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その瞳の色  作者: 梅花
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第24話

 

 「…リス…無事だったか…」トゥリーは目の前で青く輝く幻影を見つめて深く溜息を付きガクッとその場に膝をつく…


 「…トゥリー…来てくれると思ってた…早かったね?」青白く輝きながら宙に浮くリスターは膝を突くトゥリーを見下ろし微笑む。


 「はぁ…リス、当たり前だろう…しかし…なんて危険な真似を!」トゥリーは立ち上がると深く溜息をつきリスターを睨み付けた。


 「解っています、貴方を探す前にちゃんと周辺を探ってありますから…それに自分自身にも意識を残してあります。何かが近付けば気付くでしょう…」


 「しかし…しかし危険な事は変わりあるまい、君達は今非常に危険な立場にあることを忘れてはならない。」


 「…申し訳ありません。ただ貴方が来られる前に2人で話がしたかったのもので…」青白く浮かぶリスターの顔は悲しそうに歪む…


 「…解っているよ、残念だが此方も詳しい情報は手にしていない、村長からの伝書を受け取ってそのまま此方に向ったものだから…」


 「そうですか…これからの事はどうしますか?ジーンは?彼は一緒ではなかったのですか?」


 「向う先はカージス殿と既に取り決めをしてある…それを今此処で言うのは懸命ではない。ジーンは落ち合う場所を決めていて其処で準備を整えて待っているよ…さあもう意識を戻しなさい。此処で体力を使うのは正しくないね。」トゥリーは周囲を見回し早口で話すとリスターを促した。


 「解りました。後…あとどれ位で来られますか?クロスを起して待っています」リスターも周囲を見回すと口調が早口になった・・・


 「後…半時ほど…急ぐよ、直ぐに動ける準備をして待っていてくれ」







 リスターとトゥリーは頷き合うとトゥリーは走り出し、リスターは湖の畔に佇む自身へと意識を戻した―――――








 リスターはホッと溜息をつくと素早く辺りを見回しそっとクロスの眠る場所へと戻っていった…






 「クロス…クロス。起きて、トゥリーが来る」リスターはそっとクロスの肩をゆすり起こすと自分の毛布を畳み出発の準備を始めた。


 「兄さん?…もう行くの?」クロスはまだ瞳を擦りながらボーっと兄が忙しなく動くのを見つめた。


 「ああ、トゥリーがもう直ぐ此処に来る。来たら直ぐに此処を出られるように荷物を纏めて痕跡を消さないと…」リスターはクロスの毛布も畳みながら早く準備するように促した。


 クロスはハッとして急いでリスターの手伝いをして言われた通り竈の石をバラバラにして不自然にならない様に散らしたりと忙しく動き出した…





 全ての準備が整い背に背負って岩に腰掛けていると遠くでピピーっと鳥の鳴き声が聞えて2人は背筋に力が入った。


 「…兄さん…あれは…」クロスがはっとしてリスターを振り返るとリスターも鳴き声のした方を見つめてああと頷いた。


 「トゥリーが来た、行くぞ」リスターはクロスを促しそっと物音を立てない様に闇の中の森へと向って行った…






 

 「ピピー…」再度鳥の鳴くような口笛が先方よりはっきりと聞こえ2人は足を速めた。


 暫く2人が音を潜め歩いて行くと前方の大きな樫の木にトゥリーが静かに佇んでいるのが見えた。


 クロスはトゥリーの姿を見るなり直ぐに駆けて行きトゥリーに抱きついた。


 「トゥリー…父さんが、母さんが…」クロスはきつくトゥリーを抱きしめ涙を流した…


 「クロス…解っているよ」そう言って自分の胸で涙を流すクロスをぎゅっと抱きしめると後ろに佇むリスターと視線で頷き合う。




 暫くはクロスが落ち着くまで2人は静かに待った…





 …クロスの嗚咽が落ち着くとトゥリーは優しくクロスの頭を撫でてやると落ち着いたかい?と優しく訊ねた。




 「…ごめんなさい、トゥリー…僕…」クロスは乱暴に流れ出た涙を拭うとキッとトゥリーを見つめた。


 「僕、絶対に父さんと母さんを助け出したい…」両の手を握り締めクロスは決意をこめた瞳をトゥリーにぶつける。


 「…ああ、解っているさ…けれどまずは此処から移動しなきゃ、ジーンが先の村で待っている…急ごう」



 トゥリーに促されクロスは俯き再度自分の腕で涙の痕を強く拭うと弱弱しく頷きリスターに背を押され先を行くトゥリーの後を付いていった・・・






 翌日の昼前に3人はジーンと落ち合う予定の村の入り口に到着した…




 「…着いたな…此処の旅籠にジーンが旅の準備をして待っている…ジーンに落ち合う前にやって置かなければならない事があるな」そう言うとトゥリーは2人をジロジロと上から下まで見回した。


 リスターは解っているのかトゥリーの視線を受け止めると小さく頷き腰に挿した短剣を抜くと自分の一つに括った長い髪を掴み一思いにバッサリと切り捨てた。


 リスターの突然の行動に呆気に取られるクロスの目の前で金色に輝く長くサラサラと美しかった兄の髪はジグザグのザンバラ頭になっていた。



 リスターは何の未練も内容で目に見える範囲を短剣で切りそろえていった…「後ろはやってあげよう」そう言うとトゥリーがリスターから短剣を預かると器用にリスターの髪型を少し長めのボブに切り揃えていった。


 髪型が綺麗に整うと場所を移し近くの小川で途中に拾い集めた怪しい葉っぱを数枚すり潰しリスターの髪に丁寧に刷り込んで行った。


 「…ひょっとして髪の色を染めているの?」クロスは作業に精をだす2人に恐る恐る尋ねた。


 「…ああ、金髪は目立つからこの葉っぱを擦り付けると綺麗なダークブラウンに染まる。瞳の色は2人ともハシバミ色に変えるんだ、それなら少しの魔力で済むから集中力も必要ないだろ?」トゥリーは作業の手を休める事無く返事をした。


 「じゃあトゥリーは?ジーンはどうするのさ?」クロスはリスターの作業を終え今度はクロスの分の葉をすり潰しているトゥリーをまじまじと見ながら聞いた。


 「私達かい?」トゥリーはクロスを見て微笑むとサッと髪を束ねる紐を解き手で髪を梳く仕草をすると突然長かった髪が消え少し癖のあるカールしたブラウンに変り身なりは青年将校の様で、瞳も何処にでもあるようなライトブラウンに変っていた。


 「どうだい?」そう聞くそのそぶりがまるで自身が将校である事が自慢でしょうがないっと言っている風でクロスは噴出してしまった。


 「いいね、とてもエルフのトゥリーには見えないよ」トゥリーがワザとらしく気取ったポーズを取るのをクロスは苦しそうに腹を抱えて笑ってみていた。



 「よし、では次はクロスだよ」そう言うと慌てて逃げ出そうとするクロスの頭をムンズと掴みすり潰した葉っぱを無理やり頭に塗りたくった。


 「くっさ~よくリスは黙って塗らせたね」クロスが鼻をつまみながら言うと小川で髪を洗ってすっかり別人のような姿になったリスターが笑いながら髪を拭っていた。


 「少しの間だけだよ、さて…トゥリー、君が鼻高青年将校なら僕達の役所はさしずめ小間使いって所かい?」リスターがブルリと身を震わせるとさっきまで濡れていた髪が乾いていた。


 「まあそんな所かな?私とジーンが将校で君たちが見習い兼小間使いって感じでどうだろう?」クロスの髪を染め終わると洗っておいでと頭を叩き手に付いた葉っぱを一睨みしてフッと息を吹きかけ消してしまった。



 「了解しましたトゥリー様他に御用が御座いませんでしたら荷物を纏め直ぐにでもジーン様の所に合流した方が良いのではないでしょうか?」リスターは自分に割り振られた役所になりきり丁寧に頭を下げた。


 「うん、良いよそれで。あの子が戻り次第向おうか、リス、あの子は一人で髪も乾かせないから手伝っておやり」そう言うと何の興味も無くなったかのように自分の身なりを気にしだした。


 リスターはクックと笑いを堪えながら「御意」と言うとクロスの様子を見に小川へ向った…


 リスターの後姿を見るとトゥリーは荷物から1枚のメモを取るとピー――と高い口笛を吹いた。


 すると1羽の鷹が上空より舞い降りトゥリーの肩にとまった。


 「悪いね、襲われるかも知れないから君にしか頼めなかったんだよ」そう言って易しく鷹の喉元を撫でてやるとメモを足に括りつけた。


 「気をつけて、きっと奴ら上空からも探してるから」翼を撫でてやると鷹は甘えるように掌に頭を擦り付けると勢い良く上空を目指して羽ばたいて行った…


 「頼むよ、彼女に無事伝えてくれ…」そう言って荷物を抱えなおすと中々戻ってこない2人を探しに小川へと向った…


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