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その瞳の色  作者: 梅花
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三年後(仮)

国王が暗殺され三年が過ぎた…

首都セルシアナより遠く離れた北に位置する小さな山間の町カービリンで一人の少年が暖かいベットで毛布に包まり寝返りを打った・・・

アラン国王が亡くなり王国を襲った悲劇の日から時は過ぎ三年がたった。


都から遠く離れた北の町、カービリンで一人の少年が暖かいベットの中でまどろみ、寝返りを打った……


クロス、クロス…

誰かに優しく呼びかけられる夢を見た。

「誰?」

「母さん?」


クロス…クロス……


「クロス!!」


強く揺さぶられクロスは目を覚ました。

「クロス!目が覚めたか?」

「中々起きないからどうしようかと思ったよ…御免ね、起きて支度をして、父さんの仕事の都合で急いで引っ越す事になったんだ。」


クロスはまだはっきりしない目をこすりながら自分を起こした人をゆっくりと見上げる。


「兄ちゃん?母さん?もう朝??」


「寝ぼけてるな?さあ、早く着替えて支度して」


クロスを起こしたのは5歳離れた兄リスターである。

リスターは8歳になって半年が過ぎていた。

リスターは父に似て色の薄い金髪に日中は明るく輝く青、夜には濃紺の様に見える瞳を持っていた。


初夏が近づいているとはいえ北に位置するこの辺りはまだ夜はひんやりと肌寒い。そんな中クロスは夢うつつのままゆっくりと着替え始めた。


「一人でも出来る?兄ちゃんは他にやらなきゃならない事があるから…着替え終わったら下に降りて母さんのところに行って?分かった?」


着替えに一生懸命になりながらクロスは頷いた。


リスターはクロスに優しく微笑むと頭をひとなでして忙しげに部屋を出て行った…

弟の面倒見がよくしっかりした兄であった。


一人で何とか着替え終わり兄の言いつけ通り母の元へと階段を降りていくと母サニーは忙しそうにキッチンを行ったり来たりしていた。

母サニーは栗色の髪を持ちそれよりも少し濃い色の瞳をした優しい人間であった。


「クロス…起きたのねさあ、寒いからこっちへいらっしゃい。」


母は少し乱れた前髪を直しながらクロスに微笑み、荷物の中からマグカップを取り出すと暖めてあったミルクをそっと注ぎクロスに手渡した。


「熱いから気をつけてね、こぼさない様にね。」


クロスは眠い目を擦りながらコクリと頷きミルクをフーフーしてゆっくりと飲み始めた。


母はそんな様子を見て安心したのかまたキッチンの荷物を纏めだす。


「お父様の急なお仕事の関係で南の町に引っ越すことになったの…辛いでしょうけどお兄ちゃんの言う事を聞いてお利口さんにしていてね?」


母はせかせかと動き回りながらクロスに話しかけ荷物をまとめそれが済むと振り返り続ける…


「それから…」


見るとクロスはテーブルにうつ伏せになってまた眠ってしまっていた…


「ふぅ…」


溜め息をついて2階に行きクロスのベットよりタオルケットを持って降りてくると優しくクロスを包み込み起こさぬようにそのままにしておいた…


トントントントン!


階段を急ぎ足で下りてくるリスター


「2階の荷物は殆どまとめ終わったよ!」


「シッー!」


母に言われ少し驚いて見回すと眠っているクロスを見てとくすっと笑いひそひそと話し出す。


「また眠っちゃったの?しょうがないなーまだまだ赤ちゃんだね?」


「ふふ、そうね…悪いけどママも手伝うからクロスの荷物も纏めてしまってくれる?」


「それとシシーももうケージに入れてちょうだい、多分あなたの部屋に居ると思うわ。」

猫のシシーはクロスの3歳の誕生日に父カージスがプレゼントしたシルバータビーの猫である。クロスのペットだがシシー自身はクロスよりもリスターに懐いていて眠る時はいつもリスターと一緒にいる事を好んだ。


「わかった!他には大丈夫?」


母はリスターのおでこにキスをした。


「ありがとうリス、終わったらお父様の所を手伝ってあげてちょうだい。」


「うん、わかった。」


行きと違って静かに階段を上がって行く姿を見送って母も荷物を馬車に載せようととせかせかと動き出した…




「さてっと…後はクロスとシシーを積み込むだけか?」


カージスは荷物を積み終わった馬車を点検して集まった家族を見回して冗談を言った。

父カージスは良く鍛えた逞しい身体と日焼けした肌をしていた。

髪も瞳の色もリスターと全く一緒である。


「カージスったら!」

「…そうね…全部積み終わったと思うわ」


サニーは夫の冗談に微笑みながら荷馬車から降り、家をみあげた。


「ぼくクロスを起こしてくるよ、」


「ええ、お願いねリス」


任せてと言いながら走ってクロスを呼びに行くリスター…


数分後まだしっかりと目を覚ましていないクロスの手を握り反対側の手にはシシーを入れたケージを抱えながら父と母の元に戻ってきた。


「よし、準備は良いか?忘れ物は無いか?サニー最後の確認を頼むよ。もうこの家には戻ってこないんだからな…」


頷いて明かりの消えた家の中にサニーは確認と戸締りに戻って行った。




サニーが戻ってくるとカージスは寂しげに家を見上げ、


「また引っ越しか…この土地ともお別れだと思うと別れ難いな…」


皆の顔を見回し再度寂しげに家を振り返った。


「1年しか住んでないけど色々あったからね…やっぱり引っ越しをするときはなんだか寂しいや…」


リスターも家をじっと見つめ目を潤ませる…


「そうね…でもいつまでも思い出には浸ってられないわ、新しいお家も新しい町にもきっと楽しいことが待ってるでしょう…出発しましょうか」


サニーは皆を励ますように明るく話し、リスターの肩を抱き夫を振り返る。


「よし、じゃあ父さんが前の馬車に乗るからリスとクロスはお母さんと一緒に後ろの馬車に乗りなさい。」


「出発だ。」


父の号令と共に皆馬車に乗り込むと2台の馬車は月明かりの差す暗い闇の中へ新しい町に向かうためにゆっくりと出発した……



馬車は着々と目的地に向かって歩みを進めていく…


クロスは揺れる馬車の中毛布を敷いた上に横になりケージの中のシシーに大丈夫だよと優しく語り掛けていた。

しかし撫でている間にまたウトウトと眠りの世界に戻って行った…


そんなクロスを優しく見守りリスターは馬車を御する母の許へと移動した…


「母さんクロスまた寝ちゃった…疲れたのかな?シシーも寝ちゃったみたい。」


「そう、リスは疲れてない?大丈夫?眠っててもいいのよお母がしっかりと起きているから。」


母は手綱を握りなおしてリスターを傍に引き寄せた。


「僕はへっちゃらだよ!お兄ちゃんだからね!」


「そうね、リスターは立派なお兄ちゃんだわ」


母は微笑み息子の肩をたたく。


「へへ、これから行く所はどんな所なの?父さんは此処よりもあったかい所としか教えてくれなかったけど…」


照れ隠しに母に尋ねた。


「そうね、到着するまで3週間ぐらい掛かるわ…カービリンよりもずっと南にあってきっともう春になっていると思うわ。今までのお家より少し山の中にあって静かな所らしいわよ…」

「旅をしながら春に近づいて行くのよ、春の欠片を見つけたら教えてね」


にっこりと微笑みリスターを優しく撫でる。



「そうなんだ…ふぁ…」


母の話を聞きながら眠たくなってきたのか欠伸をするリスター


「リス少し休みなさい、お母さんがしっかりと起きているから…」

「うん、やっぱりちょっと疲れちゃったみたい。」

リスターは今度は素直に母にもたれて目を瞑り暫くすると眠りについた…



新しい町に向かって馬車は進む。


満月が煌々と暗闇を照らす中馬車は頼りないランプの明かりと月の光の中ゆっくりと歩を進めていった……




*****




カービリンから遠く離れた首都セルシアナ。

白く美しい王宮の一角でローズは天蓋付きの大きなベットの中で寝返りをうった…


その顔は穏やかで瞑った瞳の睫毛は長く鼻筋が通り愛らしい唇はピンク色の小さな薔薇の蕾の様であった。


細い寝息を立て何かを呟くように唇が動く様子を見ると何か夢を見ているようだ。


そんな可愛らしい我が子の寝顔を見つめ安心した母、レイラはローズを起こさないようにそっと部屋を出て行く…


レイラ王妃は夫であるアラン国王を三年前に亡くした。

女王として実権を握ることを拒否し、王の腹違いの弟ダーニスを執政の宮に任命し、女王を退いた。

たった一人の娘ローズ姫の為に母として王国に残る事を選んだのだ。

まだ歳は23歳と若いが、夫を亡くしたショックで華が咲くような美貌を損なった。


しかし黒く艶やかな髪は美しく背中に流れ、瞳はブルーベルの様な紫色をしている。


薄暗い廊下を歩きつつレイラは物思いにふける三年前の今日…当ても無く歩いていると執政の宮の執務室から光が漏れているのを見つけた。


そっと部屋をのぞくとダーニスが居るのが見え開きかけた扉をノックをする…


コンコン、


「どうぞ…」


「ダーニス…まだ起きていらっしゃたのですか?」


レイラは机の上の書類に半ば埋もれる様にして羽ペンを動かしているダーニスを見つけ話かけた。


ダーニスもレイラと同じく23歳になったばかりであったが苦労しているせいか赤茶の髪には白いものが若干見受けられ、髪と同じ赤茶の瞳の下にはクマが出ていた。


「ああ、レイラ…」

机から顔を上げて部屋に入ってきた人を認めると溜め息混じりに笑った。

微笑む顔には目尻に小さな皺が見受けられた。


「君こそこんな時間にどうしたんだい?眠れないのか?」


笑いながらレイラを見上げる。


「いいえ、今日その…ちょうどこの位の時間だったから…ローズの様子が気になって…。」


「…ああ…そうだね、済まない。」


「今日は兄上がお亡くなりになられて3年だったね…忘れた訳ではないよ、明日は国民を集めて喪を行なうが…執務に没頭していて考え無しに言ってしまったんだ、すまない…大丈夫かい?」


ダーニスは立ち上がり、入り口でうつむいて立っているレイラの元まで行くと手を取りソファに座らせた。


「いいえ、謝らないで下さい…あの日の事を思い出すとじっとしていられなくて…あの日、あの時、私にも何か出来たのでは!?と思えてしまうのです…。考えるだけで胸が苦しくて苦しくて…」


取り乱し泣き出すレイラの手を強く握り、ダーニスは落ち着かせようとそっと髪を撫でる。


「レイラ申し訳ない…私があやつの企みに気付いていたら…私がもっと早く、そして強くあれば…すまない許してくれ…」ダーニスもあの日の事を思い出し瞳を潤ませレイラを見つめる。


「いいえ!!貴方には何の罪もありません!!貴方はアランとローズを救うために最善を尽して下さったのに…申し訳ありません…。貴方には心から感謝しています。」


ダーニスの頬に手を沿えその琥珀色の瞳を見つめレイラは涙する…

暫く2人は思い出に涙し、見詰め合うそしてダーニスは自分の頬に触れるレイラの手を握り藤色の瞳を見つめそっと身を乗り出してレイラの頬にキスをする…


「な、なにをなさるの!?」


レイラは驚き立ち上がり動揺する。


「すまない…貴女を慰めたくて…美しい貴女には笑っていて欲しくて…。」


ダーニスは背を向けたレイラに弁明する。


「すみません、解っております。少し驚いてしまって…今日はこれで失礼いたします。明日は早くから式典がありますから…」


レイラは早口に話すと大した事は無いと言う様に振り返り頭を下げ笑って見せる。


「そうですね…明日は早い、私ももう仕事を終えてベットに向います。」


ダーニスも立ち上がり何事も無かったかのように笑うとレイラの手を取ってドアへと導く。


「遅くに失礼しました。お休みなさいダーニス…」

「お休みレイラ…お一人で大丈夫ですか?侍女を呼びましょうか?」


ダーニスは薄暗い廊下を見て少し心配になり尋ねる。


「いいえ、部屋まで直ぐですから一人でも大丈夫です」


レイラはにこりと笑うとお休みと言って薄暗い廊下へ姿を消した。

ダーニスは見えなくなるまでその後姿を見送って、執務室へ戻り椅子ではなくソファに腰を下ろした。


「三年か…」

ボソッと呟き立ち上がると机の傍に垂れ下がる従者を呼ぶ紐を引く。

急いでやって来た従者にワインを頼むと俯く。


「三年か…長い様で短い…」呟くと瞳を閉じソファに横になった。


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