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その瞳の色  作者: 梅花
22/29

どうして?

 「兄さん、僕達何処に向かってるの?」クロスは少し前を足早に歩くリスターに尋ねた。


 「…取り合えず今夜は山沿いに北へ向かう…もう少し、もう少し先に小さな湖があるからそこまで行こう」


 


 クロスはジェイの家から別れ話も早々に出発し、目的地も状況の説明も無くただ黙って足早に先を歩くリスターの後を黙ってついてきた。


 



 その湖まで行ったらリスターは一体何故早々にジェイの家を後にしたのかの説明をしてくれるのだろうか?


 父と母と連絡が取れたから其処に向かっているのか?それとも――リスターの横顔は緊張していて片手は常に腰の剣の柄頭を握っている。


 




 自分たちはドラゴン族だ…だから夕闇の中でも星と月明かりで先が見渡せ黙々と歩みを進めることが出来る。しかし見える暗闇と言えどもクロスにはなれない道、ガサガサと茂みを揺らす物音…突然に鳴き止む虫の声などにビクリ身体を震わせ恐怖を感じていた。






 ジェイの家を後にするときのジェイと村長の顔…もう会えないのだろうか?父と母と合流しても追われる身と分った以上もうあそこに戻り留まる事は許されないのだろうか?ジェイのあの顔…ただ一言彼は元気で…とだけ言った…もう会えないのだろうか?ジェイにも村長にも…皆にも…






 クロスは取り留めの無い物思いをしながらも前を行く兄の後姿を見失わないように小走りで後を懸命に付いて行った。





 兄には先が見えているのか何の迷いも無いようにクロスには直前になるまで見えない木の枝や蔓を器用に避けながらしかし速度を落とさず進んでいく…兄さん…何を考えているの?そんな疑問を挟む余地さえ許されない緊張の中クロスも必死に歩みを進める。




 2,3時間ほど過ぎたのだろうか?夜空の星は明らかに動きクロスにジェイの家を出てから4時間は過ぎている事を知らせる。


 


 空を見上げそして前を歩く兄を見たときちょうどクロスを遮るように手を伸ばしリスターが足を止めた。



 兄の陰に隠れそっと前方を見ると眩しい光が木々の間からキラキラと闇になれた目を刺す様に光る…



 「兄さん?」クロスがそっと話しかけるとリスターは唇に人差し指をあてシッと静かにするようにジェスチャーで示し足音を忍ばせ脇の茂みに隠れながら前進する…



 リスターの後をそっと物音を立てずに進むと木々が開けキラキラと輝く水面が現れた。



 2人は暫く無言で茂みに身を隠しながら息を殺し辺りを窺う…辺りは虫の音と水面が風にそよぐ音―そして遠くで鳴く獣の声がするのみ…



 辺りに人の気配が無い事を確認するとリスターが中腰で立ち付いて来る様にクロスに合図するとそっと小さな湖の周りに茂る葦の中に身を隠し前進する…



 リスターは極力物音を立てずに葦を掻き分け進みながらクロスがちゃんとついて来ているかを時折確認しつつ前進し、葦の切れ間から岩場へと移動していく…






 暫く進むと岩場は更に大きな岩がごつごつと突起し小さな小山の様な岩に挟まれる様相を呈していた…





 岩と岩の隙間少し広くなった場所に来るとリスターは歩みを止め岩の隙間から湖を見ると再度口元に中指を立ててクロスに注意を促すと目を閉じ静かに周りの音に耳を澄ました―――危険が無いのを悟るとやっと口を開きホッと息を漏らした。






 「クロス、此処なら大丈夫だろう…荷物を降ろして荷物の中から練炭と鍋と食料を出してくれ」そう言ってリスターも荷物を降ろすと歩きながら集めた小枝と周りの石を集め簡単な煮炊きできる場所を作り始めた…



 「此処は上空からは水面が光り目をくらます、そして沢山いる生き物が鳴き止んだら何か異変があったと知らせてくれるし何よりもこの岩場が周りからの視線を遮ってくれるだろう」


 「食事をして少し休もう…疲れただろう?早く食事にしたら早く休める」リスターはクロスから荷を受け取りながら忙しく口と手を動かしもう火を起していた。



 クロスはリスターの様子を見てまだ話をしてもらえる雰囲気ではない事を察し兄を手伝い湖から水を汲みに行った―――







 煮炊きが完了し練炭のほの暗い明かりの中2人は久しぶりの食事を取り暖かい香りのいいお茶を口にした…




 「クロス…今から話す事をよく聞いて欲しい…そして兄さんが話し終わるまで質問はなしだ…出来るか?」兄の子ども扱いする様子にムカッとしながらもクロスは真剣な面持ちで頷いた。



 「よし、約束だ…」リスターはクロスの様子を見ると軽く微笑んでお茶を1口すすると話し出した――





 



 「父さんと母さんは攫われた……おおよその場所は分るが俺たち2人では其処に行く事は出来ない…わかるな?」クロスは質問をしたくなる気持ちをぐっと飲み込み頷いた。



 「お前も既に知っての通り俺達一家は数少ないドラゴン族だ他のドラゴン族は国に…王に使え色々な要職についている…何の縛りもなく自由なドラゴンなどこの国には存在しない…筈だ…しかし我らは自由に見える。ドラゴン族はこの国にのみ存在する訳でもないのをお前も知っているな?」リスターは頷くクロスを一瞥した。



 「南のドラゴン族は数多いそうだ…しかし色は我らとは一致しない…父が攫われた理由は分らないけれどこの国には自由なドラゴンは存在しない―それが理由に成る様に思う…何かの任務に係わっていたのか…それとも…」



 「父さんからはもしかしたらこの様な事が起こるやも知れないと言われていた…父さんには何か心当たりが合ったのだろう」



 「そしてその時はお前を連れて逃げるようにと…けして自分の所に向おうなどと考えない様にと…」



 クロスが口を開こうとしたのを見てリスターが手を上げ遮る。



 「お前の言いたい事は判る。勿論いまお前が思っているような事を私も父に言ったさ…しかし父は笑って言った…お前達が来ると足手まといだと…その意味がお前には判るか?」リスターは溜息をつきクロスを見る。しかしクロスは判らないとばかりに首を傾げる。



 「私達には解らない理由で父は攫われそして私達には追うなと…私にもさっぱり理由が理解できない…しかし理解できないから父の言葉に従わなくては成らない」リスターはきっぱりと言いクロスを見つめる…



 「私達では父の秘密を明かして貰うにはまだ至らない様だ…只父はトゥリーとジーンに連絡を取り2人の指示に従えと…其れまではこの場所で2人離れず身を守るようにと―――」そこでリスターは口を閉じお茶をすすり黙った…





 クロスは兄が口を閉じてから暫く話し出すまで静かに待った…するとリスターがそっと立ち上がり夜空を見渡した





 「村長が私達に連絡を取る前に2人に伝書鳩を飛ばしてくれている…幸いにも2人が訪ねて来る日まであまり離れていなかったから思うよりも早くこの知らせを受け取っている事と思う」




 「それまでこの場所で待つ。理解したかクロス?」リスターは空から視線をクロスに向けるとじっと見つめながら訊ねた。



 「…わかったよ兄さん…取り合えず2人が来てくれるのをここで待つんだよね?けど此処は安全なのかな?僕こんな所来た事無かったから」クロスは納得いかなげに辺りを見回す。



 「ああ、ここなら安全だ。ここは父さんと2人の示し合わせた場所でいざと言う時はここに行くようにと言われていた…」



 「そう…わかったよ兄さん」クロスはまだ不安そうに辺りを気にしながら頷いた。



 



 リスターはそんなクロスをやさしく見つめると頭を撫で荷物の中から薄手の毛布を出すとクロスにほって寄越しそれを撒いて今日は眠れと言い2人の食器を洗いに湖の縁に行ってしまった…




 クロスは不安げにキョロキョロと見回し寝心地の良さそうな場所に毛布持って移動してその場にしゃがみ込んだ…



 食器を濯いで戻ったリスターが岩場の隅で丸くなっているクロスに気がつき練炭の火を消し小さな焚き火を残すと毛布をまといクロスの隣に腰を下ろした。





 「クロス…怖いか?」リスターがそっと話しかけると俯いていたクロスは兄を見上げ小さく首を振る…


 「不安なんだ…何もかも…父さんと母さんは無事なのか、トゥリーもジーンも直ぐ来てくれるのか…これからどうなるのか…」



 「…そうだな…父さんにはこんな日が来る事が解っていたんだ…何かしらの手を既に打っているだろう。今は信じて待つしかない。2人が来るまで此処で大人しく待とう。」そう言ってクロスの肩を叩き毛布に包まると目をつぶってしまった―――





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