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その瞳の色  作者: 梅花
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誓(仮)前編

アラン国王が崩御されてから5年がたち首都セルシアナではまた美しい初夏の季節を迎えていた…


王宮では王女のローズが5歳の誕生日を迎え、5年間の間執政の宮として王国を支えてきたダーニスは正式な国王になるべく同じく今日、戴冠の儀を迎えていた。


王国は喜ばしいセレモニーの準備を進めていた…国民は祝祭に浮かれ、娘達は美しく着飾り子供達は浮かれて遊び、男達は早くから酒を飲み女達はそんな男達を見ながら忙しく立ち回り、家々は美しい花で飾られメイン通りには沢山の露天が出て記念品や花を売っていた。


王宮では近隣の国々からの貴賓達を出迎えるため、執政の宮とレイラ王妃は大広間で挨拶に忙しく立ち回っていた。

賑やかな一廓より少し離れた南の塔では、お披露目の為に準備を済ませ大きな鏡台の前に座り自分自身を覗き込むローズが居た。



トントントン……


「そんなに見つめなくとも十分お綺麗ですよ。」


入り口に佇む一人の青年が居た。


「ステラ!!」


扉に寄りかかり優しく見つめる青年にローズは喜び駆け寄った。


「大きくなられましたな…ローズ様もついに目覚めの日を迎えられましたか…」


抱きついて来たローズを目の高さに抱き上げ成長した姿を見つめる。


「ステラ本当に会いたかったわ、中々会いに来て下さらなかったから私も母も寂しくしてたのよ!」


ローズはステラの首に抱きつき肩に顔をうずめる。


「エルフの国王様の言いつけで世界中を旅している身分ですからそう簡単にはこちらに顔を出せないのですよ…」


ステラと呼ばれる者はローズを抱きしめ優しく話しかける…


「しかし、私の名はステラではないと何度も申しておりますに…」


ステラは困惑した表情を浮かべるが、からかっている表情にも取れる。


「貴方はアステリ(星)に見えるもの…」


ローズは微笑みステラの輝くプラチナブロンドの髪を指で一房摘んだ…


「私はエルフですからね、ローズ様は他のエルフ族をご存じないから私をアステリと思われるのでしょう…言うならば私はメテオロン(流れ星)ですね…」


真顔になってローズを見つめるステラ。


「メテオロンなんて言い難いし、貴方にはステラの方が似合ってる!」


「…全く、お好きなように呼んで下さい。」


「しかし本当に大きくなられて、最後にお会いしたのは貴方が4歳になられる前でしたか?まだ覚醒の前でしたから今日お会い出来ても忘れられているかもと思いましたよ……レイラ様によく似て美しくなられましたね。」


「しかし…しかしその瞳の色…その色は、そして瞳の奥に籠められたモノそれはアラン様の瞳だ……」


ローズを床におろし手を握りドアへ誘いながら、感慨深げに呟くステラ…


「ええ、知ってるわ…この色、この力、これがお父様から頂いたドラゴンの力よ。」


立ち止まりステラを見上げ握る手に力を込める…


ステラは立ち止まりローズを見つめる。


「小さな頃からお母様にずっと聞いていたわ…『貴方の父親はアラン国王、このドラゴンの治めるラ・レーヌ・オジェ王国の国王であり由緒あるプラーシノのドラゴンよ』ってね…私の瞳の色。これが私の中にドラゴンの血が流れている証だって…」


ローズは床を見つめ自嘲気味に笑いしゃべっていたが、

最後はいつもの笑顔に戻ってステラを見上げていた。


「そうですね、レイラ様がお話にならない訳が無い…それに貴方は覚醒を終え目覚められた…普通の人間の女の子と違うドラゴン族の唯一のプラーシノだ…」


二人は廊下に出てゆっくりと歩き出す。


「ステラ…教えて欲しいことがあるの…沢山ね、誰も聞けないのよ、きっと貴方しか教えてくれないわ…」


ローズは年相応に見える少女の顔に戻ってステラを見上げ懇願する。


「さて、私にお教え出来る事でしたら良いのですが?」


困った表情のように見えるがローズにはそれが見せ掛けである事が解っていた…


ローズは辺りを見回し誰も居ない一室にステラを引き込んだ。


「今から私が言うことは他の誰にも口外しては駄目よ?」


ステラは驚きローズを見つめる。


「この事は私の、延いてはこの王国の為…貴方に流れる血に誓って欲しいの。」


ローズの力強いプラーシノの瞳に見つめられステラは口を閉ざしたそして沈黙…


暫しの間ローズの瞳を見つめるとステラはゆっくりと頷き跪ずくと視線を合わせた…


「貴女様がお望みのままに…この身体に流れる悠久の血に誓って、真実を話しましょう。」


二人は部屋のスミに作り付けられたベンチに座ると他には誰も居ないのに小さな声で話をはじめた………





…その頃支度が出来たであろうローズを呼びに一人の青年がローズの自室に来ていた…。



部屋の前に立つ護衛と頷き合うと青年は扉をノックした。


コンコン…


「ローズ様お迎えに参りました。レイラ様がお呼びです…。」


「…ローズ様?」


返事が無いので心配になりドアを開けたがローズの姿が見えず室内へ入り見回すが居ない事に気付き唖然とする…


「フィリオ様!」


青年の姿を見つけビックリして隣の部屋から出てきたローズ付きの女官が声をかける。


「ローズ様でしたらエルフのステラ様と一緒に行かれましたが?」


不思議そうに伝えた。


「エルフ?ステラ??ああ…あのお方か…有難う、探してみるよ」


フィリオはガックリして今来た道を振り返り急ぎ足で出て行った…




……知りたかった情報を得たのに思ったよりも事の重大さを痛感し、悩むように俯くローズを見てステラは立ち上がり溜め息をつく……


「…貴女はどうなさるおつもりですか?」


ローズも立ち上がり決意をもった瞳でステラを見返し、


「知ったからには私がやらなくては…」

ローズは両の手をじっと見つめギュッと握りしめると意を決して答える…


「そうですか…私にはこれ以上のことは……さぁそろそろ参りましょう、誰かが心配して探しているやも知れません…」


再びローズの手を取り部屋を出ようとした。


「ローズ様!ティルニー様!!」


二人を探して小声で名前を呼ぶ者の声がする…


二人は目を合わせステラはほらねと言わんばかりに片方の眉毛をあげて見せた。ローズはにっこりと笑ってココよ!とその者を呼び寄せる。


「こちらでしたか、お部屋にお迎えに行くと昨日お伝えしたじゃないですか!まったく…ティルニー様もちゃんと確認してください!!」


少し息を切らしながら安堵の表情で膝に手をつき怒ってフィリオはステラに詰め寄る。


「ローズ様とお会いするのが久しぶりでお話をするのに夢中で気付かなかったんだ。」


すまないと詫びるステラをまったく!と言わんばかりに腕を組んで睨むフィリオ。


「其れはそうと久しぶりだな、フィリオ。」


「1年で随分立派になり元気そうだ。」


ステラは嬉しそうにフィリオを見る。


フィリオも久ぶりであるにもかかわらず挨拶を忘れた無礼を思い出し、急に姿勢を正しエルフ流の手を胸にあて軽く叩くと両手をクロスさせ頭を下げる挨拶をした。


ステラは笑ってフィリオに手を差し出すと握手を交わし抱擁を交わす。


「お久しぶりです。ティルニー様ご挨拶が送れて申し訳ありません。」


笑って挨拶を交わす2人の隣でローズはジッとフィリオを見る…

ステラの手を引き尋ねるように首をかしげる。


ステラもジッとフィリオを見つめて尋ねる。


「フィリオ、お前は幾つになった?」


突然の不思議な質問に困惑顔のフィリオ、


「何ですか?突然…今年で17になります。」


二人にジッと見つめられ何かを感じたのか恐る恐る答える。


「そうか…12騎士団には入隊出来たのか?」


「勿論!これでもドラゴン族の端くれですから、去年無事入隊式を終えましたよ!…まぁ入隊しましたがあいも変わらず雑用と訓練ばかりです。それとローズ様の御守りかな?」


先ほどの事を思い出して最後の言葉を付け加えローズにまだ怒ってるんですよとアピールした。


「悪かったわ…」


溜め息混じりに謝るとそっぽを向くローズ、


そのローズの態度を見てフィリオは腰に手を当てローズを見下ろす。


その態度にローズも負けてなるものかと睨み返す。


そんな二人を見てステラは暫く考え込みフィリオに質問を重ねる。


「フィリオ、お前の家は由緒ある薔薇色のドラゴン家系で、お前のお父上は騎士団に所属している。お爺様は元老院に居られるし、遠いが王家との血の繋がりもあるはず…おまえの一族はアラン国王に忠誠の誓いを立てているはずだ、父上は現状の王国についてなんと仰せだ?」


真面目な顔で質問され当惑の表情を浮かべるフォリオ…


「…ティルニー様…そのご質問は現状の王国では答えにくい事も御座います…しかし我ら薔薇色のドラゴン族はアラン国王に忠誠を誓いました。私はまだ忠誠の誓いの儀式には参加しておりませんがね…」


うつむき加減で声を落とし答えるフィリオ…


「なるほどね……」


「ローズ様、私は問題は無いと思いますとしか申し上げられませんが…」


顎に手をやり悩むようにローズを見る…


「そうね…けど、やるしかない…」


ローズは少し考え込んでから急に両手を上に挙げフィリオにおんぶしてくれと子供の様にねだった…。


「急にどうしたのですか?」


と尋ねながらもしゃがみ込みどうぞと言って背中を向けるフィリオ。


ローズはステラと視線を合わせ一つ頷いてからフォリオの首の一点に人差し指を軽く当て深く息を吸い込み低い声で古語の言葉を呟いた……



「汝の真の姿ロドンクロ(薔薇色)ドラゴンに申す。」


話し掛けられるとフォリオの身体が硬直した様に動かなくなった。


「我プラーシノのドラゴンに永遠の忠誠を要求する…神の定めし法に従い如何なる場合にも我を守り・我の命令に背く事無く永遠の忠誠を求める…ロドンクロはドラゴン族の血の誓いを守り王なるドラゴンプラーシノに忠誠を誓わなくてはならぬ…汝は応えられるか?」


ローズの黒く長い美しい髪は風も無いのにふわりふわりと揺れローズの瞳は輝き周囲には力が満ち、その力に押されたのかステラは一歩、二歩と後ろに下がる…


ローズに首の一点を押さえられフィリオは身体が石のように固まりその瞳はローズと同じく一点を凝視して輝いている…


「御意…我若きロドンクロ・フィリオは神定めし法に従い血の誓いを守り王であるプラーシノに永遠の忠誠を誓う…我が若きロドンクロ・フィリオはこの血に懸けて我の王ローズを守り命令に背かず忠誠を誓うと誓約する。」


………フィリオが忠誠を誓うとローズの触れた首の一点が直視できない程に輝きフィリオは歯を食いしばり呻き声を漏らした。


「我ローズはこの忠誠を受けフィリオに証を授ける…これにより誓約はなされた。」


ローズが唱え終わるとフィリオの首の一点は赤く光り指を離すとそこには薔薇色で複雑に絡み合うイバラ、そして中心にはドラゴンの瞑った瞳が描かれていた…


ローズはその証を指でそっとなぞりホッと息を漏らすとその場に倒れこんでしまった…


「殿下!」


フィリオは自分の主君となったローズを助け起こし首の激痛に顔を引きつらせる。

ゆっくりとローズの上身を起こし気を失っている様子を認めほっとして溜め息をつく…


「覚醒されたばかりなのに無茶をなさる…」


フィリオはローズを抱き寄せステラを見上げる…

「…これが誓約?」


そっと自分の首を触ろうとして躊躇する。今そこは火傷の後の様に高熱を持っていて痛みを伴っていた。


「やめた方が良い。知っているとは思うが其れは逆鱗となった。」


「今触れると瞳の石を持っていても覚醒してしまう。」


「瞳は瞑っている。ローズに何かあったり、ローズ以外の誰かが触ると瞳が開き覚醒する。」


「…随分とドラゴン族の事をご存知のようで、当然でしょうがね?」


「貴方はこの事を、この計画をご存知だったのですか?」


呆れた様に聞かれてステラはクスリと笑いフィリオの肩を叩いた。


「まさか!私にドラゴン族の秘密なんてわかる訳ないだろ?」


フッと笑い質問をはぐらかし再度肩を叩く。


「さぁ、各国の皆様がお待ちかねだろう…我らが宝石をお披露目しに行こうじゃないか…君も晴れてナイトだ…その事を執政の宮に報告しなくてはな?」


ステラに指摘されギクリとしてフィリオはそっとステラを伺い見る。


「そうだった…」


「ティルニー様も一緒に行って下さいますよね??避けられない状況であった事を一緒に話してくださいますよね ??」


すがる様に見上げてくるフィリオをみて微笑み、大丈夫だと背中を叩き、さぁ行こうとステラは先を促した……



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