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その瞳の色  作者: 梅花
20/29

血痕

 リスターとクロスは湖のほとりでいつもの様に剣を構え向かい合っていた…


「クロス!何度も言っただろう!剣先を下げるな!目で見えているものだけでなく五感で感じ取れ!」リスターは剣先でクロスの剣を叩くとクルリと回しクロスの剣を握る手を叩いた。


「ッツ!」クロスは痺れる手を我慢し飛ぶように右に移動すると兄の隙を探そうとジワリと滲む汗を無視してリスターをn睨みつけた。


「どうした?かかって来ないのか?お前は隙だらけだぞ!」リスターは言うとクロスが重心をかける左足を狙って剣を繰り出した。


 クロスはリスターの攻撃を何とか交わすと体勢を立て直そうと2,3歩後退した。しかしリスターの流れるような攻撃はクロスに逃げる隙を与えず足元を狙って攻撃を仕掛けてきた


「わっ!!」クロスは攻撃を交わせずその場に不恰好にも尻餅をついた。


「1っ本!クロス…また死んだぞ。」リスターは息を切らすことも無く尻餅をついたクロスの首筋に正確に剣を突きつけていた…


「…降参…」クロスは突きつけられた剣から少し逃げて降参した。



「ハァ…クロスまだまだだな…お前は一人で練習していると言うが一体何をしているんだ?これからはまた放課後に剣術の稽古だ。」リスターは溜息をつきながら剣を鞘に収めるとクロスに手を差し伸べ立たせてやった。


「ちゃんとやってるさ…兄さんが強すぎるんだよ…一体どうしたらそんなに軽やかに動けるのさ?」クロスはまたも自由時間を削られることにブツブツ言いながら剣を鞘にしまうと尻についた草を払った…


「お前より5年早く生きているだけの事さ…そろそろ夕飯だな…今日はここまでにして家に帰ろう。」


「あーもう疲れた!」クロスは言いながら剣に付いた草を剥がし鞘にしまった…


「クロス家まで競争だ、先に着いた方が勝ち。負けた方は夕食の片付けを手伝うんだぞ!」リスターは言うとお先にっと言って走って行った。


「兄さんずるいよ!!」クロスも負けてなるものかと走り出す。


 リスターは後ろを走るクロスをチラチラと振り向きその成長をかみ締め一人微笑む。クロスは必死に兄を抜かそうと追いかけている。


 2人がもうじき家の煙突から昇る煙が見えるであろうと頃まで来るとリスターが突然止まってクロスを腕で制した。


「誰か居るぞ…シッ!クロス静かに!!」リスターはクロスに目で訴えるとその場にしゃがみ近くの茂みえと移動してクロスを呼んだ。


 2人が息を殺して辺りを見回すと2人からかなり離れた所で何も持たずにきょろきょろと辺りを見回しているジェイの姿があった…


「あいつこんな時間に何してんだ?」言ってクロスは立ち上がるとリスターを連れてジェイの所まで駆けて行った…


「おーい!ジェイ!!」クロスが大声で呼ぶとジェイはハッとした様に振り返り身振りで静かにするようにと訴えて近くの木の茂みへと2人と手招きで呼んだ。


「クロス…リス、静かに。」言うとジェイは緊張の面持ちで辺りをキョロキョロと見回す…それにつられクロスとリスも辺りを窺いジェイと目を合わせると黙って頷いた。


「クロス、リス落ち着いて聞いてくれ…さっき村長からの伝言を受け取って2人を探しに此処まで来たんだ…今日見たことない怪しい男達が神父様を尋ねまわって居たそうだ…村長がもう神父様には伝えたそうだ…それで俺がお前達に身を隠すようにと伝言を伝えに来た。」ジェイは声を潜めリスの瞳をまっすぐ見つめると溜息をついた。


「リス…俺だって馬鹿じゃない…クロスの様子、みんなの髪の色、言葉遣い…それにたまにやって来るエルフとホワイトウルフ…何より瞳の色…ドラゴン族ってもっと前から気付いていたよ。」ジェイは真っ直ぐに見つめ返すリスの瞳の強さに押され目をそらして俯いてしまった…


「…そうか…で、父と母は?何か聞いていないか?」リスターはジェイを見つめる瞳を幾分和らげると両親の安否を尋ねた。


「悪いが何も聞いてない…俺は村長に直接言われたんじゃなくて村長っちのおばさんに言われて来たんだ…とにかく2人に伝えて俺ん家で連絡があるのを待てって…」ジェイはそう言うと辺りを見回し闇が深くなってきたのを確認するととにかく俺んちへ来てくれと言って立ち上がった。


「ああ…わかった有難う…いつもの方法で2階のお前の部屋に行くよ…。」クロスは何が何だか分らないが兄と友人の只ならぬ雰囲気を察すると声を落としジェイを見つめ頷いた。


「ああ…じゃあ後で…。」言ってジェイは踵を返すと家に向かって走っていった……


「…兄さん一体何なの??」クロスは思案顔で遠くを見つめるリスターに尋ねた。


「…後だ…まずはジェイの家に向かおう…走るぞ。離れず付いて来い。」リスターはクロスの言葉をさえぎると目を細くして前を睨み周囲を窺うとクロスの肩を叩き絶対離れるな、俺が止まったら直ぐに身を隠せと注意してクロスが辛うじて追いつける速度で走って行った…


 クロスは前を走るリスターから視線を逸らさない様に注意しながら物思いに耽る…


 いったい…なんだんだ?それよりジェイは知っていたのか…それなのに俺大事な友達にずっと嘘を…クロスはジェイに自身の正体を隠していた事を思い今までのジェイの様子を思い出していた。


 皆で川で泳ぐ時に鱗を見られない様にと上着を脱がないことをアンディーとルーには散々馬鹿にされたのにジェイだけはいつも気にせず何だっていいだろ?と庇ってくれた事…将来の夢や都・他国について語る時人外の事をジェイはいつも詳しく話してくれたっけ…その時にはもう気付いていたのかな?俺の瞳の中に光る白い星に…ドラゴン族の証に……ジェイ…大事な親友…


 クロスは目頭が熱くなっている事に気がつき頭を振ると今はそれより一体何が起きているのかの推測を始めた…


 怪しい男達が何故父さんを探すんだ?ドラゴン族だから?何故僕達が隠れなきゃいけないんだ?父さんに掛かれば男の一人や二人簡単に撃退できるのに?むしろいっそ真の姿に戻り飛び去ってしまえば?…止め処もないことを考えているとジェイの家がボンヤリト暗闇に浮かび上がって見えてきた。


 先を走っていたリスターは立ち止まり木立の中に隠れクロスに向かって頷き手招きした。


「クロス…どうやら此処は安全なようだ。どうやって2階に入る?」


「ああ…ちょっと待って…息が…」クロスは呼吸を落ち着けると辺りを見回しリスターに付いて来てというとジェイの家の庭に伸びる大きな栗の木に根元に走って行き器用にスルスルと登っていった…


 リスターが見つめる先でクロスは木の上の方まで上ると一番建物の窓に近い枝にぶる下がると開いている窓に向かって1,2度体を揺さぶって部屋の中へと飛び込んでいった…


 リスターが唖然としていると飛び込んでいった窓からクロスがヒョコッと頭を出し兄さん早くと小声で叫んだ。


 ハッとして辺りを窺うとリスターもクロスを真似て木をよじ登り枝が折れないかと様子を見てから窓の中に飛び込み1回転すると綺麗に着地した。


 クロスはリスターが飛び込んでくると再度窓から辺りを見回し音を立てない様に窓を閉めるとカーテンを引き兄に向き直った。


「兄さん凄いね、初めてで綺麗に着地するなんて!僕なんて何度も体をぶつけて痛い思いをしたよ。」少し微笑んで話すとクロスは急に真顔になりリスターの傍に立つと真剣な眼差しでリスターを見つめた。


「兄さん…いったい何事なの?説明して。」


「・・・」クロスの真剣な目に見つめられてリスターはらしくなく爪を噛むと諦めたように溜息をつき部屋にあるソファーを指差しクロスと向き合う形で座り暫し無言でクロスと見つめ合った……


「クロス…私も詳しくは知らされてはいないんだ…只お前も知っての通り俺達はドラゴン族…種は今や限られている…他のドラゴン族は皆国に仕えているんだ。自由なドラゴン族なんて存在しない…」


「それが何故だか私達家族は縛られず自由に生きている…これが何か理由があるはずなんだ…きっとこれが今回身を隠せと言われた理由なんだと思う…」リスターは俯いて両手を握り締めながら話していたがクロスの不安そうな顔を見ると大丈夫だよと言って笑顔を見せた。


「きっと大丈夫だ、村長さんが事前に知らせてくれたんだし、私達が無事な様に父さんも母さんも大丈夫だ。今は此処で父さんからの連絡が来るのを待とう。」リスターは今だ不安げな表情を浮かべるクロスの両手を身を乗り出して握ると信じて待とう。と言って安心させるように笑顔を浮かべた…


「…分った…そうだよね…兄さんが言う様に今は信じて待とう。」クロスも兄を心配させまいと笑顔を作りあーお腹減ったな~とへこむ腹を撫でた。


 2人が小声で話をしているとドアをノックする音と共にジェイの小さく開けるよとと言う声と共に真っ暗な室内に廊下から漏れる光が差した。


「2人共、取り合えず簡単なものだけど腹に入れてくれ」ジェイはサンドイッチと紅茶を載せたトレーを2人の前におくと自身もクロスの横に座った…


「父さんは都の研究所に行ったきり暫く戻ってないんだ、今は俺だけ…安心してくれ…」ジェイは神妙な顔で溜息をつくとリスの方に向き直りじっと見つめる…


「リス…俺は何で君達家族が狙われたのか分らない…けど多分ドラゴン族って事が理由なんだろ?俺も何度か記述を読んだ事がある。神の采配から自由なドラゴンはこの国には存在しない…在るとすればそれは誓約を交さなかったドラゴン…黒竜の一族だけだ…」ジェイはリスの瞳の色を見つめるように話しはじめる…


「リス…そしてクロス…君達の瞳の色は…それに該当しない……。」リスはジェイを見つめ何も言おうとしない。


「カージス神父の瞳はスカイブルー…そして君もね…それの意味する事を俺は…」


「分っているよジェイ…言いたい事はね…ただ君は誰よりも私達をを知っている筈だ…だた言える事は信じてくれ…それだけだ。」言いよどむジェイを遮る様にリスが紅茶に手を伸ばし一口すするとジェイに柔かい微笑を向ける…


「…ああ…やはりそうか…いいさ分ってる。クロス、お前は俺の親友だ。」ジェイはリスの微笑を見てホッとしたのか隣に意味不明という顔で2人の話を聞き入っているクロスの肩を抱く。


「意味が全然分らないんだけど…僕達は黒竜の一族なの?違うでしょ?」クロスは肩を抱かれたまま怪訝そうにリスターを見る。


「…ああ…もちろん違うさ…私達はこの国でもしかしたら自由なドラゴンなのかも知れない…けど私は違うと思うよ、父さんはいつも私達に隠れて誰かと会ったりしていた…トゥリーもジーンもね…何か意味があるのかもしれない…まあ父さん達に会えば話してくれるだろう。」リスターは紅茶をじっと見つめながら話し終えるとそれを一気に飲み干した。


「…うん…分った。」クロスは納得行かないのか眉間にしわを寄せたまま膝の間に握った両手を見つめる…


「…とにかく此処は安全だ…何かしらの連絡があるまではゆっくりしてくれ。」ポンとクロスの肩を叩き笑顔を見せるとジェイはもしかしたら誰かが来るかもしれないからと言って部屋を出て行った…


「…彼には世話になるな…」リスターはポツリと呟くとサンドイッチの皿をクロスに押しやり自分は少し休むよとソファに横になるとクロスに微笑み目を瞑った…


 リスターが眠ってしまった様なのでクロスは空腹を思い出しサンドイッチをつまむと月明かりに照らされる窓の外を見つめた…父さん、母さん無事なのか?一体何だって言うんだ…父さんはドラゴン族だから追われているのだろうか…自分たちも追われているのだろうか?…取り止めのない、誰も答えてくれない疑問が後から後から溢れクロスは頭痛がしてきた。


 取り合えず父さんから連絡が来るのを待とう…考えたって答えが出ない…


 疲れた体に温かい紅茶と満腹感が押し寄せクロスは目を閉じた…きっと明日、明日になれば父さんと母さんに会える…そうすれば……クロスは意識を手放した……


 




 クロスが眠りの世界に落ちてから1時間が過ぎた頃リスターはそっと瞳を開けた…静かな室内にクロスの寝息がリズム良く響く…リスターは物音を立てない様にそっと身を起こし立ち上がるとクロスに手近にあった毛布をそっとかけよく眠っているのを確認すると暗闇の中を猫のように物音を立てずに部屋から出て行った…


 リスターが階段を下りていくと静かに話をしている声が聞えてきた…


「村長様、ジェイ…」リスターがそっと声をかけると2人は飛び上がり一斉にリスターを見た。


「ビックリさせるなリス、クロスは眠ったか?」村長は胸をなでおろすとリスターを手招きして応接間のソファに座らせた。


「…それで父と母は?」リスターは顔をしかめ村長を見る。


「…残念じゃが連れ去られた様じゃ…カージスからの連絡が無い…此処に来る前通った道に新しい血痕が付いておった。」村長は其処まで言うと口ごもり俯いてしまった…


「申し訳ない、せっかく事前に情報を得たのに…」村長は両手を握り締め声を震わせる…


「…いえ、村長に責任などありません。父は…私達はこの事を予期していたのですから…この地に少々長居が過ぎたのです。皆さんに余計な迷惑を掛けてしまい申し訳ありません。」リスターは腿の上で両手を組むと座ったまま頭を下げた。


「…すみません…」リスターは謝罪の言葉を呟き俯く。


「…リス、カージス達はよもや殺される事など無いのじゃろう?」村長は恐る恐る言葉を紡ぐとそっとリスターを窺う。


「…ええ……幸か不幸か私達が此処に居ます。特にクロスが…私達を捉えるまで命を奪うことは無いでしょう…」リスターは苦しげに顔を歪め2人を見る。


「…やっぱりクロスは…あの瞳の色は…」ジェイがそんなリスターを見つめ震える声で尋ねる。


「ああ…ジェイ君の言う通りさ。」リスターは皮肉そうにニヤッと顔を歪め笑うと頭を抱え俯いてしまった…


「…リス、カージスと以前から決めてあったとおりあの金髪の若者と白髪の小僧宛に鳩を放った。気をしっかりと持つのじゃ!こうなってはお前しか居らんのじゃ。」


「…分っています。私がしっかりしなくてはクロスには私しか居ないのですから……」しかしリスターは顔を上げたが両手で顔を押さえくぐもった声で村長に答える。


「…しっかりしなくては…トゥリーとジーンが来るまで…」リスターは自身に言い聞かせるように呟くと握りこぶしが白くなるまで力をこめた。


「…リス、どうする?此処には長くも居られまい。追っ手が戻ってくるやも知れぬ。」村長はまだ若いリスターに全ての重荷を乗せてしまう様な自身の言葉に嫌悪しながらも一刻を争う状況をリスターに言わねばならなかった…


「…そうですね…父との取り決め通り私達はここを出ます。申し訳ありませんがジェイ、食料と必要なものを分けてはもらえませんか?」リスターは先程の混乱を振り切るように強い言葉で意志を示した。


「…ああ、村長に言われて出来るだけの準備をしてある。リス…何処に向かうんだ?」ジェイは恐る恐るリスターに行く先を尋ねた。


「…申し訳ないがそれは言えない…許してくれ…」リスターはジェイに申し訳なさそうに言うと村長の方に向き直り頷き立ち上がった。


「トゥリーとジーンには私達の行く先が分っていると思います。荷を纏めて真夜中私達は出発します。村長、ジェイご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。」リスターは2人に向かって頭を下げるとジェイに荷物を調べさせてくれと言って応接間を出て行った…


 ジェイは慌てたように村長に一礼するとリスターの後を追いかけていった…。



 

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