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その瞳の色  作者: 梅花
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首都セルシアナ

サレットはセルシアナの自宅に無事帰宅し、悶々とした日々を過ごしていた。


サレットは無事に自身の家に帰宅し人魚の国、セイレーン・ミュコスで新しい取引を成功させ機嫌の良い両親に温かく迎えられた……


 しかしサレットは両親の喜びとは裏腹にリスターに残してきた気持ちの整理が付かず一番安らげるはずの自分の部屋でも心は少しも休まることは無くお茶会や舞踏会の招待状にも答えずそれらは机の上に積まれるだけとなっていた……


 そんなサレットの様子を心配した両親はいつも以上に甲斐甲斐しく世話を焼いたがどうやら祖父母恋しさでの様子ではなく首をかしげ何とかいつものサレットに戻って欲しく外出させようとサレットがほったらかしている招待状の中から適当なものを選びサレットを説得してお茶会へと出席させた。


「サレット、今日は久しぶりにお友達の皆さんと会うのだから楽しんでいらっしゃい。」母はサレットのドレスを手直しして嬉しそうに送り出した。


「ええ…ではお父様お母様行って参ります。」サレットは沈んだ顔のまま両親に告げると久しぶりに再会する男爵令嬢のお茶会へと出発した…。



******




「サレット~久しぶりね、ご両親がお出かけの間おじい様のお家に行ってらっしゃったそうですけどもうご両親も戻られていたんでしょ?貴女も帰ったらっしゃた筈なのに中々ご連絡が無くて寂しかったわ。」

 

 男爵令嬢のお茶会にはサレット以外にも豪商の娘、他家の男爵令嬢など5人が招待されていた。男爵令嬢は中でもサレットと親しくしていたので今日の会には特に親しいもの達を招待してくれていた。


「お久しぶりね、イレーヌ…本日はお招き有難う…」サレットは元気なく言うと一同の顔を見回し皆さんもお久しぶりと言って挨拶した。


「まぁ、サレット貴女元気が無くってよ、お爺様の家で何かありまして?」イレーヌは優しく言うと皆を庭に案内して席に座ると紅茶とプティフールを振舞った。


「…いいえ、イレーヌ何かが在った訳ではなくってよ。」


「そう…そう言えば皆さん今週末には侯爵様が開かれる舞踏会がありましてよ、サレットももちろんいらっしゃるわよね?先日侯爵令嬢様にお会いしたらサレットもご招待なさるっておっしゃってたわ。」イレーヌは嬉しそうに言うとその他の出席者や最新のドレスの形・色などを話題にして皆がどんな格好で出席するのかを勘ぐった。


 皆適齢期の若い女性の集まりなのでその内話題は自然と好ましい男性の話題へと移って行った…


「今回の舞踏会にはアーウィソング辺境伯様のご子息もいらっしゃるらしいわよ、サレットお久しぶりじゃなくって?」イレーヌは意味ありげな視線をサレットによこした。


「…ええ…4ヶ月振り位じゃないかしら?」


 アーウィソング辺境伯とサレットの父が親しく最近では共に適齢期の子供を持った親として互いを良い嫁ぎ先としてみていた。サレットと辺境伯の子息ジェームズも互いに面識がありサレットもリスターと出会うまでは彼の心を掴むのに必死だった。


 男爵令嬢の開くお茶会では誰と誰が恋仲だとか何処のお嬢さんが侯爵子息を狙っているだとかの話題に花が咲いていたがサレットは思い詰めた様に俯きいつもの様に率先して会話に参加することは出来なかった…そんな様子を心配したイレーヌは茶会後にサレットを一人引き止めて様子を伺った…


「サレット、貴女一体どうしたの?お爺様のお宅から戻ってから様子がおかしくってよ、何か悩み事があるのならどうか話して頂戴。貴女のそんな様子は見ていられないわ!」イレーヌはサレットが心配で手を握るとサレットの顔を覗き込み涙ぐんだ。


「イレーヌ……」サレットは友人の必死な様子と瞳にたまる涙を見てため息をついた。


「イレーヌ…実は私…恋をしてしまったの……叶わない恋なの…。」


「恋?それはジェームズ様ではなくって?貴女ずっとあの方の心を射止めようと必死だったじゃない。噂ではご両家の間ではお話は進んで意らっしゃるとか…?」


「いいえ、イレーヌあの方ではないのよ…お爺様の村にお世話になっている間にお会いしたリスター様という方なの…。」サレットはリスターの名前を語るとキラキラとした瞳で何かを思い出すようにイレーヌにその思いを語った…。


 いかにしてリスターに出会ったか、リスターの金色のサラサラと流れる髪、よく晴れた日の空の様な美しい瞳、その瞳の濃い色の部分にキラキラと光るように見える白い星…今まで見たどんな男性よりも紳士的で本当に心の美しい方だったと…


「…サレット…貴女本当にその方のことを…」


「ええ、あの方の事を思うと食事も喉を通らないし、叶わない恋だと思うと胸が締め付けられるようで…」


「そう。そうなのね…分ったわ…そのお方にお会い出来る事ができなくて私は寂しいわ、けれどサレット貴女は辺境伯様の元へのお嫁入りは…」


「…ええ。分っていてよ、今更お父様に言えやしないわ…この気持ちは忘れてしまわなくてはならないのよ…。」


 サレットの悲痛な様子を見てイレーヌはどうやっても助けてあげる事の出来ない我が身の非力さを嘆きその日はずっとサレットと共にすごし彼女の気持ちを吐き出させて少しでも気持ちを楽にしてあげる事に心を砕いた。


 夕食後にサレットを迎えに来た馬車に乗せ見送るとイレーヌは溜息をつきソファで刺繍をする母の隣に座った…


「イレーヌどうしたの?溜息なんてついて?」母は刺繍を脇に置くと娘を抱き寄せ心配そうに覗き込んだ。


「いいえ、サレットの事なの…彼女かなわぬ恋をしてしまって…どうしたら彼女を元気付けれるかしらって…。」


 母はサレットの悩みをイレーヌからさっぱりと全部聞き出すとそうなの…お辛いわねと慰めの言葉を言うと相手の男性の容姿を疑問に思った…そんな田舎に何故そんな容姿の青年が??疲れ切ったイレーヌを寝室へと生かせると婦人は早速夫にその事を相談した…


「あなた珍しくやない?そんな田舎にそんな容姿の青年が…エルフとの混血かしら?まあそれなら珍しくもないし大方親に捨てられてそんな僻地で細々と生きているのかしら?」婦人は容姿の美しいエルフに恋をする娘の多さを知っていたので辟易とした溜息をつき夫に愚痴をこぼした。


「…そうか…まあそんな僻地にエルフの混血が居ること自体珍しいが瞳の色とその星とやらは気になるな…まぁ大方お前の言う通り親に捨てられエルフの国へも行けずその村で引き取られたんだろうよ…」夫は妻の噂好きを知っていたので適当な相槌を打って話を流した。」


 暫く婦人の最近の娘は…と言う愚痴は続いたが夫は話を半分に新聞に目を通しワインをすすってやり過ごした…。


 婦人は夫相手に長々と話をしただけでは飽き足らず翌日友人のお宅へとその話題を持ってお邪魔した…そんな風に僻地に美しい容姿の青年がいると言う噂が上流階級のご婦人方の元をれる間ついにその瞳の色に疑問を持つ者の耳へと届いた……


「失礼ですがそのお話は本当ですか?」とある子爵婦人の午後の集まりにその子爵を尋ねて来ていた紳士がその話を耳にして子爵婦人に話しかけた。


「あらまあ、お聞きになっていらっしゃったの?嫌ですわ女たちのただの噂話にしか過ぎませんことよ。」子爵婦人は恥ずかしそうに言ったがしかし興味をもたれて嬉しそうでった…。


「いえいえ、ちょっと珍しいお話だったので家で暇をもてあましている母にお土産話として聞かせてあげたら喜ぶかと思ったもので。」まだ年若い紳士は申し訳ありませんといって魅力的な微笑みを婦人に向けた…


「まあそうでしたの?こんな噂話でお母様がお喜びになるのならいくらでもお話させて頂くわ。」子爵婦人は初めから話したくてうずうずしていたので得意になって僻地の美青年の話を紳士に語った…


「そうですか…そんな僻地にエルフ崩れは珍しいですね…その青年の身体的特徴はどんな感じなのですか?」


「ええ…聞いたお話ですと何やらとても綺麗な金髪をしていて青い瞳には白い星があるとか…そんな人間いるはずも無いでしょうけどね」婦人は青年の特徴を詳しくと言われ変なことをお聞きになるわと思いながらも詳しく述べてやった。


「僻地とはどちらの方なんでしょうか?」


「さあ?詳しくは存じませんけれども…聞いた話では何でも南の方の山奥との事でしたけど…」婦人はなおも食い下がる紳士にいぶかしむ視線を向けた。


「そうですか、いや珍しい事もあるものですね…母に話したらきっと興味を持つと思いましたのでついつい詳しくお伺いしてしまいました…失礼しました。」そう言って紳士は優雅に子爵夫人の手の甲にそっと触れる程度の挨拶のキスをすると子爵にも会わず早々と帰っていってしまった…



 年若い紳士は子爵のお屋敷を抜けると迷いの無い足取りで何処かへ向かって急いでしかし周りに気付かれない程度に向かって行った…


「南の山奥…瞳の中に白い星とは…よく特徴を捉えたものだ…尻尾を掴んだぞ!騎士団長!その容姿を変えなかったことを後悔するのだな…」紳士はニヤリと微笑むと足早に目的地を目指して行った…



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