゆっくりと式典開始の音楽が厳かに流れ始め大広間に続く扉が開くと白と赤の清掃に身を包んだ若く可愛らしい少年少女の侍者達が儀式に必要な香炉・花・宝剣と王笏、王杖、指輪そして濃紺色のベルベットのクッションに恭しく乗せられた王冠を持ってゆっくりと天窓より照らされた暖かい日差しの中を厳かに進んでくる。
・・・少し間隔をあけて教会の大司教、その後に10人の司教、そして12人の騎士団を退いた元老院に属するドラゴン達・・・そしてレイラ前王妃が厳かに入場した。
王座の隣に王座を挟むようにして大司教とレイラ前王妃が並んで立ちその下の段に元老院の面々がシンメトリーに並んだ。
厳かに流れていた音楽が途切れ甲高いファンファーレに変わり賓客たちはその場に起立して通路に向かって頭をたれた。
ファンファーレが鳴り止むと花びらを籠に沢山詰めた愛らしい少女が2人赤い絨毯の上に花弁を撒きながら入場し、その少し後に正装した12騎士団が抜き身の剣を掲げ通路の奥に並ぶと剣でトンネルを作った・・・ローズの手を引いて濃紺色の軍服に身を包み、肩からは其れとは対照的に赤い重たそうなマントを羽織ったダーニスが溢れる笑顔とともに入場した。
ダーニスはゆっくりとローズの手を引きながら賓客たちに笑顔を振りまき王座にゆっくりと近づいていく。ダーニスとローズが目の前を通ると賓客たちは身を屈めて礼を取った・・・
ダーニスが王座の正面まで来るといよいよ戴冠の儀が始まり、大司教が王冠を持って前に進み出ると厳かにダーニスへ王国への忠誠を求めダーニスが恭しく頷き良き国王となり王国の幸せのみを考え精一杯努力すると誓約し赤いクッションに膝をつくと大司教が会場全体にとどろく様な声で誓約はなされたと叫びダーニスの頭上に王冠を載せた・・・
会場は割れんばかりの拍手の音で埋め尽くされ王宮の外で今か今かと待っていた国民達にも戴冠がなされた旨が伝えられ大歓声が上がった・・・。
ダーニスが王座に座り手を高くかざすと王宮内は静まり返り皆新しい国王に注目した。
ダーニスは身振りでローズを傍に呼びレイラと供に並ぶとローズの手を握り12騎士団長のアルギュロスが前に進み出て剣を頭上に高く掲げると膝をつき剣を地面に突き刺すと残りの騎士団もそれに習いアルギュロスが兜を取り脇に抱え立ち上がり新王に12騎士団の忠誠を誓った・・・
ダーニスが誓約を許そうと言って立ち上がるとアルギュロスが顔を上げ髪をかき上げるとその顔を見た観衆から感嘆の声が上がった・・・
「さすが騎士団長殿はお顔も凛々しくあられるがドラゴン族の髪と同じあの瞳の銀色の輝きは宝石のようですね…」
「お年は?お幾つ位の方で御座いますか?」
「ドラゴン族の騎士団長の方ですから見た目が40位に見えましても実際はもっといってらしてよ・・・」
観衆の中から初めてドラゴン族の騎士団長の姿を見るものはヒソヒソとその容姿を噂した。
12騎士団の誓約がなされ今日のこの瞬間より国王となったダーニスは輝くように微笑み宝剣を脇に刺し王杖を持つと空いた手でレイラ前王妃の手を取りローズを伴い国民達にその姿を見せるべく王宮のバルコニーへと移動した。
ダーニスは常に恍惚の表情を浮かべていたが其れとは対照的にローズは押し黙りその表情からはその小さな胸で何を考えているのかは想像できなかった・・・。
新国王の姿がバルコニーに見えると国民達は狂喜してその名を叫び手を振った。
その姿を見てダーニスは喜び手を振り返すと大きな朗々と響く声で国民へ演説を始めた。
・・・
「皆のもの!今日、私は正式にこのラ・レーヌ・オジェ王国の国王となった…長い間執政の宮としてこの王国を支えてきたが前国王が亡くなり5年間の喪が開けローズも目覚めの時を向かえ今日を良き日と定めたのだ・・・
皆も知っている様に全国王、我が兄上は類いまれなる素晴らしき王であった…兄上の赴く戦で我が王国が負けることなど無かった…
近隣諸国とも良き友好関係は保たれ王国の平和がそこにはあった・・・
私自身この素晴らしき王国をそのまま引継ぎ兄上に負けない平和な王国を築くつもりである。それに伴い我々にとっての永遠とも言える戦の根源をどうにか取り除けないものかと考えた。
遥か当方に位置する王国トラディスカント・ベルズ…遥か昔から我々はいがみ合い常に何度と無く戦を行なってきた・・・
今となっては原因すら曖昧となっている・・・同じ数少ないドラゴン族同士なのにいがみ合お互いの国民の血を流し争ってきた、私はこの負の連鎖を終えるべく現皇帝メラベル・ドラゾ・ケイモーン殿と友好を築こうと申し入れた。
国王の話を静かに聴いていた国民達はざわざわと落ち着き無く話し始めた・・・
落ち着きの無い聴衆の雰囲気を察してダーニスはさっと手を挙げ黙らせると話を続けた・・・
メラベル皇帝はありがたくも私の話に耳を傾けてくださり我らは時間は掛かったがついに同意した。
今、私が国王となり私の導く未来の王国とトラディスカント王国は友好国となりお互いの民を行き来させ交易も開始しようと・・・そして光栄な事に本日私の戴冠式に友好の証としてお越しくださった。
・・・
紹介しよう!我が新しい友好国トラディスカント王国皇帝メラベル殿だ!!
ぱらぱらと少ない拍手に迎えられ王宮の中から全身黒い軍服に身を包んだ見た目はまだ若く30台後半のすらっとした身なりで漆黒の髪は緩やかなくせっけで金の紐で肩にかかる髪を結わえていた。瞳も漆黒でドラゴン族特有の瞳の中に白い星を輝かせ聴衆を見回す顔は口元に小さな笑窪を浮かべ柔和と言っても良い笑顔を浮かべていた・・・
・・・彼は柔らかく深みのある声で話し出す・・・
「・・・皆さん、只今新国王閣下よりご紹介に預かりましたトラディスカント王国よりまいったメラベルと申します。」
「ダーニス国王がおっしゃた様に我ら2国間の間には拭いきれない悲しみの歴史があります…皆さんの中にも先の戦争で家族を失った方も居られましょう・・・しかしわが国にも同じく家族を失った者達がいるのです…私は出来るだけその様な者達を無くしたい、これ以上父母の無い孤児を増やしたくない…そう思ってきたのです。」
「しかし貴国とは犬猿の仲、今更私共から和平などと思ってまいりました・・・しかし、数年前ダ-ニス殿が同じ気持ちをお持ちだという事を知ったのです・・・其処から我々はお互いの心をさらけ出し、話し合いお互いの王国の元老院を説き伏せてきたのです。」
「友好とは簡単には成されません・・・しかしをれらの2国間の友好を確固たる物として固め歴史上初と成るほどの素晴らしい関係を築こうではありませんか!」
「この戦争を終わらせ平和なる世を一緒に築きましょう!!」
メラベルは国民の気持ちを最高潮に高め演説を終えるとダーニスと家宅握手を交わし抱擁した。
「我々は古き血族なのだ…供に歩もう。」
そう言われダーニスは瞳をウルわすとまるで兄弟の様に肩を組みその姿を国民に披露した・・・
レイラはその様子を恐ろしげに見つめていたが口元を押さえると冷静さを保ちローズの手をぎゅっと握った・・・ローズもその様子を見つめていたがその表情から何を思っているかはうかがい知れなかった・・・。
演説を終え上機嫌のダーニスは祝宴だ!と叫び先陣を切って大広間に向かった・・・
ダーニスの後を微笑みながら付いて来たメラベルはレイラとローズに気が付くとニコリと笑って深々とお辞儀をした。その様子を見てレイラも膝を折って礼を取るとメラベルに手を取られ手袋の上から指の関節に軽くキスをした。
「お初にお目にかかります。レイラ殿・・・お噂にたがわぬ美しさですね。それにローズ殿もお母様に似て愛らしい・・・将来が楽しみですね。」レイラの手を握ったままメラベルはそっと手を伸ばしレイラの長い髪の一房に触れた。
レイラはギックと硬直してさっと身を引きローズを傍に引き寄せた。
「初めましてメラベル閣下お会いできて嬉しく思います。」レイラは半ば強引に握られた手を引き抜き再度頭を下げ視線を逸らした。
メラベルは空っぽの手をぎゅっと握りローズの方を見て視線を合わせるため屈んだ。
「ローズ様・・・本日は挨拶の為に参りましたのでこれにて失礼させて頂きます。また、必ずお会いいたしましょう・・・必ず・・・」そう言うとローズの手のひらにもキスをしてしばしジッとローズの瞳を見つめ髪に触れ立ち上がるとさっと礼をしてその場を立ち去った・・・。
・・・祝宴は始まり上座に座ったダーニスは嬉しそうに会場を見回してメラベルの姿がない事に気が付きあわててメラベルの行方を尋ねたそこへレイラがローズを伴い席に現れ事の顛末を聞いて残念がったが他の賓客のもてなしに忙しそうに立ち回った・・・。
祝宴は盛り上がり夜半まで続いた・・・ローズは幼いため夕方には自室に下がるよういわれ喜んで下がった。
「フィリオ、ステラを呼んで来てくれないかしら?あの方が帰られる前にもう少しお話がしたいの…。」
ローズは自室のバルコニーから祝宴の続く大広間の賑わいを遠目で見ながらフィリオを振り返った。
「かしこまりました。お探ししてまいります。」
そう言うとフィリオは背を向けて出て行こうとしたがローズに呼び止められ振り返る。
「フィリオ!そんな風に改まらないでちょうだい…今まで通り接して欲しいの・・・貴方はお兄さんみたいなものだから。」ローズは寂しそうに打ち明けフィリオを伺い見る。
「ローズ様・・・。そうは参りません。私は貴方様のナイトになったのです。」「兄の様になどと…無理を仰らないで下さい・・・。」フィリオはローズの元まで大またで戻り向かいに立っていたがローズが下を向いてしまったので視線を合わせるために片膝をついた。
「・・・そんな風に接して欲しくて誓約したのではないわ・・・一人でも信じれて傍にいて欲しかったのよ・・・フィリオわかって・・・私とても孤独なの・・・。」ローズは瞳をウルわせフィリオの手を取った。
「ローズ様・・・解りました。私は貴方にとっての唯一人のナイト貴方をお守りしましょう・・・。誓って貴方を裏切りませんよ」フィリオはローズの手の甲に軽くキスをすると悪戯そうに微笑みローズを抱きしめた。
「約束よ、フィリオ・・・どんな事があっても一番の理解者でいてね。」ローズはぎゅっとフィリオを抱きしめると笑って身を離した。
「ではローズ様ローズ様いわくのステラ殿を探しに行ってきます。」フィリオは立ち上がると微笑み優雅に一礼するとローズの頭を一なでして足早にステラを探しに行った・・・。
ローズはベランダに戻りステラが来るのをまた大広間の様子を見ながら待った・・・
首都セルシアナの賑わいは遠く離れた村々にも数日を掛け伝染し小さな村ですら新しい国王の即位を喜びいたるところで祝杯を挙げていた・・・。
そんな遠く離れた南の山間に位置する小さな村ルチェッタ村首都で行なわれた戴冠式より遅れて一週間後に吉報が届いていた。
この村は南に位置しているため首都セルシアナよりも早く初夏の香りが漂っていた。
もうすぐ夕闇が迫り夜を迎えそうなこの時クロスは村の裏山で迷子になり膝を抱えて泣いていた・・・
「・・・ううっお母さん兄さん・・・怖いよ・・・。ううっ」
クロスは膝を抱えいためた膝をそっとつついて痛さにうめきどうにもならない身の上を思って力を振り絞り泣き喚いた。
朝クロスは母の為に早実の木苺を摘みに意気揚々と家を出発した。
母には内緒にこっそり籠を持って父を探しに教会に行ったが居らず納屋や馬小屋、畑にも行ったが父と兄の姿を見つける事も出来ずガッカリしたが一人でも大丈夫だと思い直し出発したのだ。
「う~どうしよう・・・みんな心配してるだろうなぁ・・・誰にも言わずに来ちゃった・・・。」
ベリーを積んだ籠を見て空腹で引っ込んだお腹を撫でてこれは食べちゃ駄目だと自分に言い聞かせた。
このままでは山で一晩過ごす羽目になりそうなので思い切って立ち上がりまだ泣きながら村があると思うほうに向かって思い籠を持って歩き出した。
「とうさぁ~ん・にいさぁ~ん・かあさぁ~ん」「うぇ~んシシー!」自分の家族を呼びながら山を下っていると前方の藪がガサガサと動いた。
「ひぃ!熊だ!!」ぎゃあと叫んで近くに隠れられる所を探したが見当たらず登れそうな木もない…どうしようか悩んで手近な身を隠せそうも無い岩の後ろに回った・・・
「どうか気付かれませんように~」と祈りながら薮の方を見ると茂みは更に大きく揺れて人の悪態が付く声が聞こえてきた・・・
・・・「だからこっちの方で子供が泣く声が聞こえたんだって!えーい鬱陶しい!!野バラの薮だな!!」「ホントかよ、そこを通らなきゃならないならその薮は切り払ってくれ!そんな所通ったら全身ボロボロだ!」「子供の心配よりもご自身の綺麗な身なりが大事ですかっての!!」2人の男の争う声と薮を切り開きながら進む音が辺りにこだました。
「お~い誰かいるのか?迷子かぁ??」「お~い居るんだったら早く出てこーい!」
岩の陰からそっと覗くとクロスの目の前に出てきた人物達はまるで怪物と天使に見えた・・・。
「お!!やっぱり居た!!どうした迷子か?泣き声が聞こえたから来たんだ。」「おっ!ホントだ!!坊や何処の子だい?こんな夕暮れに山の中で…」
「ぁ・・・あの僕・・・あ、貴方は天使?」クロスは怯えながらも2番目に話しかけてきた長い髪がサラサラと流れ夕闇に染まって銀髪に見える髪と美しく整った顔と貴族のような身なりに見とれ呟いた・・・。
「・・・?」天使と呼ばれたものは唖然として立ち尽くした。
「こりゃぁ傑作だ!!!こいつが天使だってんなら俺は聖人だね!!!」豪快に笑いながらクロスが妖怪だと思ったもう一人の男がクロスに手を伸ばした。
「ヒィ!」クロスは怯えて逃げようとした。
「きゃー怖い!ごめんなさい何も悪い事しないから食べないで!!」
「はぁー?」逃げようとしたクロスの手首を掴み妖怪男は顔をしかめた。
「それこそ傑作!ジーンお前人食い妖怪に見えるらしいぞ!!」天使男も盛大に噴出し身体をくの字に曲げて爆笑した・・・。
「・・・あのなあ小僧・・・俺はお前のような小僧は食わん!!お前の足元に転がっているイチゴの方が美味そうに見える!!」ジーンと呼ばれた男はクロスの手を乱暴に離すと腰に手をやり憤怒の形相をしてそっぽを向いてしまった。
「まあまあ・・・子供相手に落ち着いて!」天使男は苦しそうに腹に手を当てたままジーンをなだめた・・・。
「そもそも迷子の小僧の声を聞きつけて此処まで探しに来てやったには俺なのに!食わないでくれってか!!」ジーンは天使男のとりなしにもかかわらずまだ腹を立てていた。
「あ・・・あのぉ…ごめんなさい!・・・茂みから出てきた貴方が狼人間みたいに見えたものだから…」
クロスは急いで謝りモゴモゴ言いながら俯いて今にも泣き出しそうに肩を震わした。
「・・・狼人間ね、言い得て妙だな・・・。遠からず近からずってとこだな。」天使男は笑うのをやめ溜め息をついた。
「・・・もう夜だ・・・そう見えても仕方あるまい。この髪だ。」ジーンは溜め息をつき自分の短い白銀の短髪に指を入れた。
「小僧・・・驚かせて悪かったな、名前は?家まで送ってってやるよ、だから泣くな。」ジーンは屈みこんでクロスの顔を覗き込んだ。
「・・・クロス・・・村で牧師をやってるカージスの息子です。木苺摘みに来て迷子になってしまいました。」クロスは涙を拭うとはきはきとしゃべりだした。
「ほぉ…小さいわりにしっかりしてるな・・・って、待てよ!お前の父さんカージスって言ったか?」ジーンは興奮した面持ちでクロスの肩を持って強く揺さぶった。
「おいおい!子供をそんなに揺すったら駄目だろ!」
「坊や、カージス兄さんの息子なのかい?お兄さん達はねちょうど君のお父さんに会いに尋ねに行く途中だったんだよ・・・自己紹介がまだだったね、私はトゥリーそして人食い狼がジーンだ、2人とも君のお父さんの友達だよ、」
トゥリーは優しく微笑んでジーンの隣にしゃがみ込みクロスの顔を覗き込んだ。
「おい、誰が人食い狼だ!」ジーンはトゥリーに噛み付くように言った。
「・・・へへ怖がってごめんなさい。父さんの友達とは知らなくて・・・木苺摘みにきたら迷子になっちゃって…」クロスはトゥリーとジーンの様子がおかしかったので笑いながらホッとして2人に笑いかけた。
「泣いてた小鳥がもう笑ったよ、そうか、お前がクロスか・・・大きくなったなその瞳の色…いや、お兄ちゃんに良く似てるな!」ジーンも笑ってクロスの顔を見ていたが立ち上がると頭を撫でた。
「大きくなったな、最後に会ったのは3歳の頃だったか…覚えてないだろう?あの時は始終寝ていた。」トゥリーも微笑んでクロスの頭を撫でた。
「3歳の頃?すみません。覚えてないです。」クロスはすまなそうに言うと落ちた木苺を拾い始めた。
「馬を連れてくる、トゥリークロスを頼む。」ジーンは木苺を拾っているクロスを見て暗くなる前に山を下りようと馬を連れに行った。」
「ああ、頼む・・・クロス手伝おう。」トゥリーは一緒に拾いながらジーンが戻るのを待った。
・・・暫くするとジーンが2頭の栗毛の馬を連れてきた。
「ほらっ。もう辺りは真っ暗だ俺が先頭を歩くから気をつけて付いて来い。」ジーンはトゥリーに片方の手綱を投げてよこすと自分はさっと慣れた様に馬に跨り振り返った。
「ああ、頼む・・・さあ、クロスおいで私と一緒に乗ろうその方が安全だ・・・。」トゥリーはクロスを招き寄せ鞍の前方に座らせると自身も軽々と馬に飛び乗りジーンの後を追った。
・・・「村まであとどれ位かかる?」トゥリーは前を行くジーンに問いかける。
「そうだなあ・・・30分掛からないだろう…坊やはそれほど離れていない所で迷子になったって事さ」ジーンは笑いながら振り返ってクロスを見た。
本当にそっくりだ・・・トゥリーの言う通りだったな・・・
前を向き物思いに耽る。
「そうか・・・良かったなクロス、きっと皆心配しているよ…」トゥリーが前の鞍に座るクロスに話しかけるとクロスは不安そうな顔で振り向ききっと兄さんに怒られると愚痴った。
「ハハハ・・・クロスは兄さんが一番怖いのか?こういう場合は父さんに怒られるって怯えるもんだが?」ジーンは豪快に笑いながら目の前の枝をヒョイと頭を傾けてかわし前を向いて進み続けた。
「リスターはいつもは優しいけど僕がへまをしたり危ない事をすると父さんより怖いんだ…きっと今日も怒ってるよ…。出かける前に兄さんを誘おうと思ったんだけど見当たらなくて父さんもいないし、母さんには内緒にしたくて・・・だから誰にも言わないで出てきちゃったんだ…。」クロスは俯きたどたどしく話し、木苺の入った籠を大切そうに抱えた。
「それはまずかったな…きっと皆心配して探し回ってるぞ・・・まあこうして無事に再会も出来たのだし、俺達からとりなしてやるよ。」ジーンはヒョイと振り返ってニッと笑いかけた。
トゥリーも大丈夫だよと優しく話しかけクロスの肩に手を置いた。
「お!!明りが見えてきたぞ!?早くないか?」ジーンは馬を止めて馬の上に立ち目を細めて前方を確認した。
「・・・どうやらクロス捜索隊に丁度会えた様だ!」ジーンは笑って振り返り硬直するクロスを見た
クロスは籠を持ったまま振り向きトゥリーに助けを求めるようにすがった。
「大丈夫だよ、我々がいるんだ…」優しく微笑みクロスの頭を撫でる。
「おーい!此処だ!!お探しのクロスは此処ですよー!!」ジーンは大声で捜索隊を呼び自身もトゥリーに目配せすると馬をトロットで走らせた。
ジーンは先に捜索隊に追いつきカージスを尋ねて行くつもりであったが山で泣いているクロスを見つけてそちらに向かっていた旨を話しカージスとリスターを安心させた。
後から追いついてきたトゥリーの前にクロスが乗っているのを見て2人は同時に名前を叫び安堵の表情を浮かべた。
・・・「クロス…何処に行ってたんだ!父さんも母さんも心配して村中の皆が探してくれていたんだぞ!!!」リスターは父親より早くトゥリーの馬に自分の馬を寄せるとクロスの耳を引っ張り揚げ怒鳴った。
「痛い!痛いよ兄さん!!ごめんなさい!!!」クロスは籠を抱きかかえたまま耳を引っ張られ涙目になりながら今にも馬から落ちそうになった。
「おっと、リスター落ち着け、今回は私達が偶然通りかかって迷子未遂になったんだそう怒っては可哀相だよ・・・。」トゥリーはクロスの腰を抱えリスターの方を見てとりなした。
「ジーン、トゥリー通りかかったのがお前達でよかったよ・・・心から礼を言おう・・・息子を見つけてくれて有難う。」カージスは2人に向き直り胸の前で手を裏返し礼をした。
その様子を見てリスターも恥ずかしそうに「お久しぶりです。弟を見つけてくださって有難う御座いました。」と父と同じように礼を取った。
「ハハハ!リスター!大きくなったな?弟の姿が見えないんでさぞ心配しただろう?お前は昔からいつも弟が目の隅に映っていないと探し回ってた!相変わらずだな。」ジーンはからかう様に笑いリスターの頭をクシャクシャと撫でた。
「お久しぶりですジーン殿…よくクロスの居場所が解りましたね?」リスターは気恥ずかしさからか話題を変えた。
「ん?俺もウルフ族の端くれだ聞こうと思えばどんなに離れていたって子供の泣き声位聞こえるさ。」ジーンもニヤッと笑い自分の尖った耳を指で軽くぴんと跳ねた。
2人が話している間カージスはトゥリーに馬を寄せて何も言わずクロスの頭をくしゃくしゃにして大事そうに抱えている籠を見てこれは?と尋ねた。
「・・・」クロスがドキドキしてしゃべれないのを見てトゥリーが助け舟を出した。
「それはさるご婦人の為にこの探検を決意して探しに来た宝ですよ。」おどけて話しながらクロスから籠をを受け取りカージスに渡した。
「木苺か…。」
「木苺は母さんの好物だ!そろそろ早熟の木苺を摘みに行こうって昨日話してたじゃないか…。こんなに沢山…一人で摘んだのか?誘ってくれればいいのに…。」リスターも籠の中身を見て驚いた。
「そうか・・・それを摘みに一人で裏山に行ったのか…」
「ちゃんと兄さんも父さんも探したんだよ!けど何処にもいなかったし、裏山位一人で行けると思ったんだ!だけど…気が付いたら暗くなってきて此処がどこかも解らなくなって・・・。心配掛けてごめんなさい。」クロスは一気にしゃべるとわっと泣き出した。
「カージス様…お久しぶりです。ご存知とは思いますが火急お知らせせねばとジーンと馬を飛ばしてまいりました。」トゥリーは急に改まってカージスに身を寄せて語った。
「ああ・・・解っている。家で話そう。サニーも待っているよ・・・。リスター!先に帰って村長とと皆にクロスが無事見つかった事と礼を伝えてきてくれ!私も客人を家に案内したらすぐに戻ると…。」
リスターは「ハイ!」と叫ぶと皆にまた後でと言って駆けていった。
「では家へ参ろう。」カージスはそう呟くとくるりと向きを変えて進みだした。
トゥリーとジーンはさっと目を合わせカージスに続いて山を下って行った・・・・。
4人が家に戻ると母サニーが心配で家にいることが出来なかったのか家の前でウロウロと所在無さげにしていた。
「母さん!!」クロスは危なっかしげに馬の鞍の上で立ち上がるとサニーに向かって大きく手を振った。
「クロス!!」サニーは太陽の様な笑顔を向けると駆け寄ってきてクロスを抱き下ろした。
「どんなに心配したか・・・。」クロスを胸に抱きしめサニーは涙を流した…。
「ごめんなさい母さん。ウェーン!」クロスは苦しげに謝り大声で泣き出した。
・・・「サン、お客様が来ている、悪いがお招きをしてくれないか?私は馬を戻してきたら村長の所に行ってくる。」カージスはそんな2人の様子を微笑んで見て馬を降り気遣わしげに話しかける…。
サニーはハッとして涙をぐいっと拭うとお客に気が付き恥ずかしそうに「はい、ようこそ…すみません御案内もせずに。」とあわててお客に顔を向けた。
「サニー姉さん、お久しぶりです。」トゥリーはさっと馬から下りると胸に手を当て複雑な仕草をするとサニーと握手を交わし抱擁した。ジーンも馬から降りカージスに馬を頼むとサニーに向かって歩いていききつく抱擁した。
「姉さん元気そうで!!とっても会いたかったです!!」白い頬を若干高揚させて赤く染めジーンはサニーを抱きしめた。
「ジーン!私も会いたかったわ!すっかり男らしくなって!その髪の長さもとても似合ってる。」
サニーは驚きながらも家族のような親密さで2人と握手と抱擁を交わしとたんに笑顔になった。
「フフフッ・・・」トゥリーはそんなサニーの様子を見て微笑んだ。
「トゥリー何がおかしいの?」サニーはクロスと手を繋ぎながら微笑むトゥリーを訝しげに見る。
「イヤ、貴女とクロスが似ていて面白かったもので・・・。」
「そうかしら?あまり似ているとは言われた事が無かったけど…。」サニーは困った表情を浮かべた。
「姿かたちはあまり似ていなくとも性格、仕草はそっくりですよ。姉上様」トゥリーは最後をからかうように付け加えた。
「そう?嬉しいわ・・・」サニーはポッと顔を赤らめ喜びを表した。
「あ、そうだ・・・姉さんクロスが大冒険をして手に入れた宝です。」そう言うとトゥリーは木苺の入った籠をサニーに手渡した。
「姉さんあんまり叱らないでやってくれ、姉さんの為に必死で時間を忘れてしまっただけの事なんだ。偶然とはいえ俺達が無事に連れ帰ったのだし・・・」ジーンはクロスを庇ってやろうと半ば必死でサニーに懇願した。
「まぁ!こんなに沢山!!クロス一人で摘んでくれたの?」サニーはクロスの前に屈み瞳を潤ませて聞いた。
「・・・うん。ごめんなさい。心配掛けるつもりは無かったんだ、行く前に兄さんと父さんを探したんだけど見当たらなくて・・・裏山は何度もいった場所だから一人でも大丈夫だって思ったんだ・・・本当にごめんなさい母さん。」クロスは母にも一気に説明し終えるとぽろぽろと涙を流した。
「もういいの、母さん達はとっても心配で胸が張り裂けそうだったけれどこうして無事に戻って怪我も泣く無事な様子が見れたのだから・・・」サニーはクロスの頬を両手で包み込み一緒にぽろぽろと涙を流しながら溢れる愛情でクロスを抱きしめた。
「グスン・・・」それを見守っていたジーンがもらい泣きして鼻をすすった。
「フフッ・・・お前は相変わらず涙もろい…クックック・・・」トゥリーはジーンを見て笑いをかみ殺している。
「ふふふっジーンは昔っから感動屋さんなのよ。」サニーもその様子に気付き微笑んだ。
「チクショー!笑うな!!こういう家族ものには弱いんだ!」ジーンは顔を真っ赤に染めながら鼻をすすり照れ隠しのため怒った。
「へへへっ」そんな様子を見てクロスも泣き笑いし、母にきつく抱きついた。
皆が玄関口で笑っているとサニーがハッとして立ち上がりやっと皆を家の中に招き入れた。
「ごめんなさい、気付かなくて。」サニーは笑って皆をダイニングに通すと木苺の籠を持ってキッチンに駆けていった。
「サニー姉さん、カージス兄さんはどれ位で戻る?」トゥリーはソファに深く腰掛けながらサニーに聞いた。
「そうねぇもう夜も更けてきたから皆さんにご挨拶が終わったらすぐに戻ってくると思うわ、リスター喪一緒だもの…。」サニーはキッチンから応対し、エプロンで手を拭きながらダイニングに戻ってきた。
「クロス、今日はもう疲れたでしょう、お湯沸が沸いたから身体を洗ってもう寝なさい。」サニーはクロスの体が心配でをベットも整え終えていたのだ。
「はい。母さん。」「トゥリーさんもジーンさんもまだ帰らないよね?暫く泊まってくの?」クロスは眠たげに目を擦りながらもトゥリーとジーンが帰ってしまう事を心配していた。
「ああ、折角尋ねてきたんだ2,3日はお世話になる予定だよ。」トゥリーは安心させようと優しく微笑みかけた。
「良かった。じゃあ僕済みませんが先に失礼します。」クロスはペコリと頭を下げると眠たげにバスルームへと向かっていった。
「大きくなりましたね・・・5歳を過ぎましたね。何か目に見えた変化は?」トゥリーはクロスが出て行ったドアを見ながらサニーに向かって話しかけた。
「そうね…リスのときと同じよ、目が覚めてスッキリしたから・・・月曜から村の学校に行かせるの…今までは体が弱くってと言っていたけど、ある意味その通りだから。すごく楽しみにしているのよ、この村に越してきて同年代の子供も沢山いるから、リスターはすっかり馴染んでお友達が何人もいるのよ。」サニーは嬉しそうに2人に話して聞かせるとお酒と料理を用意しにキッチンへ小走りに戻って行った。
「姉さんは相変わらずだな、ジッと座っているよりも忙しそうに家の事をやっている方がいいようだ。」ジーンは楽しげに言ってトゥリーを見る。
「・・・・」トゥリーは黙って自分の手を見つめている・・・。
「どうした?考え事か?」ジーンはテーブルに盛られているフルーツからりんごを取り上着で軽く磨くとぱくりと齧り返事を返さないトゥリーを見た。
「・・・イヤ・・・何でもない。」
・・・あれから5年…今王国は変化の時だ・・・直中に居るのが正か遠く離れた方が正か・・・まずはカージス殿に全てをご報告しなくては…。トゥリーも座っている事が出来なくなったのかキッチンへサニーを手伝いに行くとジーンの膝を叩き立ち上がった。
ジーンも一人で待っているのも寂しかったのかトゥリーについてサニーの居るキッチンへ向かった…。