表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その瞳の色  作者: 梅花
4/29

誓(仮)中

大広間には大きな荘厳なる扉がありその奥に王座の間がある。

王座の間は広く天井は円形になっており天窓の光が中央の通路を照らしている。その通路の奥、一段高い場所に王座がある。

王座から少し離れた所に王座を囲むように通路を挟んで2手に貴賓席が並んでいた。

王座のその後ろにはプラーシノのドラゴンが正面を向きまっすぐに見つめる姿が見事なガラスで描かれていた。瞳には本物の宝石が使われ太陽に照らされるとまるで生きている様にキラキラと瞬いた。



戴冠の儀・ローズのお披露目の式典の時間が迫ってきていた……


「レイラ、ローズは控えの間にもう到着したのだろうか?」


ダーニスは客達から少しはなれレイラを供ない王の控えの間に続く扉の前で静か聞いた。


「もう迎えの者を手配しておりますゆえ控えの間にてお披露目の流れ、戴冠式の手順の確認をしております事と思います。」


レイラは丁寧に述べお辞儀をした。


「……。」

「レイラ、たとえ私が正式な王になったとてその様な改まった態度は取らないで欲しい。」


悲しげにレイラを見てダーニスは溜め息をつく。


「分って欲しい…私とて本意ではないのだ、王国には王が必要なのだ、ローズはまだ幼い。」


「執政の宮では各国に対して強く出る事は出来ないし、国としてこのままでは行けない…」


「…解っております。貴方様は何度も私に説明してくださいましたもの。」


「ですが今日を持って貴方は国王に、私は前妃になるのです。立場は変わります。とても微妙な立場に…。」


「前妃でありまたローズの母である…貴方様に頭を下げ従う者で無くてはならないのです。今までの様に隣に立つ事は出来ません…」


レイラは悲しく微笑みダーニスの手を取る。


「解っています…ただ、寂しいものですね、」


「忘れないで頂きたい…私にとっては貴方は前妃でもなくローズの母でもない。幼き日、貴方のお国で初めて出会った時と同じレイラ…何の称号も無かった時からの特別な人だという事を…」


ダーニスは優しく懇願するようにレイラを見て添えられた手に自分の手を重ねそっと握る。


「…はい。しかし此れからは少し立場が変わります。特に今は各国の来賓が来ております。友達の様に気さくにとは参りません。」


「どうぞ国王様、控えの間にて戴冠の儀の準備をなさってください。」


レイラはダーニスだけに見えるようにいたずらっぽく微笑むと膝を折り礼をとってダーニスを扉の傍に導いた。


ダーニスはその姿を見て微笑み厳かに頷くと控えの間に入って行った…


レイラはダーニスを見送ると再度大広間を一瞥しローズを探しに行った。



ローズの控えの部屋では儀式を執り行う司祭の助手が最終的な説明を行なっていた。

ローズは鏡の前に座り侍女の手によって長い髪を複雑に結わえられ生花と小さな輝くティアラが飾られていた。


コンコン・・・


「ローズ様レイラ様がお越しです。」扉の前に控えていた兵士が告げた。

ローズがどうぞと言うのとほぼ同時にレイラが入ってきた。

「ローズ準備は済んだ?」鏡越しに目が合いレイラが尋ねる。

「お母様!ええ、準備は出来たわ。」ローズは笑ってイスから降りるとレイラの元に行き抱きついた。

「とても可愛らしいわ、ティアラも良く似合っているわね、」

ローズを抱きとめて周囲を見回してレイラはビックリする。

「ティルニー!来ていたの!?それにフィリオも!」レイラは驚いて2人を交互に見る。

名前を呼ばれた者達は一人は笑って一人は申し訳なさそうにレイラを見た。

「レイラ様、相変わらずお美しいですね、本日早々に到着したのですが我らが姫君のお顔を拝見したく思いまして…ご挨拶に伺わなくて申し訳ありません。」ステラは胸に手をやりエルフの正式な礼を取った。

「真っ先にローズの元に顔を出すなんて貴方らしいわね、貴方の王様と王妃様はお元気ですか?」レイラもエルフの礼を取りステラと握手を交わし抱擁した。

「ええ、あのお方達は相変わらずお元気でいつも仲良く一緒にいらっしゃいます。」微笑みながら身を離し親しげに語る。

「そうですか…義妹様がお元気でお幸せなのを知る事が出来てホッとしました。貴方が御使者として来られたという事はお二方はやはりいらっしゃれ無いという事なのですね・・・。」少し残念そうに俯きフィリオの方に顔を向ける。

「そなたは何故此処に居るのですか?十二騎士団は正規も見習いも今回の式典で国王に忠誠を誓うはず…そなたもその予定であろう?」

レイラに問われたフィリオは当惑してステラとローズに助けを求めるように見つめる。

「??」レイラもその視線を追ってステラとローズを見る。

「其れが…その、ダーニス様に忠誠の儀を行なうつもりだったのですが…その・・・」

「私から話します。」フィリオの前に立ち塞がる様に母の前に立ち真っ直ぐに目を見てローズは臆する様子も無い。

「お母様、フィリオは既に私に忠誠を誓いました。」言い切ってスッキリしたのかローズは微笑んでいる・・・

「え!?貴方に忠誠を誓った?」レイラはオウム返しに繰り返して唖然としている。

「ええ。もう私の力は目覚めていますもの。」笑ってフィリオの下に駆け寄って足に抱きつき母に印を見せてとねだる。

「アッツ!」フィリオの印を見てレイラの顔から血の気が引く・・・

「ね、怒ったりなさらないでしょ?言葉はスラスラ出てきたの。あ、誓約を交わす事がどんな事を起すのかはもう知ってるわ。」母の傍に戻り真顔でローズは話す。・・・

「貴方…さすがプラーシノのドラゴンね、母がどうして咎められましょう…私は・・・貴方の事をいつも誇りに思っているのだから…。」

「ただ、ダーニスが、国王陛下がこの事をお許しになるとは思えないわ…。ダーニスになんて言ったら良いのかしら・・・」母親として我が子のドラゴンとしての能力の高さを喜びつつも国王に忠誠を誓うべき若きドラゴンがローズに忠誠を誓うという微妙な問題、大きな問題をどのように説明すべきかが解らなかった・・・

「レイラ様、恐れながらフィリオはまだ十二騎士団の見習いに過ぎませんし、以前からもローズ様の子守役でしたからその者を正式なナイトとして任命したとしてもさほど大きな問題にはならないと思われます。」ステラは大丈夫という様に頷く。

「しかし、十二騎士団は全てのものが国王に忠誠を誓うという決まりなのです。其れが今はまだ見習いといえども1人欠けるとは・・・・唯でさえダーニス様はプラーシノではないのに国王に成るという事が問題視されていますのに…ああ更なる不安の種が国民に撒かれてしまう・・・。」

「レイラ様、本日の式典の際に正式な誓いの儀式がなされるのですか?」

「いいえ…式典では時間がかかってしまうので形式的なものだけです。式典後日を改めてまずは正式な十二騎士が忠誠を誓います。」

「ならば現状を国民が知る事はないでは?」

「・・・あっ!そうですね!本日の式典で賓客や国民に知られてしまう心配はありません!」

「そうですね、国王様もとりあえずは体面は保たれますし、フィリオの父上が現役でいられる間は問題はないかと思います。」ステラは笑ってホッとしている一同を見回す。

「ここは・・・どうでしょう?内密にダーニス様にお話をして先ほどの話を繰り返してお許しを戴くというのは?」小首をかしげレイラを見る。

「ハァ…そうですね、そうするしかないでしょう。陛下も準備が整われている頃でしょう。皆で行って状況ををご報告しましょう・・・。」

レイラに促され一同はローズの部屋を出て王の控えの間に向かう。道中フィリオだけがうなだれ落ち着かない様子であった。


「・・・ローズ、貴方の力の話は今はまだ伏せて起きましょう。今この時は情勢が不安定です。陛下は唯でさえ色々な問題を抱えていらっしゃっるのだから更に不安を煽る様なマネは懸命ではありません。」レイラは立ち止まりローズの目線に合わせ膝を折ると神妙な面持ちで語る。

「解りましたお母様。私もむやみにあの人に私の手の内を見せたいとは思いません。」ローズも真剣な面持ちで頷く。

「ローズ・・・その様な言い方はならないと何度も申したはずです。あの方は国王であり、貴方の叔父なのですよ!」「礼節をもって接しなくてはなりません。」レイラは立ち上がると厳しい口調でローズを叱る。

「お母様わかっております。あのお方の前、人目の有る所では今までと同じように私は可愛い姪っ子ですわ、安心して下さい。」ローズは微笑むと母の手を握り歩き出すように促した。」

「ハァ…唯でさえ母は参っているというのに…貴方を信じていますからね。」

レイラは頭を抑えて溜め息をつくとローズの肩に手をやる。

4人は様々な思いを抱いたまま国王のへ変えの間に着きレイラが扉の前の兵士に取次ぎを頼む。


・・・コンコン・・・

「ダーニス様、レイラ様・ローズ様・ティルニー様・フィリオ殿がお見えです。」

「そうか、通せ。」

「はっ!」

衛兵はどうぞと恭しく扉を開けて4人を室内に招く。

国王の控えの間は南方に面した窓から明るい日差しが燦々と差込み、招待客より送られてきた色とりどりの異国の美しい花々が飾られていた。

ダーニスは濃紺の正式な軍服に身を包んでいた。肩からは斜め掛けに瞳の色と同じ赤褐色の綬を掛け、胸には軍隊時代に手に入れた幾つかの勲章を飾っていた。自身の姿に満足しているのか鏡に映った自身の姿を一瞥すると振り返って晴れやかな顔で一同を見渡す。

「ティルニー!久しいな!来てくれたのか!!・・・という事はやはり姉上も義兄上も来ては下さらなかったのか…。」ダーニスの悲しげに曇った顔を見てステラは力なく微笑むとエルフの正式な礼を取りダーニスに手を差し出す。

「申し訳ありません。ガッカリさせてしまったようですね、我が国王夫妻は昔の事件をまだ忘れてはいないのです。王妃様のお気持ちを考えますと王もここまで起しになる事が躊躇われたのです。ご理解下さい。」

ステラはダーニスと握手を交わすと抱擁をせずに深々とお辞儀をした…。

ダーニスはお辞儀をするステラを見ながら苦々しい思い出をかみ殺すように顔をゆがめると致し方あるまい・・・。と呟いた。


「・・・さて・・・ローズ…準備はいいかな?お前もついに目覚めたのだから国民にお披露目をしなければならないね、今日のお前はとても愛らしいよ。もっと傍に来て叔父さんに良く見せてくれ。」

ダーニスは屈むと両の腕を広げローズを抱きしめた。

「叔父様、お話があります。」ローズは抱きかかえられながらもダーニスから顔を離し申し訳なさそうに顔をのぞく。

「どうしたんだ?話とは??」ローズの表情から何かお願い事があると察し微笑を浮かべてローズをイスに座らせると目線を合わせ微笑みローズの頭を撫でる・・・

「・・・実はご報告をしなくて葉ならない事が御座います。」突然のレイラの声にビックリしてダーニスは立ち上がって振り返る。

「??」視線だけで尋ね先を促す。

「…実はローズが開眼を迎えまして自身の判断のみでフィリオに誓約の誓いを求めたのです。」言い難そうにレイラはダーニスを見たり床を見たりしながらぼそぼそと語り、終えると困った顔をしながらステラに助けを求めるように視線を送った。

「ええ!誓約の誓いを!?」ダーニスも驚愕してその場にいる一堂を見回す。

ブツブツと・・・まだ開眼したばかりの身でそんな力が?と呟きレイラの視線を追ってステラを呆然と見る。

「残念ながら国王陛下私もその場にいたのですが一瞬の事でドラゴン族ではない私の身と致しましては迂闊に近づく事も途中で止める事も相成りませんでした…力及ばず申し訳ありません。」ステラは当惑してダーニスをみる。そして深々と頭を下げる・・・

「・・・も!申し訳御座いません!!」突然フィリオが叫んだかと思うとその場にひれ伏そうとして身を屈めたが途中で硬直したのか頭を下げる事が出来ずビックリして驚愕の面持ちでダーニスを見つめる。


「・・・止めておけ、カロスの息子フィリオ・・・そなたが既に誓いの儀を終えているのなら正式な礼は主君にしか出来ない身体となったはずだ・・・無理をするとそなたの身体を痛める事になるぞ…。」

ダーニスはハァと溜め息をつき頭痛がするのか片手でこめかみを押さえながらイスにドサッと沈み込んだ・・・。

「・・・まったくこの時に厄介な事を・・・」

「失礼ですが国王陛下、先ほどレイラ様にもお伝えいたしたのですがフィリオはあくまでも見習い騎士団に過ぎませんし、お父上のカロス殿が正騎士で居られる限り我々以外この事実を知る事はありません。」

ステラは話しながらダーニスに近づき安心させようと話を続ける・・・

「この度の儀式においても形式的な誓約の誓ですし、フィリオは儀式に参加いたしません。」

「それに、開眼の儀を迎えられたローズ様には以前よりも一層護衛が必要となりますし、フィリオは元々ローズ様の守役…これを機にフィリオを正式なナイトと任命されては?さすればローズ様のお傍に常にフィリオがいても何の不思議も御座いませんし、フィリオは血筋も正しいドレゴン族ですからローズ様にとってドラゴン族の良き相談相手ともなりましょう…。」

言ってステラは微笑みダーニスの前に片膝を付き礼を取る。

「フム・・・確かに体裁は保たれローズには以前より付けようと思っていたナイトをつける事が出来るし、ドラゴン族の教育にもなるであろう・・・しかし私が考えていたナイト候補はもっと年配の正騎士でアエルやトロンであったのに・・・。」「・・・しかし5歳の開眼を迎えたばかりの幼き子が誓約の誓いを行なうとは…」

ダーニスは気を取り直してステラの手を借りて立ち上がると腕を組みフィリオをはじめて見た様にゆっくりと眺める・・・

「まあこうなってしまっては仕方ない…取り返しなど付かぬし、ティルニー殿の言う通りカロスがいるのだから問題も無い・・・フォリオを正式なローズのナイトとして任命しよう。」


「フィリオくれぐれもローズを頼む。この子は我々に残された大切な兄上の忘れ形見なのだ…。」フィリオの肩に手を乗せ叩くとその瞳を覗き懇願するように最後の言葉を呟く・・・

部屋の反対側で最後の言葉でレイラが涙ぐみハンカチで目頭を押さえた。

「お母様・・・」ローズは母に駆け寄るとその細い腰にぎゅっとしがみ付いた。

「叔父様有難う御座います。フィリオには申し訳ないと思ったのですが湧き上がる力を抑えるすべもわからなかったのです・・・。」母にしがみ付いたままその幼い容貌からは不思議な大人びた声を発し、ダーニスを更にビックリさせる・・・。

「ローズ・・・良いのだ誰しもドラゴンの力が目覚めてすぐには御しがたいものだ…しかし此れからは何か事を起こす前にフィリオかお母上に話して相談するよう心がけなさい。そなたの力はプラーシノの物・・・どれ程の物が秘められているのかまだ謎なのだから…。」ダーニスも改まりローズを見下ろす。

「ハイ…以後気をつけますわ。」突然いつもの幼い表情になり愛らしい微笑を向けられダーニスもつられて微笑んだ。


「では、これ以上賓客をお待たせするわけにもなるまい・・・参ろうか、皆のもの・・・。」ダーニスの改まった調子にレイラは微笑し、ダーニスの差し出した手を取り参りましょうと他の皆を促した・・・


控えの間に向かう途中ローズとステラは並んで歩きその後ろにフィリオが続いた・・・

「ステラ有難う…おかげで助かったわ・・・」ローズはそっとステラの手を握り自分に注意を向かせると微笑み握る手に力を込めた。

「私は何もしておりませんよ、ただ事実を伝えたまでです。」ステラも微笑むと前を歩くダーニスとレイラとの距離を測り急に歩調を弱めた。

そっと立ち止まり前を行く2人が振り返らないのを確かめるとローズにそっと耳打ちをした。

「ローズ様、いいですか、貴方とお母上様は大変微妙な状態なのです。まさに綱渡りのような・・・王宮にはダーニス新国王派とレイラ様、将来の女帝としてローズ様を押す派閥もあるのです。貴方は唯一人のプラーシノ…この度はまだ幼いという事とダーニス様という弟君がいらっしゃった…ゆえにプラーシノではないのにあの方が国王になられたのです。」

「貴方の瞳の色を見ていると若い頃のアラン様を思い出します・・・今はまだ早い…貴方様が成熟してフィリオのようなナイトを増やし、ドラゴンの力を操るすべを覚えてください。それまでは貴方にあのような力があることを世に知られてはなりません。せめて瞳の石を持てる12歳になるまでは・・・。」

ステラの強い色の薄い瞳に見つめられローズも真剣なまなざしで

「解ったわ・・・ステラ約束する・・・けれど私もお母様もとても孤独なの…今までよりももっと頻繁に訪ねてくることを約束してちょうだい。貴方がいてくれるときっとお母様も心を強く持ってくださるわ・・・。」真剣にステラを見つめステラもしばし見つめ返すとかしこまりましたとさっと礼を取った・・・。

ローズは微笑みステラの手を取るとさっと振り返り頷くと小走りに前を行く2人との距離を何事も無かったかのように詰めた。






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ