第29話
クロス達は馬に水を飲ませようと道を外れ小川を探していた…
「ゾクッ!」
クロスは背中に嫌な寒気を感じとり周囲を見回した。
「どうした?クロス。何か見つけたか?」
「いや、兄さん。なんだか誰かにじっと見つめられてる様な嫌な気配を感じたんだけど…気のせいかなぁ?」
「なんだ?クロスどうした?」
ジーンもトゥリーも気付きクロスの側に馬を寄せた。
「クロスが嫌な気配を感じたそうなのですが…」
「嫌な気配?」
「うん…なんだか誰かに側でじっと見られる様なそんな嫌な気配。」
「そうか…」
ジーンは辺りを見回すがやはり人の気配はない。
「うー気持ち悪いや。」
クロスは寒いのか両腕を擦り不安そうな顔をした。
「まぁ…嫌な予感はあながち間違って無いからな、先を急ごう。」
キースは手綱を引き先頭をきって駆け出した。
「バサバサ…」
突然、頭上で大きな羽ばたき音がしたかと思うとクロスの目の前に黒い大きな鳥が降り立った。
「な、何?」
クロスの目の前で大きな鳥が身震いし、羽を広げると今にも倒れそうな顔色の悪い男へと変化した。
「探したよぉ!僕のドラゴン。」
「ッチ!ラミアー!」
トゥリーが珍しく舌打ちしてサッと馬から飛び降りた。
「ちょっと、その呼び方はやめてくれるかな?正確にはヴリゴラカスと、呼んで欲しいなぁ。」
トゥリーにラミアーと呼ばれた男は不満げにトゥリーの方へ振り返った。
「元をたどればラミアーだろ?今にも死にそうなヴァンパィア。」
ジーンが馬鹿にしたように言った。
「その呼び名は嫌いじゃないよ?狼くん。」
今度はジーンの方へ振り返ると男は楽しげに話す。
「それで?希少なヴリゴラカスがこんな所で何の用かな?」
トゥリーは煩わしげに続ける。
「決まってるだろ?僕の可愛いドラゴンを探しに遠路遙々やって来たのさ。」
「ッチ!忌々しい。遂にかの国はお前まで暗闇から駆り出して来たって訳か。」
「随分切羽詰まってる様だね?エルフにホワイトウルフが護衛だなんて?でも残念。僕が来たからにはそう簡単には逃げられない…」
男は気味悪く笑うとクロスを勢い良く振り返った。
「僕のドラゴン!君の味のなんたる美味なことか!?久しぶりに本当に美味なる味を思い出せたよ、百歳位若返った気分さぁ」
男は恍惚とした表情を浮かべクロスに近付く。
「弟に触るな!」
男がクロスに触れそうな距離まで近付くとリスターがすかさず男とクロスの間きに割って入った。
「…やぁ?って事は君もドラゴン君なのかな?でも僕が味わったあの味の香りはこの少年から漂っている…。」
男は訝しみながらクロスとリスターを怪訝そうにみる。
「そこまでだよ、ラミアー。」
「クロスとリスターから離れてもらおう。話が有るなら私が相手してやるよ、」
トゥリが剣を抜きつつ男に歩み寄る。
「おお怖いね、話し合いってそれ持ってするもんだったかな?…まぁ良いさ久しぶりに相手になってあげるよエルフ君。」
二人が向かい合って剣を構えるとその場に強い風が吹いた。
「今のうちに二人を連れてくぜ?トゥリー、後で合流な。」
ジーンがクロスとリスターを呼び寄せ馬に跨がった時、砂ぼこりを上げながら此方に近付く者達が見えた。
「…まぁ一人では探さないよ?追手ってそう言うもんだろ?」
男は楽しそうにニヤニヤ笑ってる。
「旦那!探しましたぜ!そいつらが探してた奴等ですか!?」
全身を鎧に身を包んだ厳つい男が馬上から叫んだ。
「…そうだよ、尋ね人さぁ。こっちの髪の長いのがエルフで短髪がホワイトウルフ、子供が尋ね人だよ、」
男はトゥリーとにらみ合いながら鎧の男達に指示を出す。
「子供は無傷。後はどうとでも?こっちは僕が相手するから逃がさないでね?」
「へへっ!これくらい任せてくださいな。」
鎧の男達はニヤニヤと笑いながら剣を抜きジーンに斬りかかる。
「3、4、ごー、ろく…多勢に無勢とはこの事か?」
「リスター!クロスを連れて行け!直ぐに追いつくから!」
ジーンが叫び魔法を展開する。
ジーンに向かって走る鎧の男達の足元が急にボコボコと隆起すると男達は足を取られその場に転がった。
「あーあ、だから言ったのにね。脳ミソ有るのかなぁ?まぁそろそろこっちも良いかなぁ?」
転がり呻く男達を一瞥するとラミアーと呼ばれた男はトゥリーに斬りかかった。
「ガキィン!」
剣と剣が激しくぶつかった。
男は交差した剣を弾き勢いよく空へ跳んだ。
宙に舞った男目掛けてトゥリーが魔法を発動させる。
「ウェントゥス…」
トゥリーが呟くと男の背後から強風が地面に向かって吹く。
「おっと、凄いな?」
男はマントを翻すとサッと大きな黒い羽を生やしトゥリーの風をかわした。
「…その羽、めんどうですね?もぎ取りましょう。」
そう言うとトゥリーの足下から急に植物の蔦が伸びると上空で羽ばたく男の羽に絡み付いた。
「くそ!」
男は変化を溶くと近くの木の枝へ飛び移った。
「逃げ足の早い。」
トゥリーは呟くと男に向かって魔法を発動する。